胎内回帰願望《パンチーファンシー》 作:来い!ゲンスルー!
視界が明滅する。魔術によって作り出した光だ。これは意図しなくとも目を焼くことはないが、前方を見通すこともできない。それでもこの極光は〈円〉の役割を果たし、ヒソカの位置を教えてくれる。
「ショット」
指を正眼に構え、撃つ。気力が削れる感覚と共に、何かが指先から超速で飛び出した。破裂音のようなものが辺りに響き渡る。同時に、極光も少しずつ晴れてきた。
「すごい威力だね♦ でも気のせいかな♠? 攻撃にオーラを感じなかったんだけど♣」
光が晴れた先に、ヒソカはいた。どうやら今の一撃をまともに食らったらしい。腹からは血が流れ、ヒソカはそれを押さえている。周囲に人はいない。建物もない。躊躇する理由はどこにもない。
「気のせいじゃないぞ。オーラを見せる必要がないからなー。それと一応言っておくと、オーラを隠す〈絶〉でもない」
辺りは水不足でひび割れた荒野。沈む足場と亀裂が足を強く引っ張る。さっきの極光は転移を発動するためのものだ。制約もあるが、こういう時には役に立つ。
「それ、ボクはここで死ぬって言いたいわけ♦? なかなか面白いことを言うね♠ それに冗談でもなさそうだ♣」
笑みを浮かべたヒソカが、押さえていた傷口を晒しておどけてみせる。露わになった傷口は螺旋状に抉れ、完全に撃ち抜かれていた。死ぬというのはそういうことだ。主要な臓器は避けられたが、あと何発かその傷を作ればヒソカは死ぬ。
ただ、ヒソカに風穴を開けた魔術は一度使うと他の魔術が五秒使えなくなるのが欠点か。まあこれ一本あれば十分。
「それじゃあ、口ほどにもないか確かめさせてもらおうかな♦」
耳元で声が聞こえた。目の前、ヒソカがいない。
——後ろ。
足元のオーラを後方に放出する。人を浮かせるのはある程度のオーラがあれば簡単だから、それを使う。問題はヒソカも同じことができること。だが消費オーラの関係上、常にそれはできないはずだ。
五秒が経った。
身体強化と鎧を纏う魔術を使う。ただし鎧の方は『
ただしこれを使うと純粋な魔力による生成術は使用できなくなる。つまり迷宮の場合も土魔術が使えなくなっているわけだ。
まあそれらは捨て置いて振り返り、傷の割に余裕そうなヒソカの顔を見据える。一瞬、沈黙が辺りを支配した。そして互いにオーラを爆発させ、激突する。素手と武装状態の私。有利なのはややヒソカか。
単純な体術では不利だなー。
《
解除。
《
足。
展開。
この荒野の砂地を蹴り、動きやすいように造形。地面を掴みやすくなったそれで軽くステップを踏み、抉るように攻撃を仕掛けてくるヒソカから離れる。攻撃が空振りしているのが見えた。
遅い。下がった勢いを利用して今度は強く踏み込み、オーラを足に多く込めて爆発的な走力を生む。地面を蹴り上げ、気づいた時にはヒソカが目の前にいた。
驚愕。驚くヒソカのその顔に蹴りを一発ぶち込む。具足越しに感触が伝わり、特に硬くもない触れ心地を味わいながら、何かを蹴り砕く音と共にヒソカを砂地へ吹っ飛ばした。
……乾いた轟音が荒野に鳴り響く。表面の地盤は柔らかいため追加ダメージは期待できないが、おそらく十分なダメージを与えただろう。本来ヒソカとの間にはそれが不可能なほどの差があるのだが、私の具足は動作補助MAXの未来志向品なのだ。
吹き飛んだヒソカは起き上がる様子を見せない。休んでいるのか何なのか。いずれにせよ与えた総合ダメージは、半ば不意打ち二連発だろうと大き——うおっ!?
