白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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第14話 連戦―5

 

 

第3ポイントでハンヴィーを盾に円形の防御陣形を展開した第1小隊は、自律機械群による絶え間ない攻撃で疲弊しきっていた。

 

霧の向こう、三方向から迫るモーターの不協和音が耳に響く。

 

まだ戦いは――終わらない。

 

遊撃に出たWOLFチームは、そこから西に進出した位置で防衛線を張っていた。

 

「WOLF2! 左の看板の横にいる奴を狙え!」

 

「了解!」

 

「3と4は、その場で守れ!」

 

「アイコピー!」

「イエスマム!」

 

第1小隊の全隊員が、休みなく戦っている。

 

弾薬は底をつきかけ、誰の顔にも余裕はない。

 

撃ち続けているのに、敵は一向に減らなかった。

 

(……そろそろ限界だ。誰かが落ちても、不思議じゃない)

 

「GOAT1……こちらWOLF1だ。スキャン完了まで、どれくらいだ?

残弾が心許ない。このままでは帰りの分にまで手をつける羽目になる」

 

《あと9分! なんとか耐えてッ!!》

 

「WOLF1、了解! ――みんなッ! あと9分だ! 踏ん張れ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

――

――残り7分。

 

「り、リロードッ!!」

 

スイが、熱で煙を上げるLMGのフィードカバーを開け、ベルトを交換しようとするが、疲労で手が震え、給弾口に噛み合わない。

指が何度も同じ動きを繰り返す。

だが――どうしてもベルトは噛み合わなかった。

 

――弾幕が途切れる。

 

霧の向こうで、赤い光が一斉に蠢き出した。

 

オートマトンが、雪崩込んでくる。

 

(……クソッ! ――このままでは突破される!)

 

レナは持ち場を離れ、全速力でオートマトンに向かう。

 

(――ここを破られたら、終わりだ!)

 

ポーチからグレネードを取り出し、強く握りしめる。

 

ピンを引き抜き、持てる限りの力で投げつけた。

 

「行けぇ!!」

 

レナが投げたグレネードは一直線に飛び――犇めいたオートマトンの中心で爆発した。

 

破片が周囲に拡散し、オートマトンをまとめて吹き飛ばす。

 

「はぁっ……しつこい奴らだ……」

 

立て続けに続く戦闘で、息がまったく追いつかない。

 

肺が焼けるように痛み、呼吸は不規則に乱れる。

 

過度の運動によって視界は狭まり、気を抜けば座り込みそうになる。

 

 

――

――残り5分。

 

――無線機が鳴る。

 

《こちらRAVEN1! もう限界だ! 弾薬は残り僅か! 我、防衛線を維持できず! 後退する!》

 

《GOAT1了解!! ハンヴィーまで下がって!》

 

《こちらTORTOISE1! 重機関銃は弾切れだ! 使用不能!

繰り返す! 重機関銃は、使用不能!》

 

TORTOISE1の無線の背後で、弾薬箱を投げ捨てたような金属音が混じる。

 

残っている重機関銃は、GOATチームが操作する2挺だけ。

 

《……ッ! ――了解ッ!! WOLF1!! そちらの状況は!?》

 

「まだ耐えているが……いつ崩壊してもおかしくない……!!」

 

(まだ任務は終わっていないが……潮時だ。引き際を誤れば、全員がこの悪夢に取り残される)

 

「……GOAT1」

 

《なに! WOLF1!? ――ッ! GOAT2! 左にオートマトンの集団!! 重機関銃で制圧して!!!》

 

(……このままでは――第1小隊は全滅する)

 

――生きて帰る。それだけは、譲れなかった。

 

「GOAT1、この状態では第4ポイントまで行くことは不可能だ。

……これ以上状況が悪化する前に、ただちに任務を放棄し、撤退することを進言する」

 

《……》

 

無線機の向こうで、沈黙が落ちる。

 

レンの声は聞こえず、ノイズだけが返ってくる。

 

「GOAT1! 今、引くべきだ! 弾は残っていない!

……あなたは言いましたよね? 『危なくなったらすぐ帰る』と」

 

 

《………… GOAT1より全隊へ通達!!調査任務を放棄して、ただちに撤退する!!

繰り返す!! 任務を放棄し、撤退する!!

