ぜってーありえない手持ちの観光客が行くミアレシティ観光 作:ダルマ
外観同様に落ち着いた、古き良きを感じるロビー。それが、ホテルZに足を踏み入れた俺の第一印象だった。
ゲームではピアノの音色が印象的なBGMが流れていたが、確かにこの雰囲気には、ピアノの心地よい音色はピッタリだ。
「
「お帰り、タウニー」
そんなロビーの奥にあるフロント。そこに佇んでいたのは、身長が三メートルはありそうなスーツ姿の老人。
オーダースーツにするととんでもない金額になるからか、肘と太ももから下はパッチワークで延長している。
その見た目から、一見すると怖そうな印象だが、タウニーを迎えた時の表情はとても穏やかで、優しい印象を受けた。
「そちらの方々は?」
「お客さんだよ! 二人とも、こっちにきて」
刹那、タウニーに呼ばれ、俺とキョウヤはフロントの前まで足を運ぶ。
「こちらがホテルZのオーナー、AZさん。ほら、挨拶して」
「はじめまして、キョウヤです」
「アルトといいます」
「二人は、先程チコリータとポカブが運んできた荷物の持ち主か?」
「はい」
「そうです」
フロント前に置かれたバゲージラック。そこには確かに、俺のリュックとキョウヤの旅行カバンが置かれていた。
「二人はミアレに来てすぐにメンド―なことに巻き込まれたけど。アルトは珍しい子たちを使う凄腕のトレーナーでピンチなんてものともしないし。キョウヤはワニノコとばっちりのコンビネーションで切り抜けたんだ」
「ん、そのワニノコは確か……」
「そう、だからあたしのワニノコをキョウヤに託したんだ」
タウニーの説明を聞いたAZさんは、キョウヤに視線を向けると、柔らかな笑みを浮かべる。
「それはよい判断だ。ポケモンと人は、出会うべくして出会う」
「うん、あたしも運命の出会いだと思う! ……けどその後日が暮れて、ZAロワイヤルが始まったから、ここに連れてきちゃった」
「荷物だけが届いたのが気になりフラエッテを向かわせたが……どうやら、杞憂であったようだな」
「うん、アルトのお陰で切り抜けられたんだ! もう少しでバトルゾーンを抜けられるって所で数人のトレーナーが立ちはだかったんだけど、そこでアルトがジェノザウラーって子をくりだして、その子が空に向かって"かでんりゅうしほう"ってスッゴイ技を放ったの。そしたらトレーナー達は、イトマル達を散らす様に逃げ出してさ──」
先程の出来事を興奮気味に語るタウニー。一方の俺は、気恥ずかしさを感じていた。
褒められる事は素直に嬉しい。ただ、まさかここまでべた褒めされるとは思わず、気恥ずかしさを紛らわせるように頬を掻いた。
「成程、その様なことが……」
「でも、AZさんの判断も間違ってなかったよ。フラエッテのお陰で残りの道中も安心だったし。さすが、自称三千歳コンビだね!」
タウニーの口からAZさんの年齢が飛び出した刹那、キョウヤが驚きの声を上げる。
「え、AZさんも三千年も生きてるんですか!?」
「キョウヤ、自称だし、自称」
「でも、もし本当に三千年も生きてるとしたら……三千年生きてるから身長が三メートル近くもある。つまり、一千年ごとに一メートルずつ伸びたってこと!? なら、僕もあと一千年生きれれば、身長が二メートル六十に!」
「キョウヤ、それはひょっとして冗談で言ってるんだよな!?」
「……う、うん。勿論」
「おいなんだ、今のちょっとした間は!?」
確かに、キョウヤは自分の身長に少しコンプレックスを抱いていたが、だからと言って何故そんな結論に至るんだ……。
「どうやら、みんな相当疲れているようだね……」
キョウヤの発言で何とも言えない雰囲気に包まれたが、AZさんの機転の利いた対応で、なんとか難を免れる。
「キョウヤ、アルトよ。君達はなにか大きなものに導かれ、このホテルに来るべくしてきたようだ。……改めて自己紹介をしよう。わたしはAZ、当ホテルのオーナーとして君達を歓迎する」
刹那、AZさんは一拍置くと再び話を始めた。
「すこし話をしよう。オーナーであるわたしの思いとして聞いてくれればいい。キョウヤ、タウニーから譲り受けたことで君はワニノコのおや……即ち"ポケモントレーナー"となった。ポケモンは、とても不思議な生き物だ。どのポケモンも強い力を持ちながら、信じるポケモントレーナーの為に力を発揮してくれる素晴らしい存在だ。……だからこそ君は、ワニノコのことを決して裏切らずに、いつもいつでも大切にしてあげてほしい」
