胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

27 / 29
来い!ゲンスルー!


第27話

光の繭に乗ってゲンスルーを追う。若干サブを収納するために出遅れたので、あるいはアスタ組が死にかけているかもしれない。

 

だがまあ助けられる範囲だろう。光の繭が落ち始める。即座に体を動かせるよう準備を整え、前を見つめた。

 

重低音が辺りに鳴り響く。

 

光の繭が、溶け始めた。地面に到達したのだろう。やがて、目の前が見えてきた。光の境界から、誰かが突っ込んでくるのが見える。私はそれにオーラを昂らせた。

 

目の前で、拳が閃く。黒髪の男──おそらく刺青男の片割れ──が、光の繭が完全に溶けきる前に彼我の距離を一瞬で詰め、叫んだ。

 

「ゲン!オレが"死ぬ気"で時間を稼ぐ!お前はカウントダウンを使ってなんとかしろ!」

 

振りかぶってくる拳を、手のひらで軌道を逸らしながら払う。衝撃が腕の骨を通じて肩まで響いた。余った意識で周囲を見渡す。どうやら街中に移動したらしかった。そこら辺からどよめきの声が聞こえる。

 

「おう!」

 

黒髪の男から街の大通りを跨いだ先の通りで、アスタ組を詰問しているらしきゲンスルーが刺青男に返事を返す。

 

実の所私は事前準備無しの真剣勝負が結構苦手なんだが。それになんだか刺青男の攻撃も妙に重い。

 

拳が眼前にまで迫る。周囲の把握に使っていた意識が強制的に目の前に釘付けにされた。

 

顔を逸らし、拳を避ける。

 

顔の横を凄まじい風圧が撫でた。頬の産毛が逆立ち、鼓膜が軋む。

 

「はっ!気になるかこのバラ様の力が……!制約と誓約だよ!お前には勝てねーから、5分間強くなる代わりに今後一切念能力が使えなくなるよう誓ったんだよ!おかげさまでなァ!」

 

雄叫びと共に上段から振り下ろす拳が飛んできた。

 

だがよく見てみるとバラが宣う割には拳に込められたオーラ量は少なかった。とすると何かしらギミックがあるのだろう。

 

予感に私は当たるのを嫌い、体を半歩右にずらしてバラの拳を躱す。振り切った拳の慣性で前のめりになったバラの脇腹に、そのまま踏み込んで蹴りを突き入れた。

 

バラの大きな体躯が冗談のように吹き飛び、ゲンスルーがいる向かい側の通りの石畳に叩きつけられる。手応えはあったが、逆に攻撃した足の甲が痺れるように痛む。オーラからすれば有り得ない硬さ。制約を防御力に振ったのか。

 

私の攻撃に、何ら堪えた様子のないバラが石畳から跳ね起き、再度突撃してくる。そのかなり後ろ、バラの背中に庇われたゲンスルーが、自分の能力の説明を行っていた。なぜそんなことをするのか。決まっている。それが爆弾を仕掛ける条件だから。

 

アベンガネに聞いた通り、そこら辺の街中にいる一般プレイヤーも巻き込んでゲンスルーが大演説を繰り広げる。一斉に爆弾を仕掛ける気だ。ゲンスルーの脅し文句に一人も逃げられていない。

 

目の前にバラが迫ってくる。

 

手は届かないが、何か出来る訳でもない距離。その防御力特化は時間稼ぎか。厄介な事に私はそれを簡単に突破できる手段が無い。と言うよりこれでは実質スター状態だ。攻撃力は大したことないが時間稼ぎだけなら最適。

 

さすがに今後念能力の一切を失うだけあって、オーラ量を5万だとしたら、その数十倍程度の硬さがある。ちょっとした奥の手を使えばなんとかできるが、それをするには被害がデカすぎる。

 

だが別に焦る必要は無い。《繋ぐ境界(ワンウェイナローライン)》を使う余裕は無いが、何のための探知系能力者か。既にビスケ達が私の移動を察知して………マジ?

