白狼救済録 作:らんらん出荷マン
毎日投稿はしないと言いましたが、アレは嘘です。
さて冗談はここまでにして、ホントは筆がノって仕上がっちゃっただけです。
ところで皆様は、俺TUEEE系は好きですか?私は大好きです。
あと評価に赤が付いていてびっくりしました。皆様ありがとうございます。
アビドスの市街地も都会だったが、D.U.はそれ以上に大都会だった。
交差点を行き交う人々の動きは、まるで制御された群像。
そして建ち並ぶビルは天にも届くほど高く見え、その窓ガラスに反射する光がレナの網膜を照らした。
ここD.U.は、キヴォトスの行政機関であり、SRTの運用も司っている連邦生徒会の所在地でもある。
となると、D.U.はキヴォトスの首都のような存在なのだろうか。
◆
レナと付き添いのホシノは、D.U.のとある地区にあるSRT入学試験の会場に足を運んだ。
「それじゃ、私が一緒に行けるのはここまでです。朗報を期待してますよ」
「……行ってくる」
入口をくぐり抜け、会場に入る。
(ここが試験会場……この空気、まるで前線のキャンプだ。この場にいる生徒は、アビドスからD.U.へ向かう途中で見かけた奴らとは違う。明らかに戦い慣れた“経験者”しかいない……)
レナはそう評価したが、他の生徒たちもレナの異質さを本能的に感じ取った。
「ねぇ……あの子……」
「あぁ……」
周りから視線を浴びても、レナは気にせず無表情のまま受付まで行き、手続きを済ませた。
「はい、これで手続きは以上となります。こちらの番号札をお持ちになり、待機室でお待ちください」
レナが受け取った紙には、「47番」と書かれていた。
――
しばらく待機していると、会場全体にアナウンスが響いた。
《来場の皆様、お待たせいたしました。ただ今よりSRT入学試験を開始いたします。係員の指示に従い、速やかに試験場にお入りください》
最初に通された試験場は野外、300mレンジの射撃場だった。
恐らく試験用であろうアサルトライフルと弾薬が、所狭しと置いてある。
金属と油の匂いが漂い、物々しい。
◆
会場に整列して待機した受験生たちの前に、上級生と思われる試験官が躍り出て説明を始める。
「……よし、揃っているな。これより射撃試験を行う。第一科目は300m先のターゲットに膝射で10発撃ち、総合的な命中率で評価する。ただし――」
担当官はレナを見て、一瞬だけ眉をひそめた。
「……光学照準器の使用は一切禁止だ! ここでは“素の技量”のみを見る!」
(膝射でアイアンサイト、しかも300mか……一般の限界を超えている)
その数字を聞いて、周りがざわめき出した。
「……おい、300だってよ」
「市街地戦ばかりのキヴォトスで必要なの?」
「……どうしよう、私。近接戦しか得意じゃない」
「私語は慎め!! 貴様らが使うARは1MOA以下*1に調整してある! 300mで9cm以内に収まる精度だ、文句は言わせん!!」
(……狙撃銃並みではないか!?)
試験官が叫び、受験生に沈黙が走る。
銃の性能は最高だが、動揺するのも無理はない。実際、厳しい要求をされているのだ。
「よし、何か質問は……?」
「――はい!」
沈黙の中、1人が勇気を出して質問する。
「……なんだ?」
「ふ、伏射はダメなのでしょうか?」
「膝射のみだ。他の射撃姿勢は認めん。なんだ、立射で挑みたいのか? だったら歓迎するぞ、無謀者! 他に質問はあるか!?」
「……い、いえ。ありません!」
「よろしい。では、これより試験を始める。番号を呼ばれた者からブースに入れ!」
そして複数の番号が呼ばれ、受験生たちが準備を始めた。
「それでは、始め!!」
――
他の受験生たちも、弱音を吐いていた割には好成績だった。
レナの目には、下地は十分あるように見えた。
(やはり次元が違う。子供がここまで当てられるとは)
だが驚異的な命中率を叩き出している生徒が複数いた。
その中で目を引いたのは、レナと同じ狼の耳をした生徒と、それに対になるように狐の耳をした生徒だった。
(……ああいうのもいるのか。甘く見ていたようだ)
「47番!!」
レナの番号が呼ばれた瞬間、辺りは静まり返った。
周りの視線が一斉にレナに集まる。皆が息を呑み、ただ見つめていた。
(……なんだこいつら。期待されているのか?)
