白狼救済録 作:らんらん出荷マン
ゲヘナ学園――ベリアル地区
――SRT保有の装甲車内
あの宣誓以来、夜のユメとの通話時間が延びた。
何かまずいことを言ったのか、心配させてしまったようだ。
だが――
これは俺の信念だ。
誰に言われようと変えるつもりはない。
――ユメであろうが、この信念は変えられない。
装甲車は走り続ける。
床から伝わる高性能エンジンの振動が、前線の記憶を呼び起こす。
ふと窓の外を見ると、ベリアル地区の空は夕焼けで赤く染まっていた。
作戦地域に入ったのか、無線機が鳴り、小隊長の声が響いた。
《こちらGOAT1。みんな、そろそろ着くわよ。任務を忘れたおバカさんがいるかもしれないから、内容をおさらいするわね。
――現在、ゲヘナ・ベリアル地区のショッピングモールにて、複数の不良がテナントを襲撃し、商品を片っ端から強奪してるわ。既にゲヘナ風紀委員会が展開して、不良たちは包囲下にある。
今は膠着状態で発砲はまだない。幸いなことに人質はいないし、中にいるのは奴らだけ。
そこで我々第1小隊は、この状況を打破するため、モールの屋上から侵入し、奴らを一人残らず簀巻きにして矯正局に放り込む。――以上よ。何か質問は?》
「は、はい!こちらWOLF2、質問があります。オーバー!」
隣にいるリノが無線機のスイッチを入れた。
《何かしら、WOLF2》
「風紀委員会は、戦闘が始まったら加勢するのですか?」
《そうね。発砲があり次第、彼女たちが1階から突入して挟み撃ちにする手筈よ》
「はい、ありがとうございます。了解しました」
《ならよかった。誰か他に質問は?……なさそうね。
じゃあ……みんな、気を引き締めていくわよ。GOAT1、アウト》
向かい側のシートに座っている力自慢のスイは、重装備に身を包んでいる。
レナに視線を向けると、装甲ヘルメットのバイザーを上げ、口を開いた。
「隊長。この一件どう思う?穏便に済むわけないよね?」
「そうだな……最初は投降を呼びかけるが、無理だろう。相手はゲヘナ生だ。確実に銃撃戦が起きる」
「いいね〜。ゲヘナのアンポンタンを血祭りにできるよ❦」
スイの隣に座っているメイが、盾とショットガンを構えながら物騒なことを言う。
「ち、血祭りって……冗談ですよね……?」
リノは戦慄した。
「聞け、風紀委員会はアテにするな。こちらの指示通りに動く可能性は低い。あくまで保険程度だ――」
突然、車体が揺れ、停車する。
無線機が再び鳴った。
《GOAT1より全隊に通達。目的地に着いた。降車後は指定のポイントに集合……
……うーん、周りにクロノスのハエが、うろちょろしてる。WOLFチーム、一応言っておくけど取材には応じないで》
「WOLF1了解。奴らは無視する。アウト。――よし、降車だ!」
◆
――ゲヘナ情報部
《あっ!今、SRTの装甲車がショッピングモールの敷地内に入りました!続々と入って行きます!
ッ……!停車しました。降りるのでしょうか?彼女たちに取材を試みたいと思います!》
「バカめ……このままでは不良共に突入地点がバレるぞ」
テレビを観ている情報部の一人が悪態をつく。
「不良の誰かが中継を見ていると?」
隣にいる背の低い、白髪の後輩が尋ねた。
「おそらくな……奴らはバカだが、マヌケじゃない。エゴサくらいはするさ」
「……上手く行くと良いのですが」
◆
――ショッピングモール裏、駐車場
装甲車の扉を開け放ち、降り立つ。
外の空気を吸った瞬間、心拍数が上がり、周囲の音がはっきりと聞こえた。
「よし、集合するぞ――」
「――あのー!すいませーん!!」
面倒な連中が来た。よく見るとカメラを持っている。
――クソがッ!これでは相手に筒抜けだ。
「おい、それ以上近づくな!カメラを止めろ!」
――
――ショッピングモール内
《おい、それ以上近づくな!カメラを止めろ!》
「ボス!奴らだ!SRTが来た!!」
「来るのが早いわね……潮時か。――よし!アンタたち!引き上げるわよ!火力を集中して突っ切る!逃げ遅れるんじゃないわよ!」
「「「へい!!」」」
不良たちは自身のバッグに戦利品をしこたま詰め込み、1階に集合した。
「奴らは裏口にいる。今がチャンスよ。正面玄関を吹き飛ばせ!風紀委員会を蹴散らす!」
――
――ショッピングモール裏
「そ、そう言わずに……これからの意気込みとか!一言で良いですから!」
クソッ!面倒な奴らだ!!
「GOAT1、GOAT1!こちらWOLF1だ!緊急事態!コイツら、カメラを持っている!居場所がバレるぞ!」
《――なッ!?前にそれが原因で犯人を取り逃がして抗議したのにぃー!!どういうことよ!!》
こちらが圧倒的に不利な状況になってしまった。
突入しても、その先で待ち構えられたら蜂の巣だ。
さっきのプランは使えない。考え直さ――
――ドガァアン!!!
