白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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ブルアカ要素はありません。


第6話 懺悔―2

 

 

 

 

2044年 11月

 

 

先行していた偵察部隊が、ドローンに襲われ壊滅した。

人員の損耗に補充が追い付かない。

本来は襲撃任務に就くはずだった俺たちの分隊に、生存者の有無の確認と、残存装備の回収命令が下った。

 

 

 

 

 

 

ハンヴィー(高機動多用途車)に乗り込んで出撃してから数時間後、目的地付近に到着した。

 

 

「マーカス、停めろ」

 

ブレーキが軋み、鋼鉄の塊が鈍重な音を立てて停止する。

 

「よし。全員降車!……ここからは徒歩だ」

 

 

ユウイチ率いる分隊は霧の立ち込める森の中にハンヴィーを残し、周囲を警戒しながら展開した。

 

だが――小鳥の囀りさえ聞こえない。

まるで森そのものが、こちらを拒絶しているかのように、不気味な静寂が支配していた。

 

 

「静かすぎる……不気味だぜ、おいニコライ!ガムはあるか?」

 

 

何かを感じ取ったゴードンは紛らわすように声をかける。

ニコライはポケットからガムを取り出し放って寄越した。

 

「ほらよ、配給も少ないんだ。大事に食え」

 

 

ユウイチはそんな2人を横目にマーカスに確認する。

 

 

「自律式ドローンの反応はあるか?」

 

「いえ、確認できません。取り敢えずは、安全かと」

 

ガムを噛む2人に呼び掛ける。

 

「おい!前進だ、10メートル間隔の縦隊で目的地まで行く。空と地雷に注意しろ」

 

「「了解」」

 

 

 

 

 

数十分後、方角を頼りに進んだ先、林を抜けた向こうから――火薬と、何かが焦げた臭気が漂い出す。

 

「……集合しろ」

 

近くの茂みに身を潜め、周囲を確認する。

視線の開けた先で、黒煙が立ち上がっていた。

 

「クソ!間抜け共め、何であんな所でやられてんだ!このまま行ったら的になっちまう」

 

横でゴードンが悪態をつく。

 

「黙れ、ゴードン。……周囲を警戒。姿勢を低くして現場に近付く」

 

ニコライが銃のセーフティを外し、準備する。

 

「ニコライ、先行しろ。マーカスは後方を警戒。よし……行けるな?ムーブ!」

 

覚悟を決め、林から飛び出す。

 

周りの音が無い。

あるのは――泥の中を進む4人分の足音だけ。

 

徐々に見えてくる黒焦げの偵察車、装備は全て破壊されてるように見えた。

 

「よし、使える物がないか調べる。ニコライ、警戒を頼む」

 

「イエッサー」

 

(何もない、全部黒焦げだ……生存者なし……ん?)

 

現場から少し離れた草むらに、何かが動いてるのが見えた。

マーカスにハンドサインを出して、即座に銃を構える。

足音を殺して近付くと、そこにはアヴァロン所属のパッチを付けた1人の少女がいた。

 

「……おい」

 

「ひぃい!殺さないで……!え、味方……?」

 

すっかり怯えきった様子で、顔は涙でベタベタだ。

 

「第4中隊アルファチーム、LD―508 ユウイチだ。お前は?」

 

「だ、第7偵察隊……EC―1001、ヘイリーで……す」

 

彼女はずっとここにいたのか?

数カ所、止血した跡がある。全身に血が滲んでいて痛々しく、顔は傷だらけ。

彼女のBDUは煤と泥で汚れている。

爆発に吹き飛ばされたのだろう、生きているのが奇跡だな。

 

「隊長、報告にあった部隊と一致しますね、間違いないです。彼女を回収して早く帰りましょう」

 

マーカスも何かを感じている。確かに長居は無用だ。

 

「よし手を出せ……お前を担いで、とっとと撤収する」

 

「よ、よろしくお願いします。はぁ……助かった……」

 

ヘイリーを担ぎ上げ、ニコライとゴードンの元へ戻る。

 

「お!戻ったか。……へぇ、生存者か。よく見つけた……しかも結構可愛いな、どうだい?今夜お茶でも?」

 

「黙れ。ニコライ、冗談はよせ」

 

いつもこんなノリだが本気じゃない、場を和ませるために言ったのだろう。

 

だが――いきなり口説くのはセンスが無い。

 

 

「あ……あはは、遠慮しておきます……」

 

