白狼救済録   作:らんらん出荷マン

16 / 50

今回はオリジナル生徒が出ます、今後も登場する子たちです。
あと、この先の展開は特に考えてません。
……どうしましょうか。

余談ですが、主人公の名前はRenameから取っています。


第9話 試験―2

 

あれから、手の震えが止まらない。

指先が凄く冷たい。

どういうわけか、興奮状態から戻らずにいる。

移動している間も、原因は分からないままだった。

 

第二科目を終えた受験生一行は、再び外へ案内された。

だが今度は会場の規模が違う。

キルハウスとは比べものにならない広さの、市街地を模した試験場が目の前に広がっていた。

 

試験官は足を止め、振り返る。

 

「よし、説明する。次の試験は、成績上位者を指揮官にしたチーム戦だ。制限時間は15分。

ルールは単純。市街地にオートマトンとドローンが所狭しと配置されている。極力隠密行動を心掛けろ。隠れているVIPを確保してLZ(ランディングゾーン)まで導き、到達次第、無線で報告。それで終わりだが――」

 

試験官は受験生一人ひとりの顔を見渡した。

 

「――重要目標であるVIPを、たとえ確保したとしても、途中で被弾した時点で即刻、試験終了とする。いいか? 指揮官役の受験生は、しっかり他の連中を導け。責任重大だぞ。お前達のミスで、チーム全員が落ちるんだ」

 

指揮官。責任。全員が落ちる。

 

その言葉は、レナにとってどんな暴言よりも心の奥底に響いた。

 

落ち着きを取り戻していた鼓動は不規則に乱れ、額には脂汗が滲む。

忘れかけていた過去が、ノイズとして浮かび上がる。

 

「だ、大丈夫ですか? 汗がすごいですよ?」

 

声を掛けられ、レナは現実に戻った。

 

「あぁ、すまない。ちょっと熱くてな」

 

我ながら苦しい言い訳だ。

本当は寒気がして仕方がなかった。

 

「そ、そうですか。……あはは、私は高嶺リノと申します」

 

そう名乗った彼女は、狼の耳を生やした、第一科目で好成績を出した生徒だった。

 

「大上レナだ。よろしく頼む」

 

「キルハウスでの動き、見てました。すごかったです」

 

「あぁ、ありがとう。だが、練習したら誰でもできるさ」

 

「……そ、そうでしょうか?」

 

「それでは編成を発表する!」

 

リノと話していると、試験官が叫ぶ。

 

番号を読み上げ、編成内容を受験生たちに伝えていく。

 

どうやら狐耳の生徒は、指揮官に抜擢されたようだ。

 

対するレナは――

 

「47番! 貴様が指揮官だ! 隊のコールサインはデルタ、しっかり覚えろ!!」

 

やはり選ばれた。あの成績を叩き出したのだ。

選ばれない方がおかしかった。

 

レナのチーム編成は、高嶺リノ、背の低いショートヘアの奴、なんだかおっとりした羽の生えたデカい奴の3人だった。

 

背の低い奴が名乗る。

 

「東條スイだよ。こう見えて、力は人一倍あるよ。LMGはお任せ」

 

小さいのに、金属の塊であるLMGを使うという。

人は見かけによらないものだ。

 

おっとりした奴も名乗る。

 

「ハロー、オオカミちゃん。樋口メイで〜す! ショットガンを使ってま〜す! ドローンは任せて❦」

 

こんな雰囲気でショットガン。なかなか物騒だ。

 

リノも名乗った。

 

「た、高嶺リノです。DMRを普段は使用してます。よろしくお願いします」

 

特に驚きはなかった。なんというか、想像できる。

 

レナは全員の顔を覚え、同じく名乗る。

 

「……大上レナだ。武器は……その場で使えるものなら何でも使う。よろしく頼む」

 

誰が誰だかを確認したところで、試験官が叫ぶ。

 

「編成は以上だ! 何か質問は!? あるならこちらまで来い!」

 

「はい」

 