体が引っ張られる。それと同時に起き上がるヒソカも見えた。何らかの発か? しかし見えない。つまり〈隠〉で隠している。だがここで隠されたオーラを〈凝〉で暴いたところで無駄だ。迎撃が最適解。
できるか? 無理!
「っが!?」
ヒソカが起き上がるのが見えた次の瞬間、その時にはもう私は殴り飛ばされていた。視界が白く染まる。顎の骨、絶対折れた。痛い。それでも気合いで殴られた方向を見ると、ヒソカがこちらに向かってきていた。これは地面に私が落ちるより前に殴られる。
《
ここはこの荒野に来た時の転移魔術を小規模で使い攪乱する。問題は害を与えることはできないし、相手がどこに転移するかも分からないこと! それでも今殴られるよりはマシ!
白光が手の甲から出現し、辺りを包む。それは瞬時に行われ、直後視界が切り替わった。
——ヒソカは?
前にはいない。後ろ。
いた。ずっこけている。いくらヒソカでも想定外だったか。ここはショットガン……いや、ショットを使うのがいいか。
《
——ショット。
高回転を加えた水の弾丸が、ヒソカに向かって直進する。倒れて視界が地面しかない今、オーラも感じ取れない以上、混乱もあって簡単には察知できない攻撃のはずだ。
破裂音が再び周囲に響き渡った。水飛沫が舞い、ヒソカの周りに霧がかかる。一瞬姿がかすみ、視界が塞がれた。これで仕留め切れるかどうか。答えは霧を切り裂いて出てきた体で示された。
「嘘だろ? 右腕捨てたのかー!?」
「そうなるね♦」
懐まで潜り込み、左手を引き絞ったヒソカが不敵に笑う。なんでそんな余裕があるんだよ。全部私の手のひらの上なのに。
拳と蹴りが交差する。想定外ゆえに蹴りの威力が衰えた。一方でヒソカの拳は力強い。故に、鈍く、深く、防御してもなおヒソカの拳が内臓を穿っていくのを感じ取れた。
「うぎゃッ」
下腹部の腸が詰まったラインを、下から撫でられるように抉られる。体が吹き飛んだ。また意識が飛びそうだ。それでもヒソカから目は離さない。ヒソカが何かを引っ張ろうとしているのが見えた。おそらくさっきの引き寄せ攻撃。だがそれはむしろ好都合。
初めに浮遊魔術で慣性を殺す。空中に佇み、能力の多彩さゆえか目を丸くするヒソカを前に、体を折り畳んで空気抵抗を減らす。そして最後に、できる限りの風魔術で背中を押すようにジェット噴射を行い、体をヒソカの方へと向かわせる!
ヒソカはまだ左手で引っ張ろうとしているだけ。その動作は戦闘機のそれよりは幾分か遅い。ほんの一瞬の間だけ、私の体が空気の壁を突き破った。そのあまりの加速に、皮膚が裂ける。
だが同時に、その瞬間の加速は、人の意識を大きく上回り、音速域に手を出す一流の念能力者ヒソカに、一撃を食らわせた。
「ふふっ♥」
いや、避けられた。一撃は食らわせたがカス当たり。おそらくあの引っ張る能力に身を任せて横に逸れたのだ。まずい、地面にぶち当たる。
「ぐげぉ!?」
ヒソカへ放った超高速の蹴りが強い遠心力を生み、私は頭から地面に直撃した。相当深く埋まったのが分かる。口の中が土でいっぱいだ。幸い足の具足のおかげで上半身にほとんどのオーラを注ぎ込めたので死んではいないが、相当の箇所の骨がひび割れたか折れている。動けない。ヒソカの圧に勝負を急ぎすぎた!
