ぜってーありえない手持ちの観光客が行くミアレシティ観光 作:ダルマ
小気味いい走行音がもたらすリラックス効果に誘われ、気付けば深い眠りへと落ちていた様だ。
まだ夢の世界に旅立っていたいが、そろそろ意識を覚醒させなければ乗り過ごしてしまう。
「ふぁ~」
俺は少々後ろ髪を引かれつつも何とか意識を覚醒させると、大きなあくびと共に閉じていた瞼を開く。
「はは、大きなあくびだな」
「……ん?」
刹那、対面座席に座る少年が俺に声をかけてくる。
薄橙色の肌にミディアムショートの黒髪、そしてアッシュブラウンの瞳を持つ少年。
おかしいな、俺の知り合いにこんな見た目の少年はいない筈、その筈なのに……。
「あのな、こっちは誰かさんに引きずり回されて毎日寝不足なんだよ、キョウヤ」
「あー、あはは……ごめん」
何故か俺は、この少年の名前を知っている。
それどころか、この少年と共に過ごした学生時代の記憶、更には見ず知らずの筈の両親や友人達、そして──
「っと、見えてきたぞ"アルト"。あれが目的地のミアレシティ、そしてあれがシンボルのプリズムタワーか……」
「っ!?」
自分の名前ではない筈の自分の名前に、不思議な生き物が生息しているこの世界の事。存在しない記憶の数々が鮮明に蘇る。
だが同時に、俺には目覚める前の記憶……所謂前世の、サラリーマンとして過ごしていた頃の記憶も存在していた。
「ミアレシティ、一体どんな所だろう、楽しみだな!」
「あ、あぁ……」
自身のスマホロトムで情報収集を行うキョウヤの言葉に適当に相槌を打ちつつ、俺は今の状況を整理始める。
俺の記憶、というよりもこの
ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星に生息する不思議な生き物で、空に、海に、森に、街に、様々な場所でその姿を見る事ができる。
そんな有名なフレーズでもお馴染み、誰もがその名を聞いた事はあろうゲームソフトシリーズとメディアミックス作品群、それがポケモン。
確か今では、発見された種の数が千種類を超えているんだっけか……。
作品毎に世界中の様々な地域、所謂地方と呼ばれている場所が舞台となっており、その中に今電車に揺られ向かっているミアレシティと呼ばれる街が舞台となる作品が存在している。
それが、ポケモンレジェンズ Z-Aと呼ばれるゲーム作品だ。
ここまで聞くと、何だゲームで描かれた物語の行く末知ってるんだから勝ったな、風呂入ってくる。と思うだろうが、実際はそうは問屋が卸さない。
実を言うと、Z-Aをプレイこそしているが、肝心の進行具合に関してはまだメインストーリーも序盤。具体的に言えば初のランクアップ戦に勝利した所までしか進んでいない。
本当なら明日の休日を使って進めていくつもりだったが、今となってはそれももう叶わない。
「ままならないものだな……」
「ん、何か言ったか?」
「気にするな、独り言だ」
しかし、転生ってやつはもっと劇的なものかと思ってたが……帰宅電車で居眠りしたら転生したとか、随分とあっさりだし唐突だな。
一体誰の仕業……多分、アルセウスかゴルゴムの仕業だろう。この世の不条理は大体どちらかの仕業だって言うし、そういうことにしておこう。
あ、唐突と言えば、俺の目の前で相変わらずスマホロトムをいじってるキョウヤもそうだ。
共に三年間を過ごした学校を卒業した矢先、唐突に「旅行に行こう!」と言い出し、その二日後には強引に同行させられ飛行機に乗る羽目になった。
それから各地方の観光名所などを巡り、現在、次なる目的地のミアレシティを目指しているという訳だ。
キョウヤのフットワークの軽さは彼の長所だが、連れ回されるこちらとしては少しだけ自重してほしいと思う。
