カエルは王妃の専属護衛としてその日も部屋の外で待機している。深夜、部屋の扉が開き、リーネがお花を摘み(お手洗い)の要望。同じく待機していた従者がリーネを先導し、トイレへと向かう。
カエルは周囲への警戒に意識を張り巡らし、二人に同行した。
トイレに入ったリーネを待つこと10分、従者が側にて、三分程度のインターバルにリーネに声をかけていたが、その声が止まった。と同時に嫌な匂いがした。肉が焼け焦げるのと似ている。
火災が発生している。
カエルは急ぎリーネを確認したが、一つの遺体が燃えているだけだった。
リーネの失踪、行方不明事件。
王宮はこの問題を公にできなかった。
リーネに纏わる力(ギフト)の一つに、人間に化けている魔族を見破る力がある。魔族が特有に発する魔力をリーネは敏感に感じとれる。人間に成り済ました魔族が王宮へ侵入しようものなら、リーネの警戒に引っかかるし、王宮とあまり接点のない議員等に成り済ましていたとしても、時々公務の場に参加するリーネによってその正体が魔族だとばれてしまう。
王宮はリーネの力を隠している。もし魔界にその情報が渡ればリーネは邪魔な存在として命を狙われかねない。王国最強のカエルが戦場ではなく、リーネの護衛についているのはその為であるのだが…
既にリーネのギフトは魔界にバレているかもれない。
だとするなら、リーネ失踪の情報が公になると、この期に乗じて人に化けた魔族が一斉に王宮や議会に入り込む可能性がある。故にリーネ失踪の情報は伏せておきながらリーネの捜索に当たらなければならない。
カエルは火災の消火を他の従者に任せ、王宮の屋根に登り、眼下を見渡した。暗がりとはいえ、松明の明るさが点在している。目の大きさから視界にほぼ全ての情報が入り、移動する何かがあれば瞬時にそれを捉える。
カエルのフルパワーのジャンプ力は20mを越える。その筋力の強さから移動の際の、最大瞬間速度は時速500kmあり、城壁を高速に飛び移りながら、場内を探す。
捜索中、リーネ失踪の情報を伝える鐘(暗号)が城内に響き、騎士団が召集されていく。
騎士団により、トイレとリーネの寝室が調査される。判明したのはリーネの寝室の外から何者かの侵入だった。土ぼこりが石壁に残っていて、それが外からの侵入を示唆していた。リーネの寝室は5階層。魔族が空を飛んできて侵入した可能性が高かった。
外からの侵入には当然警戒していて見張りが多く配置されていた。しかし、そこを突破された。
おそらく犯人が複数いて、一人がリーネに擬態してトイレへ向かい、護衛を寝室から遠ざけた後、寝室に残されたリーネを奪った。
トイレに向かったリーネに扮した魔族は誘拐が成功する頃合いを待って窓から逃走したのだろうが、目撃情報が何もなかった事から、未知の魔法の関与。恐らく、身体を背景等に隠蔽して視認されにくくする魔法が開発されている
だとしたら厄介であり、この事件は長い時間をかけて計画された用意周到の上にあるものであり、捜索するのは困難になる。最悪の状態を想定しなければらない。
人海戦術による捜索でカエルは西側の森を捜索していた。
森の先には大きな修道院がある。そんなところにいる訳はないものと思いながらも二階窓から覗くと、リーネの姿が見えた。
思ったより、早く見つかったこと。騎士団に応援の要請をしようと戻ろうとしたとき
痛みが走る。
なにかが肩に刺さっている。
それを引き抜こうとしたとき、更に痛みが走る。両肩、足、腕に何かが刺さっている。
明らかに攻撃を受けていると理解したカエル、高速移動で避けようとする。
林の中に逃げ込んだものの、深手を負っていた。
ドリル状のものが肉に食い込んでいる。そのドリルについて、それが何処からともなく次から次に飛んでくる。まるで意思をもって追跡していくるかのような凶器について、カエルは逃げることを諦めるしかなかった。
多くの攻撃を受けてしまい、既に致命傷であり、身体から多くの出血をしている。
木を背にして後ろからの攻撃への対処を諦め、前方に意識を集中する。
矢のように早い速度で飛んでくるそれを肉眼で捉えてから対応するのでは遅い。
できることは盾でガードすること。
だが、いざ盾での防御をしてみるに全く話にならない。
そのドリルの発射間隔にはインターバルが殆んどない。連続的に突撃してくるドリル。
鉄でできた盾だが、それを確 実に削り破壊していく。
このままでは盾が無くなり死ぬ。
カエルが死を悟ったとき、同時に音も悟った。
