無下限、六眼持って転生したけどサイタマが居ない 作:一般通過ドブカス
「……ゲホッ」
五条の口から零れ落ちた血が、ボロスの腕を伝い地面へと吸い込まれていく。両腕を失い、心臓を貫かれたことで死に体になった敵の姿をみて、ボロスは何処か悲しそうに笑った。
「……本気の俺とここまで戦えたのは貴様が初めてだ」
五条の強さは確かなものであり、ボロスは間違いなく本気で戦った。しかし、ボロスは未だ全力を出し尽くしてはいなかった。
予言を信じ20年かけてまで訪れた遠い宇宙の果ての地。そこにいた強者は紛れもなく過去最強の敵であったが、己の全てを賭して戦うことのできる対等な敵ではなかった。
「なかなか楽しめたぞ」
ボロスの腕が五条の胸から引き抜かれた。
五条の体から力が抜け、崩れ落ちるように地面に沈み込んでいく。
―――半ばまで沈み込んでいた五条の体が、ゆるりとした動きでボロスの懐へと滑り込んだ。
「―――ッ!?」
心臓を貫かれ、一度全身の力が抜けたことで一瞬だけ偶発的にたどり着いた"武"の極致。究極の脱力によって生み出された、意識の隙間を搔い潜る予備動作なしの踏み込み。それは、ボロスですら見えていても反応することが出来なかった。
心臓すら放置し、最優先に治療したことで辛うじで形を成した右腕が、ボロスの腹部を撃ち抜く。
――――黒閃!
死神の鎌に首を半ばまで切り裂かれ、極限まで研ぎ澄まされた五条に、黒い火花が微笑んだ。
「ぐっ!」
後方に吹き飛ばされたボロスは、メテオリックバーストを使用して以降初めて明確なダメージを受けた。そして、未だ眼前に立つ己の敵が更なる高みに上ったことを感じ取り、初めて心の底から笑いながらゆっくりと構えた。
「いいぞ! そうでなくては倒しがいがない!!!」
その様子を見ながら、五条は冷静に思考を回していた。
「(これが黒閃。これが、呪力の核心! ……だが、全能感など抱く余裕なんてない)」
黒閃を放った瞬間に全身を包んだ全能感は、自身が高みに上ったことでより鮮明に感じられるようになったボロスの力を見て一瞬にして消え失せた。
確かに先ほどまでと比べると大幅に差は縮まったが、ボロスの力は未だ届かぬ領域にあった。
「(それに、さっきの一撃。頭を狙われていたら確実に死んでいた。次はない)」
ボロスが五条の胸を貫いた一撃。あの一撃が放たれる間際、死を目前にして選択を迫られた五条は、ボロスの強さを信じることに決めた。
刹那にも満たない時間のなか、五条は残された猶予で心臓を守ることに全力を注ぎ、手をよせ、呪力を集中させた。そして、その様子を鋭敏に感じ取ったボロスは、心臓が五条の急所だと判断し的確に攻撃してみせた。
「(呪力は腹で回し、反転術式は脳で回す。呪力の性質に助けられた)」
ボロスは五条が極限の状況で張ったブラフに引っかかったことを察し、次は確実に頭を狙うだろう。そして五条もそれを理解しているため、自身が死地に立っていることを強く実感していた。
五条とボロスが、仕切り直すように静かに構え向き合う。未だ実力で劣る五条がした選択は、真っ向勝負。
ボロスに向かい、五条は正面から踏み込んだ。迎え打つように放たれたボロスの拳を、五条が受け流す。
「(重い! だがっ……!)」
五条の手には痺れが残りその表皮がはじけていたが、それでも、五条はボロスの一撃をなんとか受け流してみせた。
受け流した力の向きを変えることで自身の力に上乗せし、流れるように掌底を放つが、その一撃は差し込まれたボロスの腕に阻まれた。