これまで巡った場所は何れも、野生のポケモンと人間の生活圏との境界線がしっかりと整備されていた。
所が、今から向かうミアレシティは、都市再開発の一環で人間の生活圏内に野生ポケモンの生息域が存在している。
一応安全であると謳ってはいるが、世の中に絶対はない。故に、身を守るための力、具体的には手持ちのポケモンが必要不可欠。
だというのに、キョウヤは手持ちのポケモンを一匹も持っていない。曰く、俺が持ってるから大丈夫、だそうだ。
俺がいない時はどうするんだと小一時間問い詰めたいが、どうせ問い詰めた所で詮無いことだろう。
あぁ、上記の説明にもあった通り、俺は手持ちのポケモンを有している。現に腰のあたりに手を回せば、モンスターボールの感触がある。
ただ、手持ちのポケモンの事を思い出そうとすると、何故かフィルターがかけられているかの様に思い出す事が出来ない。
もしかして、初バトルまでのお楽しみ、という事なのだろうか……。
「間もなく、ミアレシティ、ミアレシティです。お降りのお客様はお忘れ物などなさいませんよう──」
とりあえず状況の整理も一段落ついた所で、車内アナウンスが流れ始める。
それから程なくして、俺達を乗せた列車はミアレシティの玄関口の一つであるミアレ駅に停まった。
ミアレシティの南東に位置するミアレ駅。
ゲーム内では簡素に描かれていた同駅も、現実世界で見ると、随分と大きく立派な構内となっている。
通勤や通学等で利用する人々、俺達と同じような旅行者やポケモントレーナー等々。多くの人々が行き交うホームを歩くこと数分。
「おー、これがミアレシティか!」
「やっぱりカロス地方最大の都市だけはあるな、圧巻の街並みだ」
駅を出た俺達が目にしたのは、まさに圧巻の景色だった。
遠くそびえ立つプリズムタワー、歴史を感じさせる建物の数々、ポケモンセンターに大型ビジョン等々。まさに古いものと新しいものが融合した街の景色。
ゲーム画面でも美しいと感動したが、実際にこの目で見ると、その感動は何倍にも膨れ上がった。
「さてと、それじゃ早速、今日の宿探しを始めようか」
「あぁ、そうだな」
こうして一頻り景色を堪能し終えた所で、キョウヤが口にした通り、本日の宿泊先を探す旅が始まろうとしていた。
だがその時、不意に声をかけられ、俺達は踏み出そうとしていた足を止める。
「ねぇ、そこのお二人さん!」
「ん?」
「何だ?」
「手に持った大きな旅行カバン、背負った大容量リュック。二人は観光客でしょ!?」
俺達が観光客かどうかを尋ねてきたのは、青い瞳に朱色のグラデーションがかかった金髪、白いホットパンツにベージュのジャケットを羽織った同年代らしき少女。
彼女の名前はタウニー。ゲーム内では彼女との出会いを切っ掛けに様々な出来事に巻き込まれていくことになるのだが、どうやら現世でもそれは変わらない様だ。
「そうだけど……」
「よかった~、違ってたらメンタルブレイクしてたよ」
「俺達に何か用か?」
「うん、実はね……と、ジャケットの方はあたしよりも大きいか。お、シャツの方は身長があたしと同じぐらい。……なら、ジャケットの方は後ろに立ってもらえればバランスがいいか」
何やら独り言を呟くタウニー。
程なく、彼女は改めて俺達に用件を伝え始める。
「二人にちょっと協力してほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「協力?」
「俺達、今し方ミアレシティに着いたばかりなんだが?」
「あぁ、そんな難しいことじゃないから! あたしが撮影したら『ホテルZ最高!』って言うだけでいいの!」
「成程、ホテルの宣伝協力か」
