白狼救済録 作:らんらん出荷マン
《RAVE……だ!!コン…クト!!コ…ンタ…ト!!オー……トン7!!大型…ド…ーン4!!方……ワン、ゼ…、ファイブ!!》
(……ッ!北東から!?次のポイントが塞がれる!)
RAVENチームからの報告を聞いた隊員たち全員の背筋に、冷たいものが走った。
その数を聞いて、冗談だと思う者はいなかった。
この霧の中には、それ以上の数の旧時代の亡霊が潜んでいる。
これが――弾が尽きるまで終わらない、連戦の始まりにすぎないことを、誰もが理解していた。
「クソッ!ここから激しくなる!!奴らの数は伊達じゃない、留まれば囲まれる!移動しながら撃退するわよ!!」
レンの怒声が周囲に響いた。
(狙ったようなタイミング……偶然ではない)
この接敵は、レナの中で強烈な警鐘を鳴らしていた。
即座にレナは、WOLFチームに指示を飛ばす。
「WOLF4!!敵の中に4機の大型ドローンがいる!!パンツァーファウストを持って来い!!」
「イエスマム!!」
「2と3はハンヴィーに戻れ!!重機関銃で後方を警戒!!――私は前に出て足止めをするッ!!」
「了解!」
「ウィルコ!」
メンバーが動き出すのを確認したレナは、持てる限りの全速力で車列の前へと駆け出す。
(――今この場で迎撃できるのは、俺しかいない!)
その途中、ハンヴィーの重機関銃を準備しているGOATチームの隊員と一瞬だけ視線が交錯した。
「――ッ!は、速い!?」
「同じ人間!?」
驚愕している傍を走り抜け、ハンヴィーより前に出た。
霧の先では、無数の赤いセンサーが輝いている。
レナは武器を構え――
その瞬間、無機質なモーター音が響き渡った。
霧の奥で、赤い光が一斉に揺れる。
だが――その光は無秩序ではなかった。
一定間隔を保ち、一直線に並んで小刻みに揺れている。
レナはセーフティを外し、間を置かずにフルオートでの制圧射撃を開始した。
暴れ回る銃を無理矢理抑え込み、肩に強烈な反動が食い込む。
激しいマズルフラッシュが霧で拡散し、視界を白く染めた。
弾幕が霧の向こうへ消え、金属を叩きつけるような音が返ってくる。
だが、霧の中で揺れる赤い光は一向に減らず、確実に距離を詰めてきていた。
「クソッ!!弾かれた、装甲持ちか!?」
突然――霧の中で黄色い光が点滅した。
(――ッ!?まずい!)
レナは即座に伏せ、荒れ果てた地面に走る大きな亀裂へと身を押し込んだ。
その直後、頭上を弾丸の嵐が襲いかかり地面を容赦なく抉る。
激しい銃声が、廃墟一帯に反響した。
――無線機が鳴る。
《WOLF1!大丈夫!?今、援護す…わ!……何し…るの!撃って…!!早…ッ!!》
レンが叫ぶと同時に、後方から激しい光と爆音が轟いた。
重機関銃から放たれた曳光弾の赤い軌跡が、霧の向こうへと伸びていく。
赤い光は減ったが、未だに健在な個体もいるようだった。
霧の奥を注視していると、背後から重い足音が迫ってくる。
振り返ると――
ハーネスで強引に固定したパンツァーファウストを4本背負ったメイが、食い込む重量に肩を軋ませながら、必死の形相で駆け寄ってきた。
「ご……ゴメンね!隊長……!遅…れた!」
息も絶え絶えになったメイが、地面の割れ目に滑り込む。
レナは素早く指示を出す。
「よくやった、WOLF4。2つ貸せ。私は右に行く、お前は左からだ。車列に近づかれる前に、大型ドローンを潰す」
「い……イエス……マム」
「オートマトンはGOATチームの重機関銃が抑える。あいつらは無視しろ……
――よし……行けッ!!」
メイは力強く頷き、霧の中へ消えた。
それを見届けたレナも走り出し、右側面へと大きく迂回する。
横目に、GOATチームの重機関銃がオートマトンを次々と蜂の巣にしていくのが見えた。
(……さすがに50口径は、耐えられないか)
しばらく進むと、大きな羽音とともに、何か大きな影が4つ浮かんでいるのが遠方に見えた。
レナは姿勢を低く保ち、パンツァーファウストを準備して構える。
「WOLF4、こちらWOLF1。聞こえるか?」
《うん、ギ…リギリ、聞……えるよ》
「私は前方の2機を狙う、お前は後方の2機だ!復唱しろ!」
《アイア…マ…ム!後…方……2機を狙う!》
「よし、私が撃ったら続けざまに撃て!WOLF1、アウト!」
照準器を覗き込み、射程に入るまで待機する。
大きな影が徐々に近づいてくる。
レナの目に映ったそれは、4つの巨大なローターを備え、機体中央部のパイロンにロケットポッドを4基懸架した機影だと判別できた。
(コイツを……コンボイに近づかせたら――俺たちは終わりだ)
バックブラストの影響がないか、背後に遮蔽物の有無を確認し、安全を確保する。
この場にあるパンツァーファウストは4本のみ――外せば、後は人が前に行くしかない。
トリガーに指をかけ、ゆっくりと息を吐く。
射程に入った――
――ドッッン!!!
