【残暑 夜中】
[日本 木手邸]
「そういえば、みよさん。英光は昔、美咲を助け
た時さ、大怪我したよね?」
トンガリくんは、ふと昔あった英光の怪我を思
し、私に尋ねたので、私は静かに頷く。
「ええ・・・・・・それからよ、さっき話したことを言
い出したのは」
「もしかして、その時に前世の記憶が・・・・・・」
ブタゴリラは話についていけず、不思議そうに
首をかしげた。
「トンガリ、つぶつぶと言ってんだよ?」
「“ブツブツと言って”でしょ〜!?」
ブタゴリラくんの言い間違いに呆れつつ、トン
ガリくんは一拍置いて、尋ねた。
「ブタゴリラ、異世界転生って知ってる?」
「ああ? 漫画や小説じゃ定番のアレだろ?」
「そう、事故や大怪我をきっかけに前世の記憶を
取り戻すってヤツ」
トンガリくんは真剣な表情で続けた。
「もし英光が、前世が異世界から転生してきた人
間だとして、あの事故をきっかけに前世の記憶
を思い出したとしたら・・・・・・」
部屋が静まり返る。
「コロ助のことを知っていた理由の説明がつくん
じゃないのかな?」
ブタゴリラくんは、トンガリくんの言いたいこ
とがまだ理解できず、首をかしげた。
「つまり、英光が異世界から転生した時、異空間
トンガリを通って私たちの世界に迷い込んだ。
その途中で、偶然コロ助と鉢合わせていたんじ
ゃないのかな?」
トンガリくんの説明を聞いたブタゴリラくんは
ようやくその推理の意味を理解した。
「それじゃ、キテレツは・・・・・・」
ブタゴリラくんは、驚いた表情で目を見開いた
「うん、そこからコロ助の行方を掴んだんだ」
「ならよ、コロ助は今・・・・・・!?」
「たぶん、異世界に転移したんだ」
ブタゴリラくんは腕を組み、納得できないよう
に首を振る。
「それならよ。キテレツは、すぐにコロ助のとこ
ろに行かなかったんだ?
あいつのことだ、異世界だろうが何だろうが、
コロ助を助けに行くはずだろ?」
トンガリくんは静かに頷いた。
「もちろん、キテレツも助けようとしたと思う。
でも・・・・・・キテレツの力をもってしても、異世
界へ行くことはできなかったんだ」
「あっ?なんでだよ?」
ブタゴリラくんが身を乗り出して問い返す。
私は少し考え込むように目を伏せる。
「コロちゃんがいる異世界の座標が分からなか
った・・・・・・ということかしら?」
トンガリは「その通り」と頷いた。
「航時機は時空間を移動できるけど、行き先の座
標が分からなければ目的地へ行けないはずだ」
私の推理に、ブタゴリラも納得した。
「なるほど。さすがのキテレツでも、場所がわか
らねぇと行けねぇか・・・・・・」
みよさんは腕を組み、しばらく考え込む。
「――異世界転生・・・・・・ふふふっ、そういうこと
だったのね!」
「「えっ!?」」
みよさんは勢いよく立ち上がった。
「キテレツくんは、コロちゃんがいる異世界へ転
生したのよ!」
「ど、どういうことだよ!?」
ブタゴリラが目を丸くする。
みよさんは自信ありげに頷いた。
「キテレツくんの元の実家には、たぶん秘密裏に
造られた巨大な地下研究施設があるのよ!」
「地下研究施設!?」
私とブタゴリラは、みよさんを見つめた。
「ええ。おそらく、そこで時空間の研究を続け、
そして『異世界転生機』を完成させたのよ」
「い、異世界転生機だって!?」
私が思わず叫ぶと、みよさんは力強く頷いた。
「そうよ。キテレツくんは死後、その装置を使っ
てコロちゃんがいる異世界へ向かったのよ!」
あまりにも突飛な推理に、ブタゴリラと私は言
葉を失った。
私たちは目を丸くしたまま顔を見合わせ、しば
らく何も言えなかった。
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【陽春 夜中】
[アールスハイド王国 国境付近の村]
「・・・・・・ギリギリセーフ?」
僕は帝国騎士たちへの記憶改ざんを終え、部屋
に仕掛けておいた『天狗の抜け穴』を使って戻っ
てきた。
「ん? なんだか外が騒がしいな?」
あの男の子が、僕の言ったとおり、ここまで逃
げてきたのか。
「とりあえず、知らんぷりをしないと」
僕は部屋を飛び出し、フロントへと向かい、支
配人さんに声をかけた。
「支配人さん」
「エイアス様」
「えっと、なんだか外が騒がしいみたいだけど
何かあったの?」
支配人さんは言いづらそうな表情を浮かべ、小
さく咳払いをした。
「実は、脱国者が現れまして・・・・・・」
