社内で一番強かったのは私だったから収容違反を対応する人選には大抵、私が含まれていた。時々、私一人での対応を任される事があったときは、私の働きに対する会社側からの
──私は自らの仕事に誇りを持っていた。
“依頼”をされるのは少し悲しく寂しい思いをしたけれど管理人の決定なら、笑みを浮かべて納得した。
それなのに……それなのに、あなたは……
────あたしがなんとかしてみる!
そいつは私のだ。あなたのじゃない。
────先輩たちも勝てなかったけど、あたしは負けない!
私だけでやれた。返せ。
────いつでも私を頼ってくれていいのよ!
有難迷惑だよ、本当に。
────あたしが存在する理由って何なの……?
可哀そうに……ずっとそうしていたらいい。
もし限界が来た時は──
多少はあなたを……嫌いにならずに済む。
────最後に、右手の人差し指と中指で右目を挟んで、こう叫ぶ。
「アルカナ・スレイブ!♥」
魔法陣の中心より放たれる巨大な桜色の光線。
対象を顧みない暴力的な【黒属性】の塊。轟の〝個性〟によって創り出された氷の檻はその暴力の餌食となる。当たった個所から一瞬で亀裂が入り、氷壁を一直線に砕き貫く。
時間にして約数秒。美しい魔法陣が色を失い、エネルギーの調和を崩すようにして放出が止まる。
「ハァッ……ど、どう……見たっ!? ……これが、ゼェッ私の……実力です、よっ!」
「キャパだろそれ!? 頼むからそのままくたばんなよ!?」
記憶を基にした認識による疲労感と異なる存在との融合による反動が同時に私を襲い始める。その様子を見た隣の瀬呂くんに発破をかけられる。肺──だけでなく全身に負荷がかかって吐き気や眩暈がしてきた。
(分かってた……分かってましたよ……! 反動があるってこと……。それでも、ここまでとは……)
予想していたからこそ、
【WAW】の中でも屈指の戦闘能力を持つ彼女と、今の自分──社員であった時よりも弱くなった私が同列に並べるワケがない。
くそッ……! なんで私はこうなんだ! クソっクソっクッッッソうざったい!! 弱い私なんて……わたし……って……
「ぜ~んぜん…………大丈夫だよ! 愛と正義の力は無敵だからね!」
頭を埋め尽くし、脳裏にまでこびりついて離れない劣等感をひた隠し、それっぽく誤魔化すための上辺だけの言葉で心配無用ということを瀬呂くんに伝える。
同列では無い、だから何だっていうんだ。それは献身を辞める理由にならない。だから……
(もうちょっとだけ大人しくしててくださいよ……!)
予想通りというべきか、氷のリングでは2チームが接戦を繰り広げていた。
私たちが侵入した場所の右手側には緑谷くんのチームが──
「かっちゃん……!」
「フミカゲ、サッキノマブシイヨ!!」
「この瀬戸際で第3の陣営……!(ただでさえ上鳴で弱っているというのに……
左手側には轟くんのチームが──
「チッ……やっぱ来やがったか」
「ウェッ爆豪!?」
「(今のは
《極太レーザーで氷の檻に穴を開け侵入!! オイオイ特撮かって、見たかよイレイザー!!》
《アイツ……あんなことも出来たのか》
《さァ! うっしぃ〜リアクションは後にして、残り時間は間もなく1分を切るぞ!! 瞬き禁止の1000万争奪戦──クライマッスだぜェェェィィイエェェェ!!》
試合時間も残り僅か。皆の顔には疲れや焦り、そして最も強く“警戒”の色が出ている。
嵐のような猛々しい様子とは裏腹に、爆豪は極めて冷静に戦況を見据えていた。
“完膚なきまでの勝利”を貪欲に求める彼が、緑谷の1000万だけで満足する訳がない。当然、轟の点数も奪うつもりでいるが彼の中での優先順位は1000万に大きく傾いている。最初に奪うのは緑谷から、その次に轟という流れは彼の中での決定事項となる。
頭の中で考えが纏まった爆豪は自らのアドバンテージを大いに利用する。
「コスプレ野郎!
