白狼救済録   作:らんらん出荷マン

15 / 50

毎日投稿はしないと言いましたが、アレは嘘です。

さて冗談はここまでにして、ホントは筆がノって仕上がっちゃっただけです。

ところで皆様は、俺TUEEE系は好きですか?私は大好きです。

あと評価に赤が付いていてびっくりしました。皆様ありがとうございます。



第9話 試験―1

アビドスの市街地も都会だったが、D.U.はそれ以上に大都会だった。

交差点を行き交う人々の動きは、まるで制御された群像。

そして建ち並ぶビルは天にも届くほど高く見え、その窓ガラスに反射する光がレナの網膜を照らした。

 

ここD.U.は、キヴォトスの行政機関であり、SRTの運用も司っている連邦生徒会の所在地でもある。

 

となると、D.U.はキヴォトスの首都のような存在なのだろうか。

 

 

 

 

レナと付き添いのホシノは、D.U.のとある地区にあるSRT入学試験の会場に足を運んだ。

 

「それじゃ、私が一緒に行けるのはここまでです。朗報を期待してますよ」

 

「……行ってくる」

 

入口をくぐり抜け、会場に入る。

 

(ここが試験会場……この空気、まるで前線のキャンプだ。この場にいる生徒は、アビドスからD.U.へ向かう途中で見かけた奴らとは違う。明らかに戦い慣れた“経験者”しかいない……)

 

レナはそう評価したが、他の生徒たちもレナの異質さを本能的に感じ取った。

 

「ねぇ……あの子……」

「あぁ……」

 

周りから視線を浴びても、レナは気にせず無表情のまま受付まで行き、手続きを済ませた。

 

「はい、これで手続きは以上となります。こちらの番号札をお持ちになり、待機室でお待ちください」

 

レナが受け取った紙には、「47番」と書かれていた。

 

 

 

――

 

しばらく待機していると、会場全体にアナウンスが響いた。

 

《来場の皆様、お待たせいたしました。ただ今よりSRT入学試験を開始いたします。係員の指示に従い、速やかに試験場にお入りください》

 

最初に通された試験場は野外、300mレンジの射撃場だった。

 

恐らく試験用であろうアサルトライフルと弾薬が、所狭しと置いてある。

金属と油の匂いが漂い、物々しい。

 

 

 

 

会場に整列して待機した受験生たちの前に、上級生と思われる試験官が躍り出て説明を始める。

 

「……よし、揃っているな。これより射撃試験を行う。第一科目は300m先のターゲットに膝射で10発撃ち、総合的な命中率で評価する。ただし――」

 

担当官はレナを見て、一瞬だけ眉をひそめた。

 

「……光学照準器の使用は一切禁止だ! ここでは“素の技量”のみを見る!」

 

(膝射でアイアンサイト、しかも300mか……一般の限界を超えている)

 

その数字を聞いて、周りがざわめき出した。

 

「……おい、300だってよ」

「市街地戦ばかりのキヴォトスで必要なの?」

「……どうしよう、私。近接戦しか得意じゃない」

 

「私語は慎め!! 貴様らが使うARは1MOA以下*1に調整してある! 300mで9cm以内に収まる精度だ、文句は言わせん!!」

 

 

(……狙撃銃並みではないか!?)

 

 

試験官が叫び、受験生に沈黙が走る。

銃の性能は最高だが、動揺するのも無理はない。実際、厳しい要求をされているのだ。

 

「よし、何か質問は……?」

 

「――はい!」

 

沈黙の中、1人が勇気を出して質問する。

 

「……なんだ?」

 

「ふ、伏射はダメなのでしょうか?」

 

「膝射のみだ。他の射撃姿勢は認めん。なんだ、立射で挑みたいのか? だったら歓迎するぞ、無謀者! 他に質問はあるか!?」

 

「……い、いえ。ありません!」

 

「よろしい。では、これより試験を始める。番号を呼ばれた者からブースに入れ!」

 

そして複数の番号が呼ばれ、受験生たちが準備を始めた。

 

「それでは、始め!!」

 

――

 

他の受験生たちも、弱音を吐いていた割には好成績だった。

レナの目には、下地は十分あるように見えた。

 

(やはり次元が違う。子供がここまで当てられるとは)

 

だが驚異的な命中率を叩き出している生徒が複数いた。

その中で目を引いたのは、レナと同じ狼の耳をした生徒と、それに対になるように狐の耳をした生徒だった。

 

(……ああいうのもいるのか。甘く見ていたようだ)

 

「47番!!」

 

レナの番号が呼ばれた瞬間、辺りは静まり返った。

周りの視線が一斉にレナに集まる。皆が息を呑み、ただ見つめていた。

 

(……なんだこいつら。期待されているのか?)