「脱国者?」
「はい。私も遠目から少し見かけただけなのです
が、顔立ちの整った美少年だそうです」
なるほど。ちゃんと逃げ切れたみたいだ。
僕が内心で安堵していると、不意に後ろから聞
き慣れた声が響いた。
「エイアス!」
振り返ると、そこにはメリダばあちゃんが立っ
ていた。
そして、その隣には――。
さっき助けたあの男の子が、不安そうな表情で
メリダばあちゃんの手をぎゅっと握っていた。
「ばあちゃん?その子は?」
「この子が一人で震えとったからねぇ。放ってお
けなくて連れてきたんだよ」
バァちゃんらしいと思い、僕はほっとしたよう
に表情を緩める。
しかし、僕は初対面を装わなければならない。
「えっと・・・・・・その子が例の脱国者なの?」
何も知らないという顔を作りながら尋ねると
支配人さんは小さく頷いた。
「はい。帝国騎士たちに追われ、この村へ逃げ込
んできたようです」
バァちゃんは腕を組み、不思議そうに首をかし
げた。
「エイアス、お前さん妙に落ち着いとるねぇ。
外があれだけ騒ぎになっとるのに、何か知っと
るんじゃないのかい?」
僕はきょとんとした表情を浮かべ、ゆっくり首
を横に振る。
「え? 何も知らないよ。さっきまで部屋で本を
夢中で読んでたから、外が騒がしくなって初め
て気づいたんだよ」
「・・・・・・そうかい?」
勘が鋭いバァちゃんはじっと僕の顔を見つめる
だが、僕は平然と首をかしげ返した。
「それより、その子が帝国騎士に追われてたって
本当なの?」
話題を変えるように尋ねると、支配人さんが静
かに頷いた。
「はい、村の近くで帝国騎士たちの遺体も発見さ
れました」
僕は驚いたように目を見開く。
「て、帝国騎士の遺体!?」
思わず声が裏返った。
「・・・・・・死んでいたの?」
支配人さんは重々しく頷く。
「はい。村外れの街道で数名の帝国騎士が倒れて
いるのを、村人が発見しました」
僕は息をのむ。
「そんな・・・・・・。それで死因は?」
支配人さんは難しい顔で首を横に振る。
「それが不可解なのです。外傷らしい外傷はほと
んどなく、争った形跡も少ない。
ただ、全員が突然命を落としたような状態だっ
たと聞いております」
僕は思わず眉をひそめた。
「・・・・・・そんなことが」
僕は心の中で混乱した。
あの場では、僕は帝国騎士たちを気絶させ、記
憶を改ざんしただけだ。
命を奪うようなことはしていない。
「(・・・・・・じゃあ、一体誰が帝国騎士を殺したん
だ・・・・・・?)」
「エイアス?どうしたんだい?」
「あ、そ、そんなことがあったんなら、王国も
大変だなって思ったんだ」
バァちゃんは、険しい表情でゆっくりと頷いた
「そうだねぇ。帝国は、この一件を戦争の口実に
使うかもしれないよ」
重苦しい空気が辺りを包む。
「騎士が何人も殺されたとなれば、帝国も黙っち
ゃいない。
真実がどうであれ、『王国が帝国騎士を殺した』
と決めつけて攻め込んでくる可能性は十分ある
さね」
バァちゃんは、隣で震えている男の子へ優しく
視線を向けた。
「それよりも、今はこの子をどう守るかが先決だ
よ」
男の子はびくりと肩を震わせ、不安そうにバァ
ちゃんを見上げる。
「帝国は、一度狙った相手を簡単には諦めない。
もしこの子が生きていると知られれば、また
追っ手が来るだろうねぇ・・・・・・」
バァちゃんは男の子の肩にそっと手を置き、安
心させるように微笑んだ。
「安心しな。この村にいる間は、あたしたちが守
ってやるよ。
だから今は、ゆっくり身体を休めるんだよ」
その言葉に男の子は目に涙を浮かべながら
小さく頷いた。
僕はそんな様子を見つめながら、胸の奥に残る
疑問を拭えずにいた。
「(・・・・・・それにしても帝国騎士を殺した目的は・・・・・・?)」
僕は胸の奥に残る疑問を押し込み、バァちゃん
へ視線を向けた。
「・・・・・・ところで、明日はどうするの?」
バァちゃんは男の子の頭を優しく撫でながら答
える。
「そうさねぇ。まずは、この子の身の安全を考え
なきゃならないけど・・・・・・」
少し考え込んだあと、僕は気になっていたこと
を口にした。
「予定通り、じいちゃんの家に行くの?」
メリダばあちゃんはゆっくり頷く。
「そうだね、この子をしばらく匿うにはあの家が
うってつけだ。マーリンも戦い以外は頼りない
けど、何かと役に立つよ」
僕はバァちゃんの辛辣な言葉に、苦笑いする。
ーto be continuedー
次回 シン=ウォルフォード