胎内回帰願望《パンチーファンシー》 作:来い!ゲンスルー!
暗い。
奈落の底のようだ。
痛い。
地獄の責め苦のように。
寒い。
永久凍土に閉じ込められたかのように。
熱い、痒い、何かが壊れていく。消えてしまう。
それでも奈落の底へ落ちていく意識を繋ぎ止めて、手を伸ばす。
誰かがその手を掴み、握りしめた。今の私とは違う、とても生命力に溢れた手。どこか安心する。
暖かい何かが全身に吹きかけられた。声が聞こえた気がする。少し和らいだ奈落の底は、思ったより私に心地よい。このまま次へ行くのもいいかもしれない。でも、そんな意識とは裏腹に、私の手を握る誰かは離してくれない。
また声が聞こえた。
生きるというのは、ぶっちゃけ信じることだと私は思うのだ。言葉も、見える景色も、人も。すべては信じることで初めて繋がる。信じなければ、どことも繋がれない。
その点で言えば、私は今誰かに信じられているのだと思う。感じられているのだと思う。誰かが私の何かを信じている。だからきっと、私はそこと繋がっていたのだろう。でも途切れてしまった。
そこには深い理由があるのかもしれないし、ないのかもしれない。でもまあ、誰かに信じられ、信じ、繋がっているのなら、もう一度繋ぐのも悪くない。
朦朧とした意識で、思うように動かない手を動かす。握られた手を、握り返す。ほんの少しだけ、底の底に光が差し込んできた。どうやらまだ胎内回帰願望を抱くには早かったらしい。
今度は確かに、声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと!動いたわよ手!手!何この子生命力化け物じゃないの!?どうやってあの状態から!?」
なんだかやる気を削がれるようなことを言われた気がする。
誰かが怒られる声が聞こえた。反省する気配を感じる。
オーラもだいぶ回復してきた。
……どうやら間に合ったらしい。
今度は明確に力を込めて、握られた手を起き上がるために使う。向こうも意図を察したのか、誰かはわからないが手に力を込めてきた。私はそれを感じて、手を引っ張って起き上がる。
重たい繭に活を入れて、上体を起こすと同時に目を開けた。朧気だった光が、瞼を開くごとに綺羅星のように視界へ飛び込んでくる。おそらく一度は死んだであろう視神経が、生まれ直したかのように初めての光景を目一杯取り込んだ。
まだ定まらない視界の中、徐々にシルエットが明らかになっていく。握られた手は相変わらず握りしめられたまま。これはオーラからしてアニンの手だろう。
かすかに見えてくる光景から、リナウジ、ゴン、キルア、ビスケ、そしておそらく今回の立役者であるツェズゲラ組の面々も見える。彼らは少し遠慮がちのようだ。
耳が遠くてみんなの言葉は聞き取れないが、何か言っているのはわかる。アニンに抱きつかれた。キルアですら少し目を擦っている。
でもほとんど聞こえないから、私は辺りを見回しながら、笑顔を浮かべていつも通り適当に言った。
「ただいま」
──おかえり、と、かすかに聞こえた気がした。
私がビスケの補助も受けて体を完全に回復させた頃には、ゲンスルー組は既に無力化されていた。常に行動を共にしていたツェズゲラには念空間の脱出方法を教えておいたのが功を奏したのだろう。
脱出したツェズゲラ達は、主にリナウジを先頭に、絶賛スター状態だったバラすら防御力の上から打ち砕き、すぐさまゲンスルー達を拘束したようだ。
そしてその足で大天使の息吹を持っているゲンスルー達に交渉──などしている時間はなく、唯一ゲンスルーとの遭遇を目撃していたツェズゲラが、一か八か私がゲンスルー組の誰かに大怪我を負わせていた可能性に賭けて、即座にバインダーをチェックした。
サブが回復した分だ。ツェズゲラの引換券は大天使の息吹に変化していた。それを見て、ツェズゲラは迷うことなく決断する。四肢は吹き飛ばされ、胴体もほぼ炭化していた私に、生きている可能性を賭けて、無駄打ちになるかもしれない大天使の息吹を使ったのだ。
結果、私はこうしてなんとか生きながらえたわけだ。
「ありがとなツェズゲラ。正直侮ってた。ごめんな」
騒動もだいぶ収まって、いよいよ完敗を認めたゲンスルーから接収されていくカードの数々を眺める。私はビスケに体を軽く見てもらった後、安静にしなさいと言われているので、街中のNPCが経営するカフェで待機中だ。
「いや、謝る必要はない。むしろ侮っていたのはこちらだ。才能に恵まれただけの子供達だとすら、君達を見てオレは思っていた。無論それだけではなかったがな。才能だけではそれほどの意志力は得られまい」