正面玄関の方から、建物を揺らす大きな爆発音が響いた。
「……ッ!なんだ!?まさか逃げる気か!?風紀委員会はどうなっている!」
無線機が鳴る――他の分隊長からの連絡だ。
《TORTOISE1よりGOAT1へ通達!たった今、風紀委員会から連絡が入った!不良の急襲を受け、包囲網が崩壊、突破されたとのことッ!》
《クソッ!!もう滅茶苦茶だわ!!》
「た、隊長……どうすれば?プランはもう、意味がありません……」
リノは、この絶え間なく発生する想定外に対応できていない。
悩んでいる時間は無い――決断をしなくては。
「GOAT1、こちらWOLF1。意見具申の許可を――」
《――許可する!!》
レンは食い気味に言い放った。彼女も想定外続きで苛立っている。
「では装甲車に、今すぐ乗り込んでくださいッ!」
《え!?》
――
――正面玄関前、駐車場
「よし!風紀委員会の奴らを蹴散らした!このまま逃げるわよ!この先で仲間が車を用意してるわッ!」
「SRTを出し抜いた!」
「さすがボス!!」
「アンタ最高だよ!」
子分におだてられ、不良のボスは鼻を高くした。
「ふっふーん♪このままブラックマーケットに直行して、ブツを売り払うわよ!ついてきなさい!」
「「「へい!!」」」
突然、モールの方から何かが壊れるような大きな音が、近付いてくるのを耳が捉えた。
普通の音ではない。
不良たちは足を止め、振り返る。
その視線の先には――
モール内部を装甲車の車列が、建物を破壊しながら猛スピードで突き進み、自分たちに向かってくる光景があった。
「なッ!?なにぃ!!突っ切ってきた!?」
――
――装甲車内
レナたち第1小隊が乗り込んだ装甲車は、モール内を踏み潰しながら全速力で走っていた。
絶え間なく揺れる車内。フロントガラスに打ちつけられる、かつては備品だったもの。
激しい打撃音が鼓膜を突く。
《まさかモールを破壊するなんて……!始末書ものだわ!》
「仕方ありません!逃がすよりマシでしょう!?」
《う、WOLF1……言うようになったわね……!》
小隊長殿は、この後のことを考えて憂鬱になっているが、仕方がない。
これしかない。
――そろそろモールを抜ける。
「WOLF3!!銃座につけ!ハンティングだ!!」
「アイコピー!……ちょっと楽しくなってきたかも」
「WOLF2!アクセル全開だ!豚の群れに真っ直ぐ突っ込め!」
「えぇ〜!!轢いちゃうんですか!?死にませんか!?」
「いいから行けッ!!お前らが死ぬよりマシだ!!」
「……は、はい〜!!」
「WOLF4はいつでも出られるようにしろ!停車したら、奴らをなぎ倒せ!!」
「アイアイマム!!」
装甲車はそのまま弾丸のように正面玄関を突き破り、不良たちに襲いかかった。
「――撃ち方始めッ!!」
その号令とともに、スイが構えた.50口径の重機関銃が咆哮を上げ、暴力の権化が不良集団に降りかかる。
「あぁ!?」
「へぶ!!」
そしてタイヤが何かを踏み潰す感触が、ハンドル越しにリノへ伝わった。
「ひっ……ひぇ〜……」
そのまま速度を落とすことなく、不良たちを追い越す。
後続の車両も左右に展開し、包囲を図る。
「WOLF2!反転し、停車!」
「はっ!はいぃ!!」
逃げ道を塞ぐように停車し、レナとメイが飛び出した。
「くッ!!クソッ!!ここまで来て!!」
不良の一人が、近付いてくるメイに照準を合わせ、引き金を引くが――
「そんなの効かないよ〜❦」
盾を構えたまま突撃し、不良をシールドバッシュで吹き飛ばした。
「――ぐあ!」
他の隊員も降車し、不良たちを包囲する。
レナは武器を構え、降伏を呼びかけた。
「武器を捨てて両手を上げろッ!!」
「……ここまで、か……分かった、降伏するわ。だから撃たないで!」
外に出た全SRT生の銃口が集まり、ボスは観念して武器を手放した。
それに連鎖し、他の不良も武装を解除した。
◆
――ゲヘナ情報部
《なッ……なんと、とんでもないことが起きています!!たった今、SRTのトラックがモール内部を突き破り、不良グループに突撃しました!!》
「なんだ……これは、無茶苦茶だ……」
「まるで映画ですね」
皆様、アンケートありがとうございます。
見たくないと言う方もいらっしゃるので、序章の前に枠を作ってそこに置いておきます。
これなら不意に目に入るとか、ないですよね?
大上レナのイメージ画像
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イメージ画像ほしい
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自分のイメージを壊したくないからいらない