白狼救済録 作:らんらん出荷マン
ブルアカ要素はありません。
2044年 11月
先行していた偵察部隊が、ドローンに襲われ壊滅した。
人員の損耗に補充が追い付かない。
本来は襲撃任務に就くはずだった俺たちの分隊に、生存者の有無の確認と、残存装備の回収命令が下った。
◆
「マーカス、停めろ」
ブレーキが軋み、鋼鉄の塊が鈍重な音を立てて停止する。
「よし。全員降車!……ここからは徒歩だ」
ユウイチ率いる分隊は霧の立ち込める森の中にハンヴィーを残し、周囲を警戒しながら展開した。
だが――小鳥の囀りさえ聞こえない。
まるで森そのものが、こちらを拒絶しているかのように、不気味な静寂が支配していた。
「静かすぎる……不気味だぜ、おいニコライ!ガムはあるか?」
何かを感じ取ったゴードンは紛らわすように声をかける。
ニコライはポケットからガムを取り出し放って寄越した。
「ほらよ、配給も少ないんだ。大事に食え」
ユウイチはそんな2人を横目にマーカスに確認する。
「自律式ドローンの反応はあるか?」
「いえ、確認できません。取り敢えずは、安全かと」
ガムを噛む2人に呼び掛ける。
「おい!前進だ、10メートル間隔の縦隊で目的地まで行く。空と地雷に注意しろ」
「「了解」」
◆
数十分後、方角を頼りに進んだ先、林を抜けた向こうから――火薬と、何かが焦げた臭気が漂い出す。
「……集合しろ」
近くの茂みに身を潜め、周囲を確認する。
視線の開けた先で、黒煙が立ち上がっていた。
「クソ!間抜け共め、何であんな所でやられてんだ!このまま行ったら的になっちまう」
横でゴードンが悪態をつく。
「黙れ、ゴードン。……周囲を警戒。姿勢を低くして現場に近付く」
ニコライが銃のセーフティを外し、準備する。
「ニコライ、先行しろ。マーカスは後方を警戒。よし……行けるな?ムーブ!」
覚悟を決め、林から飛び出す。
周りの音が無い。
あるのは――泥の中を進む4人分の足音だけ。
徐々に見えてくる黒焦げの偵察車、装備は全て破壊されてるように見えた。
「よし、使える物がないか調べる。ニコライ、警戒を頼む」
「イエッサー」
(何もない、全部黒焦げだ……生存者なし……ん?)
現場から少し離れた草むらに、何かが動いてるのが見えた。
マーカスにハンドサインを出して、即座に銃を構える。
足音を殺して近付くと、そこにはアヴァロン所属のパッチを付けた1人の少女がいた。
「……おい」
「ひぃい!殺さないで……!え、味方……?」
すっかり怯えきった様子で、顔は涙でベタベタだ。
「第4中隊アルファチーム、LD―508 ユウイチだ。お前は?」
「だ、第7偵察隊……EC―1001、ヘイリーで……す」
彼女はずっとここにいたのか?
