白狼救済録 作:らんらん出荷マン
皆様、ありがとうございます!
連邦生徒会
放課後――生徒会長室
「……失礼します」
生徒会室に入った行政官は、震える手でレポートを差し出した。
「こちらが……大上レナのレポートになります。会長の指示通り、ドローンとオートマトンの巡回ルートを変更させましたが……彼女は何者なんです? あの数を、たった4人で殲滅……圧倒的不利な状況なのに誰も被弾なし。目標のVIPも、しっかり守り切っています」
連邦生徒会長に報告しながら、行政官の胸には畏怖と困惑が渦巻いていた。
「ふふっ、さすがですね」
「……会長。受け入れるおつもりですか? アビドスの生徒になったのも数日前。それ以前の経歴は一切不明です。危険ではないのですか?
監督した試験官も報告しています。あれは――学生の範疇を超えている、と」
「やっと……見つけたんです……」
「会長……? 何かおっしゃいましたか?」
「いえ、何でもありません。彼女は十分すぎるほどの活躍を見せました。これは――決定事項です」
「……で、ですが。私もレポートを確認しましたが……あれは、もはや兵器です。決して生徒として扱っていい存在では――」
生徒会長は静かに、しかし強く声を遮る。
「もう下がっていいですよ。報告、ご苦労様でした」
もう話すことはない――そう告げるような圧が行政官の背筋を凍らせる。
額から汗が垂れ、飲み込む唾の音さえ部屋に響いた。
「……ッ! し、失礼します!」
威勢の良さは跡形もなく消え、行政官は振り返ることもせずに退室した。
部屋にひとり残った生徒会長は、静かに呟いた。
「そんなことは分かっています……。ですが、使えるものは何でも使う。
私たちには、もう手段が残されていないんです。――そうですよね?……先生」
◆
SRT試験会場
――エントランス
今回の試験は、結果的にデルタチーム全員が合格となった。
あの後、試験官に問い詰めたが、試験は“時間を評価しない”とのことだった。
15分という短い時間で、どれだけ冷静に“不測の事態”へ対処できるか――そこが評価基準だったらしい。
その点で、デルタチームの結果は満点。文句なしの評価だった。
そしてこの試験で、大半の受験生が不合格となり、会場を後にしていった。
――
受付前の椅子に座るホシノの後ろ姿が目に入った。
近づいて声をかける。
「……ホシノ」
ホシノの身体がびくりと跳ねる。
「れ、レナさん!?……結果は?」
レナの接近に気づかなかったらしく、驚いた顔をしたが、すぐにいつもの鋭い目に戻った。
「色々あったが、なんとか合格だ。安心しろ」
「そ、そうですか!……さすがですね。あなたなら大丈夫だと思っていました」
「……あぁ、さすがに疲れた。今日はもうアビドスに帰ろう。ユメが待っている」
「えぇ、そうですね! 帰ったら柴関ラーメン行きましょう! みんなで打ち上げです!」
浮き足立ったホシノが隣に並び、二人は肩を揃えて歩き出す。
外に出ようとしたそのとき、白い制服を着た生徒たちが立ち塞がった。
「失礼いたします……大上レナさんですね? 連邦生徒会長がお呼びです。ご同行をお願いしてもよろしいですか?」
(……なんだコイツら。連邦生徒会長? 俺の次期雇い主か……)
隣のホシノから、鋭い殺気じみた圧が放たれる。
「いきなり何ですか? レナさんは疲れているんです。明日に回してください」
張り詰めた殺気に当てられたのか、彼女らは一歩後ずさる。
(ホシノ……どうした。なぜこんなに攻撃的なんだ)
「そ、それは重々承知しています……が――」
レナがその声を遮った。
「分かった。行く」
「レナさん!?……まって!」
ホシノがレナの手を掴む。
震え、強く握りしめたその手は、焦燥を隠しきれていない。
「お偉い様が呼んでるんだ。断れんよ。……おい、そんなに時間はかからないんだろ?」
「え、えぇ……すぐに終わります。よろしいですか?」
「くっ……私も行きます!」
「……それは、できかねます」
「どうしてッ!?」
(ホシノ……本当に様子がおかしい。必死すぎる)
「ホシノ……私は大丈夫だ。先に帰れ。柴関ラーメンで会おう」
「……分かり……ました……」
さっきまでの明るさは完全に消え、ホシノは背を向けて帰っていった。
「……さぁ、行こう。時間は無駄にしない主義なんだ」
◆
連邦生徒会
――生徒会長室
白い制服の一人がドアをノックする。
「生徒会長。大上レナさんをお連れいたしました」
「どうぞ、入ってください」
声に促され、レナは入室した。
同時に背後でドアが閉められる。
室内には、生徒会長とレナ――二人だけ。
生徒会長は窓際に立ち、外を見ているため表情は見えない。
沈黙が部屋を支配し、時計のチクタクと規則的な音だけが響く。
(嫌な空気だ。俺を測るつもりか?)