即座にレナは手を上げ、試験官に近づいた。

 

試験官は目を細め、向かってくるレナをじっと見つめた。

 

『LD−508、出撃だ。起きろ』

 

「…………失敗した場合、合否はどうなりますか……」

 

「そうだな。一定以上の点数を確保した者は、そのまま残ってもらう。だが、それ以外は荷物をまとめて、速やかに帰ってもらう。他には?」

 

「いいえ。……特にありません」

 

つまり失敗しても、レナは残る。

この事実は彼女の新たな足枷となった。

 

レナは重い足取りで、メンバーの所へ戻る。

 

「どうだった? オオカミちゃん❦」

 

レナは詳細を伏せたまま、全員に伝える。

 

「失敗したら、最悪失格だ」

 

それを聞いたスイの顔が強張る。

 

「……厳しいね。試験内容も実戦さながら」

 

「……で、ですが。大上さんがいますし。私は、不安には思ってないですよ?」

 

リノの信頼に満ちた目が、レナの焦燥感を煽る。

 

「……ああ、任せろ……」

 

もう、前のようにはいかない。

 

――

 

デルタチームは、一通り装備の準備を済ませ、待機する。

 

「……ところで、隊長。その制服……あの“暁のホルス”が所属してる……」

 

スイが探るように聞いてきた。

なんだ、また暁のなんとかか。

 

「なんだその、暁の……」

 

「ホルスです」

 

リノが補足を入れる。

 

「……そう、そのホルスだが。ホシノのことを言っているのか? 奴にも聞いたが、教えてくれなかった」

 

「あら〜オオカミちゃん。知らないの?

盾突く子を片っ端から、ギッタンギッタンにして、ケチョンケチョンにして回ってた要注意生徒よ❦」

 

(……なんだその表現は)

 

「……そ、その表現使う人、初めて見ましたよ……」

 

リノも引き気味である。

 

まさかあの優等生が、ヤンチャしていたのは意外だった。

だが、あの感じだと本人はその二つ名が心底嫌いなようだ。

 

「……そのホルスと一緒だから強いんだね、納得」

 

「……あ、ああ。そうだ」

 

(すまないホシノ、お前の立場を利用させてもらう)

 

自分の正体を悟られる可能性を、レナは恐れた。

 

「そう言うお前たちは、どこから来たんだ?」

 

話題を変えるために話を振る。

 

「知らないの〜? 私たちの制服、有名なのに❦」

 

「すまんな。生まれてこの方、アビドスから出たことはない」

 

「あら〜そうなの❦」

 

「……わ、私は、ミレニアムです」

「レッドウィンターだよ」

 

スイとリノの2人は名乗るが――

 

「私は〜、ヒ・ミ・ツ❦」

 

なんだ、コイツは。

 

「……メイは、トリニティだよ」

 

呆れた目を向けながらスイが答える。

 

「ちょっと〜? なんで言っちゃうの❦」

 

「め、メイさんの制服、白いですよね。もしかしてティーパーティー所属ですか?」

 

「そうだけど、あまりお茶会には参加しないから、立場は微妙だよ❦」

 

そのとき、スピーカーから試験官の声が響いた。

 

《47番! 貴様のチームの番だ。さっさと出てこい!》

 

皆が一斉に口を閉じ、先ほどまでの笑みは消え失せた。

 

身に纏う空気が変わる――

言うなれば、これは戦闘モード。

 

「よし、行くぞ。世間話は終わりだ」

 

「「「了解」」」

 

 

待機室から飛び出し、模擬市街地の近くで立っている試験官の前に整列し、レナが報告する。

 

「デルタチーム、準備完了」

 

「よろしい。これより救出試験を行う! 制限時間は15分。

VIP確保後に伝える報告先のコールサインは、“ビーハイブ”だ。忘れるな!!」

 

「……了解」

 

試験官はレナの目を見て、一瞬考える素振りを見せ――何も言わない。

 