矢を飛ばすのであれば弦が跳ねる音や弓のしなる音がする。
銃なら大きな騒音がある。
飛んでくるドリルについても、何らかの発射音があるとしても、その音が全く聞こえない。魔法特有に無音の攻撃方法があるとしても、そのような情報は今だかつて聞いたことがなかった。
敵は発射音が届かない程の遠くの位置から攻撃を仕掛けているのかもしれない。
だとしても、遠すぎればそのドリルは届かないはず。敵はあくまで遠くない場所に潜んでいるのなら…
カエルは重い防具を脱ぎ捨てて走った。
当たれば致命傷は免れないが、距離さえとれば複雑に並ぶ林が盾のような役割になるはず。
林を出ると、そこは修道院前であり、元いた場所だった。
ドリルの攻撃は木々の間をウネウネと曲がり、まるで生きているかのようにカエルめがけて飛んできた。
寸前で避けることに成功する。たが通り過ぎたドリルは楕円を描くように旋回してカエルの元に戻ってくる。
しかし、その大きな旋回により進路が分かりやすくもあった。カエルはドリルを剣で弾き飛ばした。
だがそれも束の間に、林の奥からまたも連続的にドリルが飛んでくる。
それを、もう一度剣で打ち落とす。
一発に対する軌道を見ている時間はさっきより遥かに短いものの、前方の林から飛んでくるのは判っているし、だんだん目も慣れてきている。
最初に不意打ちに受けた一発より確実に対応可能だった。
だが、それがカエルの最後となる。無尽蔵に飛んでくるドリルを一方的に受けるだけのカエルだった。
ヤクラな存在。ラヴォスから無意識にエネルギーを調達していた生き物であったそのヤクラはドリルを無尽蔵に生成することができた。
およそマシンガンのように放たれる自動追尾型のドリル。それらドリルは一つ一つがあたかも独立して生き物のように攻撃をする。燃料を積んだ誘導ミサイルが空間を自由に方向転換する仕組みにも似ているだろうその力をヤクラは無意識に操っている。
ヤクラは触れた相手の細胞が発する特有のエネルギーを感知して居場所を特定している。カエルが最初に不意打ちを喰らった際に落とした出血(DNAミトコンドリア)を採取したヤクラはほとんどカエルの視界に入ることなく、戦いを制した。
ヤクラはカエルの異常な身体能力を危惧していて常にコウモリを張り付かせていた。もしもアジトである修道院が見つかりそうになるなら、ヤクラ自らがピンポイントでカエルを討ち取る計画だった。
カエルは防戦一方であった。
死を受け入れた最後に、戦場では殆んど使う事のなかったSOSの信号(一発の火薬玉)に火をつけた。
爆竹のように大きな音が林に鳴り響く。近くに人がいればこの場所に問題があることが伝わる。
その音の知らせは近くにいた通行人に届き、最終的に騎士団へと届く事で、修道院に監禁されたリーネは奪還される。
だが、この歴史にクロノが介入し、マールがリーネに間違われた場合は状況が一変する。
カエルが修道院の近くまで捜査に来た頃、連続的な5発の銃声を鳴り響く。
その5発は王家からの召集命令であり、カエルは捜査を止めて王宮まで戻った。
召集目的はリーネ捜査の打ちきり、つまり リーネ帰還の報だった。
カエルは安心し、再び護衛の任務に為リーネの部屋に向かった。
その道すがらに王宮はざわついていた。リーネは来客を迎えていて、その迎えた相手が若い男という話。
従者らの話を聞いてみるに、どこの馬の骨かも分からない身分が不確かな者であり、まるで密会するように二人きりになろうとし、周囲が止めに入る大事となった。だが結局二人で寝室に入ったという。
王妃であり人妻である身。よからぬ妄想したカエル。
そもそも、リーネは今までどこにいたのか。
誘拐されていなかったのなら、王宮の中で男と密会していたという事になったりするのだろうか。
そんな事はありえないだろう。現に従者の一人が死体で発見されているし、侵入者の痕跡だって…
カエルは思った。リーネに扮した魔族の可能性を。偽物かどうかは確認すればいいい。
リーネと自身しか知らない事を聞いてみるのが良いだろう。
待っていると赤髪の男が部屋から出てきて去っていく。カエルは見た目の問題があって、王妃への来客者がいるときは、極力視界に入らないところで待っていた。
男が去った後で
『王妃様、少し聞きたいことがありまして、宜しいでしょうか』
扉をノックするが返事がない。
中を確認するもの見当たらないリーネ。窓の外にいる訳ないと思いつつも確認してしまう。
何処にもいない!?
