導師の孫〜魔巧師エイアスの冒険〜   作:rOOd

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家族が揃いました 中編

       【残暑 夜中】

     [日本 都内総合病院]

 

「あなたは・・・・・・あの時の大天狗さま!?」

「久しいのう、あの時は迷惑をかけた」

 

 みよさんの言葉を聞いた俺とトンガリは、顔を

見合わせると同時に叫んだ。

 

「あ、あいつって・・・・・・昔、俺たちを食おうとし

 た天狗か!?」

「ま、間違いないよ、ブタゴリラ!?あの時の化

 け物だ!!」

 

 すると、大天狗がギロリとこちらを睨みつけた

 

「悪童だった貴様らが、儂の封印を解いた元凶で

 あろうが!」

「「ひいっ!!?」」

 

 俺たちは反射的に抱きつき合い、ガタガタと震

え上がった。

 

「っと、こんなことをしてる場合ではない」

 

 天狗様は英光へ視線を戻すと、神妙な面持ちで

小さくため息をついた。

 

「あれを元に戻すには、これを使えと言われたが

 ・・・・・・・・・」

 

 天狗様はそう言って、手に握られた紫色の丸薬

のようなものを見つめる。

 

「それは?」

「・・・・・・正直、わしにも正体までは分からぬ」

 

 天狗様は曖昧な返事をした。

 みよさんは苦しげにうなずき、禍々しいオーラ

に包まれた英光へ視線を向けた。  

 

「今の英光は、恐ろしい怨念をまとっています。

 あんな状態で、それが本当に効くのでしょうか

 ・・・・・・」

 

 破壊させた廊下には重苦しい沈黙が流れる。 

 天狗様は紫色の丸薬を見つめたまま、小さく息

を吐いた。

 

「それも分からぬ。じゃが、英光が変貌した時は

 これを口に入れて止めてほしい――そう英一か

 ら託されたのじゃ」

 

 その言葉を聞いたみよさんは、静かに前へ踏み

出した。

 

「・・・・・・・・・分かりました。天狗様、お願いがあ

 ります」

「何じゃ?」

「私があの子を抑え込みますので、天狗様はあの

 子の口にその丸薬を放り込んで下さい」

 

 その決死の申し出に、ブタゴリラは目を見開い

た。

 

「なっ・・・・・・何を言ってるんだ、みよさん!? 

 あんな化け物みてぇになった英光を、一人で押

 さえ込むつもりか!」

 

 トンガリも顔面を青ざめさせ、慌てて首を振る

 

「む、無茶だ!さっきの攻撃を見たでしょう

 !? 近づくだけでも命が危ないよ!」

 

 しかし、みよさんは二人の制止にも耳を貸さず

暴走する英光をまっすぐ見つめていた。

 

「それでも・・・・・・私は、あの子のお婆ちゃんなの

 あの子がどんな姿になろうと、最後まで傍にい

 てあげたいのよ」

 

 みよさんは迷うことなく、暴走する英光へ駆け

出した。

 

「「みよさん!?」」

 

 英光はみよさんを攻撃しようと、右手を前へ突

き出す。

 

「させるか! 縛!!」

 

 だが、その瞬間、天狗様の神通力が英光の動き

を封じた。

 

「ぐああああああぁ〜〜!?」

「英光!」

 

 みよさんはその身体を力いっぱい抱き締める。

 

「あああああああああぁぁぁ〜〜〜!!」

「英光っ!お婆さんが絶対に離さないからね!」

 

 禍々しいオーラが激しく荒れ狂い、みよさんの

身体を容赦なく打ち据えた。

 それでもみよさんは歯を食いしばり、決して英

光を離さない。

 英光はオーラを増幅させようと、雄たけびを上

げた。

 

「あああああああぁぁ〜〜ー!!!」

「今じゃ!」

 

 天狗様は一瞬の隙を逃さず英光のもとへ飛び込

み、紫色の丸薬を英光の口へ放り込んだ。 

 みよさんに抱き締められたまま、暴走する英光

の体が激しく震える。

 

 次の瞬間――

 

「ぐあああああああぁぁぁっ!!」

 

 英光は大きくのけぞり、口の中から禍々しい紫

色の煙を勢いよく噴き出した。

 煙は天井へ向かって渦を巻きながら膨れ上がり

やがて巨大な亡霊のような姿へと変貌する。

 

「な、なんだ、あれは!?」

 

 ブタゴリラが思わず叫び、トンガリも青ざめた

 

「まさか・・・・・・英光の中に潜んでおった怨念の本

 体!?」

 

 天狗様が鋭く目を見開いた、その瞬間だった。

 巨大な紫の亡霊はギョロリと赤黒い瞳を天狗様

へ向けると、不気味な咆哮を響かせる。

 

『グォォォォォォォォッ!!』

「来るぞ!」

 

 亡霊は巨大な腕を振り上げ、一直線に天狗様へ

襲いかかった。

 

 しかし、天狗様は微動だにしない。

 

「──神通力・縛鎖!」

 

 天狗様が印を結んだ瞬間、黄金に輝く無数の霊

鎖が虚空から飛び出した。

 

 ジャラァァァァンッ!!

