ため、新たな冒険の旅に歩き出す。
【厳冬 夕暮れ】
[下野国(栃木県) 山奥]
「・・・・・・奇天烈斎さま。お疲れ様ナリ」
奇天烈斎さまが天寿を全うしたナリ。
見届けたワガハイは、キテレツとの約束を果た
すため、身の回りを整理して未来へ戻るナリ。
そして今、奇天烈斎さまの墓前で手を合わせ、
最期の挨拶をしているナリ。
「キテレツは奇天烈斎さまの約束を必ず果たして
いるナリ」
ワガハイはそう言い残し、奇天烈斎さまの『航
時機』に乗り込み、起動スイッチを入れたナリ。
『航時機』はゆっくりと空中を浮き上がる。
やがて機体は眩い光を放ち始め、視界が白く染
まっていく。
その瞬間、ワガハイは最後にちらりと奇天烈斎
さまの墓を見たナリ。
「奇天烈斎さま、安らかに眠ってほしいナリ」
そうして光の中へ消え、ワガハイは未来へと帰
っていったナリ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
物陰に隠れていた私はコロ助が未来へと戻るの
を確認した。
「コロ助、お前はあの方の意思を尊重するか・・・」
奇天烈斎様のお考えは素晴らしい。
私もまた、あの方の理想そのものは正しいと思
っている。
しかし――。
私は、人の世を許せない。
人の道を踏み外し、多くのものを踏みにじって
きたこの世界を。
あの方の想いを否定し続けてきた者たちを。
「私とお主は袂を分かつ……。わかっていたこと
だが、やはり寂しいものだな」
あの方とコロ助と共に過ごした日々。
それは私にとって、何物にも代え難い宝だった
だが、その宝を胸に抱いてなお、私は進まねば
ならない。
私の野望は、必ず成し遂げなければならないの
だから。
そうして私は計画を実行するため、例の場所へ
と歩き出した。
それこそが――
あの方への手向けになると信じて。
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【盛夏 夕暮れ】
[東京 とある総合病院]
ピッピッピーピッピー
規則正しく鳴る医療機器のアラーム音が木霊す
る病室にはベッドの周辺に私たちの家族と友人知
人が囲み、主人を見守っていた。
「・・・・・・あなた」
私は病室のベッドで死期を迫っている夫の右手
を握りしめて声をかけ続けた。
ピーピーピーピーピー
「父さん」
「お義父さん」
ピッピッピーピッピー
「親父」
「お義父さま」
私の後ろには二人の息子とそれぞれの奥さん
たち・・・・・・。
ピーピーピーピーピー
「ジィちゃん」
「お爺さま」
「ジィさま」
そして、私たちの孫が泣いていた。
ピッピッピーピッピー
「・・・・・・木手」
「英一さん」
ピーピーピーピーピー
「・・・・・・木手さん」
「木手さん」
私たちの反対側には海外に住んでいる子どもの
頃からの付き合い熊田薫さん民子さん夫妻や尖浩
二さん五月さん夫妻が家族を連れ、英一さんの最
期を看取るために来てくれて本当に嬉しかった。
ピッピッピーピッピー
「キテレツグランパ」
「グランパ」
「グスッ、グランパ」
ピーピーピーピーピー
「キテレツパピッ」
「ぺぺ」
主人は友人たちのお孫さんたちからも慕ってい
る・・・・・・この人は本当に幸せ者だ。
ピッピッピーピッピー
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「・・・・・・英一さん」
「・・・・・・木手さん、グスッ」
ピーピーピーピーピー
いきなり、沈黙を破るように熊田さんが主人に
叫んだ。
「キテレツ気合だ!気合で福の神を追い返せ!」
「それを言うなら“死神を追い返せ”でしょ!?」
ピッピッピーピッピー
涙目の熊田さんが言い間違いをすると涙を滝の
ように流す尖さんがツッコミを入れる。
これは昔からの日常茶飯事なのでこんな時でも
やらかす二人を見て思わず私と民子さん、五月さ
んは呆れながら笑ってしまった。
ピーピーピーピーピー
「こんな時までふざけないで!?」
「うるせー、言葉のあやとりだ!」
「“言葉のあや”でしょ!ブタゴリラ!」
パプリカのように顔を真っ赤にする熊田さんが
呆れ顔の尖さんに叫んだ。
ピッピッピーピッピー
「ガキの頃のあだ名で呼ぶな!」
「自分だって木手さんをあだ名で呼んだろ!」
「うるせー、てめぇは昔から細かいんだよ」
ピーピーピーピーピー
「ブタゴリラの方がいつも何かとやらかすから私
は細かいことも気にするようになったんだよ」
「二人とも止めなさい!」
口ケンカを始めた二人を止める私を見たキテレ
ツくんが笑い出した。
ピッピッピーピッピー
「ふ、ふはは・・・・・・ははは」
「き、キテレツくん?」
「キテレツ」
「どうした、キテレツ」
この人が笑う声を聞くのは久しぶりでつい私も
子どもの頃のあだ名で呼んでしまった。
私が顔を真っ赤にしていると主人がかすかな声
でしゃべった。
ピーピーピーピーピー
「ご・・・ごめ・・・ん、むか・・・しは・・・いつも・・・・・・
こん・・・な・・・かん・・・じ・・・・・・だな・・・・・・と」
そう言われて私たち5人はお互いの顔を見合わ
せてみんなでクスッと笑った。
ピッピッピーピッピー
「そうね」
「ええ」
「たしかに」
「そういや、ガキの頃からこんな感じだな」
「そうだね。けど、あと一人ここにいたら・・・」
ピーピーピーピーピー
私たちはトンガリくんの言葉でここにはあと
一人いなければいけないと思い、言葉を失った
ピッピッピーピッピー
「トンガリ。そんなこと言ってもよ、アイツは
キテレツでさえ・・・」
「あっ、ごめん」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・コロちゃん」
私たちが哀愁に浸っていた時突然!?