「はい!」
「そしてアルト、君は既に立派なポケモントレーナーのようだね。であるならば、今後もパートナーのポケモン達を信じ、沢山の愛情を注ぎ、絆を大切にしなさい」
「はい」
「わたしからの話は以上だ。では二人の部屋の鍵だが……キョウヤは202号室を使うといい。そしてアルトは、603号室を使うといい」
AZさんからそれぞれの部屋の鍵を受け取る俺とキョウヤ。てっきり隣の部屋かと思っていたが、まさか別の階の部屋になるとは。
「二階と六階だね、なら移動はエレベーターでどうぞ。二人とも疲れたでしょ、だから今日はもうゆっくり休んだ方がいいよ」
「うん、そうさせてもらう」
「だな、今日は色々なことがあり過ぎてもうクタクタだ」
「明日起きたら、ロビーに集合してくれればいいし」
「分かった」
「了解だ」
こうして明日の集合場所を確認し終えた所で、俺とキョウヤは、年季の入ったエレベーターに乗ってそれぞれの階へと向かった。
六階へと到着すると、廊下に飾られた絵画などを眺めながら、603号室を目指して歩みを進める。
程なく、603号室に到着した俺は早速鍵を使って入室すると、バゲージラックにリュックを置き、室内を見回す。
机やベッド、チェストの上のアメニティ等々。配置など細かな違いはあるものの、基本的にはゲームで描かれた202号室と同じような作りであった。
「なんだか怒涛の一日だったな……」
ベッドに腰を下ろした俺は、考えにふける。
俺が知っている未来の情報は、ゲーム通りに事が運ぶのなら明日までのもの。それ以降は、全くもって未知数だ。
故に手探りで進める事になるが……上手くいくだろうか。
いや、ネガティブに考えるのは止めよう。
AZさんも言ってたじゃないか、パートナーのポケモン達を信じろって。
そうだ、俺には心強い相棒たちがいる。例えなにがあっても、こいつらがいれば、きっとどんな困難だって乗り越えられる筈だ。
「明日からも、よろしく頼むぞ」
モンスターボールにそう語りかけた俺は、ベッドから立ち上がると、就寝前のシャワーに取り掛かる。
だがその矢先、不意に扉をノックする音が響き渡る。
「ゴメン、ちょっといい?」
「なんだ?」
訪ねてきたのはタウニーであった。
「お客様、当ホテル自慢のビュースポットへご案内いたします」
「ビュースポット?」
「要するに、屋上に行くってこと。キョウヤも先に待ってるし」
こうして俺はタウニーと共にホテルZの屋上へと足を運んだ。
「わぁ、凄い景色!」
「おぉ、これは確かに自慢のビュースポットだな」
「でしょでしょ」
屋上でキョウヤと合流した俺は、プリズムタワーを中心に煌々と輝くミアレシティの夜景を暫し堪能する。
「改めてだけど、ようそこ、ミアレシティへ。……いろいろあるけど、ミアレっていい街だよ」
刹那、真剣な表情に切り替わったタウニーが、真面目な口調で話を切り出した。
「今日来たばかりの二人にはいきなりの話になるんだけど、あたし、AZさんに恩があるんだ。だから、AZさんに恩返しをしたくて……二人も力を貸してくれない?」
「うん、いいよ」
「泊めさせてもらった恩もあるしな、いいぞ」
「ありがとう二人とも!」
お礼の言葉と共に、タウニーは右手を突き出す。
二度目という事もあり、キョウヤもすぐにその意味を理解し、右手を突き合わせる。勿論、俺も。
「これからもよろしくね、キョウヤ、アルト!」
「よろしく、タウニー!」
「よろしくな、タウニー」
こうして協力を約束し終えた所で解散となり、その後は部屋に戻ってシャワーを済ませた後、ベッドに入った。
明日から始まる本格的なミアレシティでの生活に思いを馳せながら、俺の意識は、夢の世界へと旅立つのであった。
「ジガルデ・セルを連れてきたキョウヤという名の少年……彼もまた、ミアレに導かれたか」
「キュルル?」
「そして、アルトという名の少年。……彼はもしかすると、光に導かれたのかも知れんな」
「キュルル!」
「そうだな。あの二人ならば、ミアレの未来を託せるかもしれん」