 

 鎖は蛇のようにうねりながら紫の亡霊へ絡みつ

き、両腕、胴体、首、脚を一瞬で拘束する。

 

『グ、グォォォォォォッ!?』

 

 亡霊は暴れ狂い、凄まじい力で鎖を引きちぎろ

うとする。

 だが、一本切れた瞬間、新たな鎖が次々と生み

出され、さらに強く締め上げていく。

 

「この程度の怨念で、わしの神通力は破れぬ!」

 

 天狗様は翼を大きく広げ、錫杖を高く掲げた。

 

「穢れし魂よ・・・・・・あるべき姿へ還れ!」 

 

 錫杖の先端から眩い金色の神光が降り注ぎ、亡

霊の全身を包み込む。

 

 ジュウゥゥゥゥッ!!

 

 紫色の瘴気が煙のように立ち昇り、亡霊の身体

から禍々しい怨念が次々と浄化されていく。

 

『ガァァァァァァァァァァッ!!』

 

 断末魔の咆哮が病院中に響き渡る。

 やがて赤黒かった瞳から憎悪の色が消え、紫の

巨体はゆっくりと崩れ始めた。

 

「・・・・・・成仏するのじゃ」

 

 天狗様が静かに告げると、黄金の光はさらに強

さを増し、亡霊を包み込む。

 禍々しい紫の怨念は浄化され、無数の光の粒と

なって夜空へ舞い上がっていった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

      【陽春 夕方】

 

   [アールスハイド王国 シンの家]

 

「それでは、エイアスとメリダ、そして新しい

 家族・ステラが我が家に帰ってきたことを祝

 して――乾杯!」

「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 

 ジィちゃんの音頭に合わせ、僕たちは隣の人と

グラスを軽く合わせた。

 

「お〜、久しぶりのバァちゃんの料理だ!」

「たくさん食べな、シン」

「うん、いただきます!」

 

 シンは嬉しそうにバァちゃんの料理を食べ始め

た。

 一方、ステラはグラスを両手で大事そうに持っ

たまま、少し緊張した様子でモジモジしていた。

 

「ステラも、たくさん食べな」

「はい、メリダ様」

 

 バァちゃんは優しく微笑みながら、ステラの頬

をそっと撫でる。

 

「違うよ。アンタは今日から私の孫娘なんだ。だ

 から――『メリダ様』じゃない。」

「・・・・・・・・・・・・」

「『お婆ちゃん』って呼んでおくれ」

「はい、お婆さま」

 

 僕は、ステラの今後について尋ねた。 

 

「バァちゃん、ステラをうちの養子にするの?」

「そのつもりだけど、ステラを家族に迎え入れる

 のは反対なのかい・・・・・・・・・エイアス?」

「いや、反対しないよ。でもさ、僕はね、ステラ

 の今後を考えると、カーチェさんの養子にした

 方がいいと思うんだ」

 

 バァちゃんは不思議そうな表情を浮かべ、聞き

返した。

 

「それはどうしてだい?」

「・・・・・・あの帝国のことを考えると、バァちゃん

 の地位や名声だけじゃ、ステラを守り切れない

 かもしれない」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

「それに、ステラが帝国の穏健派の生き残りなら

 あの皇帝があきらめるとは思えない」

「確かにね、あのクズは強欲だ」

「でも、カーチェさんの養子になれば、帝国でも

 迂闊には手を出せないはずだよ」

 

 バァちゃんは顎に指を当て、しばらく考え込ん

だ。

 

「エイアスの言う通りかもしれないね。ステラは

 カーチェに任せた方がいい」

 

 僕とバァちゃんが頷くと、シンが不思議そうに

尋ねた。

 

「バァちゃん、カーチェさんって誰?」

 

 バァちゃんは「しまった」というような表情を

浮かべる。

 その様子を見た僕は、代わりに説明した。

 

