胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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手足で踊るふふんふんは正直語感はいいからメジャーすぎるのは許してくだちい。


第6話

予め用意していたセーフハウスの一室で蹲る。ただひたすらに痛かった。全身の骨は粉砕され、皮膚はかなりの部分が剥がれている。痛くない方がどうかしている。

 

動くたびに苦痛が走る。空気が流動するたびに激痛が走る。それでも死にはしない。床に巨大な治癒の魔術式を敷いているからだ。効果は単純に状態の維持と治癒。血の流出を止め、癒す。それだけだ。

 

しかし思ったより治癒速度が遅い。まあ仕方ないだろう。これは最近分かったことだが、私が使う魔術というのは念能力とは違うものの、似通っている部分もある。それはできることの範囲。やれるか否かの判定だ。

 

そういう判定が魔術と念能力であまり変わらない。この治癒魔術ひとつとってもそうだ。これはいわゆる大魔術に分類されるものだが、結局のところこうして時間をかけないと治癒もできない。魔術っぽいことはだいたい何でもできるにもかかわらず。

 

もちろん転生時にある一定の力までしか得られないという制限はあった。だがそれにしても普通に使える魔術は威力があまりにも乏しく、大魔術は威力はあっても実用にほとんど耐えない。

 

強いのは間違いないが、額面からすると些か拍子抜けなのも事実だ。そこで魔術と念能力の近似性が出てくる。思うに、魔術は念のルールに沿いすぎている気がするのだ。そういう制限だからと言えばそれまでだが、わざわざ与える能力をそこまで調整する意味が見出せない。

 

となると、少しずつ見えてくるものがある。私はてっきりどこかの神様が仕掛けたものとか、そういう程度に考えていたが、この転生と能力はこの世界の住民が起こし、与えたものなのではないだろうか? そう考えれば納得がいく。

 

どこか制限があるのも。念のルールにちょっとだけ則っているのも。まあ果たしてそれにどれほどの力が要るのかは分からないが、見聞きした制約と誓約の効果からすれば不可能ではないだろう。

 

例えばフ組のイカれたフランクリンなどは、指を切ることで念弾の威力を大幅に上げたと聞く。団長の能力など、厳しい制約はあるが能力を盗むものだとも推察している。

 

ならば適当に数十人程度の命を捧げる制約と誓約でも組めば、私たちをこの世界に引きずり込むのも不可能ではないだろう。何の目的でかは論じるだけ無意味だが。

 

ヒソカとの戦いについては団長たちにもう連絡した。怪我の状態も見せて、復帰するのに手一杯だから蜘蛛は辞めるとも言っておいた。もちろん魔術でいかようにも治療できているが、団長は特に追及してこないだろう。証拠さえあれば裏切りでもないのだし、黙っていてくれる。

 

一時的な居場所としては悪くなかった。ただいかんせん肌には合わなかった。だから申し訳ないが、今回は脱退させていただく。だいたいヒソカが入ってくるようなところにいたくねえよ。それに尽きる。

 

そろそろ体の損傷も癒えてきたし、私が手塩にかけて育てた組はもういないから、何とか金策を探さなくては。最近通信技術も上がってきたし、インターネットで頑張って取引先を探すかー。

 

 

 

 

 

 

傷もしばらくして癒えてから、暗めの部屋でキーボードを打つ。取引相手を探すために、そういう掲示板に商品情報を貼り付け、ひたすら待つ。時折自作したサイトへ誘導を仕掛け、自身の知名度を取引や他の手段で上げていく。

 

昨今話題のSNSなども活用し、組の裏にいた結果なかった知名度を逆に利用して商品の質をアピールする。実際は経験不足を魔術で補っているだけだが、他人にはプロ級の人物が突然現れたように見える。

 

話題性は十分。だからこそ、たまに「そういう依頼」も来る。半ばグレーなものから非合法なものまで。裏が想像以上に盛んなため、電話は鳴り止まない。

 

中には正道を走っていた職人が裏に落ちるのを酒の肴にしている者もいる。はっきり言って取り合うだけ無駄な話だ。だが今更だろう。

 