 

再び隊列を組み、静かに現場から離れる。

 

 

この任務は楽勝に思えたが――そう簡単にはいかなかった。

 

 

 

 

ヘイリーを担いでいる分、泥が足を絡め取り、他の奴よりペースが落ちる。

 

《どうしたユーイチ?もう疲れたのか、情けないぞ?俺が担ぐのを変わろうか?》

 

無線機からニコライの軽口が聞こえる。

 

こいつ、善意のつもりか?下心が丸出しだ。

 

 

「黙って歩け、ニコライ」

 

「わ、私……重くないですよね?」

 

「………」

 

「何か言ってくださいよ――」

 

「お前、年はいくつだ?」

 

「えっ……!?は、はい。16です」

 

「……若いな。ヘイリー、お前も孤児か?」

 

「はい……孤児院にいました。ここで働かされるようになったのは最近です」

 

「そうか」

 

「いい加減、疲れました……シャワーを浴びて、ちゃんとしたベッドで寝たいです」

 

「……そうだな。ヘイリー、好きな物はあるか?」

 

「もの?ですか?そうですね……ぬいぐるみが好きです……」

 

「そうか、帰ったら何か買ってやる――」

 

「そんな!悪いです!」

 

《ヘイリーちゃん。隊長が何か奢るってのは珍しいんだぜ?有り難く受け取っておけや》

 

「黙れ。ゴードン………他の奴らは残念だったな」

 

「……はい、優しい人たちばかりでした」

 

 

――

 

ついにアヴァロンは――女も徴用するようになった。

 

クソッ……吐き気がする。

 

 

 

 

 

 

ヘイリーを回収してから十数分後――

 

 

 

一つ気掛かりがある。焼けた死体とバラバラの装備。

ここまで徹底的に破壊しておいて、どうして彼女だけが生きているのか。

 

奴らが見逃すとは思えない――ドローンは残忍で冷徹だ。

遠方に見える目的地の森は暗く、ざわざわと揺れている。何か、言い知れぬ悪寒が背筋を伝う。

 

 

 

「警戒を強化、急ぐぞ!」

 

 

 

 

 

 

しばし歩き、林を抜けて森に近付く。

 

杞憂だったか?そう思った時。

 

先ほど通ってきた林の木が揺れる。その隙間を何かが通りすぎた。

 

冷たい汗が額に垂れる。恐る恐る耳を傾けると――微かに自然界には無いような羽音がする。

 

 

何か来る――

 

 

次の瞬間、赤い光がユウイチ達を捉え――

 

 

悪魔のサイレンが鳴り響く。

 

 

――ヴゥゥゥン!!!!

 

 

「――ドローン!!!!」

 

 

ニコライが叫ぶが、その顔は凍り付いていた。

 

 

数機が四方から迫ってくる。

 

 

――クソッ!!ヘイリーは餌だったか!!

 

 

《そんな!?センサーに反応は無かった!!》

 

ユウイチの後方にいるマーカスが狼狽している。

 

反応無し?潜伏していたのか、無人機の癖に小賢しいことをする。

 

無機質な赤いセンサーだけが生き物の眼のように光り、襲いかかってきた。

 

《周りに5機いやがる!》

 

ゴードンが即座に対空射撃を開始する。

 

《2機!4時方向!近付けるな、自爆されるぞ!!》

 

ニコライが照準を合わせ。

 

《隊長!!囲まれています!!》

 

マーカスはパニックだ。

 

「ぁ……そんなぁ……」

 

背中越しで聞こえる、ヘイリーの絶望に染まった声。

彼女を担いだままの俺は、これ以上速く動けない。

 

まだ森まで遠い。

 

どうする、この場で迎撃するか?

 

 

――いや、すでに辺り一帯のドローンが集結しているはずだ。留まれば、押し潰される。

 

 

このままでは全滅だ――決断をしなければならない。

 

 

 

良心と理性が、身を切り刻むような葛藤でユウイチを蝕む。

 

 

 

俺は……万能ではない、仲間を守る義務がある。

 

 

3人か、1人か。顔が強張る。

 

 

そして――

 

 

苦渋の決断を下す。

 

 

彼女を放り投げた。

 

 

 

 

 

 

「………ぇ?」

 

 

 

 

 

 

ヘイリーは置いて行く。

 

また、番号を覚えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Affiliation:7th Scouting Party

Name:EC-1001 Hailey Morgan

Status:K.I.A.I

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