 

私の腹から、手が出てくるのが見えた。一瞬それに気を取られる。同時に、目の前の事を忘れているのに気づいた。バラの拳が頬に直撃する。視界が白く弾け、体が浮き上がるほど後方に吹っ飛ばされる。

 

腹からは、一人の男が出てきていた。

 

 

 

 

ちょっと後悔しながら着地する。踵が地面を削り、土煙が舞った。バラにダメージがないように、こちらは流で防御して攻撃をノーダメージで凌いだ。だが有利な要素がひとつこぼれ落ちてしまった。

 

視界の先で、刺青男達が手短に再会を喜んでいるのが見えた。まさか四肢損壊状態から回復するとは。

 

状況から見てサブが大天使の息吹を持っていたのは間違いないが、まさかスペルカードで偽装してサブに大天使を独占させてたとか?それともゲンスルー組全員が一枚持ってた?

 

なんにせよツェズゲラの近くにサブを置かなかったのは判断ミス。念空間からの脱出は空間の壁を十回触るだけでいいので、そこを突かれた。情を見て利用できるとライブ感で考えたのがまず間違い。

 

「やったなバラ!これでオレ達の勝ちだ!」

「ああ、ゲンスルーもカウントダウンの仕掛けを終えた頃だろう。おいゲン!準備いいか!?」

 

目の前で再会を喜びあっていた刺青男の二人が、向かい側の通りでプレイヤーを脅していたゲンスルーを見た。それに合わせて私もゲンスルーの方を見ると、あいつは持ち前の眼鏡を抑えて笑っていた。

 

「ああ。今はツェズゲラが転移してから二分程度。もうすぐツェズゲラ組とビスケ組が来るな。わかってるだろバラ?それまで死ぬ気で時間稼ぎしてくれ。死にやしねーだろうけどな」

 

不気味な笑みを浮かべるゲンスルーが腕にかけた時計を見つつ、大通りの向こうで周囲にアスタ組を初めとしたプレイヤーを侍らせる。ゲンスルーの周りのプレイヤーにはそれぞれゲンスルーが仕掛けた爆弾が五体のどこかにあった。

 

激励とも冷酷とも言えるゲンスルーの言葉に、念能力という能力者にとっては生命線のそれを賭けたバラが、口を獰猛に歪ませて答える。

 

ゾンビのように無限に立ち向かってくるバラが、また私に向かって走り寄ってきた。射程距離外から一気に距離を詰めてくる。そしてそれと入れ替わるように、サブが戦線を離脱していく。もはやそれを止める術はない。

 

懐に飛び込んできたバラが、今度は極限まで練り上げたオーラで、私の腹を殴ってきた。私は敢えて、それに身を任せる。拳が腹に沈み込む瞬間、内臓が圧迫される鈍い衝撃と熱が広がった。

 

それでも、距離をとる事ができた。およそ五メートル。ショットを撃つには十分。

 

「ショット×10」

 

水の弾丸を、離れた三つの標的に向けて放つ。難しい事じゃない。十本の指先から放たれた水流は一直線に、大通りの先のゲンスルーとサブへ向かい、標的を撃ち抜いた。

 

擬似マシンガンというやつだ。

 

「グッ!?」

「ガッ!?」

 

奥の通りの方で、逆らえないプレイヤー達と優雅に観戦していた二人のボマー。吹っ飛ばされながらだったので主要な臓器は外したが、その二人の腹を少し穿った。血飛沫が宙に舞う。

 

「ゲン!サブ!………このアマッ!」

 

実質仲間を負傷させた原因であるバラが、怒りながら着地する私に追い縋ってきた。彼我の距離が二歩で詰められる。もうショットはゲンスルー達には打たせて貰えないだろう。私の動きをできるだけ封じるために、バラは超至近戦を仕掛けてきた。

 

拳が私の腹を目掛けて結集される。先ほどの手応えに味を占めたようだった。お互い身動きするのも苦労する距離。これはもう無理だろう。《手足で踊る残響散歌(ブラッティメアリー)》も基本相手に隙がないと展開できない。装備するにはある程度時間が必要なのだ。

 

まさに時間を掛ければ格上も殺せる。なんで忘れていたんだろう。

 