五条とボロスの体が躍動し、刹那の間に無数の衝突が起こった。五条は呪力強化の質が上がったことでボロスの攻撃を辛うじて受け流せるようになったが、その攻撃はボロスの巧みな防御によって阻まれ体にまでは届かない。
「蒼!」
五条は八つの蒼を生み出すと、自身とボロスの周囲を取り囲むように不規則に旋回させた。
黒閃を経て威力が上昇したとはいえ、メテオリックバーストを使用しているボロス相手に順転の出力では何ら影響を与えることは出来ない。五条もそれは理解しているため、完全に移動用と割り切っていた。
「それは一度見たぞ!!」
ボロスは蒼を用いた超高速での移動にすら対応してみせる。移動する前の刹那にも満たない蒼の引力の高まりを感知し、五条が次に飛ぶ方向を読んでいた。
五条による超高速の移動からの攻撃は、五度目の移動を終えた瞬間にその眼前に迫るボロスの拳により中断せざるをえなかった。五条は交差させた腕の上から殴りられたことで、血を吐きながら後方へ吹き飛んだ。
「―――位相 黄昏 智慧の瞳」
吐き出した血を噛みしめ、圧縮された時の中で五条の詠唱が紡がれる。
ボロスの周囲に残された蒼のうち、七つがその瞬間に最大出力で爆ぜた。
「なにッ!」
炸裂した引力はボロスにとって影響を与えることはできない。しかし、ボロスの視界を眩ませる同時に、その後方に一つだけ残された蒼が放つ微細な引力をかき消すことに成功した。
そして、一つだけ残った蒼を使用することにより、吹き飛ばされていたはずの五条はボロスへ衝突する形でその懐に現れた。
蒼の炸裂が続く中、ボロスの体に密着するように添えられた手から、ほぼゼロ距離の打撃が繰り出された。
――――黒閃!
黒い火花が、再び五条に微笑む。二度目の黒閃を経て、五条のボルテージが上がっていく。
「ふふっ、クハハ、クハハハハハッ!」
五条の一撃によって吐血するほどのダメージを受けたボロスは、笑いながら五条へ向けて飛び出した。
ボロスが一撃放つ度に、五条は精神がすり減っていくような錯覚を覚えていた。黒閃を二度放った今の五条でもボロスの攻撃を正面から受けたらただでは済まない。故に、流水岩砕拳を用いて攻撃を受け流すことで凌いでいるが、僅かにでも受け手を間違えると力の流れを断ち切られる確信があった。
「くそッ!」
五条は決して受け手を間違えなかった。しかし、緻密に組み立てられたボロスの攻め手により、一撃が通るだけの綻びを生み出されてしまった。
五条は、その一撃が自身の防御をすり抜け自身に直撃する前に、呪力を腹に集中させながら自分から後方へ飛びのいた。
「うぐッ!」
呪力を集中させ、後方へ飛ぶことで威力を軽減させてもなお、五条の腹の表面が爆ぜたように抉られていた。
「(このままだと確実に負ける!!)」
ボロスが慣れたことで、その拳が無限の壁を突破する際の減速は次第に無くなってきていた。五条は、このままではそれが完全になくなった瞬間に自分が敗北することを悟った。
「おおおおぉぉぉ!!」
空中で停止した五条に追撃するボロスに対して、五条は防御を最低限にし、身を切ってでもボロスへ反撃を叩き込むことに決めた。
ボロスの拳が振るわれるたびに五条の肉が弾け、鮮血が宙を舞う。それでも、五条は致命傷だけを避け続けながら、時には拳を、時には脚をボロスの肉体へと届かせ続けた。
正面から打ち合う二人は、ボロスが五条の肉体を十度抉るうちに五条の一撃が一度届くかどうかというほどボロスが優位に立っていた。
一合打ち合うたびに五条の命がすり減っていくなかそれでも攻め続けてみせた五条は、その極限まで高まった集中力により、再び黒い火花を自らに微笑ませて見せた。
――――黒閃!