怪我は時間をかければ完全に回復できるからいい。だが……上から引っ張られる感覚を覚えた。やはりヒソカのダメージはまだ動ける程度か。仕方ない。引き上げられる前に新しい擬似大魔術を作ろう。そうするとその分野では決められた範囲でしかできなくなってしまうが……。
《
土で暗く染まる視界が、非物理的に照らされる。
視界が、切り替わった。
空の青さが視界に広がる。
「それはもう見たよ♠ 多彩だけど単純だね♦」
後ろの方で、そんな呟きが聞こえた。地面が砕ける。足元に亀裂が入るのが見えた。それらを感じ取りながら私は後ろを振り返り、後退る。ヒソカが攻撃を仕掛けて——。
◆
容赦のない攻撃だ。まるで舞うように、相手とのダンスを楽しむかのように笑いながらかけてきている。それを見て、自分とは違う生き物だと感じた。地響きが鳴り止まない。ここまでされるともはや怒りも湧かない。
《
そんなに戦いが好きなら一人で夜にしっぽりやればいいんじゃないかと。これはそういう幻覚魔法だ。今ヒソカは私の幻覚と戦っている。戦闘狂らしく望み通り、手強い私と戦っていることだろう。
要するに隙だらけだ。それでも私はヒソカに干渉できない。そういう制約だからだ。
が、逆にそういう制約だからこそ、相手に三分以上違和感を持たせず幻覚を見せ続ければ、ヒソカは私に二十四時間攻撃できなくなる。完全に逃げの一手のための能力だな。正直もったいないが。まあ精神魔法なんて一般人に対する適法拷問しかできなかったから、いいけど。
「ああいいよ♦ 壊されたこの右腕も愛おしくなってきた♠ 今だけは君との時間だ♥ できるならだけど僕の命もあげたいくらいだ♦ 本当にそれくらい——君を
幻覚に呑まれたヒソカが、自分が最も望む光景を見てしまうがゆえに、それに対して違和感を抱けていない。
それこそヒソカが私の無様な姿を見たいとかだったら、少々無理やりな幻覚になって違和感を感じられただろうが、これはヒソカが今私相手に望むものを見せる幻覚だ。戦闘狂にとっては最上のものをヒソカは見ているのだろう。だからこそ違和感を感じられないし、抜け出せない。
ヒソカがまたひとつ、巨大な岩山を破壊した。土が柔らかいといっても凄まじい破壊力だ。そんじょそこらの魔術以上の攻撃力があるだろう。つくづく念能力を舐めていた。
だが、そうしているうちに三分。呆気なく過ぎた。ヒソカは最後まで気づかなかったようだった。そりゃそうだろう。
敵意もなく、刺激もなく、夢は最上なのに起きる意味がない。違和感を感じる余地がないのだ。
ロンリーナイト、解除。
戦っていた姿のヒソカが動きを止める。辺りを見回し始めた。そして私を見つけると再び笑みを浮かべて飛んできたが、それはすんでのところで止まった。そういうものだからだ。
「えっ♥ さっきまでの怪我はどうしたの♦?」
私に向けた腕が動かないことにも驚愕しているようだが、それ以上にヒソカが見ていた幻覚とは違いすぎる私の姿に戸惑いを隠せないらしい。まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。
「ぶふっ」
思わず笑う。
最後まで幻覚だと気づいてねーでやんの。
「えっ?」
戦いからこれまで、一度も笑ったことがない私が笑ったことで、ヒソカはいよいよ理解の外へと吹き飛んだ。
ルールの末に止まった腕も静止させたままで、本気で困惑しているのが見て取れた。私はそれを見て、これまでで一番の笑顔を見せながら指さしてその場を去る。
「はっはっはっはッァ! ばーかばーか! 幼気な少女を虐めるからそうなるんだぞー! ばーかばーか! その顔は覚えたし、気が向いたらヒソカアホ面集を世に放ってやる! 震えて眠れ!」
駄目だ。笑いが堪えきれねえ。一曲歌でも歌いたい気分だ!
次回!ヒソカ戦闘性勃起不全!宣材写真に騙された不信感からEDへ!ぜってー見てくれよな!