白狼救済録   作:らんらん出荷マン

10 / 50
申し訳ありませんが、6話はブルアカ要素少なめです。

明日に上げる後編に至っては全くありません。

ご了承ください。


第6話 懺悔―1

 

 

2037年

 

いつしか世界は、戦争をビジネスに変え、人を戦いに費やす商品として扱うようになった。

 

アヴァロン・カンパニー。

ユウイチを引き取った企業である。

 

 

 

 

 

 

戦争孤児であったユウイチは時折、泥を啜ることもあるほど、日々を生きることで精一杯だった。

 

毎日、毎日、近くの川には死体が浮かび、飢えたハエが群がって鬱陶しい羽音を奏でる。

風上に立つと、激しい腐臭が鼻をつついた。

 

常人であれば吐き気を催す筈だが、誰も吐いたりなどしない。

 

――これは日常。

死体の臭いを嗅いでも、心は平坦だ。

 

管理者がいない道路には、糞尿とゴミが散乱し、野良犬が残飯を貪っている。

他には、凶暴化した犬と、薬に逃げた負け犬など、とてもバラエティーに富んだ生態系だ。飽きは来ない。

 

――だが、暴れる犬にだけは注意しろ。噛まれたら終わりだ。

 

 

――ドガァアン!!!

 

 

外から聞こえる大きな音が街全体に響き渡り、皆が一斉に見上げた。

高くそびえる壁に視線を移すと、壁の向こうから黒煙が立ち込め、空を黒く染め上げている。

 

街の外では、地獄が広がっているのだろうか――。

 

この世界に、優しさなんてものは無い。

 

 

 

 

 

 

ある日、ユウイチが住んでいたスラムに、突如として現れた裕福そうな男たち。

皆が言うには、アレがこの街を守っているPMCとのことだ。

 

シワ一つないスーツを着こなした役員は、周りを一瞥し、ユウイチを見つけると前に来てしゃがむ。

目線を合わせ、甘い言葉を囁いた。

 

「君を保護したい」

 

価値の無いゴミ溜めに、天井人がやって来る。

 

――怪しいのは分かりきっていた。

 

だが、気付けば隣人が死んでいる。

いつ自分にお鉢が回ってくるか、分からない。

 

そんな日々を過ごしていた彼には、奴らの誘いを断ることができなかった。

 

だが、世の中は――そんな都合がいいものではない。

 

契約を交わさせられた。

 

――アヴァロン所有の戦闘員になって、死ぬまで戦い続ける。

 

 

そんな内容だった。

 

 

 

そうだ、俺は――商品にされたのだ。

 

 

 

 

 

 

そのままトラックに詰められて、とある施設に連行された――。

 

なんだここ……俺と同じ子供しかいない。

銃を持った大人が、検問のように佇んでいる。

 

腕を掴まれ、列に並ばされる。

 

この先はどうなっているのか?

つま先に力を入れる。

 

――背伸びをして、僅かに見えるようになった。

 

その先では、変な機械を持った大人が、子供たちの左腕に押し当てているのが見える。

 

ゆっくり進む列。

前に進むたびに、不安が胸を満たす。

 

俺は――選択を間違えたのかもしれない。

 

ついにユウイチの番が来た。

大人はそのまま、ライン作業のような淡々とした手付きで、肩に機械を押し当てる。

 

チクッと僅かに感じる痛み。

恐る恐る見てみると、そこには「LD-508」という番号が刻印されていた。

 

そして首に、何かを埋め込まれた。

後から分かったが、これは――決して逃げられない首輪だった。

 

 

もう後には戻れない。

 

 

 

――これから出荷が始まる。

 

 

 

 

 

 

俺が商売道具になってから、既に7年が経過しようとしていた。

 

最近の戦況は、あまり良くない。

 

敵国政府に雇われた、ハイテク兵器を扱う新興企業が躍進している。

 

俺が所属する老舗のアヴァロンは、後手に回る状況になりつつあった。

 

「……あぁ、また壊滅したのか?」

 

「はい。敵側はドローン戦術を多用し、後方の輸送部隊に深刻な損害が出ています」

 

「物資の配給もままならず、弾薬が欠乏している部隊も出始めているとか」

 

ユウイチ達の隊舎に、沈黙が流れる。

 

