白狼救済録 作:らんらん出荷マン
今回はオリジナル生徒が出ます、今後も登場する子たちです。
あと、この先の展開は特に考えてません。
……どうしましょうか。
余談ですが、主人公の名前はRenameから取っています。
あれから、手の震えが止まらない。
指先が凄く冷たい。
どういうわけか、興奮状態から戻らずにいる。
移動している間も、原因は分からないままだった。
第二科目を終えた受験生一行は、再び外へ案内された。
だが今度は会場の規模が違う。
キルハウスとは比べものにならない広さの、市街地を模した試験場が目の前に広がっていた。
試験官は足を止め、振り返る。
「よし、説明する。次の試験は、成績上位者を指揮官にしたチーム戦だ。制限時間は15分。
ルールは単純。市街地にオートマトンとドローンが所狭しと配置されている。極力隠密行動を心掛けろ。隠れているVIPを確保して
試験官は受験生一人ひとりの顔を見渡した。
「――重要目標であるVIPを、たとえ確保したとしても、途中で被弾した時点で即刻、試験終了とする。いいか? 指揮官役の受験生は、しっかり他の連中を導け。責任重大だぞ。お前達のミスで、チーム全員が落ちるんだ」
指揮官。責任。全員が落ちる。
その言葉は、レナにとってどんな暴言よりも心の奥底に響いた。
落ち着きを取り戻していた鼓動は不規則に乱れ、額には脂汗が滲む。
忘れかけていた過去が、ノイズとして浮かび上がる。
「だ、大丈夫ですか? 汗がすごいですよ?」
声を掛けられ、レナは現実に戻った。
「あぁ、すまない。ちょっと熱くてな」
我ながら苦しい言い訳だ。
本当は寒気がして仕方がなかった。
「そ、そうですか。……あはは、私は高嶺リノと申します」
そう名乗った彼女は、狼の耳を生やした、第一科目で好成績を出した生徒だった。
「大上レナだ。よろしく頼む」
「キルハウスでの動き、見てました。すごかったです」
「あぁ、ありがとう。だが、練習したら誰でもできるさ」
「……そ、そうでしょうか?」
「それでは編成を発表する!」
リノと話していると、試験官が叫ぶ。
番号を読み上げ、編成内容を受験生たちに伝えていく。
どうやら狐耳の生徒は、指揮官に抜擢されたようだ。
対するレナは――
「47番! 貴様が指揮官だ! 隊のコールサインはデルタ、しっかり覚えろ!!」
やはり選ばれた。あの成績を叩き出したのだ。
選ばれない方がおかしかった。
レナのチーム編成は、高嶺リノ、背の低いショートヘアの奴、なんだかおっとりした羽の生えたデカい奴の3人だった。
背の低い奴が名乗る。
「東條スイだよ。こう見えて、力は人一倍あるよ。LMGはお任せ」
小さいのに、金属の塊であるLMGを使うという。
人は見かけによらないものだ。
おっとりした奴も名乗る。
「ハロー、オオカミちゃん。樋口メイで〜す! ショットガンを使ってま〜す! ドローンは任せて❦」
こんな雰囲気でショットガン。なかなか物騒だ。
リノも名乗った。
「た、高嶺リノです。DMRを普段は使用してます。よろしくお願いします」
特に驚きはなかった。なんというか、想像できる。
レナは全員の顔を覚え、同じく名乗る。
「……大上レナだ。武器は……その場で使えるものなら何でも使う。よろしく頼む」
誰が誰だかを確認したところで、試験官が叫ぶ。
「編成は以上だ! 何か質問は!? あるならこちらまで来い!」
「はい」
即座にレナは手を上げ、試験官に近づいた。
試験官は目を細め、向かってくるレナをじっと見つめた。
『LD−508、出撃だ。起きろ』
「…………失敗した場合、合否はどうなりますか……」
「そうだな。一定以上の点数を確保した者は、そのまま残ってもらう。だが、それ以外は荷物をまとめて、速やかに帰ってもらう。他には?」
「いいえ。……特にありません」
つまり失敗しても、レナは残る。
この事実は彼女の新たな足枷となった。
レナは重い足取りで、メンバーの所へ戻る。
「どうだった? オオカミちゃん❦」
レナは詳細を伏せたまま、全員に伝える。
「失敗したら、最悪失格だ」
それを聞いたスイの顔が強張る。
「……厳しいね。試験内容も実戦さながら」
「……で、ですが。大上さんがいますし。私は、不安には思ってないですよ?」
リノの信頼に満ちた目が、レナの焦燥感を煽る。
「……ああ、任せろ……」
もう、前のようにはいかない。
――
デルタチームは、一通り装備の準備を済ませ、待機する。
「……ところで、隊長。その制服……あの“暁のホルス”が所属してる……」
スイが探るように聞いてきた。
なんだ、また暁のなんとかか。
「なんだその、暁の……」
「ホルスです」
リノが補足を入れる。
「……そう、そのホルスだが。ホシノのことを言っているのか? 奴にも聞いたが、教えてくれなかった」
「あら〜オオカミちゃん。知らないの?
