白狼救済録 作:らんらん出荷マン
第11話 SRT特殊学園
――SRT受験から3日後
ユメは泣きながら抱きついてきた。
「れ、レナちゃぁぁん! 本当に行くんだ……! 嬉しいけど……寂しいけど……嬉しいけど……寂しいけど……!」
「……落ち着け」
「落ち着けないよ! だって……!」
レナは迷った末、ユメの頭を軽く撫でた。
しばらくの沈黙。
やがてユメは、泣き笑いの顔で言った。
「……夜は……必ず連絡してね。休みの日は必ずアビドスに寄って? あと……遊びに行く時は、必ず――」
「……ユメ先輩、過保護すぎます……」
「……あ、ああ。善処する」
「レナさん。無理だけは、しないでください。これは忠告ですが、連邦生徒会長は信用しない方が身のためです」
「分かった、気を付ける」
柴犬の運転手が乗ったバスが、3人の前に停車する。
――そろそろ出発の時間だ。
レナは荷物を背負い、2人に向き直る。
「じゃ、行ってくる」
そう言い残し、運転手にサムズアップして乗り込んだ。
席に座ると、バスが発車する。
外を見ると、2人は大きく手を振っていた。
レナも手を振り、2人が見えなくなるまで、手を振り続けた。
◆
SRT特殊学園
――校門
SRT特殊学園——“特殊作戦”の名を冠するだけあり、
その敷地に一歩踏み込んだ瞬間から、アビドスとは別世界だった。
空気は乾き、張りつめている。
歩く生徒たちは皆、無駄がなく、視線は鋭い。
(……なんだここは、まるでアヴァロン本部だ)
レナは周囲を観察しながら、書類に記載された所属先の部隊を探す。
地図を頼りに校舎を歩き回っていると、
「Aグループ 第1小隊 ブリーフィングルーム」と書かれたドアを見つけた。
「ここだな」
ドアに近づき、ノックする。
「鍵は開いているわ、入りなさい!」
「失礼します」
ドアを開けて中に入る。
すると、待機していた少女たちが一斉に振り返った。
「本日付で、こちらに配属となりました。大上レナと申します」
「わお! 新入りだ!」
「写真より可愛い!!」
「噂の満点ガールか……」
その視線には好奇心も混じっていたが、すぐに“同族を見る目”へと変わった。
「へぇ〜、あなたが……大上レナさん?」
一歩前へ進み出たのは、リーダー格らしき少女だった。
「……はい、配属されました」
「私はAグループ第1小隊の小隊長、村正レン。今日からあなたを迎え入れるわ」
「はっ、よろしくお願いします」
レナは荷物を下ろし、敬礼する。
その所作はPMC時代の影響が色濃く、レンは少しだけ目を丸くした。
「へぇ、人は見た目に依らないわね……こんなに可愛らしいのに。
一応、あなたの話は聞いているわ。歴代最難関の試験を満点で突破したんですってね?」
「あれは……チームメンバーが優秀だったお陰であります。自分は皆の生存を第一に考えただけです」
「うわぁ、堅っ……まぁ、いいか。でも謙遜はあまりオススメしないわよ? 場合によっては嫌味になってしまう」
「……は、はい。善処します」
小隊長とレナのやり取りを見て、隊員たちの表情に“期待”が灯っていた。
――ただの新入生ではない。
この隊を強化してくれる存在。
そんな空気が生まれつつあった。
◆
歓迎の挨拶もそこそこに、レナはその日のうちに自分の能力を証明する機会を得た。
《レナさん、準備はいい?》
備え付けられたスピーカーから、ブリーフィングルームにいるレンの声が響く。
「……いつでも行けます」
訓練室に設置されたキルハウスを前に、レナは支給された訓練用ARを構える。
銃を握った瞬間、纏う空気が変わる。
瞳孔は開かれ、視界は広くなり、呼吸が浅くなる。
――体は迷いなく戦闘態勢へ移行していく。
これがレナの武器であり、アビドスを救うための手段だ。
今朝見た2人の顔が、レナの脳裏に浮かぶ。
「遠慮はいらない、全力で行って頂戴。では……状況開始!」
レンの号令と同時に、レナが走り出す。
「は……?」
「速っ!?」
静と動が、限りなく滑らかに繋がる。
レナは次々と現れる標的パネルを始末していった。
「……な、なるほど。これは、完成しているわね。この正確さ……機械の群れを退けたのも納得だわ」
「……我々に教えられることなど、無さそうですね」
「そうね、文句無し。必要十分……いや、それ以上。久しぶりに感動したわ」
「隊長! あの子のギャップ、エグくないっすか!? あんな人形みたいな見た目して、実際はヒットマンだなんて! お願いしたら尻尾触らせてくれますかね!?」
「……黙りなさい……」
――
ターゲットを殲滅し、レンの所へ戻る。
「報告通りね、さすがだわ」
「ありがとうございます」
レンは一瞬だけ悩む素振りを見せ、口を開く。
「本当は様子見するつもりだったけど……決めたわ。
……ねぇ、レナさん。新しく新設する分隊があるんだけど、そこの分隊長をやってくれないかしら?」
「……は? 自分が、でありますか。まだここに来て、1日も経っておりませんが……」
