白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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制服はとても大切な物だと、私は思っております。


第7話 日常

 

 

 

……夢を見ている。

 

『なぁ! ユウイチ! 今度はあっちに行かないか!』

 

砂埃の匂い。

 

『そうね! きっと楽しいわ!』

 

照りつける太陽の光。

 

揺れる誰かの影。

 

『うん! 行きたい!』

 

子供のように低い視点。

 

無邪気な笑い声。

 

差し出された、温かい手。

 

――手を伸ばしたところで、意識が浮上した。

 

 

 

 

 

◆

その日の朝――

試験まであと2日。

 

 

 

とてもいい夢を見ていた気がする。

 

誰かがいたような……分からない。もっと触れていたかった。

何か満たされた。そう、誰かの温もりのような――

 

――バンッ!

 

保健室の扉が勢いよく開かれる。

 

「おっはよー!! レナちゃん! 今朝はよく眠れた!?」

 

「ッ! ……ユメ、あぁ……おはよう。お陰様でな」

 

どうやら、完全に気を抜いていたらしい。ユメの接近に気付かなかった。

さっき言った通り、よく眠れたのは本当だ。うなされずに一夜を過ごせたのは、いつぶりだろうか。

 

「それはよかったよ! あっ、そうだ」

 

何かを思いついたユメは、手に持っている袋の中身を出した。

 

「じゃん! どう? プレゼント!」

 

太陽のような笑顔で差し出されたのは、ユメたちと同じ制服だった。

 

「……それは」

 

「試験を受ける時は、制服じゃないとダメなんだよ?」

 

どうやら、これを着させられるらしい。

 

――プレゼント。

 

会社から支給された服以外を着るのは、これが初めてだ。

 

「す、スカートか……履いたことがないな……」

 

……少し、いや。かなり抵抗がある。

 

プライドが悲鳴を上げた。

 

「履いたことないの!? 絶対可愛いよ! ジャージなんて着てないでさ、ほら着替えて? あ、履き方分かる?」

 

「い、いや? 知らんな……」

 

「じゃあ教えてあげる! えっとね、このファスナーを下ろすと――」

 

年頃の女子高生にスカートのレクチャーをされる。何とも言えない感情が心を支配した。

 

ひと通り説明を受け、受け取ったそれを眺める。

 

(こ、こんな布1枚で1日を過ごすのか? 正気とは思えない。油断したら下着が見えるぞ……)

 

ほんの少し前までは毎日、戦いばかりしていたのに――どうして今はスカートを前にして悩んでいるのか。

自分でも不思議で仕方がない。

 

「どう? 着替えたー?」

 

保健室の外からユメの声がする。

 

クソッ……履くしかない。

 

 

――覚悟を決めろ。

 

 

ジャージを脱ぎ、一通り身に着けた。

 

アーマーも銃も弾薬もない。

 

ジャケットと青いネクタイ。そしてスカート――それで全て。たったそれだけの制服。

 

「……軽い。あまりにも軽すぎる」

 

 

だが一番気になったのは、剥き出しになった素肌。

本来、肌の色は自然界では特に目立つ。

 

これでは狙撃の格好の的になってしまう。

 

やはり、このスカートは脱いだ方がいいのではないか。

 

――少し気になって歩いてみる。ふわふわ揺れる布地。擦れ合う太ももの感触。

 

無防備な足と独特な布の感触が落ち着かない。

 

鏡に写る自分。試しにスカートを摘んでみる。

 

……これが、学生。

 

 

 

 

◆

 

ファスナーが途中で引っかかるトラブルもあったが、レナはなんとか着替え終え、ユメを中へ招いた。

 

「……もういいぞ」

 

 

――ユメ視点

 

「入りまーす♪ ……おぉ!」

 

そこには、頬を赤く染めてスカートを押さえるレナちゃんがいた。

 

(……これは、中々)

 

「可愛い!! 似合ってる!!」

 

「……ぐ! やめろ、それ以上近付くな!」

 

尻尾が小刻みに揺れている。無意識の動き?