「そういうこと。あ、宣伝に協力してくれたら他のホテルに泊まってもいいし」
「だそうだ、どうするキョウヤ?」
「いいんじゃない」
「なら俺も問題ない」
「ありがとう! じゃあ早速撮影するよ──」
タウニーが自身のスマホロトムで撮影を始めようとしたその時、不意に近くの大型ビジョンが大音量でCMを流し始めた。
「あぁ、CMはじまっちゃったよ……。撮影に音が入っちゃうし」
流れ始めたのは、ミアレシティの都市再開発を担っている大企業、クエーサー社のCM。
老齢の貴婦人こと現社長であるジェット氏の自己紹介から始まるCMを眺め続ける事一分。漸くCMが終わった所で、タウニーが口を開く。
「撮影のジャマされたけど、あの社長いいこと言ってるよね。二人もきっと、この街とポケモン達が好きになるよ! じゃあ撮影再開……あれ?」
「どうした?」
「あなたの旅行カバンは?」
「え?」
タウニーに指摘され初めて気が付いたが、キョウヤが持っていた旅行カバンが忽然と消えていた。
慌てて周囲を捜索すると、少し離れた場所に旅行カバンを持って喜んでいるヤンチャムの姿があった。
「成程、あのヤンチャムに手荷物配送を頼んだんだね」
ワンリキーやゴーリキー等、力自慢のポケモンによる手荷物配送サービスは確かに存在している。
しかし、同サービスを利用する為には専用カウンターで手続きを行う必要がある。そして、キョウヤは専用カウンターに赴いた事はない。
つまり──
「おいキョウヤ、お前の旅行カバン盗まれてるぞ!!」
「えぇ、そうなの!! あ、もしかしてあたしが撮影を頼んだせい? ならゴメン! お詫びに一緒に追いかけるよ」
こうして泥棒ヤンチャムを追いかけ始める俺達。
道中何事かと視線を向ける通行人達とすれ違いつつ、俺達はベール大通りからベール八番地に足を進める。
「あ、あの突き当りを左に曲がった!」
やがて、俺達は裏路地の先にある広場の前で足を止める。
何故なら、広場では泥棒ヤンチャムが三人の男女に向かって何かを訴えていたからだ。
「どうやら野生ポケモンのいたずらじゃなかったみたい」
「その様だな、どうする?」
「じゃ、タイミングを見て乗り込んで……とその前に、自己紹介がまだだったね。二人の名前は?」
「僕はキョウヤ」
「俺はアルト」
「キョウヤに、アルトね。あたしはタウニー、よろしく!」
こうしてお互いに自己紹介を終えた所で、俺達は乗り込むタイミングを見計らうべく、三人の会話に耳を澄ませる。
「ちょっとヤンチャム! 確かにいいカバンないかなって言ったけどさ、幾ら何でもそんなダサいカバンはいらないよ」
「ゴミ拾いのつもりなんだろ。警察に届けてほめてもらおうぜ」
「案外、誰かのカバンを間違って持ってきてたりしてな、ははは」
「ちょっと、そんな──」
その瞬間、俺達は広場に乗り込んだ。
「その通り! そのお洒落なカバンはこちらの観光客のものだから!」
「「「あんた(お前)はタウニー!!」」」
「もしかして、知り合い?」
「そうなのか?」
「いや、知らないし。……あ、もしかしていままでの宣伝動画の視聴者さん?」
「アンリだよ! てかZAロワイヤルのこと忘れてる!?」
「オレはアンドレ! オレたち昨夜同じ場所にいたよ!」
「ついでに俺はミュレー。因みに俺達、昨夜あんたと勝負したんだが、覚えてないのか?」
「あぁ、思い出した。昨晩あたしに負けた人だ」
自己紹介を終えた三人の男女の言葉に、漸くタウニーは昨夜のことを思い出した様だ。
「く゛や゛し゛い゛……。でも本当だから言い返せない」
「よし、分かった! このカバンは返してやる。ただし、代わりに今ここで、ポケモン勝負しろ!」
「お、そりゃいい案だアンドレ!」
「意味不明……そんなに再戦したいなら夜まで待てば?」
