胎内回帰願望《パンチーファンシー》 作:来い!ゲンスルー!
背後に振り返って火を消す。即座に攻撃に回れるよう指先を元火達磨に向けて魔力を循環させる。だがやはり目の前にはツェリードニヒしかいない。唯一おかしな点は、火傷は負っているものの頭がなぜか無事な点か。仮に蘇生したのだとしたらやばいな。
「っていうかお前誰だ?」
目の前のツェリードニヒらしき何かに話しかける。何かは火傷を気にして肌を擦っているようだが、蘇生したのだとは思いたくない。念能力で一つの能力を既に持っているのに見たところノーリスクでそんなことができるとはやはり思いたくない。が、これもまた配下の命を使用すれば不可能ではないだろう。
「俺? 俺か? 俺あツモ=タンキー。ツェリードニヒだ」
ツモなのかツェリードニヒなのか……。
「いや誰だよお前」
今度は何かやろうとしたら即殺す意思を込めて、確殺のショットガンの構えでツッコミを入れる。焦げた地面に立つ姿はツェリードニヒそのものだが、間違いなくツェリードニヒだとは思えなかった。
「あいや、俺はツェリードニヒだ。でもツェリードニヒじゃねえ。これを説明するには俺の生まれから説明しなければならないが……」
何だか言っていることがよく分からなかったが、状況が状況なのでこちらを窺ってくるツモに続きを促した。するとツモは自分の生まれについて説明し出し、なぜこうなっているのかを私に教えた。
何でも、ツモは不可持民という存在として生まれたのだそうだ。それはカキン帝国では古くから差別され、現代でも公職にはつけないほど苛烈な差別を受ける階級の低い被差別民。
道端で侮蔑を吐かれるのは当たり前で、時には殺されかねない暴力を受けることもあったという。そんな存在に生まれたものだから、ツモの日々は苦しいなんてものじゃなかっただろう。幸いツモは生まれた時から賢かったからできるだけそういうことは避けていたそうだが、それでも差別は並大抵のものではなかったらしい。
ツモは不可持民の一団に属していた。といっても不可持民の反乱を嫌った民衆たちが分断を図っていたので、ほんの小さな一団。そこでツモはゴミを漁って生きていた。でもツモは知っていた。民衆たちの生活を。だから初めに羨んだ。自分もああなれたらと。
次に恨んだ。自分ではそうなれないから。そして目覚めた。怒りが彼の素質を開花させた。幼いながらに、念能力への覚醒。そして不思議なことに彼は念能力の詳細を把握していた。それはツモが言うには不可持民の物知りが知っていたとのことだが、ここまで来れば察しはつく。
おそらくツモは転生者だ。この後念能力の発について語った時もあまりにも詳しく、限界ギリギリまで強い発すぎた。
市民の生活を羨んだツモは、ではその更に上は? もっと上はどんな生活をしているんだろうと気になった。そして見た。天上人のごとき王子たちの姿を。その時決めた。俺は王子になると。
それは果たして一体どうやって? =念能力で。だが王子の乗っ取りなど一朝一夕ではできない。当たり前だ。人を乗っ取るなど、ただ命を懸けたところでできるかどうか。
そこでツモは工夫した。制約と誓約を使ったわけだ。能力もちゃんとそれ用に作ったらしい。本当かは分からないが、私の信用を得るためか、その能力の全容をツモは教えてくれた。
『対極外れの生前伴侶《ヘイトオブラブマーク》』
・一人の人間に生涯憑く
・憑いた人間の体を乗っ取る
・再生力を強化する
制約:
1. 最も嫌いな人間に憑かなければならない
2. 憑依対象に利する能力をひとつ必ず作らなければならない
3. 自死しなければこの能力は発動しない
4. 憑依対象が死んだ時のみ乗っ取れる
5. 再生力の強化は憑依対象が死んだ時だけ
純粋な疑問で、なぜここまで話すのか。少しおかしかった。だから私はツモに聞いた。なぜここまで話すのかと。転生者云々は置いておいても、それが疑問だった。
すると、これまた単純な答えが返ってきた。「勝てない」から。それに尽きると。なるほどと私は思った。
実際私の制約つきの魔術は、下手な能力を持っていても突破できるだろうから。だがだからといって私が警戒を解くことはない。故に私は誓約を迫った。
「なに? 約束をしたいだって? まあ俺はツェリードニヒだからな。ここでいい顔しといて背後からズドンてのも有り得るわな。いいぜ。俺は嬢ちゃんに危害を加えるようなことはしねえ。約束する」
身の上の説明を終えたツモが、一息ついて私の言葉に真摯に答える。その様子は紛うことなき良いおじさんだ。お兄さんでは完全にないが、それはともかくだからといって信用はできない。そこで私は自分の親指の皮を魔術で切り、それをツモの前に差し出す。
「ん? 何だこれ」
「誓約だよ。血を交わすことでお互いを縛ることができる。今回は私があんたを縛る。内容は私を攻撃せず、追跡しないことだなー」