 

(褒められて嬉しいのかな?)

 

「な、なぁ……ユメ。足が冷えるんだが、これで1日過ごさないとダメなのか?」

 

「そうだよ? いい加減、観念しなよ〜」

 

……でも、喜んでるというより。

 

「クソッ、足が丸出しなんだぞ? ……これでは傷だらけになって戦えなくなる」

 

やっぱり……すぐ“戦い”に結びつけようとする。

レナちゃんには何かある。

 

「またそんなこと言って。ほら、ホシノちゃんにも見せてあげよう!」

 

私がレナちゃんを普通の生活ができるようにする。

 

もうあんな顔はさせない。

あの時、抱きしめた瞬間の震える姿。

そしてレナちゃんは、まだ笑っていない。

 

笑顔が見たい。

 

そうだ――私が守るんだ。

 

 

 

 

◆

 

ユメがホシノにも見せようと言い、腕を引っ張る。

 

「ほ、本当に見せるのか?」

 

「当たり前だよ、ホシノちゃんだけ仲間はずれなのは可哀想」

 

そういえば、今ホシノは勉強中だったはずだ。それを言い訳にしよう。

 

「ホシノは勉強中じゃないか? 邪魔をするのは――」

 

「大丈夫、ホシノちゃんはそんなことで怒らないよ!」

 

言い逃れの道は、完全に封じられてしまった。

 

 

 

――ユメに引きずられ、教室の扉の前まで来た。

 

「ホシノちゃん、今大丈夫?」

 

さっきから鼓動が、ひどく脈打っている。こんな服、見せられたものではない。

 

断ってくれ……ホシノ。そう思わずにはいられないが――

 

現実は虚しく。

 

「えぇ、どうぞ」

 

「お邪魔しまーす、ホシノちゃん! 連れてきたよ!」

 

 

……前みたいに“気持ち悪い”とか言われるのだろうか。

 

 

「や、やぁ……ホシノ」

 

「……!?」

 

ホシノは息を呑み、目を大きくして動かない。まるで別人を見たような表情。どうしたのか?

 

「ふふ、思ったより似合ってます。これでやっと仲間入りですね?」

 

仲間入り――そう言われた瞬間、心臓が跳ね、尻尾が揺れた気がした。

 

「そうでしょ! でもレナちゃん、さっきからすごい嫌がってるんだよ〜」

 

……あぁ、こんなものなのか。

身構えていた俺が、馬鹿だったようだ。

 

そうだ、俺は不安だったんだ。

 

今までの自分を捨て、新しい自分を受け入れるのが。

散々捨ててきた自分を、今になって受け入れるのが。

 

……不安だったんだ。

 

「よし! みんなで記念写真を撮ろう!」

 

「……え、写真撮るんですか?」

 

「ホシノちゃん!? なんでそこで嫌がるの!?」

 

 

――写真なんて、重要情報の記録にしか使わなかった。

 

仲間内で写真を撮ることは、会社に禁止されていた。

 

 

 

◆

 

生徒会室で埃をかぶっていたカメラを引っ張り出し、ユメがタイマーをセットする。

 

いいのだろうか、こんなことをしていて。

 

――俺に資格があるのか?

 

「よし……さあ、二人とも、もっと寄って?」

 

「ぐっ……ユメ先輩、顔に当たって苦しいです!」

 

「小さいホシノちゃんが悪いんだよ?」

 

「なぁ!? それは聞き捨てなりません! 撤回してください!」

 

「ほら! レナちゃんも! 寄って!」

 

「ユメ先輩!? 話聞いてます!?」

 

「あ、あぁ……失礼する」

 

「そろそろ時間だよ! 準備はいい? ……ハイ! チーズ!!」

 

フラッシュの光が辺りを照らす――

 

出てきた写真には、ユメに抱き寄せられて、ぎゅうぎゅうになった三人の姿が写っていた。

 

そう、これは日常。

 

かけがえのないものだ。

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