尻尾を巻いて、全員で帰る! 誰一人残さない! これは、隊長命令よ!!》

 

《TORTOISE1、ラジャー!! みんな撤退だ――!!》

 

《RAVEN1、了解! このまま合流する!》

 

 

「WOLFチーム!! 撤退命令だ!! 戻るぞ! 私が殿を務める!!」

 

WOLFチームは大急ぎでレナの元へ集合し、遮蔽物に身を隠す。

 

「よし!! WOLF4、先に行け!!!」

 

「イエスマム!」

 

メイはショットガンを構え、GOATチームが待つ陣地へ向かって走り出す。

 

「行け、行け、行け!! 遅れるな!!」

 

続いてスイとリノも、全力で駆ける。

 

(……背中は、しっかり守ってやる)

 

――奴らが来る。

 

レナは、残り3発のグレネードすべてを取り出した。

 

震える指でピンを抜く。

 

「――ほらよ!」

 

レナは即座に走り出す。

 

背後で起きた爆風が、背中を押す。

 

追撃の銃弾が降りかかる。

 

「クソ!! 諦めの悪い奴らだ!」

 

さらにピンを抜き、振り向きざまに投げつける。

 

追撃が止む。

 

あと数歩で、次の遮蔽物。

 

(……これで、最後だ)

 

最後のグレネードのピンに指をかけようとした瞬間――

 

渇いた破裂音が耳をかすめた。

 

何かが通り過ぎた。

 

「 ――ぐッ!!」

 

鈍い衝撃音、それに続いて背中に激痛が走る。

 

肺の空気が押し出され、呼吸が止まる。

 

頭が真っ白になり、音が遠のく。

 

足がもつれ、倒れ込んだ。

 

背中が、熱い。

 

――撃たれた。

 

(――動け! 寝ている場合じゃないッ!)

 

背中の痛みが動くたびに浮かび上がり、動きを鈍らせる。

 

必死に這い、傍の遮蔽物に身を隠す。

 

「グレネードは……クソ……失くしたか」

 

手を開いた瞬間、そこには何も残っていなかった。

握っていたはずの最後の希望は、どこかへ消えてしまった。

 

即座に自分の体を確認する。

 

前世では撃たれたら終わりだが、ヘイローのおかげで出血はない。

 

その事実に、胸を撫で下ろす。

 

「……ヘイローがなければ、即死だった」

 

マガジンは、まだ残っている。

 

だが、飛び出せばまた撃たれる。

 

ここに残るしかない。

 

銃の状態を確認する。

 

バレルは高温だが、命中精度はまだ許容範囲内だろう。

 

銃を傾け、残弾を確認する。

強化プラスチック製マガジンに設けられた小さな窓には、薬莢が少しだけ見えた。

 

(使いかけと、予備3本……時間稼ぎには十分だ)

 

レナは身を乗り出し――

 

(――いいだろう……遊びに付き合ってやる)

 

たった一人で、反撃を始めた。

 

 

 

――

――リノ視点。

 

先を走る二人の背中を、ひたすら追いかける。

 

霧の向こうから、激しい銃声と怒声が聞こえてきた。

 

おそらく第1小隊だ。もうすぐ合流できる。

 

「はぁ! もうすぐだ!」

 

そう言って、前を走るスイは重装備だというのにペースを落とさない。

 

凄まじいフィジカルだ。

 

やがてハンヴィーが見えてきた。

 

第1小隊の誰かがこちらを見つけ、手を招く。

 

「WOLFチームが戻ってきた! 小隊長! 撤退しましょう!」

 

「……あぁ! やっと着いた! 隊長! 帰りましょう!

……隊……長?」

 

返事がない。

――静かすぎる。

 

恐る恐る、後ろを振り返る。

 

そこには、頼りになる憧れの背中はなく、ただ暗い霧が続いているだけだった。

 

「……いない……隊長がいない!!」

 

リノが叫ぶ。

 

それを聞いた第1小隊の全員が、撤退準備の手を止めた。

 

「いない……って、それはどういう……?」

 

小隊長のレンは一歩前に出て、問い詰める。

 

「私たちの背中を守るために、殿に出たんです!!

さっきまで後ろにいたのに!! どこにもいない!!」

 

その事実を聞いた全員に、激震が走る。

 

あの「大上レナ」がいない。

 

一体どうしたのか――

間に合わず、取り残された?

 

全員の思考が白く染まりかけるが、時間はない。

 

見捨てて撤退か。

それとも、隊を危険にさらして救出に向かうか――

 

決断を、迫られていた。

 

レンは無言で立ち尽くし、手を固く握りしめる。

 

「……」

 

「――小隊長ッ! 自分に行かせてください! !」

 

TORTOISE1が、レナの救出に志願する。

 

「引き返します。見捨てるなんて……できない」

 

メイは振り返り、再補給したシェルをショットガンに込める。

 

「わ、私も行きます!」

 

「僕も! 隊長は置いていけない!」

 

WOLFチームの全員が、誰一人として躊躇わず志願した。

 

「この状況で……部隊を分けるのは自殺行為よ」

 

レンは俯いたまま答える。

顔に影が落ち、表情はうかがえない。

 

「そんなッ! 見捨てるって言うんですか!!?」

 

リノはレンに詰め寄り、煤に汚れたセーラー服の襟を、震える手で掴んだ。

 

「ぐぅッ!!……勘違いしないで!!