スラムに幻影旅団。そんなところばかりにいて遵法意識が保てるはずがない。端的に言って、私は普通に手を出した。どころか一般人に対してはほぼ無敵なので、逆に脅して取引先を増やしてやった。

 

これは幻影旅団で学んだことだが、悪はそれより上の悪には勝てないのだ。同士諸君には申し訳ないが、これが現実である。

 

そうやってちまちま稼いでいるうちに、私もそこそこの職人扱いをされるようになった。裏では念具なども売っているので、力ある念能力者に対しての印象も上々だ。

 

冶金技術も上がってきた。欲を言えば土魔術とかが使えればより加工も楽なのだが、使えなくなったからこそ素の技術の向上は著しい。ある意味これが制約と誓約の効果かもしれない。

 

しかし『懐の手軽な設計図《シンプルライト》』の設定枠もあとひとつか。この能力に魔術を当てはめる=その魔術分野は捨てると宣言しているようなものだから、本来あった万能性が失われていくのだが、その分威力は保証されている。それをあとひとつ。

 

何気にここまでで結構大胆な手段を取っているから何とも言えないが、五大元素に近しい分野はもう手を出したくない。

 

水はともかく土はかなり早計な判断だった。カルシウム他エトセトラ。私の中で土はほとんど創造魔法だったと言ってもいい。それが迷宮だけしか作れなくなった。言うまでもなく痛手だ。

 

それでも戦闘能力で言えば、強いより一段階上に立っているとも考えられる。ヒソカは間違いなく一流だ。そのヒソカを戦闘不能一歩手前まで追い込み、やり方次第では勝てていたのだから間違いない。

 

だが考えたくないのは、あの転生当初のナンバー通りの人数かそれ以上の転生者がこの世界にいて、私の万能性重視とは違い、一点特化の能力を持っている場合だ。

 

この場合、単純に一流レベルの強さに加えて念能力が上乗せされてくる可能性がある。そうなったら終わりだ。勝ち目がない。

 

何よりそれが有り得るのが最悪だ。思わずため息をつかざるを得ない。顧客対応のためにPCを弄っていた手も止まった。

 

昔は良かった。スラム街の頃は────着信音。PCのメールボックスを見ると一件新着でメッセージがあった。何々?

 

『貴方の作品を大変気に入りました。特に初期に出ていた作品は、作るのに苦心しながらも創造性を尽くした痕跡があり、気に入っています。ただ、そういった心情を抜きにするとやはり目につくのは貴方の最新作の出来栄えで——』

 

PS. スティッチ

 

ふむ、内容を要約すると、貴方の作品は凄いよ、創意工夫を感じるよ、それでそんな貴方に依頼をしてもいいかな? 了承していただけるならカキン帝国某所で待ち合わせしたい、という感じか。

 

見たところ怪しいところは何もない。少なくとも即座に悪意を振りまく相手ではなさそうだ。メッセージ越しでもかなり丁寧な人柄だとは感じた。なら会ってみるのもありか。

 

軽く結論を出し、メッセージに了承の返事を返す。当然こういうことは何度かあったので、身バレ防止のために準備する。まずは気力というか魔力というか……ええい、これからは魔力と呼ぼう。

 

気合いを入れるために手を叩く。魔力を練り、体にうっすらと纏う。そしてそれを成人女性くらいの大きさに保ち、魔力を固め、熱を持った人肌のように変える。あくまで魔力のまま、操作の手を止めれば空気中に溶けてしまう程度で。

 

そうしたら後は周囲に光学的なペイントを施し、人間の美人のようなものの完成。強度はないから扱いにはくれぐれも気をつけること。こうしてしまえば後は誰と出会っても問題なし。

 

久しぶりに高くなった視座に、ちょっとよろける。ローラーつきの椅子から崩れ落ちそうになった。それでも何とか目の前のPCの画面を閉じ、近くにあった服を手に取る。

 

立ち上がると再びよろけそうになるが、今回は感覚を掴んできたこともあって程よい距離感で足を踏み出し、何とか堪えた。

 

