ワールドトリガー/四方隊 作:匿名C級隊員
「……わたしにアドバイス?迅さんが?」
「そう、アドバイス」
ブースのロビーで、二人の隊員が話していた。
その内の一人、黒羽に迅と呼ばれた男──
茶色の髪をサイドを残してオールバックにした髪型、179cmの身長。飄々とした青年。
首元には、ブリッジ部分が無い不可思議な形のサングラス。
ボーダー内に二人しかいないS級隊員であり、ボーダー内でトップクラスの知名度に、彼の所有する
S級隊員。
ボーダー内での例外的な階級であり、「
黒トリガーという桁違いの性能を持つトリガーを所持しているが故に、ランク戦には参加できず、部隊を組むこともできない、そんな例外的な階級がS級なのだ。
そんな迅が、アドバイスをしに来た、といった相手──黒羽千秋(17)。フリーのB級隊員。
黒い長髪に、女性にしては高い172cmの長身。中性的な顔立ちと、
男物の服を着れば美男子へ、女物の服を着れば、美少女へ──そんなボーダーでも屈指の麗人だ。
そのためか、たまに嵐山隊と共に広報活動を行なっている。
その容姿と、彼女が所有しているサイドエフェクト、その実力で彼女の知名度は、ボーダー内でもかなりの知名度だ。
そんな二人が、ブースのロビーで話しているのだから、当然注目される。
ロビーにいる数名の隊員は、前方の画面から、二人に視線を移している。
しかし、二人は視線を気にもせず話し続ける。
「黒羽ちゃんって、今フリーの隊員でしょ?そろそろどっかの隊に所属するのも良いんじゃないかな〜って思ってさ」
「……その、わたしが部隊に所属することと、今対戦しているあの二人が関係ある。ということですか?」
「ま、そういうこと。四方くんは今、新規部隊結成の隊員募集中でさ……黒羽ちゃんの求めてるタイプの隊長になると思うよ?」
黒羽は少しだけ疑いの目を迅に向けた後、周りの会話に耳を傾けた。
一応は、二人の名前は知っているが、話したことはない。
聞こえてくるのは四方VS新田を観戦しているC級隊員達の会話。
「──いやー、四方さん結構早めに一本取られたな」
「新田さん強いし、しょうがないだろー」
「しかも四方さんは一対一が強いタイプじゃないしさ……まあC級の俺よりかは全然強いけど……」
「そりゃそうだろ。最近じゃ四方さんマスタークラス到達したんだぜ?俺らよりは強いさ。……あ、また一本取られた」
「これで、新田さんが三本か。四方さんなら、一本ぐらい取りそうだけどな──」
──結構ワンサイドの展開なのかな……?
C級隊員達の会話を聞きなんとなく状況を把握した黒羽。
その様子を確認した迅は黒羽に語る。
「あの二人のイメージはどう?」
「二人とも知ってはいますね。ただ、そこまでちゃんと話したことはないのでなんとも……」
実際、黒羽は二人については少しは知っている。
その理由の一つ目は高校が同じため、二つ目は二人ともフリーにしては有名な方の隊員だからだ。
ただ、最近は広報担当である嵐山隊と行動することも多く、忙しかったため、あまり会話はしていない。
「ちなみに、迅さんのアドバイスの根拠はなんなんですか?わたしの求めるタイプの隊長って言ってましたけど」
「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
「……まあ、なんとなくは分かってましたけど、そうですよね」
迅の言葉を聞き、黒羽は思考を巡らせる。
──あの迅さんがわざわざ、自分でわたしにアドバイスをしに来たと言うことは、この選択は大事なものなのだろう。
──わたしに部隊に所属するように言ったのは、サイドエフェクトで「見た」ものが関係しているはず。
──少なくとも、良い未来に向かうために、わたしはここで部隊に入隊する方が良いのだろう。
──まあ、新規部隊のメンバーなら少し気持ちは楽かな……隊長と隊員の雰囲気次第だけど。
──……流石に、「未来視」持ちの迅さんからのアドバイスは無視できないし。
そうして黒羽は結論を出した。
「……迅さん、アドバイスありがとうございます。だけど、入隊するかは、一旦二人に会ってからにします」
── ── ──
市街地、時刻昼。
「五本目開始」