「うるせぇ! 負けたヤンチャムがリベンジしたがってるんだよ! だからカバンを持ってきたんだよ……多分」
「そ、そうよ!」
「今度は負けねぇぜ!」
どうやら三人とも、何を言っても聞く耳を持たない様だ。
タウニーはやれやれと肩をすくめると、一拍置いて口を開いた。
「分かった、やればいいんでしょ。でも、三人がかりはずるくない?」
「だったら、三人それぞれ戦うってのはどうだ? 丁度そちらも三人いるしな」
ミュレーの提案を聞いたタウニーは同意する様に頷くと、即座に俺達の方を振り向く。
「ねぇキョウヤ、あれはあなたのカバン、だからどうすればいいかわかるよね?」
「もしかして、僕も戦うの!?」
「大丈夫、あたしは人助けが趣味だし。だから、あなたに道を示してあげる」
「おーい、俺がいること、忘れてないよな?」
「当然、忘れてないよ。けど、アルトはあたしが道を示さなくても大丈夫そうだし」
「何だか俺の扱い酷くないか?」
「そんなことないよ。ただ、アルトはもう立派なトレーナーって感じがしたからさ」
「分かった、そういうことにしておく」
こうして俺との会話を終えたタウニーは、自身が連れていた三匹のポケモン、チコリータ・ポカブ・ワニノコの中から共に戦うパートナーを選べとキョウヤに告げる。
しかし、キョウヤはこれまでポケモンを所有した事がない。故に、タウニーの説明を聞きながらどの子にするか頭を悩ませている。
そんなキョウヤの様子を見守っていた俺だが、ふとある事を思い出し、キョウヤに声をかける。
「キョウヤ、そんなに悩むなら、いっそのことヤンチャムとかどうだ?」
「あぁ、成程。その手もあるのか」
「え、ヤンチャムがいいの? 人のポケモンなんだけど……」
「ちょっと、ヤンチャムはあたしのポケモンだよ! 選ぶならその三匹の中から! それと、選ぶなら早くして、夜になっちゃうから!」
「あ、はい」
「ちょっとアルト、変なこと言わないでよ」
「悪い悪い」
こうしてゲームでも描かれた一幕が再現された所で、俺は再び成り行きを見守り始めた。
それから程なく、キョウヤはとあるポケモンに共に戦ってほしいと自身の手を差し出した。
そのポケモンとは──
「ワニノコ、僕と一緒に戦ってほしい!」
「ワニッ!」
おおきなあごポケモンのワニノコだ。
「やっと決まった? 待たされてモチベが下がったけど、気を取り直して。……言っとくけど、初心者だからって手加減はしないから!」
「相手もやる気十分みたい。でも、初心者相手に負けたら大恥だし」
「おいタウニー、お前の相手はこのオレだ!」
「分かってるけど……昨日から少しは強くなったの?」
「見くびるなよ! 今日のオレは昨日のオレの三倍は強いぞ!」
程なくキョウヤ対アンリ、タウニー対アンドレという組み合わせが決まり。必然的に、俺の相手はミュレーとなった。
広場の方々に別れると、いよいよその時が近づく。
「お互い残り物同士、ま、よろしく」
「こちらこそ」
「けど、俺だってポケモントレーナーのはしくれだ。悪いがこの勝負、勝たせてもらうぜ」
「その台詞、そっくりそのままお返しします!」
「言うねぇ。……いけっ! ピチュー!」
ミュレーの投げたモンスターボールから飛び出したのはピチュー。ポケモンの代名詞であるピカチュウの進化前ポケモンだ。
ゲーム画面で描かれた姿も可愛かったが、実体化したその姿は、まさに可愛さの権化だ。
さて、そんなピチューと戦う事になる俺のポケモン……果たして、どんな子が出るのやら。
期待と不安が入り混じりながらも、俺は腰のホルダーからモンスターボールを一つ手に取ると、覚悟を決めて投げる。
「いけっ!」
そして次の瞬間、音と光と共にポケモンが姿を現し──、え?