レナは困惑した。
さすがに、この小隊長は判断が早すぎるのではないだろうか。
「私の下にいるより、部下を持たせて自由にやらせた方が得策と判断したわ。
……反感は買うでしょうけど、SRTは実力主義。
あなたは既にそれを証明している。
あと……この決定について、異論は認めない。やって頂戴」
「はっ、了解しました」
ブリーフィングルームを出て、すぐ隣にある部屋に通された。
ドアには「Aグループ第1小隊 WOLFチーム」と書かれていた。
(……う、WOLFチーム。まさか俺が、狼だからか? 冗談はよせ)
「さあ、入って。あなたの部下が待ってる」
レンに通された部屋の先には――
レナがよく知っている3人がいた。
おどおどした狼耳のお利口さん。
背の小さいショートヘアの力持ち。
なんだかおっとりした、羽のついたデカい奴。
レナが視界に入ると、3人は一斉に立ち上がり、姿勢を正した。
「「「おはようございます」」」
「……あ、あ……? お、おはよう」
横にいるレンは、ニヤニヤと口元を歪めている。
(……まさか、最初からそのつもりだったのか)
「さあ、みんな。分隊長に挨拶して?」
「た、高嶺リノです! またご一緒できて光栄です!」
「東條スイだよ。やぁ、隊長。また会ったね」
「樋口メイで〜す! 隊長〜、またよろしく❦」
レナは状況が飲み込めず、隣にいるレンに問う。
「……小隊長、これは一体どういうことですか?」
『ハッハー!引っ掛かったな、ユーイチ!』
「んふ! 良い顔ね。……あなた、やっぱり面白いわ。
元々は、この3人のまとめ役を探していたの。
そしたら上層部が、あなたを寄越してきた。これ以上ない組み合わせだと思わない?」
まただ。ここでも信頼を寄せられる。
自分には、そんな資格などないのに。
だが、やれと命令された。ならば、やるしかない。
過去は、今も背後に纏わりついている――
「……総員傾注。たった今、このWOLFチームの分隊長に任命された、大上レナだ。私の部下になった以上、半端な実力は許さん。後でみっちりと、CQCを仕込んでやる」
それを聞いた3人は笑顔を引っ込め、後ずさった。
◆
――訓練室
床に寝転び、ぴくりともしない部下3人を、レナは冷徹な目で睨む。
「どうした、早すぎるぞ。このザマでは戦場だと30分も持たん! さぁ、立て! 命令だ!」
「た、隊長……もう足が動きません!」
リノはもう耐えられないと、悲痛の叫びを上げる。
「口答えするな! さっさと立て! お前はただ、『はい』か『イエス』とだけ言えばいい!」
レナは、いつになく声が荒くなっている。
(……そうだ、立て。諦めた者から死ぬんだ。キヴォトスで死はほど遠いが、不死身という訳ではない。手加減などできない)
「隊長。身体が軋んでる……よ」
スイも限界のようだった。
「何を言ってる。まだ意識があるだろう! 立て!」
スイの顔が絶望に染まった。
「ちょっと前の自分を殴りたいよ……」
そんな中、メイは立ち上がった。
「私はッ! まだやれま……す!」
メイはふらつく足取りで、レナに一歩近付き――
そのまま倒れた。
(やりすぎか……いや、そんなことはない。これは必要なことだ)
「ちょっと!! ストップ、ストップ! 中止!!
レナさん、ここは軍隊じゃないのよ! 彼女たちを使い潰す気!?」
遠目で見守っていたレンが、必死な形相でレナの目の前に飛び出た。
「ですが、これでは生き残れません。叩き直す必要があります」
レナの感情のない目が、レンを見つめる。
「あなた! 自分が何を言っているか分かってる!?
ここはキヴォトスッ! 戦場なんかじゃない!」
その言葉は、レナの価値観を根本から否定する言葉だった。
「……で、ですが」
(違う……これは正しいはずだ。間違ってなど……)
突然、ノイズが走る――
『……隊長、血が止まらん……もう歩けない……』
呼吸が乱れ、手が震える。
背中には汗が垂れ、凍えそうな悪寒が身体を包む。
その時、レンの言葉がレナを引き戻す。
「さぁ、もう止めましょう?
今日はゆっくり休んで、明日……またみんなで、ほどほどの訓練をすればいい。
時間はたくさんあるんだから……」
そう諭されたレナは、言葉が詰まり、目を逸らした。
「……了解しました。……みんな、すまなかった。自分を見失っていたようだ」
「い、いえ。隊長に悪気はないのは分かっていますので……
でも、まぁ、お手柔らかにお願いします……ね?」
手酷くやられたというのに、リノは一切否定しなかった。
「リノ……ありがとう」
レンは今のやり取りで理解した。
この子は厳しいのではない。
――異常に死を恐れている。
またオリキャラ登場です。
今後は彼女がブレーキ役になってくれるでしょう……多分
正直、最後のパートはレナを暴力的に書きすぎたかな、と反省しております。
不快に思われた方がいましたら、申し訳ありません。