通常の反撃に紛れて唐突に放たれた強烈な一撃により、ボロスの攻撃が一瞬だけ途切れた。
「赫!」
赤い衝撃がボロスを突き抜けるも、与えたダメージはボロスの驚異的な再生力によって瞬時に回復された。
「―――ははははっ!」
再び、五条とボロスが打ち合う。五条の反撃の頻度が、五回に一度程度にまで上昇していた。
五条は、この世界に転生してから初めて戦闘を楽しいと感じていた。黒閃を放つ度に近づく呪力の核心。自身の力が高まり、一合ごとに洗練されていくような感覚。そして、その全てをぶつけてもなお凌駕してくる強敵の存在。
「まさかこれほどとは! いいぞ! もっと俺を楽しませろ!!」
「……お前の気持ちが少しは分かった気がするよ」
――――黒閃!
黒い閃光とともに五条が放った蹴りは、ボロスの腹部を陥没させるほどの威力に達していた。
吹き飛ばされ地面を滑るボロスに仕掛けたドロップキックは両腕で防がれるも、次いで振るわれたボロスの拳を蒼の引力で地面に落ちるように回避する。
瞬時に跳ね起きて振るわれた五条の拳とボロスの拳がお互いの胸に突き刺さり、双方が勢いよく弾き飛ばされた。
「―――この俺に並ぶか! ……ならば!!」
この日四度目となる黒閃を放った五条は、呪力強化を本気で使用した際の身体能力において、現在のボロスに限りなく近しい領域まで辿り着いていた。
ボロスが、目の前の男は己が全力を持って打ち倒すべき強敵であることを認めた。
「ウ……オオオオォォォォオオォォォ!!!」
ボロスの速度が、放たれる攻撃の重みが格段に増す。それは、ボロスの全身全霊を懸けたまごう事なき全力だった。
「(まだ上があるのか!!)」
光りすら置き去りにせんとばかりに放たれたボロスの連撃を、五条は紙一重で凌いでいく。それは、ボロスに近い領域に辿り着いたはずの五条が、蒼による加速と流水岩砕拳を全力で使用してようやく凌げるほどの連撃だった。
「は!?」
五条の流水岩砕拳による防御が唐突に乱される。その原因は、先ほどまでと変わらず全力で放たれているように見えるボロスの一撃が、見た目は変わらずその威力だけが大幅に変動していたからだった。
強力な攻撃を受け流そうと込めた力が空回りすることで綻び生まれ、対処しようと力を調整するが、無数に放たれる一撃一撃に込められた力を読み切れないことで力の流れを断ち切られる。
「ぐッ、おお!!」
五条の防御を崩したことで、無数に放たれるボロスの拳のいくつかが五条へと突き刺さる。
このままでは流水岩砕拳による防御が完全に崩壊することを悟った五条は、どのような威力が込められていようと相殺できるように呪力を集中させた拳を強引にボロスの拳へ叩きつけることで一度仕切り直そうとした。
「―――噓だろ」
五条が叩きつけたボロスの拳に込められた力は、皆無だった。五条の拳が空を切るようにボロスの拳を押し戻す。そして、拳同士が接触している点を起点にして、ボロスは流れる水のような流麗さで五条の一撃を受け流し、その力を余すことなく五条へと叩き込んだ。
ボロスが見せた一連の動きは、流水岩砕拳を使う五条の動きに酷似していた。
「がはッ!」
五条は鳩尾を拳大に陥没させられ、血を吐き出しながら吹き飛んだ。無下限呪術を用いて急停止した五条だったが、制止したときには既にボロスが背後に回り込んでいた。
咄嗟に振り向きざまに放った回し蹴りが空を切る。ボロスは、床を這うような姿勢の低さで五条の死角に入り、床を滑るように背後に回り込むと、重く、地を這うような体重移動を行い放つ拳によって差し込まれた五条の腕の骨を粉砕した。
「蒼!!」
五条は苦痛に顔を歪めながらも自身の周囲に八つの蒼を展開する。しかし、その直後、鞭のようにしなったボロスの両腕がその全てを撃ち抜いたことで蒼は強制的に炸裂させられた。