どこかおぼつかない足取りで、雰囲気を出すために手に取ったコートを肩に掛けて部屋を出る。作業部屋の外は眩しかった。なんだか吸血鬼になった気分だ。そして軽く家の中を見回して問題ないと確認すると、私はその足で最寄りの空港へと向かった。

 

 

 

 

 

 

窓から都市が見える。カキン帝国の姿が見えてきた。景色がだんだんと近づいてくる。早朝に到着する予定だったので、大地はまだ明るい。にわかに、他の飛行船の音などが聞こえてきた。

 

着陸する前に軽く身だしなみを整える。普段とは体型が変わっているので、ある程度気をつけて行った。

 

視界の中で、船内の乗客が出入口に流れていく。機内アナウンスが流れ、目的地に到着したのが分かった。私もそれに伴い、飛行船から降りる。そして特に何もない手続きをいくつか経て、空港を出るとその辺で手を上げてタクシーを捕まえる。

 

待ち合わせ場所は空港から近い場所だったので、運転手に場所を伝えると程なくその待ち合わせの所へと辿り着いた。

 

三人の人間が視界に入った。黒服の人間二人と、その前にいる体格の良い王子様風の風貌をした男。そこの中には、気のせいでなければ、王子様風ではなく、本当に王子様の位を持つものがいる気がした。

 

「これはこれは。お会いできて光栄です先生。私はツェリードニヒ=ホイコーロというものです。どうぞよろしく。父に比べてあまり名の知れた者ではございませんが」

 

黒服を連れながら、男が一歩こちらに踏み出してきて膝をつく。そして手を掲げ礼をすると、予想通りの名前を名乗ってきた。手を取らないのは無礼にあたるか。そういう作法とは縁遠いのだが。

 

「ツェリードニヒ王子が知れた者でないなどとご冗談を。それなら私の方がよほど知られていませんよ。それと失礼を承知で明かしますが、私はそのような作法には疎いのでご容赦を。ルセツ=アナツツです、王子。よろしくお願いします」

 

ツェリードニヒに預けた手に口づけがなされ、それを終えると同時に、よく分からないので適当に大袈裟にならなさそうな範囲で頭を下げ、自己紹介を終える。頭を上げるとツェリードニヒは特に機嫌を損ねていないようで、むしろ微笑んできた。

 

「ありがとうございます。それと勝手に先生と呼んでしまい申し訳ない。貴方の念が籠った作品が、技術はもちろんのことあまりにも魅力的だったもので。作法については元々こちらの急な用なので、むしろ気遣いをさせてしまって申し訳ない」

「そう言っていただきありがとうございます。僭越ながら先生と王子に呼ばれるのも嬉しいです。それで後ろの方々は……」

「ああ、この者たちは話に関わることはないので大丈夫です。一応紹介しておくと、右がサルコフ、左がダンジンです。良ければ彼らもお見知りおきください。この者たちも先生のファンなので。そうだよな、お前ら?」

 

どちらも厳つくてあまり見分けがつかないが、背後の黒服たちがツェリードニヒの紹介と共に頭を下げてきた。王子は砕けた口調からして彼らと仲が良いようだ。

 

「ええ王子。ただ少し見聞きした程度の不習いの者ですが……」

「王子、事実ですが砕けすぎかと」

 

お世辞か何かだろうか。正直私は魔術も使っているから本気で制作はしているものの、先生など恐れ多いのだが、念という点では確かに他の職人より何歩か進んでいるかもしれない。見たところ王子なども念能力者であるようなので。

 

「ああこれは失礼。ではこんな所で立ち話もなんですし、私のホテルへ案内いたしましょうか? ……ありがとうございます。ではマドモアゼル、どうぞお手を私に」

 

排気音が近づいてきて、私たちの前に黒塗りの車が姿を現す。それに黒服たちは自然と反応して車の扉を開け、ツェリードニヒは入口に足をかけ私に手を伸ばして車へと引き入れた。

 

続けて黒服たちも車に乗り込み、黒塗りの車は道路へと走り出した。ツェリードニヒ所有のホテルに向かって。

 




紳士ツニキは部下と仲がいい。
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