【残暑 夜中】
[日本 木手邸]
「ういぃぃ〜〜〜! あ〜〜いい湯だった〜!
なあ、トンガリ!!」
「うん、そうだね。ブタゴリラ!さいこうだった
よ!」
俺たちは、キテレツの宝探しを一時中断した。
「とりあえず、今日の宝探しは成果ありだな」
「そうだね、ブタゴリラ。でも、情報を整理し
ないと」
今日の探索で手に入れた情報を整理するため
みよさんの勧めで木手邸に泊まることになった。
ひと汗流した俺とトンガリは、まず汗と汚れを
落とそうと風呂を借りる。
「キテレツの家の風呂は温泉だからいいよな」
さっぱりと身体を洗い流した俺たちは、すっか
り上機嫌になっていた。
「そうだね。昔、キテレツが発明した『変泉器』
のおかげだよ」
キテレツの家の風呂には、温泉の成分を作り出
す発明品『変泉器』が設置されている。
そのおかげで、自宅にいながら本物の温泉気分
を味わえるのだ。
湯上がりのブタゴリラとトンガリは、髪を拭き
ながら居間へ向かった。
「そういや、この発明で思い出した」
俺が腕を組み、懐かしそうに笑う。
「昔、この『変泉器』のせいで大騒ぎになったこ
とがあったよな」
「ああ、あったね」
トンガリも苦笑しながら頷く。
「もともと、家庭で気軽に温泉が楽しめるように
開発したものだけど、悪用させたんだよね」
「そうそう、そのせいで発売半年で製造中止だか
らな。」
「そうだね。世界中で偽造温泉が次々に作られて
本物の温泉地が大混乱になったんだ」
俺たちは、そこがキテレツらしいと苦笑いした
「まったく・・・・・・」
トンガリは呆れたように肩をすくめる。
「キテレツって、本当に昔から後先を考えないと
ころがあるよね」
「だな・・・・・・・・・」
「発明を作るのは天才的だけど、その後どうなる
かまでは考えていないんだから」
「ハハハッ、そうだな!そこんところはガキのま
まよ!」
俺は豪快に笑いながら、大きく頷いた。
「その後、みよさんは苦労したよね〜」
トンガリは遠くを見るような目で、当時のみよ
さんが後処理に追われていた姿を思い返す。
「おお、そうだった。当時、経理営業担当のみよ
さんは多種多様な業者からのクレーム対応や損
害賠償の手続きに追われて、連日連夜、大忙し
だったんだよな」
トンガリは苦笑しながら肩をすくめた。
「それだけ大変な目に遭ったのにさ〜。みよさん
よく離婚しなかったよね」
俺は腕を組み、うんうんと頷く。
「みよさんは昔っから世話焼きだからな。高校で
学生結婚してるし」
俺の言葉で、トンガリはプッと笑った。
「放っといたら何をしでかすか分からねぇ息子っ
感じで見捨てられなかったんだろ」
「ハハハッ、確かに!みよさんの面倒見の良さは
昔から変わらないもんね」
「おうよ。だからこそ、あんなとんでもない後始
末まで全部引き受けちまったんだろうな」
俺たちはキテレツがやらかした昔話に花を咲か
せながら居間へ向かった。
ふすまを開けると、みよさんはちょうど夕食の
支度を終えたところだった。
「二人とも、お風呂は済んだ?ちょうど夕ご飯の
準備ができたわ」
食卓には、みよさんの手料理がずらりと並んで
いた。
「おお〜っ! うまそう!!」
ブタゴリラは目を輝かせ、トンガリも思わず笑
みを浮かべた。
「さあ、みんな。冷めないうちに食べましょう」
みよさんの声に、一同が席へ着いた。
ブタゴリラはビールが入った特大ジョッキを高
く掲げる。
「それじゃあ今日は、宝探しの進歩を祝って
――乾杯!!」
「「乾杯!!」」
ブタゴリラはジョッキのビールを勢いよく一気
に飲み干した。
「ぷはぁ~っ! 美味ぇ!!」
豪快な飲みっぷりに、私たちは思わず目を丸く
する。
「ブタゴリラ・・・・・・よくまあ、人の家でそこまで
堂々と豪快に飲めるね」
私は呆れたように肩をすくめながらツッコミを
入れた。
「ガハハハッ!トンガリ、細けぇことは気にする
な!ビールはキンキンに冷えたうちに飲むのが
一番だろ!」
ブタゴリラは豪快に笑い飛ばすと、空になった
特大ジョッキを掲げた。
「みよさん!悪いけど、もう一杯おかわり!」