盾突く子を片っ端から、ギッタンギッタンにして、ケチョンケチョンにして回ってた要注意生徒よ❦」
(……なんだその表現は)
「……そ、その表現使う人、初めて見ましたよ……」
リノも引き気味である。
まさかあの優等生が、ヤンチャしていたのは意外だった。
だが、あの感じだと本人はその二つ名が心底嫌いなようだ。
「……そのホルスと一緒だから強いんだね、納得」
「……あ、ああ。そうだ」
(すまないホシノ、お前の立場を利用させてもらう)
自分の正体を悟られる可能性を、レナは恐れた。
「そう言うお前たちは、どこから来たんだ?」
話題を変えるために話を振る。
「知らないの〜? 私たちの制服、有名なのに❦」
「すまんな。生まれてこの方、アビドスから出たことはない」
「あら〜そうなの❦」
「……わ、私は、ミレニアムです」
「レッドウィンターだよ」
スイとリノの2人は名乗るが――
「私は〜、ヒ・ミ・ツ❦」
なんだ、コイツは。
「……メイは、トリニティだよ」
呆れた目を向けながらスイが答える。
「ちょっと〜? なんで言っちゃうの❦」
「め、メイさんの制服、白いですよね。もしかしてティーパーティー所属ですか?」
「そうだけど、あまりお茶会には参加しないから、立場は微妙だよ❦」
そのとき、スピーカーから試験官の声が響いた。
《47番! 貴様のチームの番だ。さっさと出てこい!》
皆が一斉に口を閉じ、先ほどまでの笑みは消え失せた。
身に纏う空気が変わる――
言うなれば、これは戦闘モード。
「よし、行くぞ。世間話は終わりだ」
「「「了解」」」
待機室から飛び出し、模擬市街地の近くで立っている試験官の前に整列し、レナが報告する。
「デルタチーム、準備完了」
「よろしい。これより救出試験を行う! 制限時間は15分。
VIP確保後に伝える報告先のコールサインは、“ビーハイブ”だ。忘れるな!!」
「……了解」
試験官はレナの目を見て、一瞬考える素振りを見せ――何も言わない。
「……ふん、試験開始のタイミングは、お前たちに一任する。デルタチーム!! 精々足掻け!!」
そう言い残し、試験官は立ち去った。
レナは後ろにいるメンバーへ振り向く。
デルタチームのメンバーは期待と不安が入り交じった表情でレナを見つめる。
「この隊長なら」受かるかも知れない――
そんな表情だった。
(こいつらの人生が俺の指揮に委ねられる)
自ずと力が入り、心拍数は跳ね上がる。
やらなければならない。で、あれば成功させなければならない。
犠牲は出さない――無傷でやり遂げる。
覚悟を決め、レナは口を開いた。
「よし、お前たちのコールサインを決める。リノ、お前はデルタ2だ」
「りょ、了解」
「スイはデルタ3」
「アイコピー」
「メイはデルタ4だ」
「はいは~い❦」
『イエッサー』
メイの軽い口調が過去の戦友と重なり、レナの緊張を和らげる。
再度、全員の顔を確認し、レナは銃を構えた。
構えると同時に、さっきまで感じていた寒気はなくなっていた。
調子は悪くない、むしろ絶好調。
「よし、デルタ4。先行しろ。デルタ3は後方を警戒。デルタ2は、私の後ろに付け」
皆が頷き、指示通りのポジションに付く。
――辺りに緊張が走る。
失敗は許されない。
過去に縛られたレナにとって、この試験は試練になる。
「よし……行けるな? 」
皆が腰を落とし頷いたあと、ほんの少しの沈黙が生まれる。
「ムーブ!!」
掛け声と同時に、4人が一斉に動き出す。
――
レナは細心の注意を払い、過去の経験を頼りにドローンの巡回ルートを掻い潜り、市街地を進み続け、エリア中心付近に辿り着いた。
ここまで、ドローンやオートマトンに一切気付かれていない。
「隊長〜、すご~い。ここまでバレてないよ❦」
「ホントに、指揮初めて?」
「……残り9分、ここまで戦闘なし。隊長、すごいです」
こんなにも簡単に進めるとは思っていなかったのか、
各々が感想を漏らす。
だが、レナの内心は全く違っていた。
戦場の状況はあっという間に変わる。全く安心できなかった。
イレギュラーなことなど散々起きた、作戦通りに事が運ぶのは滅多にない。
『行きはよいよい、帰りは怖いってな。隊長、ハハハ!』
「全員、あの壁まで進むぞ」
建物の影に隠れ、辺りを見渡す。