「……ふん、試験開始のタイミングは、お前たちに一任する。デルタチーム!! 精々足掻け!!」

 

そう言い残し、試験官は立ち去った。

 

レナは後ろにいるメンバーへ振り向く。

 

デルタチームのメンバーは期待と不安が入り交じった表情でレナを見つめる。

 

「この隊長なら」受かるかも知れない――

 

そんな表情だった。

 

(こいつらの人生が俺の指揮に委ねられる)

 

自ずと力が入り、心拍数は跳ね上がる。

やらなければならない。で、あれば成功させなければならない。

 

犠牲は出さない――無傷でやり遂げる。

 

覚悟を決め、レナは口を開いた。

 

「よし、お前たちのコールサインを決める。リノ、お前はデルタ2だ」

 

「りょ、了解」

 

「スイはデルタ3」

 

「アイコピー」

 

「メイはデルタ4だ」

 

「はいは~い❦」

 

 

『イエッサー』

 

 

メイの軽い口調が過去の戦友と重なり、レナの緊張を和らげる。

 

再度、全員の顔を確認し、レナは銃を構えた。

 

構えると同時に、さっきまで感じていた寒気はなくなっていた。

調子は悪くない、むしろ絶好調。

 

「よし、デルタ4。先行しろ。デルタ3は後方を警戒。デルタ2は、私の後ろに付け」

 

皆が頷き、指示通りのポジションに付く。

 

――辺りに緊張が走る。

 

失敗は許されない。

過去に縛られたレナにとって、この試験は試練になる。

 

「よし……行けるな? 」

 

皆が腰を落とし頷いたあと、ほんの少しの沈黙が生まれる。

 

「ムーブ!!」

 

掛け声と同時に、4人が一斉に動き出す。

 

 

 

――

 

レナは細心の注意を払い、過去の経験を頼りにドローンの巡回ルートを掻い潜り、市街地を進み続け、エリア中心付近に辿り着いた。

 

ここまで、ドローンやオートマトンに一切気付かれていない。

 

「隊長〜、すご~い。ここまでバレてないよ❦」

 

「ホントに、指揮初めて?」

 

「……残り9分、ここまで戦闘なし。隊長、すごいです」

 

こんなにも簡単に進めるとは思っていなかったのか、

各々が感想を漏らす。

 

だが、レナの内心は全く違っていた。

戦場の状況はあっという間に変わる。全く安心できなかった。

イレギュラーなことなど散々起きた、作戦通りに事が運ぶのは滅多にない。

 

『行きはよいよい、帰りは怖いってな。隊長、ハハハ!』

 

「全員、あの壁まで進むぞ」

 

建物の影に隠れ、辺りを見渡す。

 

前方の建物の二階に人影が見える。

 

恐らくアレがVIP、だがそこへ続く道は開け、辺りからは丸見えだった。

 

待ち伏せ。狙撃。

 

その言葉がレナの脳裏に浮かぶ。

 

 

「全員で行ったら危険だ、2と3は左右に展開し、道を見張れ。デルタ4――」

 

「なぁに?隊長❦」

 

「あの建物が見えるか?さっき人影が見えた、恐らくVIPだ。確認しに行く、お前が先行しろ、私は張り付いて、後ろを守る」

 

 

「りょ〜かい❦」

 

メイはショットガンを構え壁端にもたれかかる。レナは後ろにぴったり張り付き、そっと肩に手を置いた。

 

リノとスイが左右の建物に入り、窓から道を見張る。

 

準備はできた――

 

 

メイの肩を叩く。

 

彼女が飛び出し、レナもそれに続く。

 

 

何もない道をただ走り続ける。

 

この時間は永遠に続くかと思えるほど、前に進む2人には長く感じたが――

 

 

特に狙撃もなく、無事に辿り着いた。

レナは振り返り、援護している2人にサムズアップを向けた。

 

そうすると2人は、ホッとしたような顔をしている。

 

残り7分、時間はあまりない。

 

 

急いで階段を駆け上がり、メイとドアに張り付く。

 