王妃は一体どこに?
つい、さっきまで客人と一緒にいた筈なのでは?
いや、来客と一緒にいたかどうかカエル自身はその目で確認した訳でもない。
まさかその客人が魔族に扮した者でリーネを喰らったか?
とにかく、第一容疑者であるあの男を追わなければ。
追いかけると 直ぐに追い付いた。
それにしても歩くスピードの遅さ、弱さ、あまりの人畜無害ぷりに、容疑者という事を一瞬忘れそうになる。
だがカエルの身体力からみれば誰しもが遅いのである。カエルは冷静になってクロノを容疑者であるのだと改めて認識しようとする。
たが、もしこの男が犯人であるならば、
こんなに堂々と悠然と歩いているだろうか。
もし魔族であり、魔法か魔の道具でリーネを隠して運んでいるのだとしたら、今ここで捕まえて尋問してリーネを返して貰えるだろうか。
死を覚悟に尋問に耐え、返さない可能性があるとた
ら、どうなる?
カエルはクロノに話しかけるタイミングを失い、ただ距離をとって後を追っていた。
そのクロノと合流する謎の女。この女がもしもリーネ誘拐に関わる共犯なのだとしたら、今この場でリーネの受け渡し交換がされている可能性だってありえそうで…
もし二人がこの後二手に別れて行動するというのなら、尾行させる為の仲間が必要になるかもれないが…
クロノのような王宮に入る不審者については王家によってマーキングする慣習になっている。カエル以外の担当者が既にルッカとクロノを尾行している。
その事を思い出したカエル
カエルは二人のあとを尾行していたら修道院へとたどり着く。
背後から忍び込み壁を登り天井のヘリに潜んだカエルは中の様子を伺う。
二人はシスターと話し込んでいる。
まさか修道院がリーネ誘拐に関わっているのか?
しかしシスター達は扉を閉めはじめて、二人を取り囲んだ。
あるいは修道院側が二人の逮捕に協力してくれているのか?
だがシスター達は魔族の姿を表し、
二人は院内にて魔族に襲われはじめた。
仲間割れなのか、だが二人は人間の姿のままであり、魔族でなさそう。つまり、この二人はもしやリーネを捜索していて、ここにやってきただけなのか?
なんだかもう訳が分からないけど、死なれたら困るから助けてみたら、魔族の一人がリーネの所有物(サンゴの髪飾り)を所持していた。
『やっぱりリーネ様がここにおられるのか?』
倒れた魔族に拷問にかけてどういうことか吐かせようとししたとき、
なぜか奥から大臣がでてきて、それがデロデロいう化物(ヤクラ)に変身して戦う空気に
え?どういうこと? やっぱりここに王妃様いるということなのね?
なんで?
二人は結局ところ犯人ではなかったのね。この二人もリーネを探してここにたどり着いたということなんだよね。
なんだかもう訳がわからない。リーネがいると思って倒してみたら、奥の部屋で見つけた。本当に良かった。あの化物についても私一人で対応しきれなかったかもれない。
本当に感謝する。
思えば私は過信していたのかもれない。
魔族が扮した偽物のリーネ様に騙されてしまう体たらく。
リーネ様を連れてトイレに向かうとき、事前に部屋をチェックしておけば、このような事態は防げたはず。
王国最強といわれても護衛の知識も経験も未熟である。
私には戦場が似合っている。
サイラスとの約束でリーネ様の護衛を申し出はしたが、護衛には私よりも適任者がいるはず。
決めた。私は戦場に戻ることにする。
あの砂漠地帯で死ぬまで戦い、サイラスの後を追う。
その決断をする切欠をくれたクロノとルッカ、あとリーネ様にそっくりなマール殿に今一度感謝を述べたい。
遠くの国からやってきたという彼らが、次回この国に来るとき、恥じないような国になっていることを望む。
次回マールトリガー(マール視点でみるアレンジクロノトリガー)