「ほーお、いいぜ。やらせてもらう。ただしこっちも条件いいか?」
了承は貰ったので、足に展開していた鎧を手に付け替え、鎧についている爪を差し出すことでツモも指から血を流す。
「いいぞー。何だ?」
「俺の情報は基本的に口外しないで欲しいんだが、いいか?」
「おー、いいぞ」
「いや悪いな。怪しい立場なのに」
申し訳なさそうにツモは笑う。それに私は問題はないと告げながら、血がぷっくりと出た指を差し出す。合わせてツモも指を出してきた。血と血が混ざり合う。魔力が魂に干渉し、破れないよう奥深くに烙印を刻む。魔術は念とは似ているが念ではないので除念もできない。破れない誓いの完成だ。
「おお? ほんとに攻撃できねえのか。とんでもねえなぁ」
「そんな感じっつーわけだ。じゃあなーツモさん」
「ちょちょちょ! ちょっと待った!」
目の前で力んで、私に対して本当に攻撃できないのか実験してくる度胸あるツモに、もう用事もなくなってしまったので別れを告げる。すると予想外に引き止める反応が返ってきた。
「何だ? どうしたー?」
「あー、いや。お互い無事だったらだが、そんときゃ俺あ王子の力を使って嬢ちゃんに色々便宜図るぜ! 俺は生き残れるか分かんねーけどな! だはは!」
「楽しみにしてる。じゃあなー」
多分元々おっさん気質の人間だったんだろうが、気持ちのいい人間性だ。だがここはあえて警戒心を続け、ワンピの黒ひげみたいな奴だと思っておこう。
私はちょっとの警戒心を続けて持ちながらも、ツモに手を振って別れる。最悪が起きても完全に私を追跡できるなんてことはないだろうから少し安心しながら。ツェリードニヒは本当に怖かった。今でも震えがとまんねえぞ。
◆
『——速報です。〇〇市一番地のツェリードニヒ王子所有のグランドホテルが放火されました。被害者は現在確認できている中でもツェリードニヒ王子と親しかったご友人が二名。ツェリードニヒ王子自身も火傷を負ったとのことです。犯人は現在捜査中であり、現場の目撃証言と監視カメラの映像によりますと、犯人は十二〜十三歳程度の少女であり——』
帰宅のために空港までの道を歩く。タクシーを捕まえるのも面倒くさかったためそうしていると、ふとそんなニュースがビルの大型ビジョンから聞こえてきた。もしかしたらやるかもとは考えていたが。
雑踏の中、周囲の視線が私に注がれる。他にも親を傍に置く少女などにも視線が注がれ、一瞬張り詰めた空気が広がる。だがしばらくすると、馬鹿馬鹿しくなったのか視線もやみ始めた。
それはそうだろう。実際のところはまだ王族が強権を握っていたのかもしれないが、表向き私が学んだ限りではカキン帝国は帝国と言いつつも民主主義の国。まだ帝国社会主義という専制君主の制度が残っていた名残は多いが、こういう都会ではそういうのも薄れてきている。
つまりこのニュースに大した意味はない。私を少し脅しているだけだ。いやどちらかというと頼んでいるのか。魔術の効果は知っているが出ていってくれと。じゃないと俺も排除しなきゃいけなくなる、という感じで。
何だか思ったよりもマイルドな黒ひげだった。だから私も甘んじてその意図を受け取り、空港への足を早める。元々出る予定だったのだし、こんなニュースはカキン帝国以外じゃ論外だろうから問題ない。
ハルケンブルグ王子に会えないのは割と残念だが、まあもうここまでトラブルが重なるとオリンピックに対する諦めもつく。
王子にはちょい憧れの人でいてもらおう。そしてあわよくば、ハルケンブルグ王子が評判通りなのであれば是非王となってこのおっかないカキン帝国を変えて欲しい。
慈悲を見せてもらっているところ残念だが、ツモさんには王を諦めてもらおう。なぜなら私はハルケンブルグを支持している!
ジークハイル、ハルケンブルグ!
頭の中でそんな感じの呪文を唱えながら、ツェリードニヒの恐怖を忘れるように空港からこの国を出る。帰り際に私は、個人でチャーターした飛行船の窓から、クソカキンめと唾を吐きかけた。
きっとハルケンブルグ王子以外はみんなクソみたいな性格の王子がいる国だ。躊躇いはなかった。
#ツェリードニヒにツモが与えている能力
釣り戸日記
@ホワイトフェーズ
・日記を具現化する
・自身の過失を人々の認識から消す
・自身の過失は日記に書き込まれる
制約 :
1.書き込まれる過失が増えるほど日記は巨大化する
2.日記は消せない
3,日記の中身を見られたら罪の量によって罰がくだる
ツリドニッキ、名ずけてツニキコンボ↓
1.配下を脅す
2.脅した配下に要求を飲ませる
3.能力が過失を認識、それを消す
4.記憶が消えた配下は清廉潔白な王子に自分から何かを差し出したと認識するようになり、忠誠心を抱くようになる可能性がある