レナがゆっくりとドアノブを回し――

 

開けると同時にメイが飛び込み、レナも後に続く。

 

 

ドアを抜けたその先には、VIP役と思われるSRT生がいた。

 

「うぉ!!びっくりした。全く銃声もしないし、物音もしないから、試験が始まったか分からず不安だったよ……すごいね君たち」

 

レナが一歩近付く。

 

「ご同行、願えますか?」

 

「よし、行こう!さすがに待ってるのは飽きてたんだ」

 

 

3人で一階に降り、道を確認する。

 

まだドローンはいない、向かい側の2人に合図を送り――

 

飛び出す。

 

 

先行はメイ、その後ろをVIP、殿はレナだ。

 

 

無事に辿り着き、集合のハンドサインを送る。

 

 

残り6分。

 

 

再度、隊列を組み直し、引き返す。

 

 

しばらく進み、LZまで目前の所まで来たが、様子がおかしかった。

 

ドローンとオートマトンの数が多いのだ。

 

 

残り3分。

 

 

時計を確認する、時間が無い。

 

呼吸が浅くなり、周囲の音が大きくなった気がする。

 

風が止み、静粛が広がる。

 

するとレナの耳が、後ろから近づく羽音を拾った。

 

 

囲まれた。

 

 

その瞬間メイが振り向き、ショットガンの轟音が響き渡った。

 

「ゴメンね……隊長、撃っちゃった」

 

それと同時に、徘徊していた連中が一斉に振り向いた。

 

 

 

「――エンゲージッ!!VIPを守れ!!ダイヤモンドフォーメーション!!」

 

 

 

レナが叫び、全員が陣形を組み、遮蔽物に身を隠す。

 

「デルタ3!!LZ前の奴らに弾幕を浴びせろッ!!蜂の巣にしてやれ!!」

 

「ウィルコ!!」

 

「2は後方を警戒!!角から出て来る奴を片っ端から撃て!!」

 

「りょ、了解!!」

 

「4!!撃ち漏らしたドローンを叩き落とせ!!」

 

「イエスマム!!」

 

 

「うひゃー始まったか!」

 

「あなたは頭を下げて!撃たれますッ!!」

 

 

レナは冷静に指示を飛ばすが、内心は荒れ狂っていた。

 

こうなってしまえばもう、時間には間に合わない。

 

タイムは諦める。

 

 

今は全員の生存を優先する。

 

 

それだけだった。

 

 

レナはVIPにぴったりと張り付き盾になる。

 

 

前後から迫る機械の亡霊。

 

 

響き渡る銃声。

 

 

地面を染める薬莢。

 

 

立ち込める硝煙。

 

 

 

永遠に続くかと思われた生存競争は、銃声が止むと同時に途切れる。

 

 

「殲滅……完了。各位、状況報告」

 

「はぁ……はぁ……デルタ2。無事です」

 

「デルタ3、弾薬0。でも傷はない」

 

「……デルタ4、問題なし……」

 

 

銃声が止んだのを確認したVIPが、レナの股下から顔を出す。

 

「お、終わった?この数を退けたっていうの……?」

 

「ゴメンね……隊長。私が撃ったから……」

 

メイは相当な責任を、感じているのだろう。

さっきまでの陽気さは、まるで無かった。

 

 

「気にするな、仕方がなかった」

 

 

――そうだ、これはどうしようもない。

 

メイが撃たなくても、代わりに俺が撃っていただろう。

 

誰も落ち度はない、むしろベストを尽くした。

 

「……うん」

 

「よし、時間は過ぎているが、任務はやり遂げる。LZまで行くぞ。」

 

 

「「「了解」」」

 

 

もし俺以外の奴が失格になったら。この試験は辞退する。

 

それが隊長の責務だ――

 

 

無線機のスイッチを押す。

 

 

「ビーハイブ、ビーハイブ、こちらデルタチーム。LZに到着、VIPは無傷だ。オーバー」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。