数カ所、止血した跡がある。全身に血が滲んでいて痛々しく、顔は傷だらけ。
彼女のBDUは煤と泥で汚れている。
爆発に吹き飛ばされたのだろう、生きているのが奇跡だな。
「隊長、報告にあった部隊と一致しますね、間違いないです。彼女を回収して早く帰りましょう」
マーカスも何かを感じている。確かに長居は無用だ。
「よし手を出せ……お前を担いで、とっとと撤収する」
「よ、よろしくお願いします。はぁ……助かった……」
ヘイリーを担ぎ上げ、ニコライとゴードンの元へ戻る。
「お!戻ったか。……へぇ、生存者か。よく見つけた……しかも結構可愛いな、どうだい?今夜お茶でも?」
「黙れ。ニコライ、冗談はよせ」
いつもこんなノリだが本気じゃない、場を和ませるために言ったのだろう。
だが――いきなり口説くのはセンスが無い。
「あ……あはは、遠慮しておきます……」
再び隊列を組み、静かに現場から離れる。
この任務は楽勝に思えたが――そう簡単にはいかなかった。
◆
ヘイリーを担いでいる分、泥が足を絡め取り、他の奴よりペースが落ちる。
《どうしたユーイチ?もう疲れたのか、情けないぞ?俺が担ぐのを変わろうか?》
無線機からニコライの軽口が聞こえる。
こいつ、善意のつもりか?下心が丸出しだ。
「黙って歩け、ニコライ」
「わ、私……重くないですよね?」
「………」
「何か言ってくださいよ――」
「お前、年はいくつだ?」
「えっ……!?は、はい。16です」
「……若いな。ヘイリー、お前も孤児か?」
「はい……孤児院にいました。ここで働かされるようになったのは最近です」
「そうか」
「いい加減、疲れました……シャワーを浴びて、ちゃんとしたベッドで寝たいです」
「……そうだな。ヘイリー、好きな物はあるか?」
「もの?ですか?そうですね……ぬいぐるみが好きです……」
「そうか、帰ったら何か買ってやる――」
「そんな!悪いです!」
《ヘイリーちゃん。隊長が何か奢るってのは珍しいんだぜ?有り難く受け取っておけや》
「黙れ。ゴードン………他の奴らは残念だったな」
「……はい、優しい人たちばかりでした」
――
ついにアヴァロンは――女も徴用するようになった。
クソッ……吐き気がする。
◆
ヘイリーを回収してから十数分後――
一つ気掛かりがある。焼けた死体とバラバラの装備。
ここまで徹底的に破壊しておいて、どうして彼女だけが生きているのか。
奴らが見逃すとは思えない――ドローンは残忍で冷徹だ。
遠方に見える目的地の森は暗く、ざわざわと揺れている。何か、言い知れぬ悪寒が背筋を伝う。
「警戒を強化、急ぐぞ!」
◆
しばし歩き、林を抜けて森に近付く。
杞憂だったか?そう思った時。
先ほど通ってきた林の木が揺れる。その隙間を何かが通りすぎた。
冷たい汗が額に垂れる。恐る恐る耳を傾けると――微かに自然界には無いような羽音がする。
何か来る――
次の瞬間、赤い光がユウイチ達を捉え――
悪魔のサイレンが鳴り響く。
――ヴゥゥゥン!!!!
「――ドローン!!!!」
ニコライが叫ぶが、その顔は凍り付いていた。
数機が四方から迫ってくる。
――クソッ!!ヘイリーは餌だったか!!
《そんな!?センサーに反応は無かった!!》
ユウイチの後方にいるマーカスが狼狽している。
反応無し?潜伏していたのか、無人機の癖に小賢しいことをする。
無機質な赤いセンサーだけが生き物の眼のように光り、襲いかかってきた。
《周りに5機いやがる!》
ゴードンが即座に対空射撃を開始する。
《2機!4時方向!近付けるな、自爆されるぞ!!》
ニコライが照準を合わせ。
《隊長!!囲まれています!!》
マーカスはパニックだ。
「ぁ……そんなぁ……」
背中越しで聞こえる、ヘイリーの絶望に染まった声。
彼女を担いだままの俺は、これ以上速く動けない。
まだ森まで遠い。
どうする、この場で迎撃するか?
――いや、すでに辺り一帯のドローンが集結しているはずだ。留まれば、押し潰される。
このままでは全滅だ――決断をしなければならない。
良心と理性が、身を切り刻むような葛藤でユウイチを蝕む。
俺は……万能ではない、仲間を守る義務がある。
3人か、1人か。顔が強張る。
そして――
苦渋の決断を下す。
彼女を放り投げた。
「………ぇ?」
ヘイリーは置いて行く。
また、番号を覚えなければならない。
Affiliation:7th Scouting Party
Name:EC-1001 Hailey Morgan
Status:K.I.A.I