「この俺が技巧すら使うことになろうとは!!!」
ボロスが揺らめくように不規則な連撃を放ったかと思いきや、次の瞬間には地を割くような踏み込みとともに強烈な一撃が繰り出される。そしてまた次の瞬間には動きの質が全く別のものへと変貌していく。
「(動きが、読めない! あまりにも技の引き出しが多すぎる!!)」
それは、全宇宙の覇者を名乗ることが出来るほど無数の星々を股にかけ戦い続けたボロスの戦いの歴史そのもの。これまでボロスに打ち破られてきた無数の強者たちが、その人生を懸けて磨き上げボロスに叩きつけた技の記憶。
ボロスの天才的なセンスと膨大な戦闘経験によって再現されたその動きは、ボロスの力を更に上の次元に引き上げていた。
「(不味い!)」
五条は、防御が追いつかずこのままでは0.1秒と持たず敗北することを確信し、これまで温存していた札を切ることに決めた。
五条は掠めるようにして右目を抉られながらも、その場に腰を落とし、両手を抱え込むように構えた。
――――簡易領域
五条の体を中心に円形の領域が広った。それは、ただ必中効果を無効化するものではなく、自動迎撃のプログラムが組み込まれた領域だった。
ボロスによる千変万化の攻撃に対し、五条の体が限界を超えた反応速度で最善手を紡ぎ始めた。
「これすらも凌ぐか!」
ボロスの攻撃が放たれ、その瞬間にすでに五条は迎撃を行い始めている。思考する時間を切り捨てることで生まれた刹那の猶予が、ボロスの怒涛の攻撃を凌ぎ、反撃に転じることを可能にしていた。
「だが、それではこの俺には勝てんぞ!!」
簡易領域による自動迎撃は、思考を介在させない故の最速かつ最善手が強みだ。しかし、それは言い換えればすべての対応がパターン化されているということ。同一の攻撃には、同一の反撃を行う。その機械的な攻撃は、慣れてしまえばボロスにとって容易に崩せるものでしかなかった。
「わかってるさ!」
簡易領域を用いて稼げた時間は一秒にも満たない。強烈な反撃を食らった五条は簡易領域を解くと、二度目の黒閃を放った際に使用し、未だ待機させていた蒼の元へと飛んだ。
五条に回復の間を与えないため、即座にボロスが襲い来る。そして、僅か数瞬打ち合っただけで体勢を崩された五条の脇腹をボロスの拳が大きく抉り飛ばした。
「(―――ここだ!)」
五条は、自身の脇腹を突き抜けた腕を抱え込むように抑えると同時に、ボロスの片足を踏み抜くことで一瞬だけその場に固定した。
五条はここで領域を展開することは出来ない。仮に展開しようとしたら、必中効果が発動する前にボロスの拳により頭を撃ち抜かれるからだ。しかし、今にも拳を振り抜こうとしているボロスを見ても、五条はその場に押しとどめることをやめなかった。
「読めているぞ!」
動きを止めた五条の頭へ絶死の一撃を放とうとしていたボロスが、体を捻りその上体を逸らした。
ボロスの体を掠めるように通過したのは、三度目の黒閃を放った際に、実は炸裂させずに、一周してこの地点に返ってくるように放っていた赫だった。
「―――終わりだ!」
背後から迫る赫すら躱して見せたボロスは勝ちを確信し、炸裂前の赫を追い越す速度で五条の頭へと拳を振るう。
「―――信じていたよ」
五条は、ボロスが躱したことで自身に迫り来る赫の軌道上に、先ほど移動に使用した蒼を割り込ませた。
――――虚式「茈」
紫光が爆ぜる。
ボロスの拳が五条に届く前に、解き放たれた無制限の破壊の嵐がすべてを飲み込んだ。
「……ッッオ゛オ゛!!」
光すら止まぬなか、ボロスの声が響き渡る。
ボロスは、自身の両手に圧縮していた膨大な二つのエネルギーを咄嗟に解き放つことで虚式「茈」を一部相殺し、己の核を守ることに成功していた。そして今、弾け飛んだ己の肉体を即座に再生してみせた。
