白狼救済録 作:らんらん出荷マン
この話は滅茶苦茶、悩みました。
悩みまくった結果、難しく考えないことにしました。
なので文章は、少ないです。
試験まであと3日、ユメはまだ学校に来ない。
だが学生証は彼女が持っている。
……いい加減腹を括ろう、この関係にケリを付ける時だ。
だが許してくれるか?
――いや逃げてばかりではダメだ。
自分の下らない過去で彼女を傷付けたんだ。
だが俺は……どうしたらいいか分からない。
こんな経験は、今まで無かった。
俺は謝り方を知らない。
――死体袋に謝っても仕方がないからな。
胸の奥がざわざわする。
何かが囁いている。
◆
迷った末、ホシノに相談することにした。
ホシノはユメといる時間が長い、適任者は彼女以外にいないだろう。
――
ホシノ視点――
「――ということがあって……ホシノ。私はどうしたらいい……?」
「はぁ……?それってユメ先輩と喧嘩したってことですか?」
相談があると言われ、何を言うかと思えば……呆れた目を向けずにはいられない。
「いや……喧嘩というより、その……」
いつもの堂々とした態度は鳴りを潜め、顔は俯き、両手を合わせてモジモジしている。
感情が薄い戦闘マシーンのように見えたが、こういう一面もあるのか。
意外とレナは、人間味があるようだ。
彼女が何を経験し、何を思ってきたのか、私には分からない。
でも――あの頼りない先輩と同じく、ふと「助けたい」そう思った。
「はぁ、分かりましたよ。私からユメ先輩に連絡しておきます。放課後、一緒に会いに行きましょう」
彼女は私の返答が意外だったのか目を丸くし、その後、少しだけ――はにかんだ。
こんな表情もできるのか。
うん。
――結構、可愛いかもしれない。
◆
放課後
ユメ視点――
「――うん、そっか……ありがとね、ホシノちゃん。じゃ、また」
今、ホシノちゃんから連絡が来た。
どうやらレナちゃんが怒鳴ったことについて謝りたいらしい。
別にレナちゃんは悪くない。
私が、ちゃんと向き合う勇気がないだけなのに。
でも――あの時のレナちゃんの目が忘れられない。
なんて表現したらいいか分からない……
何かに怯えているような、追われているような――確かに、怒鳴られた瞬間は怖かったけど。
あの歪んだ赤い目と、何かに訴えるような声を思い出すと、胸の奥がジンジン痛む。
……でも、ここで会わなかったら後悔すると思う。
そういえば、始めて会った日は砂漠で倒れてたけど、ずっと一人だったのかな……?
よし、私はもう逃げない――今度こそレナちゃんと向き合う。
もう一人ぼっちじゃないんだから。
◆
レナ視点――
「――いえ別に。はい、また」
どうやら了承を得られたみたいだ。
「会ってもいいみたいですよ。寮の前で待っているらしいので、さっさと行きましょう」
「……ホシノ」
「何ですか?」
「すまない――」
「それを言うなら”ありがとう”ですよ?レナさん」
「……あ、ありがとう」
――
夕日を背に、しばらく歩くと、遠目にユメが立っているのが見えた。
小さく揺れる影。
視線が忙しなく動き、落ち着きなく足を揃え直している。
(……やはり、嫌われたか)
胸の奥が冷たく締めつけられる。
「……ホシノ、わ……私は――」
――バシン!
(ッ!?)
背中に走った衝撃で、心臓が跳ね上がった。
「なにウジウジしてるんですか? 情けないですよ?」
『情けないぞ? 俺が担ぐのを代わろうか?』
「……あ、ああ。そうだな。行ってくる」
逃げ道はない。
覚悟を決めろ。
腑抜けすぎだ。
一歩。
砂を踏みしめる音が、やけに大きく感じた。
彼女の前に立つ。
ユメが、俺を見る。
逃げ場のない距離で、真正面から。
喉が固まり。
口を開いても、息だけが零れる。
「……ユメ。私は――」
震える声。
「……すま――」
途中で言葉は遮られた。
ユメは、何も言わずに両手を広げ――
レナの顔を胸に埋めるように、抱きしめてきた。
「……もう、大丈夫」
――なに?
思考が止まる。
「レナちゃんは……一人じゃないよ」
……何が、起きた?
直に感じる体温。
背中に回された、小さな力。
「もう……大丈夫」
大丈夫。そう言われた瞬間――
――ふっと、全身の力が抜けた。
膝が崩れ、座り込む。
「……な、なん……で……」
視界が、にじむ。
「もう……いいの」
抑えていたものが、決壊した。
「……う、すまない……」
「うん」
「……すまない……」
「……うん」
「……す、すま……くっ……」
言葉にならない嗚咽。
ユメは何も言わず、背中を優しく撫で続けた。
あぁ、そうか。
俺は――
ずっと、赦されたかったんだ。
沈みかける夕日が、
重なった二人と、零れ落ちる涙を――
静かに、照らしていた。