「おい、どうすんだ? 隊長、何か考えはあるのか?」

 

ゴードンがユウイチを、冷やかな目で見つめる。

意地の悪い質問だ。俺たちには何もできないのに。

 

「黙れ。俺たちは、ただの襲撃部隊だ。後方の扱いは会社が決める」

 

確かにユウイチも、最近登場したドローンが気掛かりだったが、決定権は持っていない。

ただ一部隊の隊長でしかないのだ。

 

「はぁ~……ユーイチ、お前はいつもそうだな?」

 

ニコライも、呆れたと言いたげに肩を竦める。

ムカつく野郎だが、奴とは長い付き合いだ。

 

ニコライとゴードンは、酒好き、ギャンブル好きの下らないコンビだ。

だが……他の奴が消えていくさなか、何年も俺の下にいて、生き残っているのだから、運はいいのだろう。

 

――財布の中は、いつも空だが。

 

「仕方ないですよ、隊長も自由に動けないんです」

 

このお利口さんはマーカス。

以前所属していた部隊が、ハンターキラードローンに襲撃されて全滅し、俺たちの部隊に回された。

 

どうやら、こいつも運がいいようだ。こき使ってやる。

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

懐かしい、夢を見た。

 

あの頃は、地獄のような日々が続いていた。

 

人扱いされず、毎日が出撃。

誰かが消えるたび、番号を覚えた。

 

それでも――仲間と共に過ごした時間は、スラムより充実していた。

 

――朝日が差し込み目が覚める。

だが、火薬の匂いが漂っている気がして、現実か、夢の中か、分からなかった。

 

パジャマは背中の汗で濡れ、身体は震えていた。

 

着替えなくては、試験まで時間が無い――。

 

ユメは学校を休んでいる。

ホシノ曰く、体調不良とのことだ。

 

『どうすんだ、隊長?』

黙れ。

 

『仕方ないですよ』

止めろ。

 

『お前はいつもそうだな』

クソが!

 

もういない奴らの声が、頭の中に響く。

 

 

 

 

 

 

俺は、ヘルメット団から奪ったAKを構える。

場所は、倉庫裏の空き地。

敷地ギリギリの距離に置かれた人型ターゲットに、狙いを付ける。

 

――横では、ホシノが低倍率の双眼鏡を構えていた。

 

「いつでもいいですよ。距離は200メートル弱。まずは立射で5発、撃ってください」

 

「了解」

 

右手で構えたまま、左手で下から回り込むようにチャージングハンドルを引き、チャンバーに装填する。

 

――これは、AK独特の操作だ。

 

息を止め、安定させる。

優しく引き金を絞り――。

 

――バァンッッ!!

 

「命中」

 

――バァンッッ!!

――バァンッッ!!

 

「命中」

 

――バァンッッ!! バァンッッ!!

 

「命中」

 

銃を下ろし、ホシノを見る。

 

ホシノは、ゆっくり双眼鏡を下ろし、困惑に染まって見開かれた目を、レナに向ける。

 

「全弾命中、ど真ん中です。この距離で、ここまで当てられる生徒はごく一部です……」

 

得体の知れないものを、見せつけられた。そんな顔をしている。

 

「……どこで、覚えたんですか?」

 

「さぁな、夢の中かもしれん」

 

「はぁ……? 夢で能力が身に付くっていうんですか?」

 

本気を出し過ぎたようだ。

 

ホシノは、訝しんだ目で俺を見つめる――疑うのも無理はないか。

 

「もう、いいです。貴方はそういう人でしたね」

 

――ノイズが走る。

 

『仕方ないですよ』

 

ホシノの顔が、以前どこかで見た顔に置き換わっている。

記憶と視界が入り乱れ、手が止まる。

 

脈が不安定になり、呼吸が荒くなる。

 

――まただ。

 

「どうしたんですか?」

 

「ッ……!」

 

こいつにまで感づかれるのは不味い。

なんとか取り繕う。

 

「いや? お前に褒められて嬉しいんだよ」

 

ホシノは、鳥肌が立ったのか、両肩を抱き、震える仕草を見せる。

 

「いきなり何ですか? その顔、気持ち悪いですよ?」

 

酷い言われようだ。

彼女の中で俺は、どういうイメージなんだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。