――――領域展開 無量空処
ボロスが自己再生したその瞬間、動き出せるようになるまでのほんの僅かな硬直の間に、五条の領域がボロスを飲み込んだ。
無数に煌めく光の中、二人は向き合うように立っていた。
五体満足なボロスに対し、五条は左腕を完全に失い、その他にも大きなダメージを受けていた。これは、呪詞を唱える猶予がないまま放たれた虚式「茈」ではボロスを仕留めきれないと判断した五条が、最速で領域展開を行うために左腕を完全に捨てた上で右腕と喉を集中して守った結果だった。
「……何とか間に合ったか」
五条は数回の黒閃を経たことで向上した領域展開の速度ですらボロスを領域内に引き込むにはギリギリのタイミングだったため、無事に領域展開を発動できたことに安堵の息を吐いた。
「ぐッ!? なんだッ、これは!!」
ボロスが無限に流し込まれる情報に額を抑えながら顔を歪めた。
「(有効ではありそうだが……必殺にはならないか)」
本来であれば、無量空処は引き込んだ対象の思考や行動を完全に停止させ、そのまま脳が情報を処理しきれず死亡するか、無防備に攻撃を受けて死亡するという必殺の技であった。
しかし、脳の構造が違うのか、あるいはボロスの情報処理能力があまりにも高いのか、ボロスには酷い頭痛と行動が鈍る程度の効果しか与えられていなかった。
五条は無量空処の効き目が薄い可能性は考えていたので特に動揺はせず、強化された呪力出力により全身を修復した。
「素晴らしい……ならば……」
ボロスは、メテオリックバーストによる体への負担の蓄積、無下限を破るために必須となる崩拳を再び使用するためのエネルギーコスト、そして、現在置かれている無量空処の影響を鑑みて、最後の切り札を切ることに決めた。
「もう一つの切り札をくらえ!!」
ボロスが空中へ飛び上がりと同時に、その口元へと膨大すぎるほどのエネルギーが集約してゆく。
「全エネルギーを放ち、貴様もろともこの星を消し飛ばしてやろう!!!」
あまりにも膨大なエネルギーを集約させているため、その余波だけで大地が融解するほどの熱量と無数のプラズマが五条を襲う。
五条はその光景を無限の壁越しに眺めながら、自身の全てを込めて詠唱を始めた。
「位相 黄昏 智慧の瞳 術式順転「蒼」」
「位相 波羅蜜 光の柱 術式反転「赫」」
ボロスの全エネルギーの集約が完了したと同時に、かつてない光を放つ蒼と赫が混じり合い紫の光が生まれる。
――――崩星咆哮砲!!!
――――九綱 偏光 烏と声明 表裏の間 虚式「茈」!
ボロスの放った地球を粉砕するほどの超高威力のエネルギー砲に対し、詠唱をしたことにより数瞬遅れて五条の虚式「茈」が放たれた。
数瞬遅れたことによって、虚式「茈」を放つときには既にボロスの崩星咆哮砲が五条の眼前に迫っていた。しかし、放たれた虚式「茈」は崩星咆哮砲とは
「―――悪いが、必中なんだ」
虚式「茈」は放たれた瞬間にボロスへと着弾した。
崩星咆哮砲が五条の姿を飲み込むのと同時に、炸裂した虚式「茈」による強烈な光がボロスを飲み込んだ。
次の瞬間、領域が崩壊する。
崩星咆哮砲は無限の壁を纏う五条を飲み込みながら突き進み、その強大すぎる威力によって領域の内壁を容易く打ち砕いた。しかし、ボロスが下へ放ったはずの崩星咆哮砲は空を突き抜け、月を掠めながら宇宙の彼方へと突き進んでいった。
「領域の座標の変更。何とかなったか……」
領域が崩壊したことで空中で上下反転した姿勢となった五条は、崩星咆哮砲の余波と虚式「茈」により今にも落ちそうになっている船へと降り立った。