「キュイッ!!」
現れたのは、大きな出っ歯に体毛のないしわしわのピンクの体が特徴的なポケモン──否、これはポケモンなどではない。
凶暴さと醜悪さを兼ね備えたその生物は、本来ポケモンの世界に存在しない。この生物が生息しているのは、Falloutと呼ばれる、核戦争後のアメリカを舞台としたゲームの中だ。
核戦争の放射能によって変異した巨大なハダカデバネズミ。それがこの生物の正体。
その名を"モールラット"。
「な、なんで……?」
原作とは異なり大きさはピカチュウ程だが、モンスターよりもクリーチャーと呼ぶに相応しいその姿は原作のままだ。
うん、対戦相手のピチューと比べると、その醜悪さがより際立つ。
「ほぉ、見たことないコラッタだな。あんたの地元のコラッタはそんな姿をしてるのか」
だがこの世界の人々には、モールラットがリージョンフォームしたコラッタに見える様だ。
ちょっと何言ってるか分からないが、下手に説明して事態をややこしくするよりはいいか。よし、そういうことにしておこう。
「気を取り直して、いくぞ"
「キュイッ!」
そうそう、モールラットを出した瞬間、ニックネームなどを含めてこいつの事を思い出したのだが。こいつノーマル・じめんタイプだったのかよ。
「
「ピチュー、躱してでんきショック!」
そんな
最後は
「ぐ、まさかこんなに強いとは……完敗だぜ」
ミュレーから祝福の拍手を受けながら、俺は
「よぉアンリ、そっちも負けちまったのか?」
「そうよ、負けちゃった……初心者に負けちゃった……。うぅ、ヤンチャム以上にあたしがっかり」
負けた者同士傷を舐め合っていると、アンドレが近づていく。
「アンドレ、あんたは勝ったんだよね?」
「昨日の今日で勝てる訳ないだろ……」
「おいおい、三倍強いんじゃなかったのかよ!?」
「相手はその倍強かったんだよ……だからオレもポケモンもしょんぼりさ」
「結局そろって負けちゃった訳ね」
三人揃って肩を落としていると、不意にタウニーが声をかける。
「いい練習相手になったし、今度会ったらまた相手してよ」
「絶対にいや! ロワイヤルで見かけても勝負は挑まないから! あ、でも、約束だからカバンは返します。ヤンチャムも反省してますので……サヨナラッ!!」
刹那、アンリ・アンドレ・ミュレーの三人は、逃げるようにその場を後にする。
こうして旅行カバン事件は一件落着するのであった。
「それじゃ記念に、はい!」
「え、なに?」
「見て分からないのかよ、グータッチだ」
「あぁ、成程」
不意にタウニーが右手を突き出し、その意味を理解できなかったキョウヤ。だが俺の説明を聞き漸く理解したのか、慌てて自身の右手を突き合わせる。
勿論、俺も。
「やっぱりアルトはあたしが見込んだ通り、凄く強かったよ! それに、ミアレじゃ見ないポケモンも見れたし」
「相性がよかっただけさ」
「謙遜しないで、本当に凄かったし」
やはり褒められると嬉しいもので、気付けば少しはにかんでいた。
「そしてキョウヤ、初めての勝負で勝つなんて凄過ぎ! キョウヤとワニノコ、運命の出会いでしょ」
「そんな、ワニノコが頑張ってくれたお陰だよ」
「そのワニノコだけどさ、このままキョウヤの相棒にしたら?」
「え、いいの?」
「キョウヤならワニノコとうまくやれそうだし、託しても問題ないと思ったんだ」
「いいんじゃないか、これも何かの縁だ」
「……ワニノコ、君はどう?」
「ワニッ! ワニッ!」
「どうやらワニノコも、お前の事を気に入ったみたいだな」
「じゃあ、はい。ワニノコのモンスターボール!」
タウニーからワニノコのモンスターボールを受け取ったキョウヤは、暫しそのモンスターボールを見つめる。
すると、不意にワニノコがキョウヤのもとへと歩み寄る。
「これからよろしくねワニノコ」
「ワニッ!」
そして、キョウヤの突き出した右手にワニノコが自身の拳で応えた所で、ここにまた一組、新たなコンビが誕生した。
「キョウヤ、ポケモントレーナーって最高だから! だよね、アルト?」
「あぁ、お互いを分かり合い強い信頼関係を築ければ、どんな困難にだって立ち向かえる筈だ」
「だよねだよね!」
勝利の余韻を分かち合い、新たなポケモントレーナーの誕生を祝福していた俺は、その時、完全に失念していた。
ミアレシティの持つもう一つの顔。戦わなければ生き残れない、夜のミアレシティの顔を。
夜の帳が下り、闇が街を覆ったその時、突如として鐘の音が鳴り響く。
程なく、鐘の音が鳴り止むと、今度は街中にアナウンスが流れ始めた。
「定刻となりました。これより、バトルゾーンを展開します」
刹那、突如周囲を赤いホログラムが囲い始める。
「え、な、なに!?」
