導師の孫〜魔巧師エイアスの冒険〜   作:rOOd

16 / 17




家族が揃いました 後編

       【残暑 夜中】   

    [日本 都内総合病院]

 

「「みよさん!!?」」

 

 俺たちは、英光と一緒に倒れているみよさんの

もとへ駆け寄った。

 

「ハァ4・・・・・・ハァ・・・・・・」

「みよさん!! しっかりしてください!!」

 

 トンガリがみよさんを抱きかかえ、必死に呼び

かける。しかし、返事はない。

 

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

「ひでえ・・・・・・! す、すぐに治療を!!」

 

 化け物と化した英光を必死に抱き締め続けた代

償だった。

 みよさんの全身には、まるで身体の内側から亀

裂が走ったかのような無数の傷が刻まれていた。

 俺たちが取り乱して叫んでいると、天狗様が静

かな、それでいて威厳のある声で告げた。

 

「落ち着け、お主ら」

「て、天狗様!?」

「お、落ち着いてられるかよ!! み、みよさん

 が・・・・・・みよさんが・・・・・・!!!」

「だから落ち着け・・・・・・フン!!」

 

 天狗様は素早く印を結ぶと、みよさんへ温かな

光を放った。

 

「うおっ、みよさんの傷が・・・・・・!」

「すごい、どんどんふさがっていく!」

 

 数分後――。

 全身に刻まれていた大きな傷はほとんど癒え

みよさんは苦しそうに息をつきながらも、ゆっく

りと上半身を起こした。

 

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハ・・・・・・」

「みよさん!」

 

 トンガリは涙を浮かべた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 俺も汗を滝のように流しながら、みよさんを見

つめる。

 呼吸が整ってきたみよさんは、こう呟いた。

 

「英光は・・・・・・英光は無事なの・・・・・・?」

 

 みよさんの言葉に、俺たちはすぐさま英光へと

視線を向けた。

 

「英光!!」

 

 俺は英光に駆け寄り、必死に呼びかける。

 

「おい、英光!」

 

 トンガリも駆け寄り、英光の肩を揺さぶった。

 

 しかし、英光は目を覚まさない。

 その様子を見守っていた天狗様が、静かに口を

開いた。

 

「安心せい。英光は気を失っておるだけじゃ」

「ほ、本当か!?」

「よ、良かった〜〜!!?」

 

 その言葉に、俺たちは胸をなで下ろした。

 だが、天狗様はすぐに表情を引き締める。

 

「・・・・・・ただし、このまま病院に居させるわけに

 はいかぬ」

 

 天狗様は懐から黒い玉を取り出した。

 

「しばらくの間、英光は人目の届かない場所へ隠

 すぞ」

 

 黒い玉は静かに光を放ちながら宙へと浮かび上

がり、英光の胸元へ吸い寄せられるように近づく

と、たちまち全身を黒い靄で包み込んだ。

 そして、英光は煙が風に吹き消されるように

俺たちの目の前から姿を消した。

 

「儂も姿を消す。あとのことは頼むぞ」

 

 俺たちにそう言い残すと、天狗の姿も音もなく

消え去った。

 

「い、いや・・・・・・ま、任せるって・・・・・・」

 

 俺たちが呆然とつぶやいたその時、遠くからパ

トカーのサイレンが近づいてくるのに気づいた。

 

「こ、この状態をどう説明すればいいのさ!?」

 

 トンガリは周囲を見渡すと、盛大なため息をつ

いた。

 ICUの壁は粉々に砕け散り、医療機器も原形

をとどめていない。

 まさに、テロの現場を思わせる惨状だった。

 俺たちは、その光景を前に思わず頭を抱えた。

          

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

〜夜明け〜

 

 事件直後、病院の外では消防や警察が慌ただし

く対応に追われていた。

 事情聴取では、私たちもさまざまな質問を受け

たが、真実を話せるはずもなく、曖昧にごまかす

しかなかった。   

 