領域展開後ボロスが崩星咆哮砲を放とうとしていることを察した五条は、領域内には影響が出ないように領域の上下を反転させていた。これにより、ボロスが地球目掛けて下へ放った崩星咆哮砲は空へと打ち出されることとなった。
「あー、しんど」
五条は、沈みゆく船の甲板に両手を広げながら倒れこんだ。その胸中にボロスに勝てた喜びはほとんどなく、疲労や羞恥が大半を占めていた。
「……慢心、だよなぁ」
油断や慢心をしてるつもりはなかった。しかし、ガロウや神を見据えていた五条にとって、心のどこかでボロスは容易くとは言わずとも勝てる相手という扱いになってしまっていたのだろう。
しかし、実際にはどうだろうか。メテオリックバーストを使用したボロスは純粋な身体能力で五条を大幅に上回り、無限の壁すら容易く突破して見せた。さらには、無限の壁があるため両手しか有効打にならないにも関わらず体術で五条を圧倒した。
切り札の威力でもボロスが上であり、崩星咆哮砲と虚式「茈」が真正面からぶつかっていたら虚式「茈」は打ち破られていただろう。
五条の勝利は、ボロスの切り札を知ったうえで呪力の特性や結界術の性質、無下限呪術の性能など、言うなれば呪術廻戦のルールを押し付け初見殺しを連発し、それでもなお薄氷の上での勝利だった。
「はぁ……鍛えなおしだな。それに、いろいろ考え直さないとな」
最近の五条にとっては、災害レベル竜の相手ですらまともに勝負にならなかった。それ故、自分は強くなったと思っていた。しかし、ボロス戦を経てこの世界の理不尽さを改めて実感した五条は、サイタマとは違い自分一人ではこの先の脅威を打ち破ることは出来ないと痛感していた。
「ま、黒閃を経験出来たし、僕もまだまだ成長できる。その上でS級を巻き込んで何とかするしかないか」
五条が寝転ぶ船のあちこちで爆発が起き、本格的に船が落ちようとしていた。
少しは気力が戻り、勢いをつけて起き上がった五条に対し、背後から声が投げかけられた。
「俺は…敗れたのか……」
五条が瓦礫を踏み越え進むと、そこには体の大半を失い、満身創痍となったボロスの姿があった。
「予言の通り、対等ないい勝負だった」
今にも力尽きそうになりながらも、何処か満足げにそう言ったボロスに対し、五条はどこか苦い顔をしながら答えた。
「対等……か。地力では、お前の方が明らかに勝っていた」
ボロスは、血を吐きながらも笑っていた。どこまでも愉快そうに、そして、有無を言わせぬ迫力を持って告げる。
「……ふっ、それでも、お前はこの俺に勝ったのだ。誇れ。それが勝者の義務だ」
五条は自身の両頬を叩くと、その顔に不敵な笑みを浮かべる。
「……そうだな。楽しかったよ」
五条が歩き出す。
ボロスからの返事はなかったが、五条の瞳から迷いや不安は既に消えていた。
呪力の性質や領域含めた結界術のルールって呪術本誌だと当たり前に対策してるため忘れられがちですが、縛りを含めた自由度の高さも相まってかなり無法な性能してると思います。それでも、理不尽なオリジナル技等を出さずにボロスを倒すのが鬼門すぎました。
これまで読んでくださった読者の皆様、誠にありがとうございます。書き始めた時はボロス戦で終わりとする予定でしたが、想定外に多くの読者様に読んで頂き、続きを楽しみにして下さる方々のためにも続きを書こうと思っております。それに伴い、次話で船が落ちた後の話を少しだけした後は、しばらくお休みをいただきます。
理由としては、最近少しづつ考えてはいましたが、今後の展開のプロットがなかなか納得のいく完成度に到達しないからです(ガロウ戦の構想はありますが、そこに至るまでの流れがone版と村田版で大きく異なることでどうするか決めかねています)。
納得のいくプロットが完成し次第続きを書いていこうと思いますので、その時は再び読んでくださると幸いです。