ピー!ピーッ!ピーー!ピーーッピーッ!
医療機器のアラーム音が変わり、主人の呼吸
が大きく乱れ始めた。
「ハァーッ!?ハァ!?ハァーッ!?」
「あ、あなた!」
入り口付近で待機していた担当医さんと看護
師さんたちが急いで主人に駆け寄り、あらかじ
めお願いしていた穏やかで安らかな最期を迎え
られるよう処置を始めた。
ピー!ピーッ!ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・
「ハァー、ハァー、ハァー」
「あなたっ!キテレツくん!」
覚悟はしていたけど、まだ別れたくない!
せめて、あと10分!いえ、あと一分だけ
そばにいて、キテレツくん!!
ピー!ピッ・・・・・・ピ・・・・・・ピッ・・・・・・
「ハァ・・・・・・ハァー・・・・・・ハァー」
「き、キテレツ!」
「死ぬな!死ぬなよキテレツー!!」
ピッ・・・・・・・・・ピッ・・・・・・・・・・・・ピッ・・・・・・・・・
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・」
「木手さん!」
「英一さん!」
「「「ジィさま!!」」」
「「「グランパ!!」」」
「「「パピッ」」」
みんながどんなに声をかけてもキテレツくん
の呼吸と脈がどんどんと弱くなる・・・・・・。
ピッ・・・・・・・・・・・・ピッ・・・・・・・・・・・・ピ・・・・・・
「・・・・・・あ・・・・・・・・・う」
「えっ!な、なにキテレツくん!」
キテレツくんが最期の力を振り絞り、何かを
言おうとしている。
「み・・・・・・つけ・・・・・・・・・・・・」
「えっ?」
「こ・・・・・・ろす・・・・・・けを・・・・・・みつ・・・・・・・・・
け・・・・・・・・・」
ピーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あなたっ!キテレツくん!」
「キテレツ!死ぬな!キテレツ!」
「うぅ・・・!キテレツ!」
「キテレツくん・・・・・・」
「木手くん・・・・・・」
「17時31分、心音・呼吸音停止を確認いたし
ました」
担当医は死亡確認した後、私たちに頭を下げた
「これをもって死亡とさせていただきます」
21世紀の発明王と称えられた木手英一が親族
と友人知人に囲まれて永眠した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・これが死ぬか。
私は病室の天井で私のために集まってくれた家
族、友人たちが泣いているのを見ていたたまれな
かった・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・みよちゃん、ブタゴリラ、トンガ
リ・・・・・・みんなゴメン。
実はコロ助の手掛かりを掴んでいた。
だが、それと同時にとんでもない事実も判明し
たんだ。
だから、身内にさえ軽はずみに言えなかった。
けど、コロ助を助け出す方法はコレしかないん
だよ。
みんなに謝罪をしている時、私の心にあの方の
声が響いた。
約束通り、迎えに来てくれた。
『感傷はその辺にしておけ、英一』
・・・・・・大天狗様。
『時間がないのだろう。急ぐぞ!』
・・・・・・はい。
大天狗様は私の魂を手のひらサイズの玉に変え
握りしめながら病院から目的地に飛んでいった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜木手英一の生家〜
ワシは英一の約束通り、コヤツの生家の真上に
着くと事前に教えられた呪文を唱える。
「~~~~~~~〜〜〜~~~~~~〜〜!?」
ワシはまたたく間に光の膜で覆われ、あまりに
もまぶしいので目を閉じた。
「・・・・・・『天狗の抜け穴』」
次に目を開けた瞬間、ワシは無機質な部屋の中
に立っており、目の前には光の渦が浮いている。
「これが『魂魄異送機』か」
「さようでございます。大天狗様」
声をかけられた方に首を向けると黒い甲冑の姿
をした者が立っていた。
「お主がここの管理者か?」
「はい、我が名は仙豆丸と申します」
「仙豆丸よ。状況は察しとるな?」
「ハッ!手筈を整っております」
「うむ、ならば始めるかのう」
ワシは英一の魂を光の渦の方に向けた。
「・・・・・・英一よ。もし、お主の予測が正しいけれ
ば・・・・・・これは分の悪い賭けじゃぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃが、お主ならば必ずやり遂げることができ
るはずじゃ!」
「・・・・・・・・・・・」
「お主の力でコロ助を救い出せ!」
ワシが激励を言うとキテレツの魂は細かい砂に
変わり、風に煽られるように光の渦の中へと吸い
込まれていく。
「お主の命運を祈る」
ーto be continuedー
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