「ゴメン……話し込んでたら夜になっちゃった。しかも最悪なことに、ここら一帯バトルゾーンだし」
俺は既にゲームの知識としてバトルゾーンどれほど危険かを知っているが、何も知らないキョウヤはこの事態に慌てふためく。
すると、そんなキョウヤに対して、タウニーがバトルゾーンの説明を始める。
「あまり時間がないから簡単に説明すると、バトルゾーンは危険!」
「いや簡略化しすぎだろ!」
「えーでも本当のことだし……って、アルトはバトルゾーンがどういうものか知ってるんだ?」
「まぁ、観光に行くからには、現地の情報はある程度収集するさ」
流石にゲームの知識とは言えないので、その様に誤魔化す。タウニーも、特に違和感を覚える事無く納得したようだ。
「じゃあアルトには説明不要として。幸い、近くに安全な場所があるから、走っていこう」
「了解だ」
「うん。あ、でも……カバンを持ったままだと走りずらいかも」
「なら、キョウヤの旅行カバンはポケモンたちに運んでもらえばいいし。あ、序にアルトのリュックも運んじゃお。という訳で、よろしくチコリータ、ポカブ」
チコリータとポカブが任せろと言わんばかりに声を上げると、二匹は俺とキョウヤの荷物を預かった後、何処かへと姿を消した。
「あの子達なら大丈夫、安全なルートで先に向かってるから。ま、あたしらはバトルゾーンを抜けるしかないけどね。じゃ、あたしについてきて!」
こうして荷物の心配もなくなった所で、俺とキョウヤはタウニーの先導のもと、バトルゾーン内を走り始めた。
走り始めて数分、丁度バトルゾーンの出入り口まで半分ほどの距離まで来た所で、俺達は運悪く一人のポケモントレーナーに見つかってしまった。
「あなた、相手をしてもらいます!」
「ちょっと待って! アルトはまだエントリーしてな──」
「他人は口出し無用!!」
しかも、何故か勝負を挑まれたのは俺。ゲームではキョウヤが挑まれたが、仕方がないか。
「仕方ない。ぱぱっと終わらせるか」
「頑張れ、アルト」
「アルト、あなたなら勝てるって信じてるし!」
キョウヤとタウニーの声援を受け取った所で、俺は腰のホルダーから、
そして、相手がピィをくりだしたのを確認した後、俺も手にしたモンスターボールを投げる。
まさか、それが悲劇の始まりとも知らずに。
──結論から言うと、俺は勝負に勝った。最も、純粋な勝利ではなく、相手が棄権した故の勝利であるが。
何故そうなったのか、その原因は、俺がくりだしたポケモン──否、人によってはゴーストタイプすらも凌駕するほどの恐怖の権化。
モールラットと同じくFalloutに登場するクリーチャーの一種、その名を"ラッドローチ"。それが、勝負で俺がくりだしてしまったやつの名だ。
その名前からも分かる通り、こいつは前世では一匹いたら百匹いると言われたり、水回りや家電家具の隙間でカサカサ動いてるアレが放射能の影響で巨大化したもの。
原作よりも小さかったとはいえ、その黒光りする姿は変わらない訳で……。こいつを見た途端、相手のトレーナーは大声で悲鳴を上げて全速力で逃げ出してしまったという訳だ。
しかも、観戦していたタウニーも怯えてたし。
うん、こいつはもう禁止ポケモンとしてボックスの肥やしになってもらおう。未来永劫。
「あー、よし、さっさと安全な場所に行くとするか」
「そ、そうだね」
「タウニー」
「っ!」
「あー、その、悪かった。もうアイツを出すことはしない」
「う、うん、分かった」
「じゃ、気を取り直して、案内を頼む!」
「了解!」
こうして悲劇を乗り越えた俺達は、再びバトルゾーンを抜けるべく、走り始めるのであった。
走り始めてさらに数分後、遂に俺達は、バトルゾーン出入り口の目と鼻の先までやってきた。
だが、そんな俺達の前に、最後の難関の如く数人のトレーナー達が待ち構えていた。
「あーちょっといい、見ての通りお客さん達を案内してるの。だから、通してくれるとうれしいんだけど」
「お客だろうがなんだろうが、バトルゾーンにいる以上、勝負の相手だよ!」
「ここを通りたかったら、俺達と勝負してもらおうか!」
タウニーが説得を試みるも、あえなく失敗。最早、勝負する以外ここを通る方法はない様だ。
しかしゲームとは異なり、待ち構えていたのは倍の数の六人。これは流石にタウニーに任せるのは忍びない。
仕方がない。さっき出さないと言ったばかりだが、ここはあいつをくりだして、混乱が生じた隙に抜け出すとしよう。
「ここは俺が相手をする」
「え?」
「心配するな」
そして俺は一歩前に出ると、あいつの入ったモンスターボールを手に取り投げた──筈だった。
だが、宙を舞ったボールは、黒いボディに黄色でHの字が描かれた様なデザインをしていた。……って、これハイパーボールじゃねぇか!?
