胎内回帰願望《パンチーファンシー》 作:来い!ゲンスルー!
正直な所感を述べると、ツェリードニヒはいい王子だと思う。事前情報は互いに匿名のためなかったが、それでも私は好感を抱いた。まあそもそもシステム的に会うものでもないのだが、会ってみた感想としてはそんな感じだ。
「ではこちらの部屋へどうぞ。依頼の話はできればお茶の後ということで。先生のお人柄はあまり詳しくないので、好きなように過ごしてくだされば」
あまりにも丁寧だ。逆に不安になる。まあ一国の王子が評判悪いならともかく、良いなら何もないだろうけど。とりあえず王子に給仕のようなことをさせていることに詫びつつ、好きでやっているという言葉に甘えて席まで歩く。
ここまで来たらあれだが、一応ツェリードニヒが席についてから私も座った。ホテルの最上階が王子の自宅だそうで、部屋はかなり広かった。どこか落ち着く空間だ。気遣いが溢れている。
「本日はお招きいただきありがとうございます。かのツェリードニヒ王子にお会いできて大変嬉しいです」
「ありがとうございます。でもお世辞は必要ないですよ」
「いえ、割と本気で言っています。というのも私、アーチェリーのオリンピックにいつか出たいなんて大層な夢を持っていまして、なにぶんツェリードニヒ王子の弟君は——」
私はこの世界の学校なんて入ったことないし、社会にもまともに出ていないからカキン帝国の評判自体は嘘か本当か程度にしか知らないが、唯一ツェリードニヒ王子の弟のハルケンブルグ王子についてはある程度知っている。
十五歳で世界最難関の大学に合格、オリンピックでも活躍し銀メダルを持ち帰る。ただ少々理想主義者なところがあり家族との折り合いは悪いと聞くが、ツェリードニヒ王子とは仲がいいと聞く。
なので私は会話の流れで「素晴らしい弟君ですね」と褒め称えると、ツェリードニヒからはやはり透明感のある笑みが返ってきた。旅団なんかとは比べ物にならない人格者だ。
「ええ、誇らしい弟ですよ。ところで先生は本をご覧になりますか? ちょっと見せたいものがあるんですが」
「? 本。もちろん喜んで」
「良かった。じゃあ持ってきますね」
ツェリードニヒがひとつ断りを入れてきて席を立つ。しかしハルケンブルグ王子の話をしている時のツェリードニヒ王子は何か退屈げだったが、もしやあまり仲が良くなかったのだろうか?
あ、このお菓子美味しい。まあそんなことはさておき、机に並べられた色とりどりのお菓子を食べる。マカロンにカヌレにティラミス。
どれも大きさは楽に食べられるように配慮されているが、手軽さが違うためにそれぞれ変わった感覚で味わえる。魔力の外装から取り込むのは苦労するが、それだけの価値はあると言えるだろう。
「……気に入っていただけたようですね。では本はこちらです。あまり専門知識を問うものはないので安心してください。これらは全て私が人生の中で感銘を受けたものでしてね」
「ほう、では失礼して」
ツェリードニヒが持ち出してきた本の中の一冊を、軽く手を拭いてから手に取る。中身を改めると、そこには思ったより過激な内容が書かれていた。主に紛争の是非やなぜ起こるのか。
起こす側の心理や正当性などが詳細に書き記されている。中には紛争の酷い現実を走り書きしたような跡もある。何というかオーラのある一冊だ。
「あー、すみません。少し過激なのが混ざっていたみたいです。それは思春期の頃、恥ずかしながら読み耽ってしまったものでして。こんな世界もあってしまうんだなと」
ツェリードニヒが謝罪の意味も込めて頭を下げてくる。何だか恐れ多いなと素直に謝罪を受け入れると、いつの間にかそこにあったのか、視界の端の方にでかい日誌のようなものがあった。
「これは……」
「ん? それは……見ない方がいいですよ」
どこか突き放すような声色。あるいは適当な言葉というべきか。ツェリードニヒの態度が急によそよそしくなる。何か嫌なことでもあったのだろうか? 見ない方がいいか。
もしかしたらツェリードニヒの日誌を本人が間違えて入れただけかも……んあ?表紙のタイトル『
能力か?
分からないが、それならツェリードニヒの意図を確かめる意味も込めて触らない程度に手を伸ばすか。椅子から少し身を浮かせて手に取るように……!?