「はいっ!」
【4本目のマッチの火*1】
爆豪の体操服の上に、所々煤けた灰色のコートと巨大な使用済みのマッチ棒が貫通している大砲が背負われた状態で現れる。口元に現れた燃え尽きたマッチ棒を噛み締め、爆豪は緑谷チームの元に跳んで行く。
「(あれは個性把握テストの時の……!)」
クラスメイト全員分の個性分析ノートを纏めている緑谷は枝瑠職が今まで使った武器や防具の情報を(他の人からの口伝を込みで)抜かりなく収集している。だからこそ、無数の武器の中でもトップクラスの火力を放つことが可能な大砲に目を見開く。それを持つのが自分に対して当たり強い爆豪ということが緑谷の注意を一心に引く。
「(直撃は避けないと……!)常闇くんっ!!」
額に汗を滲ませ、第三者に緊急性を感じ取らせる声で指令を下す。
「ダークシャドウ!」
予想される爆撃を防ぐため常闇は
爆豪は構える。背負った大砲を肩に担ぎ、砲口を
「死ねぇ!!」
が、その行動はブラフであった。“騎馬の崩し目的の攻撃は失格”──そのことを理解している爆豪は【4本目のマッチの火】を単なる“大砲”として使うのではなく“己の手の延長”として使用する。
「
──空気を揺るがす超音波と目の奥を突き刺すフラッシュが緑谷たちを襲う。
砲弾の代わりに砲口から撃たれたのは、爆発に付随して生まれる「光」そして「音」。自身の
【4本目のマッチの火】は相性の良い爆豪が使うことで、その性能が底上げされ、音響兵器レベルにまで達した威力が緑谷チームに放たれる。
「キュウ」
「ダーク……シャド……」
常闇は疲弊し切った
──直後、飯田のマフラーが熱を帯びる。
「(致し方ない……!)
──レシプロバースト。
〝個性〟『エンジン』によって脹脛に備わったエンジンのトルクと回転数を無理矢理上げ、爆発力を生む。飯田がまだ誰にも教えていない奥の手。
使用後はしばらくエンストしてしまう制限付きの大技を試合終了のギリギリまで温存しておくつもりだったが、空を制する爆豪に先に1000万を取られる訳にはいかないという苦渋の決断の末によるものであった。
轟は「レシプロバースト」の急加速の中、爆豪の手とはコンマ数秒の差で1000万の取り合いを制した。
奪取した後、そのままマフラーから飛び出す大量の空気によってステージの際まで距離を取る──そこまでが飯田の算段だった。
──バチバチバチッッ!!
「うっ! ……これはッ!?」
《飯田まさかの急加速で1000万を奪取!! ……と思った矢先に超緊急減速!!