「はいはい。飲み過ぎないようにね」
みよさんは苦笑しながらジョッキを受け取り
台所へ向かう。
「・・・・・・もう何も言うまい」
私は深いため息をつき、ようやくブタゴリラを
諦めた。
そして気持ちを切り替えるように腕を組み、静
かに考え始める。
「それより、キテレツの宝だけど・・・・・・。あれは
いったい何だったんだろう・・・・・・」
私の疑問に、ブタゴリラは静かに耳を傾ける。
「あの家に隠されていた理由も気になるし、まだ
何か秘密があるような気がする」
トンガリは今日の宝探しでの出来事を一つひと
つ思い返しながら、キテレツの宝に隠された真実
について思索を巡らせるのだった。
俺は腕を組み、大きくため息をついた。
「まったく・・・・・・キテレツのやつ、ご先祖さまの
マネなんかしやがって」
顔を上げて、思い返していた。
「相変わらず普段は真面目なのに、時折変わった
ことばっかり考えるやつだな」
呆れたように苦笑しながらも、その口調には長
年の付き合いだからこその親しみがにじんでいた
ブタゴリラの哀愁に、私も小さく頷く。
「うん。私もそう思うよ・・・・・・」
私は目を閉じて、疑問を口に出した。
「でも、今回のことを振り返ると、一つだけ気に
なることがあるんだ」
「なんだ、気になることって?」
「キテレツは・・・・・・最初からコロ助の行方が分か
っていたんじゃないかな?」
その言葉に、ブタゴリラは目を丸くした。
「はぁ? どういうことだ?」
「考えてみてよ。キテレツは『残した発明品』を
探させるために僕たちにあの手紙を残した」
ブタゴリラは大きく頷く。
「でも、本当の目的は宝じゃなくて、コロ助を見
つけ出すことだったように思えるんだ」
私は静かに推理を続ける。
「だからこそ、宝探しという形にした」
「なるほどな……」
ブタゴリラは腕を組んだまま、私の推理に感心
したように頷く。
「確かに、あいつならそこまで考えてても不思議
じゃねぇ。キテレツは、昔っから一人で抱え込
むクセがあるからな」
「うん。だから私たちには最後まで本当の目的を
話さなかったんだと思う」
二人は顔を見合わせ、小さく笑みを浮かべた。
キテレツらしい、不器用で優しいやり方だった
のだと改めて感じていた。
その時、おかわりのビールが入ったジョッキを
手にしたみよさんが、居間へ戻ってきた。ブタゴ
リラの前にジョッキを置くと、二人の顔を見渡し
て微笑む。
「あらあら。私抜きでキテレツくんのことを話し
合っていたの?」
トンガリくんは小さく頷いた。
「うん。今日集まった情報を整理しながら、僕た
ちなりに推理していたんだ」
「あら、どんなことが分かったの?」
「一番大きいのは、キテレツはコロ助の行方を掴
んでいた可能性が高いってことだよ」
その言葉を聞いたみよさんは、何かを思い出し
たように目を見開いた。
「あっ・・・・・・そういえば」
「何だよ、みよさん!」
ブタゴリラくんが身を乗り出す。
「英光がね、一度だけ『コロ助に会ったことがあ
るような気がする』って、不思議なことを言っ
ていたのよ」
「はあ?エイコウ?」
ブタゴリラくんは首をかしげた。
「なんで、あいつが?エイコウとコロ助と何の接
点があるんだ?」
「僕もブタゴリラと同じ意見だよ」
トンガリくんも困惑した表情で腕を組む。
「英光とコロ助には、僕たちが知る限り接点はな
いはずだよ」
その言葉に、ブタゴリラくんも頷いた。
「第一、あの二人が出会う機会なんて・・・・・・」
私も静かに頷く。
「ええ、その通りよ。だから私たちも、子どもの
頃によくある妄想だと思っていたの」
しかし、当時、キテレツだけは英光の言葉を信
じていたのだと語った。
「えっ? キテレツは信じたの?」
「なんでだよ。なんでキテレツのやつ、信じたん
だ?」
二人が驚きの声を上げると、私は一拍置いてか
ら、静かに口を開いた。
「英光はね、『助けてくれナリ〜!?』と叫んで
いて、そのまま大きな木箱と一緒に、大きな穴
へ吸い込まれていったって言っていたの」
