白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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制服はとても大切な物だと、私は思っております。


第7話 日常

 

 

 

……夢を見ている。

 

『なぁ! ユウイチ! 今度はあっちに行かないか!』

 

砂埃の匂い。

 

『そうね! きっと楽しいわ!』

 

照りつける太陽の光。

 

揺れる誰かの影。

 

『うん! 行きたい!』

 

子供のように低い視点。

 

無邪気な笑い声。

 

差し出された、温かい手。

 

――手を伸ばしたところで、意識が浮上した。

 

 

 

 

 

その日の朝――

試験まであと2日。

 

 

 

とてもいい夢を見ていた気がする。

 

誰かがいたような……分からない。もっと触れていたかった。

何か満たされた。そう、誰かの温もりのような――

 

――バンッ!

 

保健室の扉が勢いよく開かれる。

 

「おっはよー!! レナちゃん! 今朝はよく眠れた!?」

 

「ッ! ……ユメ、あぁ……おはよう。お陰様でな」

 

どうやら、完全に気を抜いていたらしい。ユメの接近に気付かなかった。

さっき言った通り、よく眠れたのは本当だ。うなされずに一夜を過ごせたのは、いつぶりだろうか。

 

「それはよかったよ! あっ、そうだ」

 

何かを思いついたユメは、手に持っている袋の中身を出した。

 

「じゃん! どう? プレゼント!」

 

太陽のような笑顔で差し出されたのは、ユメたちと同じ制服だった。

 

「……それは」

 

「試験を受ける時は、制服じゃないとダメなんだよ?」

 

どうやら、これを着させられるらしい。

 

――プレゼント。

 

会社から支給された服以外を着るのは、これが初めてだ。

 

「す、スカートか……履いたことがないな……」

 

……少し、いや。かなり抵抗がある。

 

プライドが悲鳴を上げた。

 

「履いたことないの!? 絶対可愛いよ! ジャージなんて着てないでさ、ほら着替えて? あ、履き方分かる?」

 

「い、いや? 知らんな……」

 

「じゃあ教えてあげる! えっとね、このファスナーを下ろすと――」

 

年頃の女子高生にスカートのレクチャーをされる。何とも言えない感情が心を支配した。

 

ひと通り説明を受け、受け取ったそれを眺める。

 

(こ、こんな布1枚で1日を過ごすのか? 正気とは思えない。油断したら下着が見えるぞ……)

 

ほんの少し前までは毎日、戦いばかりしていたのに――どうして今はスカートを前にして悩んでいるのか。

自分でも不思議で仕方がない。

 

「どう? 着替えたー?」

 

保健室の外からユメの声がする。

 

クソッ……履くしかない。

 

 

――覚悟を決めろ。

 

 

ジャージを脱ぎ、一通り身に着けた。

 

アーマーも銃も弾薬もない。

 

ジャケットと青いネクタイ。そしてスカート――それで全て。たったそれだけの制服。

 

「……軽い。あまりにも軽すぎる」

 

 

だが一番気になったのは、剥き出しになった素肌。

本来、肌の色は自然界では特に目立つ。

 

これでは狙撃の格好の的になってしまう。

 

やはり、このスカートは脱いだ方がいいのではないか。

 

――少し気になって歩いてみる。ふわふわ揺れる布地。擦れ合う太ももの感触。

 

無防備な足と独特な布の感触が落ち着かない。

 

鏡に写る自分。試しにスカートを摘んでみる。

 

……これが、学生。

 

 

 

 

 

ファスナーが途中で引っかかるトラブルもあったが、レナはなんとか着替え終え、ユメを中へ招いた。

 

「……もういいぞ」

 

 

――ユメ視点

 

「入りまーす♪ ……おぉ!」

 

そこには、頬を赤く染めてスカートを押さえるレナちゃんがいた。

 

(……これは、中々)

 

「可愛い!! 似合ってる!!」

 

「……ぐ! やめろ、それ以上近付くな!」

 

尻尾が小刻みに揺れている。無意識の動き?