「バァちゃんとジィちゃんの弟子の一人だよ」

「バァちゃんたちの・・・・・・弟子?」

 

 僕は頷き、そのまま話を続ける。

 

「若い頃のバァちゃんとジィちゃんは、ある事情

 があって世界中を旅していたんだ。

 その旅の途中で、何人もの人が二人に弟子入り

 したんだ。

 その中の一人が、カーチェさんなんだ」

 

 シンは「ふ~ん」と軽く頷いた。

 

 僕は話を締めくくるように、ステラの今後を告

げる。

 

「ともかく、ステラをカーチェさんの養子にする

 ことは決定だよ」

 

 僕の説明を聞き終えたジィちゃんは、長い髭を

撫でながら静かにうなずいた。 

 

「うむ。エイアスの考えに賛成じゃ。ステラの身

 を守るには、それが最善じゃろう」

 

 ミッシェルおじさんも腕を組み、納得したよう

に口を開く。

 

「私も同感です。その方が安心でしょう」

 

 すると、トムおじさんも穏やかにうなずいた。

 

「そうですね。あの方にお任せするのが一番でし

 ょう」

 

 チラッとバァちゃんを横目で視線を向けながら

懐かしむように語る。

 

「それに、エカテリーナさんはメリダ殿には逆ら

 うなんて、そんな恐ろしいことをしないでしょ

 うし」

 

 トムおじさんの最後の言葉で、シンとバァちゃ

ん以外は静かに頷いた。

 

「なんだか、最後はトゲのあるセリフだね」

「まあまあバァちゃん。落ち着いて、どうどう」

「エイアス、何度言うが、私は馬かい!!」

 

 メリダの勢いあるツッコミに、その場は思わず

笑いに包まれた。

 ひとしきり笑いが落ち着くと、シンがふと真面

目な表情になって口を開く。

 

「そういえばさ、エイジ」

「ん?」

「さっき話に出てきたカーチェさんって、どんな

 人なの?」

 

 その質問に、僕とバァちゃんは顔を見合わせた

 

「それに、どうしてその人の養子になれ

 ば、帝国はステラを襲いにくくなるの?」

  

 シンの質問に、僕が答えた。

 

「・・・・・・シン、カーチェさん・・・・・・・・・いや、

 エカテリーナ=フォン=プロイセンは、この世

 界唯一の宗教『創神教』の頂点に立つ人物であ

 り、イース神聖国の教皇を務める女性なんだ」

 

 その言葉を聞いたシンは、目を見開いて息をの

んだ。

 

「きょ、教皇っ!?」

「ああ」

「教皇って、確か、宗教では一番偉い人のことで

 しょ!?」

「そうだよ。だから帝国も迂闊な真似はできない

 もしも、教皇にまで敵対すれば、帝国は世界の

 敵と見なされ、各国が手を組んで討たれること

 になる」

 

 シンはゴクリと唾を飲み込み、青ざめた表情で

小さく頷いた。

 

「エイジ、納得したよ」

「そりゃ、良かった」

 

 シンはステラをチラッと見て、バァちゃんに質

問した。

 

「そういえばさ、バァちゃん。ステラって何歳な

 の?」

「ん? そういや聞いてなかったね」

 

 バァちゃんはステラへ視線を向けた。

 

「ステラ、アンタはいくつだい?」

「え? あっ、五歳です」

 

 その答えを聞いたシンは目を丸くした。

 

「えっ!? 同い年?」

「・・・・・・何か?」

「あっ、いや・・・・・・男の子にしては背が小さいか

 ら、年下だと思ってた」

 

 シンに悪気はなかった。

 だが、その何気ない一言は、ステラの胸に深く

突き刺さった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしは女です」

「えっ?」

「・・・・・・・・・・・・この髪型も、この服装も・・・・・・

 逃亡生活で動きやすくするためです」

 

 シンは目を見開き、固まった。

 

「えっと、・・・・・・・・・・・・ご、ごめん」

 

 自分がとんでもない勘違いをしていたことに気

づき、シンは気まずそうに頬をかいた。 

 

「いいさ。これからは女に磨きをかければいい」

 

 バァちゃんはステラの頭を優しく撫で、穏やか

に微笑む。

 

「エカテリーナは懐が深く、慈愛にあふれた女だ

 からね。アンタも、あの子のそばにいれば、き

 っと少しずつ自分らしい女の子になっていける

 さ、ステラ」

「はい、お婆さま」

 

 ステラは満面の笑みを浮かべ、バァちゃんに抱

きついた。

 

ーto be continuedー

 

 




次回 従兄弟協闘
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