戦場帰りのレナは、少しズレた感想を抱く。
ブースに入るため歩き出すと、前にいた他の受験生は一斉に道を開けた。
その姿は、さながら上官に敬礼しながら道を開ける兵士のようだった。
ブースに入り、ARを受け取る。
(ッ!?……これは美しい。こんな上物、滅多にないぞ)
それは武器だが、まるで芸術品のような雰囲気を纏っていた。
装飾に頼る紛い物とは、別格だった。
レナはしゃがみ、膝を立てる。
この姿勢は、少なくとも立射よりは安定する。
ARにマガジンを差し、チャージングハンドルを引く。
するとカバーが剥がれ、ボルトが露出した。
再度ハンドルを軽く引いてチャンバーを確認し、アシストノブを一度叩いて確実に閉鎖させる。
スリングベルトを腕にきつく巻き、安定させる。
続いてセーフティを外し、トリガーに軽く指をかけた。
300mは確かに遠いが、虫のように動き回るドローンに比べればお遊びだ。
だが慢心はしない。脳裏に2人の顔が浮かぶ。
風は止んだ。今こそ絶好のタイミング。
息を吐き、集中する。
まずは1発目――
――ダンッ!!
放たれた弾丸は、寸分の狂いもなく吸い込まれるように的の中心を撃ち抜いた。
「……命中!」
「ウソだろ、おい! 初弾で、ど真ん中!?」
「……かっこいい」
1人、違うことを言っている気がするが、無視する。
(……思った通りに弾が飛ぶ。これがあの時あれば、どれだけの仲間を救えただろうか……)
得物の特性を完全に理解したレナは、連続で撃ち始める。
4発を連続で撃ち――
――ダンッ!! ダンッ!!
――ダンッ!! ダンッ!!
「……め、命中……」
「あんな連射して……ブレないなんて……」
試験官も神妙な表情で、レナのプロフィールを再確認した。
「……アビドスか。……ふん、超新星ってところだな」
今までに使ったどの銃よりも真っ直ぐ飛ぶ弾に、全能感のようなものを覚えていた。
――もう外すことはない。
確信した瞬間、周囲の音が遠のく。
さらに4発撃ち――
「……」
「……す、凄い」
「……もふもふ尻尾触りたい」
最後の1発を撃つ――
レナが撃ち抜いたターゲットの中心には、少しだけ大きな穴がぽっかりと空いていた。
構えを解いて見渡すと、誰もが黙り込み、会場は静粛に包まれていた。
ユウイチが戦場に投入されてから「7年」――
その年月の重さが、わずか10発に凝縮されていた。
「……ぜ、全弾命中。満点です……」
次の瞬間、会場は拍手に包まれた。
試験官が前に出て、レナに問いかける。
「凄いものを見せてもらった。どこで覚えた?」
――レナはどう答えるか悩んだ。
まさか「前世で7年、奴隷兵士をやっていました」とは口が裂けても言えない。
悩んだ末、直立不動の姿勢で嘘をつく。
「……はッ。夢の中であります」
だがそれは、真実に近く、遠くもある。
この嘘は、レナなりの最大限の譲歩だった。
試験官は一瞬目を丸くし、何か察したように頷く。
「なるほど……そういうことにしておいてやる」
◆
無事に第一科目を終え、次は室内へと移動する。
そこにはベニヤ板で構成された模擬的な建物があった。
いわゆるキルハウスと呼ばれる、主にCQB訓練に使われる施設だ。
先導していた試験官が足を止め、受験生たちも立ち止まる。
試験官は振り返ると、言い放った。
「さあ、次はみんな大好きキルハウスだ! ここでは内部に設置されたターゲットを倒しつつ駆け抜け、ゴールまでのタイムを測る――」
「……が、ただのターゲットだけではない! 中には反撃してくる奴もある。痛い思いをしたくなかったら対処しろ! まあ、被弾したら減点だがな! ハハハ!」
わざとらしく笑う試験官とは対照的に、受験生たちはぴくりとも動かない。