 

(褒められて嬉しいのかな?)

 

「な、なぁ……ユメ。足が冷えるんだが、これで1日過ごさないとダメなのか?」

 

「そうだよ? いい加減、観念しなよ〜」

 

……でも、喜んでるというより。

 

「クソッ、足が丸出しなんだぞ? ……これでは傷だらけになって戦えなくなる」

 

やっぱり……すぐ“戦い”に結びつけようとする。

レナちゃんには何かある。

 

「またそんなこと言って。ほら、ホシノちゃんにも見せてあげよう!」

 

私がレナちゃんを普通の生活ができるようにする。

 

もうあんな顔はさせない。

あの時、抱きしめた瞬間の震える姿。

そしてレナちゃんは、まだ笑っていない。

 

笑顔が見たい。

 

そうだ――私が守るんだ。

 

 

 

 

 

ユメがホシノにも見せようと言い、腕を引っ張る。

 

「ほ、本当に見せるのか?」

 

「当たり前だよ、ホシノちゃんだけ仲間はずれなのは可哀想」

 

そういえば、今ホシノは勉強中だったはずだ。それを言い訳にしよう。

 

「ホシノは勉強中じゃないか? 邪魔をするのは――」

 

「大丈夫、ホシノちゃんはそんなことで怒らないよ!」

 

言い逃れの道は、完全に封じられてしまった。

 

 

 

――ユメに引きずられ、教室の扉の前まで来た。

 

「ホシノちゃん、今大丈夫?」

 

さっきから鼓動が、ひどく脈打っている。こんな服、見せられたものではない。

 

断ってくれ……ホシノ。そう思わずにはいられないが――

 

現実は虚しく。

 

「えぇ、どうぞ」

 

「お邪魔しまーす、ホシノちゃん! 連れてきたよ!」

 

 

……前みたいに“気持ち悪い”とか言われるのだろうか。

 

 

「や、やぁ……ホシノ」

 

「……!?」

 

ホシノは息を呑み、目を大きくして動かない。まるで別人を見たような表情。どうしたのか?

 

「ふふ、思ったより似合ってます。これでやっと仲間入りですね?」

 

仲間入り――そう言われた瞬間、心臓が跳ね、尻尾が揺れた気がした。

 

「そうでしょ! でもレナちゃん、さっきからすごい嫌がってるんだよ〜」

 

……あぁ、こんなものなのか。

身構えていた俺が、馬鹿だったようだ。

 

そうだ、俺は不安だったんだ。

 

今までの自分を捨て、新しい自分を受け入れるのが。

散々捨ててきた自分を、今になって受け入れるのが。

 

……不安だったんだ。

 

「よし! みんなで記念写真を撮ろう!」

 

「……え、写真撮るんですか?」

 

「ホシノちゃん!? なんでそこで嫌がるの!?」

 

 

――写真なんて、重要情報の記録にしか使わなかった。

 

仲間内で写真を撮ることは、会社に禁止されていた。

 

 

 

 

生徒会室で埃をかぶっていたカメラを引っ張り出し、ユメがタイマーをセットする。

 

いいのだろうか、こんなことをしていて。

 

――俺に資格があるのか?

 

「よし……さあ、二人とも、もっと寄って?」

 

「ぐっ……ユメ先輩、顔に当たって苦しいです!」

 

「小さいホシノちゃんが悪いんだよ?」

 

「なぁ!? それは聞き捨てなりません! 撤回してください!」

 

「ほら! レナちゃんも! 寄って!」

 

「ユメ先輩!? 話聞いてます!?」

 

「あ、あぁ……失礼する」

 

「そろそろ時間だよ! 準備はいい? ……ハイ! チーズ!!」

 

フラッシュの光が辺りを照らす――

 

出てきた写真には、ユメに抱き寄せられて、ぎゅうぎゅうになった三人の姿が写っていた。

 

そう、これは日常。

 

かけがえのないものだ。

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