「そうでもないんだけど、まー私のは環境のおかげだな。良くも悪くも。そんで?共同戦線はどうするんだ?ボマーはもういないぞ」
「それなんだが………」
……クリアを辞退しようと思う。ツェズゲラは目の前のコーヒーにも一切手をつけず、そう告げた。重すぎるのだという。私は単に敵を倒しただけでも、その敵があまりにも大きすぎた。私に与えた代償が、大きすぎた。だから辞退するのだと。
利用の範疇を完全に超えて、もはや宿主を殺す寄生の段階だと。私は大袈裟だと思うのだけど。ツェズゲラは本気だった。ハンターとしての心情の問題らしい。
「そっかー。じゃ手伝ってくれよ。私が何か困った事になったら、その度に相談に乗ってくれ。それでチャラだ」
「ああ………ありがとう」
ツェズゲラを真正面に見て、許すように手を適当に振る。でもこの条件は、決して優しくはない。相談の内容次第では悪魔の契約にもなる。それでも、わかっていてもツェズゲラはそれを承諾する。
きっとそれは、私がそんな契約は持ちかけないと信じているからだし、持ちかけられても受け入れる覚悟があるからだ。これがいわゆる大人というものなのだろう。
カフェの外では、ゲンスルーからの接収が終了したらしいビスケ達がこちらに手を振っている。これで共同戦線全員のカードを合わせて98種。クリアは目前に迫っていた。
騒ぐ彼らを前に、私もツェズゲラに連れられてその輪に混ざっていく。手招くビスケに誘われて、私はその輪の中で笑いあった。
それから、私達は相も変わらずゲームに明け暮れた。場所が判明していないナンバー0は置いておくとして、ナンバー2は既にソウフラビという街のどこかにあると判明していたから、私達はそこでひたすら検証を行った。
NPCの前を一定回数以上行き来してみたり、NPCと一定数以上の無駄な会話を繰り広げてみたり、NPCの前でずっと目を見て待機してみたり、何かありそうな家屋の地下を探ってみたり。
とにかく人海戦術で、現地でやれるだけのことはやった。そしてこのゲームが始まってから十数年、まだ方法が発見されていないということは、少なくとも限られた人数では条件を見つけられないと考えてよかった。あるいは他にもっと条件があるのかもしれない。
例えば貴重なカードをアイテム化して持ち寄らなければいけないとか。考えられる方法はまだまだあった。そこでまず出てきたのが、大人数による移動スペルを使ったソウフラビへの入場だった。ただ入るだけでもいいのだが、これはSSランクの基本入手条件に則ったものだ。
NPCに対して「カード名」をキーワードに聞き込み→聞き込みの中で「〜をしたら教えてやる」という情報提供者が出現→言われた条件をクリア・情報の真偽確認→ガセネタだったら1からやり直し・真正情報であれば次へ→情報から判明した入手条件をクリア→アイテム入手
基本はこんな流れだが、どのNPCもそれらしいことを話す気配がなかったので、私達はまず話を聞くための前提条件を達成するべく、数百の試行を経て移動スペルの使用に行き着いた。
そしてそれは見事に的中した。
----------イベント-----------
【レイザーと14人の悪魔】
を発生させた。開始条件は、ゲームシステムにも認識できるよう移動スペルで15人以上が一斉にソウフラビへ飛来してくること。
これはニッケス組なら容易に達成できたはずだが、彼らは実力もなく、攻撃スペルでカードを奪い、防御スペルを独占することで奪取を容易にする戦略を取っていたので、気づきすらしなかっただろう。彼らならカード入手に一丸となって挑めただろうに。
「レイザーと14人の悪魔」──このイベントはおよそ二段階に分かれていた。港町ソウフラビ。その街を襲った海賊達を相手にするという設定で始まる第一戦。相手はゲームらしく、下っ端の海賊から。
最初は低レベルなバーで行われる酔っ払いの決闘のようなものから始まり、海賊達に認められれば体育館で正式なスポーツでの戦いが始まる。これがまた厄介で、相手は得意なスポーツで挑んでくるのでなかなか苦戦した。
だがここで活躍したのがキルア曰くロナウジーニョ。彼は圧巻のボール捌きでリフティング対決を制した。他にもバスケやボクシングなど。これらは15人を集めるからくりとなったアニンのエインヘリアル達が担当した。
そして私達が三勝を挙げた時、なんだかんだ物騒なトラブルがあった結果、試合を観戦していた「レイザーと14人の悪魔」のうち、ボスであるレイザーが出てきた。
彼がこのイベント最後のクエストとして提案してきたのは、ドッジボール。本来15本勝負であるこのクエストを、レイザーに8対8のドッジボールで勝てば4勝分を免除し、8勝分──全部で15勝の完全勝利を与えるというもの。使わない手はなかった。