飯田の足元とその周囲、地面から膝の辺りまでに浮かんでいる無数の「黒い星」が行く手を阻むマキビシのように機能し、
敵全員が空中の爆豪にばかり目が行き、地表への注意が疎かになっていた隙に枝瑠職が仕掛けておいたトラップ。
それらは現在、轟チームの騎馬を囲むように徐々にだが移動を始めている。
「天哉くぅ~ん!! 待って下さいよぉ~!!」
「まさかとは思ってたがアイツやっぱ枝瑠職か……! 動けるか飯田!?」
「(──!? エンストしている……)ダメだ! すまない皆……!」
ハチマキを奪い損ね、空中で体勢を崩した爆豪を瀬呂が回収しつつ、轟チームへと迫る爆豪チームの騎馬。機動力がトントンであるなら騎馬全体のフィジカルは爆豪側に軍配が上がる。
騎手である爆豪の血走った目線は轟の持つハチマキへと注がれる。
「(この星といい、さっきのビームといい、何かタネがあるみてェだ──)……いや、いい。どっちにしろアイツ等からは逃げられねェとは思ってた」
手にしているハチマキを首に掛けながら轟は冷静に次の指示を出す。
「──上鳴、八百万」
「ええ!」
「これで最後だ、いくぜ! ──180万V!」
八百万が創り出した絶縁体のシートで自分たちは防ぎつつ、周囲へと無差別放電を繰り出す。
電撃は地面を伝い、騎馬へ、騎手へと上っていく。
────現在、枝瑠職の属性耐性は【E.G.O】──【愛と憎しみの名のもとに*2】に紐づけられている。そして上鳴が『帯電』によって蓄積、放出する電気は……
「「~~~~ッ゛ッ゛ッ゛!!」」
【青】に分類される。今世での戦闘経験が浅い枝瑠職はそのことを知らない。
受けたダメージの影響か「黒い星」は光の粒子となって宙で解ける。
現在、爆豪が装備している【4本目のマッチの火】も同様に【青耐性】が脆弱。単純に常人の2倍の威力の電撃を受けたのと同等のダメージを負った爆豪、枝瑠職の両名はそれでもなお意識を保っていた。
一方は持ち前のタフネスと勝利への貪欲さで、もう一方は正気ではない精神性と敵前での意識喪失に対する並々ならぬ恐怖心があったからこその結果。
「クソが……ッ‼︎」
しかし、身体は言う事を聞かない。瀬呂、枝瑠職、頑丈さに定評のある切島もその場で地団駄を踏む事すら叶わない。
試合時間は、もう10秒もない。彼らは残った時間、目の前で起きる出来事をただ始終、観ていることしかできなかった。
「────ここしかない!」
「いけぇぇぇ! デクくん!」
僅かに体力を戻した
相対した者にしか理解できないその気迫は轟に
最後の攻防。彼らは1000万を奪い返すことは出来なかったものの常闇と
最終結果
1位:
2位:
3位:
4位:
午後の部が始まるまでの1時間程度のブレイキングタイム。学生は、空腹を満たし疲れた体を労うためスタジアムから引き揚げていく。
《──イレイザーヘッド飯行こうぜ!》
《……スマンちょっと外す》
《オイオイ何処行く──ン!?》
実況席から見下ろしたスタジアム内の極僅かな異常。
〝個性〟を解除せず、ただその場で蹲り、小さな黒いハート型のエフェクトを浮かび上がらせている者がいた。
体育祭が始まる前、枝瑠職が修正を加えた個性についての詳細やUSJで起きた出来事について纏めた資料を頭に入れていたイレイザーヘッドは『抽出』がもつ複雑すぎる特性に頭を悩ませていた。
その中でも──目立つ短所がない、という点に違和感を覚えた。〝個性〟が身体機能の一部である以上、酷使すれば必ず限界点が存在する。何かしらはある筈、と思っていた矢先の異様な気配。
普段の行動や言動から誤解されやすいが枝瑠職は聞き分けのつく真面目な方の生徒である。意味無くあんな状態になるはずがない。ある種の信頼がそう思わせた。
(面倒な事にならないといいが……)
生徒の身を憂慮し、包帯で巻かれた全身に鞭を打ってを階段を下がっていく。万が一に備え、自身の〝個性〟を携えて。
1度目はハチマキを取られたこと。2度目は、渡した【E.G.O】によって増幅された放電が爆豪を傷つけたこと。2度にわたる失態に枝瑠職は存在意義──己の必要性に疑いの心が生じた。加え、時間にして10分ほど【魔法少女】と融合していたことが災いし、膨れ上がった強迫観念は客観的な思考能力と冷静さを失わせる。
彼────彼女の目は何も映しておらず、長い髪がカーテンのように光を遮る。