ゲンスルーの言い方的に、ほぼ間違いなく即座に爆弾を起爆させる方法はあるだろう。そして移動してきた直後のビスケ達相手にそれを使えばリナウジは無事だろうがビスケとアニンはほぼ間違いなく死ぬ。

 

こうなれば奥の手も使う余裕は無い。新しく能力を作る余裕もないから、これはもう詰み……か。

 

頭上で飛行機の離陸音のような音が響く。もうここで戦う意味もないからバラの攻撃を受けながら空を見上げると、やはり光の繭の姿があった。できれば来ないで欲しかった。一人ならいくらでも凌げたのに。

 

でもまあ仕方ない。攻撃を仕掛けてきていたバラが、その音に攻撃を中止して笑みを浮かべる。バラの後ろ、大通りを跨いだ通りからは、ゲンスルーに指示されたのだろうプレイヤー達が私に向かって群がって来ていた。

 

誰もが恐怖の表情を浮かべている。だがその更に後ろ、顔面が焼けこげた死体を見ればほぼ死ぬとわかっていても突っ込んでくる理由が理解できた。

 

私からすれば容易に制圧できる念能力者達に、手足を無理やり抑えられる。

 

時を同じくして、光の繭が目と鼻の先の地面に着陸する。

 

私の体にのしかかっていたプレイヤー達の顔が恐怖で歪んだ。

 

光の繭が無音で崩れていく。中からは、やはりビスケ、アニン、リナウジの三人が姿を現していくのが見えた。

 

 

 

多分私は死ぬだろう。

 

そのうえで、ここは全員が生き残れる可能性に賭ける。それで失うのは最高でも私の命だけ。リスクはさほど高くない。

 

のしかかってきているプレイヤーの僅かな隙間から、大通りの先でゲンスルー達ボマー組がオーラを指に集めて重ね合わせようとしているのが見えた。もはや隠すのも必要ないからか、ボマー三人全員の顔が愉悦に歪んでいる。

 

光の繭からビスケ達が顔を出した。溶けた光の中で、彼女達が驚愕の表情を浮かべている。そして私の周りに群がるプレイヤーについた爆弾から、現状を悟ったらしい事も伺えた。

 

その中で、一番身体能力の高いリナウジが最も早く動く。10を超える距離を瞬きの間に駆け抜け、ゲンスルーに迫った。

 

アニンとビスケは……それぞれ違う理由で動けない……いや動かないようだった。驚きか悟りか。若さゆえか経験故か。

 

リナウジがゲンスルー達の元にたどり着こうとしたところで、ボマーの指が全員分重なり合い、念が結実される。

 

 

 

解放(リリース)

 

 

 

絶対的な優位を孕んだ声が轟く。

 

その瞬間、まず白い閃光が視界を焼いた。

 

次に、表面から皮膚を抉るような痛みが体の奥へと浸透してくる。

 

熱い。

 

焦げ臭い。

 

ひとつ、ふたつ、みっつ。

 

限られた時間でも出来る限り確実に殺傷する事を目的として揃えられた殺意の塊が、私の身を焼く。近くのビスケ達を焼く。

 

私達の全員が、魂を焦がしていく。でも大丈夫。私には都合がいい能力がある。私が代償を受ける覚悟さえできれば、仲間を救える力が。

 

躊躇いは、ない。

 

───だって私は、面白いのが好きだからな。仲間が死んだら、面白くないから。それはきっと彼女/彼らもそうだろうけど、私はわがままだから。だからもし私が居なくなって面白く無くなるんだったら、どうか私が死ぬ前に助けて欲しい。

 

 

 

奈落の底で待つ(メイドインアビス)

 

発動。

 

 

 

仲間のダメージを操作して全部自分に蓄積する代わりに、距離を無視して仲間を念空間内に誘致する

 

 

 

奈落の底で作られた私(ウームファンタジー)

 

 

 

どうか溢れんばかりの呪いと祝福を。

 

なんて。




もうちっとだけ続くんじゃ。

まさかあの修行空間だけでしか無かったメイドインアビスが……。あたしゃ嬉しいよ。

正直この戦闘が作中で一番好き。ヒソカ戦より(作者が)成長してる気がするんだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。