 警察も今回の異常事態を理解できずにいた。

 結局は私たちの証言をもとに捜査を進めるしか

なかったようだ。

 事情聴取を終えた私と尖さん、熊田さん、そし

て春奈さんは、今後の対応を話し合うため、木手

家の応接室へ集まった。

 その際、天狗様も姿を見せ、応接室のソファに

全員が腰を下ろした。

 

「大天狗様、この度は誠にありがとうございまし

 た」

 

 私は、大天狗様に英光の暴走を止めていただい

たことへの感謝を伝えた。

 

 ブタゴリラくんは、やや気まずそうに頭を掻い

たあと、深々と頭を下げた。

 

「ええと・・・・・・・・・・・・俺たちも子供の頃、いろい

 ろとご迷惑をおかけしてしまいました。

 心よりお詫び申し上げます」

 

 それに続いて、トンガリくんも静かに頭を下げ

る。

 

「私も、当時は失礼な態度を取ってしまいました

 本当に申し訳ございませんでした」

 

 春奈さんだけは放心状態でただ座っていた。

 

 天狗様は四人を見つめ、小さく頷いた。

 

「うむ。昔のことはもうよい。それよりも問題は

 ・・・・・・・・・英光じゃ」

 

 天狗様の表情は再び険しくなる。

 

「今回は何とかキテレツの発明で暴走を抑え込む

 ことができた・・・・・・。 

 じゃが、次に暴走すれば・・・・・・・・・その時は儂

 でも止めることはできぬ」

 

 その重い言葉に、部屋は静まり返った。

 

「実は、英光の暴走については以前からキテレツ

 に頼まれておったのじゃ」

 

 その場にいた全員が息をのんだ。

 

「じゃが、まさかこれほど早く暴走が起こるとは

 儂も予想しておらなんだ」

 

 不安そうな表情を浮かべたブタゴリラくんが、

恐る恐る口を開く。

 

「なあ、英光はこれからどうなるんだ?」

 

 一度言葉を切ると、苦しそうに唾を飲み込んだ

 

「あの姿・・・・・・・・・あれじゃ、まるで化け物だった

 じゃねぇか!!?」

 

 天狗様はブタゴリラくんの言葉に静かに頷いた

 

「うむ。悪童の言う通りじゃ」

「悪童・・・・・・・・・?」

「あやつ――英光は、前世において深い絶望の果

 てに、化け物へと堕ちたのじゃ」

「「「「ッ!?」」」」

「そして最後は、唯一の親友の手によって、その

 命を絶たれた」

 

 天狗様から語られた言葉に、俺たちは言葉を失

った。   

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

     【陽春 夜中】

 

   [アールスハイド王国 シンの家]

 

「さて、これから家族会議を始めるぞ」

 

 子どもたちが寝静まった後、私たちは帝国の対

策を話し合うことにした。

 

「ステラの今後は、エイアスの言う通りにした方

 がよいのう」

「確かにね。ステラを守るためには、エカテリー

 ナの養子にするしかないよ」

「そうですな、メリダ殿。帝国の騎士たちも謎の

 死を遂げています・・・・・・。これまで以上に警戒

 を強めなければなりません」

 

 ミッシェルの懸念に、その場の全員が重々しく

頷き。

 

「まずは彼女の体力をここで回復させましょう。

 そして、イースまで送り届ける役目は、私と

 ミッシェル殿が適任だと思います」

「トム、アンタが行くのかい?」

「ここから先は、メリダ殿が行動すると、目立ち

 すぎるし、それに・・・・・・・・・」

 

 私の問いに、トムは静かに答えた。

 

「護衛はミッシェル殿、交渉は私。それぞれの役

 割を担うのが最善です。でなければ、無事にイ

 ースへたどり着くことはできません」

 

 トムの考えに、その場の全員が納得したように

頷いた。

 