転送完了と同時に機械音声が試合の開始を告げる。
新田は、孤月をすぐに抜けるよう柄に手を添えながら、奇襲を狙うべくバッグワームを装着し、足音を消して走る。
四本目も勝利した新田は、この五本目の戦闘の勝てばストレート勝ちだ。
──とはいえ、油断はできないな。
新田はここまでの四戦全て油断はしていない。
しかし、それでも何度か危うい場面があった。
新田はこれまでの戦闘で、単純な戦闘能力だけなら自分が上回っていると確信していた。
だが、四方はその足りない部分を技術と頭脳で補ってくる。
ここまでの戦闘で確信に変わったが、間違いなく四方のポジションは
──武器は孤月と、
──土壇場で、初見のアステロイド撃たれた時は正直焦ったなー。
四方はここまでの戦闘で
──特にバイパーは扱い慣れていそうな感じだった。
そんなことを内心で考えている新田だったが──右手前にある家の屋根付近から弾が飛んでくるのを視認した。
同時に四方の姿を視認した新田は感情を消し、完全な戦闘モードへ。
「……」
直線の弾道でで飛んできた弾は、新田の手前で横へばら撒くように拡散する。
──やっぱ最初は牽制のバイパーか。
最小限のシールドで当たりそうな弾を防ぎ、すぐさまグラスホッパーで距離を詰めにかかる。
しかし、四方は距離を詰めさせないようにアステロイドを放つ。
──少し弾速が遅いな、威力重視のアステロイドか。
そう判断した新田はグラスホッパーを展開し、横方向へ回避する。
そのまま回避した先にある家の屋根に着地したと同時に抜刀し、旋空孤月を放つ。
横方向に伸びる斬撃は、目の前の住宅を容易に斬り裂く。
斬撃によって倒壊していく住宅の隙間から、新田に向かって斬撃飛んでくる。
四方の旋空孤月だ。
それを上へ跳躍し避ける新田。
しかし、四方もそれを見逃さない。
すぐさま、新田へ向かって弾が放たれる。
──どっちだ?
アステロイドでシールドごと割って被弾させるつもりか?
それとも、バイパーの包囲する弾道でシールドの裏を突くのか?
弾の種類とその弾道をギリギリまで見極めることにした新田。
そして、弾の弾道は新田を包囲するように変化する。
──包囲する弾道で来たか。
そう判断すると同時に、自分を包囲するよりも早く新田はグラスホッパーで左へと移動した。
そう、新田は弾道を見極める際にすでにグラスホッパーを展開できるように準備していたのだ。
新田は空中で居合の構えをする。
──さっき弾は撃ってる、カウンターがあるとすれば旋空ぐらいか。
新田の予想は当たっていた。
視線の先には、地面に両足をつけた状態で同じく居合の構えをしている四方。
しかし、一つだけ新田は間違っていた。
「──ッ!?」
新田の体を横から弾が貫いた──四方のバイパーだ。
完全に不意を突かれた新田はトリオン体の急所を破壊され、
──ハウンド!?いや、確かにこれはバイパーなはず──まさか、リアルタイムバイパーか!?
リアルタイムバイパー。
ただでさえ、制御の難しいバイパーの複雑な軌道を戦いながらリアルタイムで設定することができる者が扱うバイパーのことを、隊員たちはリアルタイムバイパーと呼んでいる。
この技能には、イメージする力、客観的視点、空間認識能力などがハイレベルで要求され、ボーダー内でリアルタイムバイパーを扱えるのは、那須、出水、四方の三名だけだ。
──この一戦まで、リアルタイムバイパーを隠してたのかよ……こりゃ一本取られたな。
新田は笑顔で敗北を認めた。
「
市街地に機械音声が響く。
四方VS新田、五本勝負──第五戦、四方の勝利。
あるA級隊員とB級隊員の会話。
黒羽「あ、烏丸くん」
烏丸「ああ、黒羽先輩ですか。どうかしましたか?」
黒羽「わたしも烏丸さんと同じオールラウンダーになったよ。師匠には、一応報告しとこうと思ってさ」
烏丸「ポイント結構貯めましたね、おめでとうございます。……師匠にはってことは出水先輩にも報告した感じですか?」
黒羽「うーん……別に出水くんはいいかな〜。だって、ほとんど烏丸くんに丸投げしてるじゃん?元々は出水くんにお願いしたのにさ」
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