その刹那、目が眩む爆炎と衝撃波を放ち、110mm対戦車弾が飛び出した。
それは吸い込まれるように向かっていき、先頭の大型ドローンに命中。
大きな爆発と、張り裂けるような音を出して墜落していった。
それを合図に後方の1機も爆発した。
いいぞメイ――その調子だ。
硝煙を上げる発射機を放り投げ、傍にあるもう1本を構える。
撃墜された機体を確認し、後続のドローンは一瞬動きを止めた。
再度照準器を覗き、引き金を引く――
――ドッッン!!!
間髪入れずに発射し、位置が特定される前に即座に離脱する。
背後で大きな爆発が広がった。
全機撃墜。
メイと合流し、車列に戻る。
GOATチームのハンヴィーが霧の向こうから出てきた。
WOLFチームの2人の前で停まると、レンが銃座から顔を出して手を振る。
「よくやったわ!2人とも!帰ったら何か奢るわ!」
そう言うレンに、レナはサムズアップで返した。
「さぁ、他の奴らが来る前に移動するわよ!ハンヴィーに戻って!」
他の分隊も続々と続いて行く。
それを見送り、最後尾のハンヴィーに乗り込んだ。
ハンドルを握るリノは、目を輝かせて興奮が抑えきれない様子だった。
「隊長!WOLF4!やりましたね、大金星です!」
銃座についているスイも口を開く。
「ナイスコンビネーション。さすがだね」
「……まだ、一陣を退けただけだ。浮かれるのは早いぞ。2人とも」
――
――日没まで5時間
道中は小規模の接敵があったが撃退し続け、ようやく第2ポイントに到着した。
だが第1小隊は、この時点で弾薬の40%を使い尽くしていた。
その中でも特に重機関銃の消耗が激しく、最終ポイントまでもたないことは誰もが予想していた。
第2ポイントをスキャン中の第1小隊は現在、四方をオートマトンに包囲されている。
小隊長のレンは、迫り来るオートマトンに射撃しながら、スキャナーを操作する部下に叫ぶ。
「ねぇ!スキャン完了までどれくらい!?」
「あと5分です!」
「さっきより長いじゃない!?どうなっているの!」
「ECMの強度が上がっているんです!スキャナーが上手く作動しません!」
――無線機が鳴る。
《GO…T1!GOAT1!こ……らT…RTOISE1!オーパーツ…は確保し…たが、建物…内で敵オ……トマト…複数…コンタクト!
激しい攻撃……けている!身動きが取れ…い!援護を要請…する!》
「ネガティブ!こちらも囲まれて、守るので精一杯!アンタたちで、なんとかして!」
《クソッ!TORTO…E1ラジ…ャー!なん……切り抜ける……ッ!アウ……ト!――》
《GOAT1、こちらRAV…N1。残…念な…知ら…だ。試作ドロ…ーン……1機が動作不良…起こ…し…いる。監視の目……緩む…。周囲に注意》
「……ッ!ポンコツめ……!GOAT1、了解!!
――WOLF1!こちらGOAT1!状況は!?」
《こちら…WOL…F1、オー…マトンは抑え……弾薬の25%を消費…このま…まで……弾薬不足に……る》
「了解!なんとか節約して!まだ始まったばかりよ!!GOAT1、アウト!!」
――
――WOLFチーム
《了解!な……か節約…て!まだ始ま…ったば…りよ!!GOAT…ア…ウト!!》
状況は最悪だ、周囲を囲まれて四方から弾が飛んでくる。
TORTOISEチームは孤立し、試作ドローンの1機が使用不能。
空を見上げると日が傾いている、この濃い霧の中で暗くなったら身動きが取れなくなってしまう。
レナの後ろでハンヴィーの重機関銃を操作するスイに呼びかける――
「WOLF3!!弾薬を節約しろ!!単射で弱点を狙え!!」
「どこを!?」
「頭だ!!」
「機関銃で狙撃しろって!?」
「いいからやれ!!」
「……ッ!!ウィルコ!!」
もうすぐスキャンが終わる頃合いだが、TORTOISEチームが戻ってこない。
彼女らが突入した建物を横目で見る。
崩壊した場所から激しい閃光が漏れている。
まだ銃撃戦が続いているようだ。
(どうする……戻ってこなかったら、永遠に待ち続ける羽目になる)
『時間は味方じゃないぞ?……ユーイチ』
レナはその声を振り払うように、歯を食いしばる。
時間がない――決断をしなければならない。
「WOLF3!お前のLMGを貸せ!!」
重機関銃を撃ちながらスイが答える。
「えぇ!?いいけど何で!?」
「TORTOISEチームを援護しに行くッ!!」
「命令違反だよ!?」
「そんなもの気にしている場合じゃない!――WOLF2!指揮を代われ!」
「え!わ、私がですか!?」
「優等生ッ!今まで何を見てきた!?――任せたぞ!」
「りょ、了解!」
突然、指揮権を振られたリノは声が裏返っていた。
「う、WOLF3!そのまま射撃を継続!WOLF4は左に展開!私は右に行きます――」
リノが指示を出す背後で、スイのLMGをハンヴィーから取り出した。
背中に担ぎ、全速力で走り出す。
無線機のスイッチを押し、レンに連絡を入れる。
「GOAT1!こちらWOLF1だ!これより、私1人でTORTOISEの援護に行く!!」