そこに近づく1つの影。
「オイ」
強く、同時に普段からは想像もつかない静かな声。彼女は声の主をよく知っている。
「
顔を上げようとしない。言葉が届いていないのか、意味を咀嚼するのに時間がかかっているのか。
「──チッ!!」
相手のリアクションが無いことに苛立ちを見せ、自分の頭を手で乱暴に掻く。その後、舌打ちをしながら居心地悪いと言わんばかりにその場から立ち去っていく。その光景を見ていた切島と瀬呂が彼女へと近づき口を開く。
「多分よ、今のは爆豪なりの“気にすんな”ってことじゃねぇかな」
切島の言葉に、あいつが口下手なのは今に始まったことじゃない、と瀬呂が軽口を呟きながら続けて話す。
「悔しい所あんのは俺らもだぜ。──でもよ、せっかく通過したんだし反省会は全部終わってからでもいいんじゃね?」
「……」
黒いハートが…………1つも残さず消えていく。纏う空気が僅かに軽くなり、彼女は立ち上がる。
「……すみません……ちょっと」
それだけ呟くと人気の少ない通路の方へと少し早歩き気味に去って行った。二人に目を合わせることは無かったが、上げていた顔の表情を確認することが出来た。
切島は、その時の
(枝瑠職の目ってあんなに薄い色してたか?)
しかし、その疑問は「そういえば枝瑠職の〝個性〟は魔法陣ばっかだけどそういうものなのか」と場違いな考えと共に流された。
「ハァ……ハァ……!」
一人、誰もいない通路を息を荒げて走る。
本物なら空を飛べる。本物なら遠くへ瞬間移動することだって出来る。そのことを忘れたかのように走る。
誰の視線も届かない沈黙の場を目指してただ走る。
「ハァ……ハァ……誰もいないよね……」
しばらくして立ち止まり、壁に背を預けて服を捲り、腹部のあたりに目を通す。本来なら、そこにあるへそが無くなって一部がピンクに変色し、脇腹には蛇のような水色の鱗が生え始めている。
覚えがある。あの子の第二の姿────魔法少女とは思えない竜の姿になり、我を忘れて破壊と殺戮を繰り返す。彼女が自分自身の存在意義に対する恐怖と強迫観念が生み出した悲劇…………
────嫌われてしまう。
冷たいコンクリートの床に力無くへたり込み、両手で顔を覆う。
「私は違う……あの子とは違う。友達もいる。みんなに求められてる。使いこなしてみせる……だって私は──」
「みんなに愛される正義の味方だから……!!」
魔法の衣装が光の粒子となって雲散し、肌の鱗ともども姿を消す。
髪が無造作に解けて、身体が女の子になって、心に増える虚しさを感じて両肩を抱き寄せる。自分の中──特に
──苦しい。苦しい。……憎い。こんなに苦しい思いをしている私を除け者にする
「……あははは…………しずかに、してください……」
大丈夫、きっと今だけだから……絶対、時間が全て元通りにしてくれるから──
(────────な、ワケ無いだろうな)
(………………貴女に合わせる顔も無い、な)
・・・シリアス感を読者に残さないためのコーナー
「何処行った枝瑠職!? オイラと連れショブッッ!!」
「サイテーね、峰田ちゃん」
「うぇい(実際女子と見分け付かんかった)」
「三鳥ちゃんの“超秘”可愛かったねー!」
「「「ねー!」」」
この小説内での女王の一人称は「あたし」固定です。オリ主が「私」固定なので混同しないようにしました。
そういえば女王の身長っていくつくらいなんでしょうか? 私的には155前後かなぁ、って思ってます。この話のオリ主もそんくらいです。
可変式TSタグって結末の性別が決まっている場合、必要なのかどうかがわかんにゃい……。
感想いつもありがとうございます!
それではまた次回!
オリ主のイメージ像欲しい?(絵下手な奴がマウスで描いた)
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寄越せ
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いらん
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どけ!私が描こう
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自己補填できてるので大丈夫です