想定外だったのは、レイザーがアホみたいに強かったということ。大人気ないことに、ゲームマスターであるレイザーは初めから本気だった。
本来レイザー自身、具現化能力で念獣を作り、力を等分することでイベントの難易度を調整しているようだが、ビスケをはじめアニンのエインヘリアルが全員一流の念能力者だったこともあり、最初から全力を出すことにしたようだった。
レイザーは何気にちゃんとした念能力者を周囲に配置し、下手しなくともヒソカ以上のオーラを見せた。だが勝てないほどではなかった……のだが、ここでゴンがレイザーと何事かを交わした。
するとなんということだ。レイザーがほんとのほんと──明確に殺意を纏った本気の状態でドッジボールを挑んできた。しかもゴンばかり狙う始末。
そういえばゴンはこのゲームの発案者の息子という話もあったか。その縁もあってレイザーは本気で相手にすることにしたらしい。
勝負は熾烈を極めた。わざわざ危険を冒さなくても私達が前面に出ればクリアできるところを、ゴンはレイザーの本気を出す約束を真に受けて私達の制止を振り切り、真正面から突っ込んでいった。
確かに能力と現実を気にせず鍛錬できるG.I.の性質から、ゴンのオーラ量はもはや並ではなくなっていたが、それにしても本気のレイザーはかなりの格上。挙句ゴンは止めてくる私達に、クリア報酬は渡すから勝負させてくれなどと言ってきた。
別にゴンが負けても試合自体は終わらないからいいのだけど。とんでもないワガママにレイザーも笑うしかなかったようで、どこかG.I.発案者のめちゃくちゃさを思い出したようだった。発案者のジンは、およそろくな人間じゃなかったのだろう。
そうしてゴンとレイザーは激突し、その果てに勝負を終えた。結果は当然、私達の勝利だ。いくらヒソカ以上のオーラ量を持っていても、同格かそれ以上のリナウジを除いてビスケ級が三人。他も負けず劣らずのエインヘリアルでは、勝負が成立するだけで奇跡だった。
結果的に私達はクエストを終え、NPCに案内された灯台の上から海岸線を見つめながら、『No.2一坪の海岸線』を手に入れた。そしてその末に、所在地不明だったNo.0の取得イベントが開始される。
イベントの正体は、クイズ大会だ。自力で取っていないと答えられないような問題の数々。それらが運営から出題された。当然、そこで勝ったのはツェズゲラだ。
だが既にクリアを辞退していた彼は、この中で唯一クリア報酬を辞退していない私達ビスケ組に『支配者の招待』を渡してきた。
要するに運営に会えるよというカードだ。
これを使うことで私達は運営に会い、そこで初めて『No.0支配者の祝福』を直接渡された。それと同時に、指定ポケット100種達成によるクリアが宣告される。
クリア報酬三種を選ぶ権利。
それが目の前に差し出されたわけだ。
そして、それを渡された私達が選んだものは───。
海辺の街で、さざ波が堤防を打つ音が響く。空の上で、何も知らない海鳥が鳴いていた。
──世界の誰も知りえない奈落の底。でもそれは、思ったよりも心地よい微睡みのような。
視界の先で、二人仲良くゴンとキルアがこちらに手を振っている。彼らもまた、今を知り、未来を知らず、どこかへ行くのだろう。
ハンターだから、未知の生物に出会うこともあるかもしれない。それでも彼らは強く生きていくのだろう。ナニカを求めて。
向かうなら東がいい。待ち人を探すなら世界の果てを目指すといいだろう。その目線の先には、必ず彼がいるのだから。
私はどこか遠くを見つめる。そうしていると、突然手を握られた。視線を横に向けると、ビスケの姿があった。仲間の姿があった。
──目覚めぬ奈落の底から目覚めて、今日も私は夢を見る。
巡り廻る白雪姫。
口づけを味わう度に起きる。
オワラヌメザメ
今日も私は、夢を見る。
衝撃的な、夢を見る。
《
・人に転生する
・転生する度に前世の悪影響を排除する
制約 :
1.転生する先の世界を選べない
2.この能力は死んだら自動発動し、解除することはできない
誓約 :
制約1を破って自分が指定した世界に転生する場合、次に転生するまで記憶を失う
いまいちうだつのあがらない本作を読んでいただきありがとうございました。ヨレヨレだぜ( 'ω')
現在の自分の位置というか、そういうのが朧気に見えました。まあこれ結構前に書いたのだから文章力はだいぶ稚拙なんだけどな!(負け惜しみ)
ではおさらば。またどっかで会いましょう。ひとまず物書きとして出直してきます(うろおぼえトードー)