前方の建物の二階に人影が見える。
恐らくアレがVIP、だがそこへ続く道は開け、辺りからは丸見えだった。
待ち伏せ。狙撃。
その言葉がレナの脳裏に浮かぶ。
「全員で行ったら危険だ、2と3は左右に展開し、道を見張れ。デルタ4――」
「なぁに?隊長❦」
「あの建物が見えるか?さっき人影が見えた、恐らくVIPだ。確認しに行く、お前が先行しろ、私は張り付いて、後ろを守る」
「りょ〜かい❦」
メイはショットガンを構え壁端にもたれかかる。レナは後ろにぴったり張り付き、そっと肩に手を置いた。
リノとスイが左右の建物に入り、窓から道を見張る。
準備はできた――
メイの肩を叩く。
彼女が飛び出し、レナもそれに続く。
何もない道をただ走り続ける。
この時間は永遠に続くかと思えるほど、前に進む2人には長く感じたが――
特に狙撃もなく、無事に辿り着いた。
レナは振り返り、援護している2人にサムズアップを向けた。
そうすると2人は、ホッとしたような顔をしている。
残り7分、時間はあまりない。
急いで階段を駆け上がり、メイとドアに張り付く。
レナがゆっくりとドアノブを回し――
開けると同時にメイが飛び込み、レナも後に続く。
ドアを抜けたその先には、VIP役と思われるSRT生がいた。
「うぉ!!びっくりした。全く銃声もしないし、物音もしないから、試験が始まったか分からず不安だったよ……すごいね君たち」
レナが一歩近付く。
「ご同行、願えますか?」
「よし、行こう!さすがに待ってるのは飽きてたんだ」
3人で一階に降り、道を確認する。
まだドローンはいない、向かい側の2人に合図を送り――
飛び出す。
先行はメイ、その後ろをVIP、殿はレナだ。
無事に辿り着き、集合のハンドサインを送る。
残り6分。
再度、隊列を組み直し、引き返す。
しばらく進み、LZまで目前の所まで来たが、様子がおかしかった。
ドローンとオートマトンの数が多いのだ。
残り3分。
時計を確認する、時間が無い。
呼吸が浅くなり、周囲の音が大きくなった気がする。
風が止み、静粛が広がる。
するとレナの耳が、後ろから近づく羽音を拾った。
囲まれた。
その瞬間メイが振り向き、ショットガンの轟音が響き渡った。
「ゴメンね……隊長、撃っちゃった」
それと同時に、徘徊していた連中が一斉に振り向いた。
「――エンゲージッ!!VIPを守れ!!ダイヤモンドフォーメーション!!」
レナが叫び、全員が陣形を組み、遮蔽物に身を隠す。
「デルタ3!!LZ前の奴らに弾幕を浴びせろッ!!蜂の巣にしてやれ!!」
「ウィルコ!!」
「2は後方を警戒!!角から出て来る奴を片っ端から撃て!!」
「りょ、了解!!」
「4!!撃ち漏らしたドローンを叩き落とせ!!」
「イエスマム!!」
「うひゃー始まったか!」
「あなたは頭を下げて!撃たれますッ!!」
レナは冷静に指示を飛ばすが、内心は荒れ狂っていた。
こうなってしまえばもう、時間には間に合わない。
タイムは諦める。
今は全員の生存を優先する。
それだけだった。
レナはVIPにぴったりと張り付き盾になる。
前後から迫る機械の亡霊。
響き渡る銃声。
地面を染める薬莢。
立ち込める硝煙。
永遠に続くかと思われた生存競争は、銃声が止むと同時に途切れる。
「殲滅……完了。各位、状況報告」
「はぁ……はぁ……デルタ2。無事です」
「デルタ3、弾薬0。でも傷はない」
「……デルタ4、問題なし……」
銃声が止んだのを確認したVIPが、レナの股下から顔を出す。
「お、終わった?この数を退けたっていうの……?」
「ゴメンね……隊長。私が撃ったから……」
メイは相当な責任を、感じているのだろう。
さっきまでの陽気さは、まるで無かった。
「気にするな、仕方がなかった」
――そうだ、これはどうしようもない。
メイが撃たなくても、代わりに俺が撃っていただろう。
誰も落ち度はない、むしろベストを尽くした。
「……うん」
「よし、時間は過ぎているが、任務はやり遂げる。LZまで行くぞ。」
「「「了解」」」
もし俺以外の奴が失格になったら。この試験は辞退する。
それが隊長の責務だ――
無線機のスイッチを押す。
「ビーハイブ、ビーハイブ、こちらデルタチーム。LZに到着、VIPは無傷だ。オーバー」