「ルセツちゃん。ルーセーツちゃーんッ! オレは見ない方がいいっつったよな? つまり見るなって言ったよな? 好奇心は猫を殺すって言葉を知らねえのか? 本当にアンタのこと尊敬してたんだぜ!? なのにこうも低脳じゃなぁ! サルコフ! ダンジン! 入ってこい!」
部屋の扉が荒々しく開け放たれる。万が一のためか、王子のテンションからか、黒服の二人はすぐに武装に手を出せるように準備していた。
だがそれは結果から言うと意味がなかった。ツェリードニヒが右手で二人を指し、今度は左手で私を指した瞬間、彼らは光弾へと変わったのだ。
『
光弾が私に向かってくる。早い。避けるのは無理。防御は……受けるのは得策じゃない。だとすると転移……。
《
視界が切り替わる。
「うおっ、念能力者か!?」
ツェリードニヒが部屋の外で騒いでいる。光弾は……? 消えていない。斜め後ろに転移したのに曲がって追ってきている。これはほぼ必中と見ていいか。次は防御。前面に多重結界を生成。
駄目だ。抵抗もなく破られる。多分黒服二人の命を懸けているから威力に際限がない。遠くに転移しようにも、ここだとツェリードニヒを巻き込むから誘拐扱いになってしまって国家指名手配。国家規模なら捜索系の能力者もいるだろうから万が一がある。
手札も尽きた。多人数でやる
光弾が標的の私へと近づいてきたことで形を変えていく。一個は何か人型くらいの大きさに、一個は四つに分かれて。それぞれ避けようとする私の背後と前面に張り付き、私が全力で振り切ろうとすると、その瞬間に両方向から強い力で抑え込んできた。
「よっしゃルセツちゃん捕獲完了! 転移を使われた時は冷や汗かいたぜ。危ない危ない。だが遠距離転移をしなかったところを見ると、できないかやらなかったか? もしかしてオレがいるから? かー賢いねぇ。低脳って言ったのは謝るぜルセツちゃん。だが転移しといた方が結果的に良かったかもな」
五体が拘束されて動けない。体が開かされている。この感じ、十字架を具現化して磔にする能力か。しかもオーラが絶たれているから念も使えない。幸いなのは魔術が使える点か。転生者じゃなければ確実に終わってたなこれー。で、どうするか。
「お、おお? ルセツちゃん間違いなく途中までオレに警戒心持ってなかったよね? それはあれほどの転移をできるせいもあるかもしれないけど、いくらなんでも鉄面皮すぎじゃない? いや気に入った」
部屋の外から歩いてきたツェリードニヒが、私の偽の顔を覗きながら浅く邪悪に笑う。そこに先程までの好青年らしき王子の姿はない。ちょっと警戒しなさすぎたかもしれない。でもこれは警戒しなかった程度で何とかなるとも思えないけど。
「うんうん。ルセツちゃんの考えてること何となく分かるぜ? 警戒しなかったことを後悔してるのと、それもどうせ無駄だったと思ってるんだろ。残念だが違うんだなーこれが」
何が違うのか? ツェリードニヒは語った。詳細は省くが、黒服の命を懸けた能力であること。多数の制約を搭載していること。そしてその中で、警戒していれば避けられたこと。
「んー、ルセツちゃん警戒した程度で何が変わると思ってるだろ? だから違うんだなこれが。強力な能力を作る方法は二つあるんだよ。非常に重い制約で縛るか、代償は軽いが自分以外の環境に依存する制約を作るか。まあ今回使ったのは後者だな」
なるほど。相手が警戒しているか否かで威力が変わる。あるいはそもそも発動できないなども有り得る制約か。それならば確かに黒服の命と合わせて相手を完全に無力化するのも可能だ。特にツェリードニヒは王子なので、警戒されないという方が難しいだろうから。
「いやー、ルセツちゃんって賢い馬鹿だわ。人を信用しすぎ。純粋なのはいいけどもう少し人を疑いなよ。まあ、もう意味ないんだけどな。それじゃ解体始めるけど、怖がらないでくれよ。じゃねーと苦しめたくなっちまう」
言っていることとは反対に笑みを深めながら、多分私を解体する用の小道具を揃え始める。これが王子の裏の顔というやつか。
どうしよう。割とチビりそう。歯がガタガタと震える。外装は操っているからそんな風には見えていないが、冷や汗が外装を伝って外へ漏れ出ている。ふと後悔。
警戒していなかったのは単純に力量の関係もあるが、それは人柄も含めてのことだった。カキン帝国についてもうちょっと勉強しておけばこんなことには……。
「それじゃルセツちゃん、まずは指いくけど耐えてね」
外装の手のひらに、硬いものが触れる感触がある。魔力の知覚がそれを捉えた。まるで本当に指に当てられているかのような。そしてそれは気のせいでなければペンチのようで……こんな……こんなの……!
「怖いだろうが! やめろよバカヤロー! 私だってこんなのしたことないぞ!」
もはや我慢もならず、外装の指が潰される前にそれを脱ぎ捨てる。魔力の皮を剥ぎ、全力で飛び出した。横にいたツェリードニヒがゆっくりと確実に顔を驚愕に歪ませるのが見える。ざまあない。
足に鎧を纏う。飛び出した時の勢いを無理やり変換し、外装の左手を潰そうとしていたツェリードニヒの顔面目掛けて蹴りを放つ。
その速攻に、ツェリードニヒは流で対応しようとしてくる。だが無駄だ。ヒソカより劣ったオーラではこれを防げない。
蹴りがツェリードニヒの顔面に達した。直後、私の足は抵抗もなく振り抜かれる。ザクロが咲いた。
「べぎゃで!?」
ツェリードニヒが倒れる。同時に私は地面に着地した。倒れたツェリードニヒの方を見ると、頭が完全にぐちゃぐちゃになっていた。こりゃもう駄目だな。証拠隠滅して帰ろう。
ツェリードニヒの遺体に指を向け、火を放つ。多分ホテル丸ごと燃えるだろうけど、まあ仕方ない。やるべきことはもうないので、あとは指名手配されないように祈るだけ……。
「待て待て待て! この火消してくれ! 死ぬ! というか痛い!」
背後から謎の声が聞こえた。ツェリードニヒは死んだはず。一体何者? というか誰?
#ツェリードニヒの能力
配下を拝架へ
@ワーシップドロップ
・配下を対象を拘束する十字架に変換する
・配下は光の弾となり、エネルギーが尽き果てるまで対象を追う
・十字架は相手を絶らせる
制約 :
1.配下に命を懸ける事を同意させないと発動できない
2.拘束する対象と捧げる配下の命を同時に指ささなくてはならない
3.自身を警戒している対象には使えない
誓約 :
なし
部下の命でん?ってなるかもですが一応仕組みは考えてあります。
指さした結果磔イエス・キリストになったツニキ
─(´・ω・`)─