 

戦場帰りのレナは、少しズレた感想を抱く。

 

ブースに入るため歩き出すと、前にいた他の受験生は一斉に道を開けた。

その姿は、さながら上官に敬礼しながら道を開ける兵士のようだった。

 

ブースに入り、ARを受け取る。

 

(ッ!?……これは美しい。こんな上物、滅多にないぞ)

 

それは武器だが、まるで芸術品のような雰囲気を纏っていた。

装飾に頼る紛い物とは、別格だった。

 

レナはしゃがみ、膝を立てる。

この姿勢は、少なくとも立射よりは安定する。

 

ARにマガジンを差し、チャージングハンドルを引く。

するとカバーが剥がれ、ボルトが露出した。

再度ハンドルを軽く引いてチャンバーを確認し、アシストノブを一度叩いて確実に閉鎖させる。

 

スリングベルトを腕にきつく巻き、安定させる。

続いてセーフティを外し、トリガーに軽く指をかけた。

 

300mは確かに遠いが、虫のように動き回るドローンに比べればお遊びだ。

だが慢心はしない。脳裏に2人の顔が浮かぶ。

 

風は止んだ。今こそ絶好のタイミング。

 

息を吐き、集中する。

 

まずは1発目――

 

――ダンッ!!

 

放たれた弾丸は、寸分の狂いもなく吸い込まれるように的の中心を撃ち抜いた。

 

「……命中!」

 

「ウソだろ、おい! 初弾で、ど真ん中!?」

「……かっこいい」

 

1人、違うことを言っている気がするが、無視する。

 

(……思った通りに弾が飛ぶ。これがあの時あれば、どれだけの仲間を救えただろうか……)

 

得物の特性を完全に理解したレナは、連続で撃ち始める。

 

4発を連続で撃ち――

 

――ダンッ!! ダンッ!!

――ダンッ!! ダンッ!!

 

「……め、命中……」

「あんな連射して……ブレないなんて……」

 

試験官も神妙な表情で、レナのプロフィールを再確認した。

 

「……アビドスか。……ふん、超新星ってところだな」

 

今までに使ったどの銃よりも真っ直ぐ飛ぶ弾に、全能感のようなものを覚えていた。

 

――もう外すことはない。

 

確信した瞬間、周囲の音が遠のく。

 

さらに4発撃ち――

 

「……」

「……す、凄い」

「……もふもふ尻尾触りたい」

 

最後の1発を撃つ――

 

レナが撃ち抜いたターゲットの中心には、少しだけ大きな穴がぽっかりと空いていた。

 

構えを解いて見渡すと、誰もが黙り込み、会場は静粛に包まれていた。

 

ユウイチが戦場に投入されてから「7年」――

その年月の重さが、わずか10発に凝縮されていた。

 

「……ぜ、全弾命中。満点です……」

 

次の瞬間、会場は拍手に包まれた。

 

 

試験官が前に出て、レナに問いかける。

 

「凄いものを見せてもらった。どこで覚えた?」

 

――レナはどう答えるか悩んだ。

まさか「前世で7年、奴隷兵士をやっていました」とは口が裂けても言えない。

 

悩んだ末、直立不動の姿勢で嘘をつく。

 

「……はッ。夢の中であります」

 

だがそれは、真実に近く、遠くもある。

この嘘は、レナなりの最大限の譲歩だった。

 

試験官は一瞬目を丸くし、何か察したように頷く。

 

「なるほど……そういうことにしておいてやる」

 

 

 

 

無事に第一科目を終え、次は室内へと移動する。

 

そこにはベニヤ板で構成された模擬的な建物があった。

いわゆるキルハウスと呼ばれる、主にCQB訓練に使われる施設だ。

 

先導していた試験官が足を止め、受験生たちも立ち止まる。

 

試験官は振り返ると、言い放った。

 

「さあ、次はみんな大好きキルハウスだ! ここでは内部に設置されたターゲットを倒しつつ駆け抜け、ゴールまでのタイムを測る――」

 

「……が、ただのターゲットだけではない! 中には反撃してくる奴もある。痛い思いをしたくなかったら対処しろ! まあ、被弾したら減点だがな! ハハハ!」

 