しかし、投げるボールを間違えたと気づいた頃には時すでに遅し。俺の目の前に、冷血の遺伝子を持つ金属生命体が姿を現した。
本来はポケモンの世界ではなく、遠い宇宙にある惑星Ziと呼ばれる惑星に生息する
黒き装甲を身に纏い、凶暴なティラノサウルスを彷彿とさせるその外観は、まさに虐殺竜の異名を持つに相応しい。
その名を"ジェノザウラー"。
「黒いガチゴラス? 珍しいポケモンだね」
本来はポケモンと認識されない筈なのだが、何故か相手のトレーナー達はジェノザウラーをポケモンと認識していた。
まぁ、大きさも同じ位だし、モチーフも同じだから、そういうことにしておこう。
「いくぞ、ジェノザウラー!」
「グァァァッ!!」
「まずは挨拶代わりの荷電粒子砲!」
踵部に装備したアンカー、更に尾部の排熱機構を展開したジェノザウラーは大きく口を開く。
同時に口腔内に粒子が集束していき──次の瞬間、巨大な一筋の光が上空目掛けて放たれた。
おぉ、原作アニメでもかなりの迫力で描かれてたけど、実際に目にするとそれ以上の迫力だな。
相手のトレーナー達も、その迫力を目の当たりにして呆然としている。
「それじゃ、挨拶も済んだところで……やろうか」
刹那、俺の声で我に返ったトレーナー達は、一目散に逃げていった。
「おっと、軽い威嚇のつもりだったんだが……まぁいいか。ご苦労さん、ジェノザウラー」
「グァ!」
ジェノザウラーをボールに戻し、邪魔なトレーナー達もいなくなったのでさっさと出入り口を潜ろうとした、その時。
上空から一匹のポケモンが舞い降りてきた。
「キュルル!」
「あ、フラエッテ、もしかして迎えに来てくれたの?」
現れたのは、えいえんのはなと呼ばれる黒く禍々しい花を持ったフラエッテ。
「二人にも紹介するね、この子はフラエッテ。三千年も生きてる特別なポケモンなんだって」
「三千年、凄いね!」
「あぁ、本当に」
「それじゃ、アルトのお陰で邪魔者もいなくなったし、今のうちに安全な場所……ホテルZに急ごう!」
こうしてフラエッテを加えた俺達は、程なくバトルゾーンからの脱出を果たした。
それから俺達は、タウニーに案内され、裏路地の突き当りというかなり立地の悪い場所にあるホテルZに案内された。
タウニー曰く、静かで落ち着けるのが自慢らしい。
八階建ての古びたホテル、ホテルZ。
ゲームにおいては主人公が滞在する活動拠点でもあり、とある人物がオーナーを務めるホテル。
画面越しでしかお目にかかれないと思っていたものを実際に目の当たりにし、俺は改めて、この世界に生まれたのだと実感した。
「アルト、どうしたんだ?」
「おーい、アルト。早くホテルに入るよ!」
「ん、あぁ、今行く」
刹那、キョウヤとタウニーに呼ばれた俺は、ホテルZの入り口を目指して再び歩み出す。
そして、一波乱も二波乱もありそうなミアレシティでの物語が今まさに始まった。そんな予感を感じつつ、俺はホテルZに足を踏み入れるのであった。
ノリと勢いで書きました。
反響があれば、続けるかもしれません。