ワールドトリガー/四方隊 作:匿名C級隊員
四方は、開始の合図と同時に、家の屋根から家の屋根へと次々に跳んで移動していた。
──相手のトリガー構成はまだ、孤月を使う、ということしか把握できていない。
──……しかし、それは新田くんも同じはず──この一戦は重要だな。
四方はそう考え、一度地上に降り、路地裏に身を隠す。
路地裏に入る際に、四方はマント型のトリガー──「バッグワーム」を起動していた。
バッグワーム。
着用することで、トリオン体の反応を隠すことのできるトリガー。
これにより、レーダーに映らなくなる。
隠密行動時や奇襲の際に使われる便利なトリガーであり、四方が知るB級以上の隊員は皆セットしている。
──一旦は戦術を立てる時間が出来たな。
そう考えながら四方はレーダーを表示する。
レーダーには反応はなく、おそらく新田もバッグワームを着用して、移動していることが窺える。
そのままレーダーを閉じ、四方は新田の動きと実力を考えながら戦術を練る。
──新田くんのポイント、そして個人ランク上位勢の話から察するに、まず「一対一の実力は非常に高い」と見るべきだろう。
──その場合、正面からでは俺に勝ち目は薄い。
どうにかして、奇襲を仕掛けたいところだな、と戦術を考え始める四方だったが──その行為は一瞬にして無意味なものとなる。
「──ッ!」
思考よりも先に反射で四方は後ろへ回避する。
瞬間、路地裏を形成していた壁は轟音と共に、一つの斬撃によって斜めに切り裂かれた。
その斬撃の名は──「旋空孤月」。
旋空。
孤月の専用オプショントリガー。
トリオンを消費し、刀身を拡張する……といっても見た目は飛ぶ斬撃だが。
刀身の拡張は、旋空の効果時間と反比例して伸びる。
ボーダー隊員はこの旋空による孤月の斬撃を、旋空孤月と呼んでいる。
「……見つけた」
四方は驚き、そして一瞬だが、確かに恐怖を感じた。
それは、路地裏の壁を破壊され、場所を見つけられたことにではない。
そして、その斬撃の威力にでもない。
ただ、あまりにも新田の声が冷たかったからだ。
まるで機械のような声は、感情を感じられない。
戦闘が始まる前と後では、まるで人が違うような感覚だ。
そんなことを考える四方に新田は孤月を両手で持ち、斬りかかる。
四方は孤月を片手で振るいながら、距離を取るために下がる。
──剣戟に隙がない……!
速く隙のない刀捌きで、下がる四方に追撃を入れる新田。
防御用トリガー──「シールド」を展開しつつ防戦に徹する四方。
しかし、一撃、二撃、と防御の隙をついて四方の身体を斬りつける。
──このままじゃ、後ろの壁まで追い詰められるな。
──仮にこの状況から抜け出せても、防戦一方じゃ、結局はトリオン切れで
四方はそう判断し、一度攻勢をかける。
空いている左手に一つの立方体が出現する。
そして、その立方体は細かく分割された。
「
そんな四方の声と同時に、細かく分割された立方体──弾は新田へと放たれる。
その球を警戒するように新田は全身を覆うようにシールドを展開する。
四方が放った弾はその名の通り、新田の前で、弾道を変化させる。
今まで直線の軌道を描いていた弾道は、突如として新田を全方位から囲むようにその軌道を変化させた。
弾道を自由に設定できる変化弾。
遮蔽物を避けたり、相手の予期せぬ方向からの攻撃を実現できるトリガーだ。
しかし、制御が難しく、多くの隊員は予め使いやすい軌道パターンをイメージしておき状況に応じて使い分けている。
先ほど四方が放った弾道は、多くの隊員が使う代表的な弾道パターンだ。
そのため、先ほどの新田のように弾道を先読みし、事前にシールドを展開されることもある。
一瞬だが、バイパーによって新田の足が止まった。
その隙に、四方は残る路地裏の壁を蹴り、上へ跳ぶ。
そして、バイパーをもう一度放ち、一旦距離を置く──はずだった。
「……」
バイパーをシールドで受け切った新田はすでに、四方の前まで跳んできていた。
──グラスホッパーか!
そう四方が結論づけると同時に、四方の首は斬り落とされた。
『四方、ダウン──
機械音声が響く。
それと同時に四方のトリオン体は爆発し、一つの光が上空へ打ち上がった。
四方VS新田、五本勝負──第一戦、新田の勝利。
── ── ──
127号室、室内。
「……強いな〜」
一人そんなことを呟きながら、脳内では先ほどの戦闘で得た情報を整理する。
──剣術の腕前はボーダー内でもトップクラスだろう……なんか他の人と若干動きが違うけど、実際に剣術や剣道とかを経験しているのかな?
──旋空孤月は、他の人より少し射程が長い気がするな……。
──そしてグラスホッパーによる高機動の戦闘スタイルか。
グラスホッパー。
移動用のトリガーで、空中に反発する正方形の光の板を作り移動できる。
いうなれば、小さなジャンプパッドのようなもの。
まさに機動戦用のオプショントリガー。
一度使用した足場は消滅する。
一応分割もできるが、一枚の威力が減る。
「新田くんは機動戦特化の
四方はそう判断した。
ベッドから起き上がり、次の戦闘に挑もうと操作パネルに向かう。
──まだ、一本取られただけだ……できる限りのことはするさ。
そうして、四方は対戦相手を選んだ。
── ── ──
ブース、ロビー。
多くの隊員が集まるそのロビーで、多くの者の視線は一つの画面にあった。
ブースのロビーには、前方に電光掲示板のような画面があり、そこには各部屋の番号が書かれている。
その部屋に誰かは入っていれば、赤く点灯する仕組みだ。
しかし、視線の先はその上にある画面。
その画面には「四方VS新田」と表示されている。
一戦目の枠には新田には丸が、四方にはバツがつけられており、勝敗がわかるようになっている。
そんなロビーの光景を見て、一人の隊員は不思議そうに見ていた。
その隊員の名は──
そして、そんな黒羽に近寄る人影が一つ。
「……セクハラはやめてくださいね?」
「いやいや、黒羽ちゃんにはできないよ」
少し困ったような表情をしながら黒羽は語りかける。
「いや、わたし以外にもなんですけど……まあ、それは後でいいか。それにしても、珍しいですね、迅さんがこっち来るなんて」
そうして、迅、と呼ばれた男は黒羽に語りかける。
「そりゃあ、たまにはこっちにも来るさ。実力派エリートだからな」
「……それで?誰に用事があって来たんですか?知っている範囲なら場所、案内できますよ?」
「いや、その必要はないよ。だって、黒羽ちゃんに会いに来たんだからさ……黒羽ちゃんへのアドバイスをしに、ね?」
あるA級隊員とB級隊員の会話。
太刀川「おまえの旋空、アレって効果時間何秒なんだ?」
新田「……え?知らなかったんですか?一応0.4秒ですけど」
太刀川「なるほどな。ってことは生駒旋空よりは少し射程が短いのか」
新田「そうですねー。イコさんの旋空はちょっと実戦では成功率にばらつきが出るんで」
太刀川「へー、おまえでも無理なのか」
新田「……まあ、そうなりますね。けど!剣術ではイコさんの上ですよ……居合術はちょっとだけ、イコさんのが上ってだけで──」
── ── ──
同時刻、ある部隊の作戦室。
生駒「……今、なんか、褒められた気がする!」
水上「気のせいでしょ。今、なんもしてへんし」
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