その言葉を聞いた瞬間、ブタゴリラくんもトン
ガリくんも思わず顔を見合わせた。
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【陽春 夕暮れ】
[アールスハイド王国 国境]
「「「プッ!? ハハハハハハハハハッ!!?」」」
僕の言葉を聞いた騎士たちは、一斉に笑い出し
た。
「おい!? 黒いの!? こっちとら忙しいんだ
よ! 死ねや!!」
「おうよ! 英雄ごっこはよそでやれ!!目ん玉
えぐるぞ!!?」
「俺たちは帝国の騎士様だ!! 身分をわきまえ
ろ!! 殺すぞ!!?」
騎士とは思えない下品な罵詈雑言を次々と浴び
せてくる。
そのあまりの品のなさに、僕は呆れてため息を
ついた。
「・・・・・・帝国騎士というのは、チンピラの集まり
だったのか。・・・・・・失望したよ」
騎士たちの眉がぴくりと動く。
「最後にもう一度だけ言う。――その子を」
「上等だぁぁぁぁッ!!」
一人の騎士が怒号を上げると同時に剣を抜き放
ち、一直線に僕へ斬りかかった。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
渾身の一撃が、僕を真っ二つに斬り裂く。
――はずだった。
「・・・・・・は?」
騎士の顔から怒りが消え、驚愕へと変わる。
手応えが・・・・・・ない。
斬ったはずの相手の身体は黒い霧のように揺ら
ぎ、そのまま輪郭が崩れていく。
「な、何だ・・・・・・!?」
騎士は剣を構えたまま、その場で驚愕の表情を
浮かべて固まった。
「き、消えたぁぁぁっ!?」
一人の騎士が悲鳴にも似た声を上げた。
「ど、どこへ行きやがった!? 探せ!!」
騎士たちは慌てて周囲を見渡す。
右を見ても、左を見ても、黒い男の姿はない。
「ま、まさか・・・・・・幻影魔法か!?」
「いや、そんな詠唱は――」
会話の途中で、少年の腕を掴んでいた左側の騎
士のが突然、地面に倒れた。
「え?お、おい!?……!?」
騎士に視線を向けたら、白目をむいて気絶
していた。
「なんだ!?い、一体何が!!」
騎士たちが動揺している中、少年を捕まえてい
たもう一人の騎士も、操る糸が切れた人形のよう
にその場へ崩れ落ち、白目をむいて気絶した。
「なっ!?おい!?」
斬りかかった騎士だけが立ち尽くし、先ほどま
での威勢はなかった。
得体の知れない恐怖だけが、静かに広がってい
く。
「く、くそ!?」
混乱する騎士は目的である少年を捕まえようと
した瞬間、仲間と同じように糸が切れた人形のよ
うにその場へ崩れ落ち、白目をむいて気絶した。
少年は何が起きたのか理解できず、ただ呆然と
立ち尽くしていた。
「――君」
不意に、どこからともなく落ち着いた声が響い
た。
「んっ……?」
口枷をはめられていた少年は慌てて辺りを見回
した。
しかし、そこには気絶した騎士たちしかおらず
声の主の姿は見当たらない。
「ここは危険だ。今のうちに立ち去れ」
「ん、んんっ・・・・・・?」
「・・・・・・まず、口枷を外しなさい」
少年は慌てて口枷を外した。
「プハッ!?ハー・・・・・・ハー・・・・・・」
「質問を受けている時間はない。早く行け」
有無を言わせぬ静かな口調に、少年は息をのみ
小さく頷いた。
「・・・・・・わ、分かりました」
少年は倒れた騎士たちを横目に、その場から駆
け出したが、一度立ち止まって感謝の言葉を言う
「あ、あの、助けていただきありがとうございま
す」
そう言うと、再び駆け出しだ。
その背中を確認すると、姿なき人物は静かに視
線を騎士たちへ向けた。
「さてと、まさかコレをこんなにも早く使うとは
・・・・・・・・・」
僕は懐から黒い筒を取り出した。
「・・・・・・・・・たぶん、大丈夫だろ。最悪でも自分
の名前ぐらいは覚えているはずだ」
不安を抱えながら、この世界で作った『わすれ
ん帽』の試作を使った。
ーto be continuedー
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