わざとらしく笑う試験官とは対照的に、受験生たちはぴくりとも動かない。

重苦しい空気が漂う。

 

「……反撃って、場所も分からないのに……」

「そんな……初見殺しってこと……?」

「……当たったら減点……」

 

キヴォトスの住人は頑丈だ。

撃たれること自体には慣れているが、「撃たれるな」と言われると逆に強烈なプレッシャーとなる。

 

だがレナは、撃たれたら即人生終了の世界に身を置いていた。

これくらいでは、何ともない。

 

「これは実戦を想定した試験でもある! 容疑者が棒立ちするはずがないことくらい、貴様らも分かっているだろう!!」

 

反論の余地はなく、全員が黙り込んだ。

 

「だが安心しろ。ハウス内のスピーカーで誘導はしてやるし、嘘の情報は言わない。……ただし、どこから攻撃してくるかまでは教えん。ちなみに的の配置はランダムだ! カンニングはできないぞ!」

 

なんと、大まかとはいえ事前情報がある。

突入前に配置のヒントをもらえるのは、優しいの一言に尽きる。

 

「……質問はあるか?……ないな。では、番号を呼ばれた者から準備しろ!」

 

 

 

――

 

レナは備え付けのモニターで、先行する受験者を観察していた。

 

(……『当たっても死なない』という心理が、行動に出すぎている)

 

突入時の迷い、射線確保の甘さ、クリアリング不足。

実戦なら致命的になるミスを犯す生徒が多い。

 

一人の雑な動きが部隊全体を危険にさらし、最悪の場合、敵に手玉を取られる。

 

だが全員がそうではない。

セオリー通りに動く者も、確かに存在していた。

 

「47番!!」

 

次はレナの番だ。

 

 

 

――

 

レナはハウス内、スタート地点に立った。

 

その姿を、他の受験生たちはモニター越しに見つめている。

一体どんな動きをするのか。

射撃試験で見せた反動制御、その精度をどう活かすのか。

 

期待と緊張が入り混じった空気が漂っていた。

 

スピーカー越しに試験官の声が響く。

 

《準備はいいな?》

 

レナはドアの横に張り付き、武器を構える。

その瞬間、雰囲気が一変した。

 

極限まで研ぎ澄まされた、殺気にも似た何かが周囲を満たす。

 

モニター越しであるにもかかわらず、受験生たちは足がすくむ感覚を覚えた。

 

「……なに、あれ……」

「どう考えても上澄み……でも、あんな子見たことない……」

 

レナはカメラに向けてサムズアップし、準備完了を伝える。

 

《ステンバーイ!!》

 

ドアノブを掴み、回す。

 

《ゴー!!》

 

一気に開き、ほんの一瞬だけ頭を出す。

 

(右に1、左に2)

 

頭の中で状況を即座に整理し、胸に1発、頭に1発。

流れるように標的パネルを処理する。

 

《速いな。さすがだ! 右の通路、窓の向こうにいるぞ!》

 

そのまま走り抜け、窓の手前で止まる。

 

銃を構え、ほんのわずかだけ覗く。

 

右に人質、その背後に1。左に武装2。

 

まずは人質の背後にいる標的の頭へ2発。

すぐさま左にバースト射撃を浴びせ、反撃される前に薙ぎ倒した。

 

その殺戮マシーンのような動きは、他の受験生の目には異常に映った。

 

誰も言葉を発しない。

 

《正面のドアだ。中に複数、鍵が掛かっている。何とか突破しろ!》

 

走り込み、蹴り破る。

足を畳み、スライドしながら姿勢を極限まで低くする。

 

正面2、右1、左に武装3。

 

滑りながら正面の2体を処理し、左に跳んで壁に隠れ、射線を切る。

右の1体に2発叩き込み、そのまま壁越しに弾をばら撒いて、反対側の武装パネルを一掃した。

 

《なるほど……壁で射線を切るか。面白い。よし、これで終了だ。戻れ!》

 

一連の動きを目の当たりにし、受験生たちは完全に言葉を失っていた。

 

これは試験ではない。

 

 

 

――まるで実戦だった。

 

 

 

――

 

終わった。戻ろう。

 

ふと、手に違和感を覚える。

視線を落とすと、手が小刻みに震えていた。

 

……止まらない。

 

なんだ……どうしたんだ。

 

*1
命中精度の指標、数字が小さいほどよく当たる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。