レナは直立し、沈黙を破る。
「ただ今参上いたしました。私をお呼びになったと伺いましたが――」
突如、生徒会長が振り返り、言葉を遮った。
「……ふふ。噂とは違って、随分可愛らしい見た目をしていますね?」
(……な、なんだ。この背筋が凍る感じ。アヴァロンの幹部連中と同じ……)
レナの本能が警鐘を鳴らす。
「あなたの試験のレポートはすべて拝見しました。素晴らしい結果ですね」
「はっ……お褒めに預かり、光栄であります」
生徒会長は窓から離れ、ソファへ座り、向かい側のソファを示した。
「レナさん。少し……お話をしませんか?」
――
「それでユメの奴がこう言ったんです。
『ダメだよレナちゃん! 髪と尻尾はドライヤーで乾かさないと!』って。
……別に私は、気にしないのですがね……」
「ふふっ、アビドスでの生活は楽しそうですね!」
「……えぇ。私を除いて、たった二人しかいませんが、良いところです……」
会話が途切れたとき、生徒会長が時計を見る。
「おや、もうこんな時間ですか。あなたとのお話は、時間を忘れさせます」
立ち上がり、窓へ歩く。
レナも立ち、姿勢を正す。
生徒会長は目を細め、俯いた。
その瞳の奥には、深い闇と物悲しさが宿っていた。
「……少々不安でしたが、これで確信しました。
あなたには、決して折れないものがある。
これなら、大丈夫そうですね。……託しましたよ。未来を……」
(未来……なんの話だ?)
「……み、未来とは、どういう意味でしょうか?」
「いずれ……分かります。これから、よろしくお願いしますね?」
「はっ! 拝命いたします」
会長は微笑み、夜景へ視線を向けた。
「お時間を取らせて申し訳ありませんでした。もう下がっていいですよ。お友達が待っているのでしょう?」
「……失礼します」
ドアを静かに開けたその瞬間、背後から刺すような視線を感じた。
◆
柴関ラーメンへ向かいながら、レナは思う。
(得体の知れない、不思議な奴だが……あの目は、すべてを背負い、
自分自身すら火にくべる覚悟を決めた目だった。
あの若さで……どうして俺たちと同じような目ができる……)
――
――柴関ラーメン
暖簾をくぐり抜け、引き戸を開ける。
「大将、二人はいるか?」
「へいらっしゃい!あそこのボックスで暇してるぜ、さっさと行ってやりな!」
大将にサムズアップして、二人が待っているボックス席に向かう。
「……ッ、レナさん!」
「レナちゃん、おそーい!もうお腹ペコペコだよ!」
「……すまん。世間話が長引いた」
どこか不安げな表情で、ホシノが聞いてくる。
「そ、それで、連邦生徒会長との話は……?」
「あぁ……何を考えてるか分からんが、面白い奴だった」
何もなかったことを知ったホシノは、落ち着いた顔に戻った。
「そうですか。はぁ、何もなくてよかったです」
「れ、レナちゃん……連邦生徒会長に向かって『面白い奴』って……恐れ知らずだね」
心底呆れたような、心配しているような表情でユメが言う。
「なんだ、そんなすごい奴なのか?確かに不気味な雰囲気があって、言ってることの意味は分からんが、嫌な奴ではない。むしろ好きだな」
「……す、好きって!?レナちゃんどうしたの!」
危機感がないレナに、ホシノが補足を入れる。
「連邦生徒会長は、何をやらせても完璧で”未来を見通してるんじゃないか”と言われるほどの人です。あまりの完璧さから、世間では『超人』と言われていますね」
「未来……超人……喧嘩を売るのは、避けた方が良さそうだな」
「……れ、レナちゃん。何言ってるの!?喧嘩を売る!?」
「いや冗談だ。さあ、ラーメンを食べよう、私も腹が減っている。……大将!柴関ラーメン3つだ!」
物語りの風呂敷を広げてみました。
さて…私に畳むことが、できるのでしょうか。