「そうじゃの。その方がよい」

「確かにね」

「その通りですな。ステラは帝国からの脱国者。

 王国で亡命手続きを進めている最中に、帝国の

 魔の手が及ぶ可能性もありますからな」

 

 ミッシェルの言葉に、私たちは頷いた。

 

「うむ、ステラの件はそれでよい。しかし、なぜ

 帝国の騎士たちは殺させたのじゃ?」

 

  マーリンの言葉を受け、ミッシェルが推測を

口にした。

 

「おそらく、レジスタンスの仕業ではないでしょ

 うか」

「ん? ミッシェル。そのレジスタンスとは何だ

 い?」

 

 聞き慣れない言葉に、私は首を傾げて尋ねた。

 

「私も風の噂で耳にした程度ですが、最近、帝国

 から逃れた者たちが結束し、帝国への反乱を企

 てている組織があるそうです」

「ああ、それなら私も聞いたことがありますよ。

 帝国国境周辺の国々に拠点を築き、活動してい

 るとか」 

 

 少し考え込んだあと、私が口を開いた。

 

「だったら、そのレジスタンスと協力するのはど

 うだい? ステラを守る力にもなるんじゃない

 かい?」

 

 しかし、マーリンは静かに首を横へ振った。

 

「いや、やめておいたほうがよいじゃろう」

「どうしてだい、マーリン?」

「それは、悪手となる・・・・・・」

 

 レジスタンスに悪意がなくとも、ステラの素性

を知れば、あの娘を反帝国の象徴として担ぎ上げ

る可能性が高い。

 帝国の元皇女が自分たちの側にいるとなれば

兵を集めるにはこれ以上ない旗印になると。

 

「つまり、あの娘は傀儡にさせるのじゃ」

「・・・・・・なるほどね、アンタの言う通りだよ」

「そうなれば、ステラは一人の少女として生きら

 れなくなる」

 

 天井を見上げて、こう断言した

 

「あの娘は、ただ利用され続けるだけじゃ。

 ・・・・・・・・・それだけは絶対避けねばならぬ」

 

 マーリンの言葉に、私たちは静かに頷いた。

 

「つまり、ヤツラにもステラのことを知られては

 ならないと言いたいんだね?」

「まあのう、それに・・・・・・・・・」

 

 私が尋ねると、マーリンは髭を触りながら目を

閉じた。

 

「最近の帝国は、おかしいからのう」

「おかしい・・・・・・?」

「この家の周辺にも、帝国から来たと思われる魔

 物を見かけることがある」

 

 その言葉に、私たちは顔を見合わせた。

 

「まるで、帝国から逃げ出してきたようじゃ」

「帝国から・・・・・・逃げ出してきた?」

 

 私は信じられないという表情で聞き返す。

 すると、ミッシェルが何かを思い出したように

口を開く。

 

「そういえば、最近の帝国では地震が頻発してい

 るという話を耳にしました」

「地震?」

「はい。それだけではありません。地震が頻発し

 ている各地では、魔物が住処を捨てて移動して

 いるという噂もあります」

 

 トムも続けた。

 

「私も王国のハンター協会で、王国内の魔物がだ

 んだん増えていると愚痴をこぼされました」

「何だって!?」

「初めは気のせいだと、その異変に気づいた人た

 ちは笑われていたらしいのですが、マスターた

 ちが寄り合いで一度調査することを決定し、実

 際に確認したところ・・・・・・」

 

 私が喉を鳴らし、聞き返した。

 

「本当だったと?」

「はい、例年よりも一割ずつ増えていると」

 

 トムの言葉に、その場にいた全員が押し黙る。

 

「・・・・・・帝国全土で、何かが起きているというわ

 けか」

 マーリンが重々しく呟くと、誰もが言葉を失い

無意識のうちに天井を見上げた。

 

ーto be continuedー

 

 




従兄弟対決
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。