【陽春 夕暮れ】
[ブルースフィア帝国 帝都]
「ほぉ〜、これが帝都か」
俺は頭の中で響く命令に従い、ここまでやって
来た。
あのわけのわからない謎の施設を出てから数日
――当てもなく歩き続けた。
気がつけばブルースフィア帝国・帝都の正門の
前に立っていた。
「・・・・・・しかし、本当に着くとは」
不思議と道に迷うことはなかった。
まるで地図が頭の中に刻み込まれているかのよ
うに、知らない土地であるはずなのに・・・・・・・・・
なぜか、絶対的な土地勘がある。
「俺は・・・・・・何者なんだ?」
考えれば考えるほど、自分という存在がわから
なくなる。
だが今は、自分探しより任務が先だ。
「それにしても、この命令の難易度が高すぎだろ
・・・・・・」
頭の中の情報だと、世界最悪にして最低と恐れ
られるブルースフィア帝国。
その皇帝の息子になりすませ――などという無
茶な命令を、いったい誰が思いつくんだ。
「メチャ、ムリゲーすぎるって・・・・・・」
その瞬間、頭の奥で機械的な声が響いた。
『催眠魔法を使用してください』
「えっ?催眠魔法?」
『対象と視線を合わせ、魔力を流し込むことで認
識を書き換えます。
成功率九九・九八%。推奨対象――門番』
「・・・・・・すげえな。こんな丁寧な説明までしてく
れるのか」
半信半疑のまま、俺は門番へ歩み寄った。
「どうも。これが通行許可証です」
そう言って、その辺で拾った木の板を差し出し
同時に門番と目を合わせる。
すると――。
「うむ。本物だな。よし、通れ!」
「あ、は、はい」
思わず門をくぐってから振り返る。
「・・・・・・マジか」
本当にただの木の板を、本物の通行許可証だと
認識させた。
「チートすぎるだろ、この能力・・・・・・!」
俺は思わず笑みを浮かべた。
「よし。このまま任務をやり遂げるぞ」
帝都へと足を踏み入れた俺は、この国の絶対的
な権力を象徴する巨大な城へ向かって、足早に歩
き出した。
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【??????】
【ブルースフィア帝国 活火山】
「ブルー、この施設の情報はこれで全部か?」
「あぁ、ほぼ把握したと思う。ブラック」
黒い人形・・・・・・ブラックが取り乱していた俺た
ちを一喝してから数日――。
俺たちは自分たちが取り残された施設内を徹底
的に調査した。
現在は会議室に集まり、得られた情報の整理と
今後の方針を話し合っていた。
進行役のブルーは、ぼんやりしているレッドに
声をかける。
「おい、レッド」
「・・・・・・・・・・・・」
「レッド!」
「あ、オレか」
「ったく、いい加減慣れろ」
ブルーが呆れると、レッドは後頭部をかきなが
ら苦笑した。
「すまん。どうも呼ばれた気がしなくて」
「見苦しい言い訳するな」
「だってよ、まるで遊園地の着ぐるみバイトの呼
ばれ方みたいじゃねぇか」
「まぁ、それは否定できんな」
施設を調査している途中、誰かが「呼び名がな
いと不便だ」と言い出した。
そこで身体の色で区別することに決め、以下の
名称にした。
赤い人形をレッド。
青い人形をブルー。
黄色の人形をイエロー。
緑の人形をグリーン。
桃色の人形をピンク。
橙色の人形をオレンジ。
純白の人形をホワイト。
そして、漆黒の人形をブラックと――。
互いをコードネームで呼び合うことになったが
まだ誰も慣れていない者が多数だ。
そんなレッドを見ていたブラックが、小さくた
め息をつく。
「仕方あるまい」
「ブラック・・・・・・・・・」
「我らは、もはや人間ではないのだからな」
その言葉に、誰も反論できなかった。
この場にいる全員が覚えている最後の記憶は、
瀕死の状態で死を待つだけだったこと。
そして目覚めた時には、この人形の身体となり
地下深くの施設に眠っていた。
ブラックは静かにレッドへ問いかける。
「レッド。すべてが嫌になったのか?」
「・・・・・・嫌か、というか、うーん。つーかよ、先
が見えねぇんだ。何も想像できねぇ」
「想像できない?」
「みんな口には出さないけどさ・・・・・・分かってる
んだろ? 今のオレたちが何なのか」
その言葉に、オレたちは誰も口を開かなかった。
「捨てられた、おもちゃだろ。今のオレたちは
・・・・・・」
「・・・・・・おもちゃ、か」
重苦しい沈黙が流れる。
日常生活に支障はない。
しかし全員の記憶は曖昧だった。
自分が何者で、どう生きてきたのか思い出せな
い。
まるで子どもに飽きられ、捨てられたおもちゃ
――ガラクタのようだった。
沈黙する仲間たちへ、ブラックが力強く言い放
つ。
「違うぞ、みんな! それだけは違う!!」
「・・・・・・何が・・・・・・何が違うっていうんだよ!!
ブラック!!!!」
レッドが溜まりに溜まった鬱憤を爆発させた。
ブラックは真っ直ぐ見据え、言い返した。
「我々は身体を失っても、心までは失っておらぬ」 「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
「心がある以上、我々は生きている」
レッドは静かに問い返した。
「・・・・・・生きている?なぜ、そう言い切れる?」
ブラックは迷いなく答える。
「生きるとは、選択することだ 」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
「選択できるということは、心がなければ成り立
たん」
その言葉を聞き、人形たちの表情から迷いが少
しずつ消えていく。
ブルーが口を開いた。
「ブラック、それならば、これからどうする?」
「ともかく情報だ、ブルー」
「情報?」
「そうだ。外の情報だ」
「つまり、今の世界を知るということか」
ブラックは静かにうなずき、全員を見渡した。
「今、我々がやるべきことは現状を知ることだ。
それが最優先だ」
「現状を知る・・・・・・」
「そして、そのうえで我々が何をすべきかを見極
めればいい」
ブラックの言葉に、誰も異論はなかった。
こうして人形たちは、外の世界へ向かうことを
決意するのだった。
ーto be continuedー
次回 家族の団らん