重苦しい空気が漂う。
「……反撃って、場所も分からないのに……」
「そんな……初見殺しってこと……?」
「……当たったら減点……」
キヴォトスの住人は頑丈だ。
撃たれること自体には慣れているが、「撃たれるな」と言われると逆に強烈なプレッシャーとなる。
だがレナは、撃たれたら即人生終了の世界に身を置いていた。
これくらいでは、何ともない。
「これは実戦を想定した試験でもある! 容疑者が棒立ちするはずがないことくらい、貴様らも分かっているだろう!!」
反論の余地はなく、全員が黙り込んだ。
「だが安心しろ。ハウス内のスピーカーで誘導はしてやるし、嘘の情報は言わない。……ただし、どこから攻撃してくるかまでは教えん。ちなみに的の配置はランダムだ! カンニングはできないぞ!」
なんと、大まかとはいえ事前情報がある。
突入前に配置のヒントをもらえるのは、優しいの一言に尽きる。
「……質問はあるか?……ないな。では、番号を呼ばれた者から準備しろ!」
――
レナは備え付けのモニターで、先行する受験者を観察していた。
(……『当たっても死なない』という心理が、行動に出すぎている)
突入時の迷い、射線確保の甘さ、クリアリング不足。
実戦なら致命的になるミスを犯す生徒が多い。
一人の雑な動きが部隊全体を危険にさらし、最悪の場合、敵に手玉を取られる。
だが全員がそうではない。
セオリー通りに動く者も、確かに存在していた。
「47番!!」
次はレナの番だ。
――
レナはハウス内、スタート地点に立った。
その姿を、他の受験生たちはモニター越しに見つめている。
一体どんな動きをするのか。
射撃試験で見せた反動制御、その精度をどう活かすのか。
期待と緊張が入り混じった空気が漂っていた。
スピーカー越しに試験官の声が響く。
《準備はいいな?》
レナはドアの横に張り付き、武器を構える。
その瞬間、雰囲気が一変した。
極限まで研ぎ澄まされた、殺気にも似た何かが周囲を満たす。
モニター越しであるにもかかわらず、受験生たちは足がすくむ感覚を覚えた。
「……なに、あれ……」
「どう考えても上澄み……でも、あんな子見たことない……」
レナはカメラに向けてサムズアップし、準備完了を伝える。
《ステンバーイ!!》
ドアノブを掴み、回す。
《ゴー!!》
一気に開き、ほんの一瞬だけ頭を出す。
(右に1、左に2)
頭の中で状況を即座に整理し、胸に1発、頭に1発。
流れるように標的パネルを処理する。
《速いな。さすがだ! 右の通路、窓の向こうにいるぞ!》
そのまま走り抜け、窓の手前で止まる。
銃を構え、ほんのわずかだけ覗く。
右に人質、その背後に1。左に武装2。
まずは人質の背後にいる標的の頭へ2発。
すぐさま左にバースト射撃を浴びせ、反撃される前に薙ぎ倒した。
その殺戮マシーンのような動きは、他の受験生の目には異常に映った。
誰も言葉を発しない。
《正面のドアだ。中に複数、鍵が掛かっている。何とか突破しろ!》
走り込み、蹴り破る。
足を畳み、スライドしながら姿勢を極限まで低くする。
正面2、右1、左に武装3。
滑りながら正面の2体を処理し、左に跳んで壁に隠れ、射線を切る。
右の1体に2発叩き込み、そのまま壁越しに弾をばら撒いて、反対側の武装パネルを一掃した。
《なるほど……壁で射線を切るか。面白い。よし、これで終了だ。戻れ!》
一連の動きを目の当たりにし、受験生たちは完全に言葉を失っていた。
これは試験ではない。
――まるで実戦だった。
――
終わった。戻ろう。
ふと、手に違和感を覚える。
視線を落とすと、手が小刻みに震えていた。
……止まらない。
なんだ……どうしたんだ。