さっき言ったわよね? 誰一人……残さないって」

 

レンの気迫に圧され、リノは思わず手を離した。

 

「も、申し訳ありません……」

 

「今から全員で助けに行く!!

ちょっと寄り道になるけど――それは、遠足の醍醐味よ!!

全隊乗車!! 急いで!!」

 

 

 

 

――

 

「ハハハ……どうした? 俺を殺したいんじゃないのか?」

 

マガジンを交換しながら、渇いた笑いで挑発する。

 

レナの足元には、オートマトンの屍が道を成して続いていた。

 

(マガジンは……残り一本。あとはハンドガンのみだ)

 

残弾を確認し、遮蔽物から顔をのぞかせる。

 

霧の向こうでは、複数の赤い光が揺らめいている。

 

(……さっきより増えている。クソッ……これだから機械は)

 

その数に唖然とした次の瞬間、赤い光は一定間隔で停止し、整列した。

 

(な、なんだ……?)

 

その光がは突然点滅し、左右に分かれて動き始める。

 

先ほどとは違う、明らかに統制された動き。

レナの目には、誰かに操られているように映った。

 

――包囲。

 

その言葉が脳裏に浮かび、歯を食いしばる。

 

これより、第2ラウンドが始まる。

 

 

 

――

――第1小隊。

 

霧による視界不良と、自律機械の散発的な攻撃の中、

第1小隊は全速力で荒れた道を突き進んでいた。

 

「小隊長!! 前方にオートマトンの集団! 道を塞いでいます!!」

 

「そのまま突っ切りなさい! アクセル踏んで!!」

 

「了解ッ!!」

 

GOATチームのハンヴィーは、さらに速度を上げる。

 

オートマトンが気づいて銃撃を開始するが、

ハンヴィーは物ともせず、集団を跳ね飛ばした。

 

それに遅れず、後続のハンヴィーも続く。

 

「WOLF2! こちらGOAT1! あとどれくらい!?」

 

《もうすぐです!!》

 

「GOAT1了解! ――GOAT1より全隊へ!

もうすぐバカ犬が見えてくるはずよ!! 見落とさないで!!」

 

第1小隊の全員が、目を凝らす。

 

――無線機が鳴る。

 

《こちらRAVEN1! 3時の方向で断続的な光を確認!

恐らくマズルフラッシュだ!!》

 

「よくやったわ、RAVEN1!

――全隊! 聞いていたわね!! あそこに向かうわよ!!」

 

車列は進路を変えた。

 

分離帯を踏み潰し、ショートカットを図る。

 

サスペンションが跳ね、車体が激しく揺れる。

 

「……ぐっ! ――このまま突っ切るわ!!」

 

 

 

――

 

「ッ!? ――クソ!」

 

トリガーを引いても、何も起きなかった。

 

銃を傾けてボルトを見ると、完全に後退している。

 

「ホールドオープン」

――弾切れを示す合図だ。

 

レナは即座にハンドガンを抜き、反撃に転じる。

 

ギリギリまで引きつけ、的確にセンサーを撃ち抜く。

 

盲目になったオートマトンは、闇雲に武器を乱射する。

 

レナは肉薄して背後に回り込み、背中に張りついて盾にする。

 

撃ちっぱなしの武器を掴み、他のオートマトンへ向けて薙ぎ倒した。

 

「……ハハハッ!」

 

やがて弾が尽き、発射音が止む。

 

役に立たなくなったそれを蹴り飛ばし、

経年劣化でボロボロになった車の陰に身を隠した。

 

WOLFチームは、合流できただろうか。

 

無事に脱出していることを願う。

 

俺は、守り切った。

 

――悔いはない。恐怖もない。

 

あの7年で、恐怖はすでに擦り切れている。

 

ただ一つ心残りがあるとすれば――

アビドスを、助けられなくなることだ。

 

『まだ終わるには早い……』

 

ああ、そうだ。

 

まだ身体は動く。

前世とは違い、異常なほど頑丈だ。

 

だが――もう弾がない。

 

――格闘戦だけで乗り切る?

 

……

 

……さすがに疲れているようだ。

 

足元に倒れているオートマトンを一瞥する。

 

右腕には、内蔵式の武器が固定されている。

 

弾薬の格納場所が分からない、不思議な構造だ。

 

もし鹵獲対策でこの形状なのだとしたら、

設計者は用意周到だ。

 

不意に、遮蔽物の向こうから金属の足音が迫る。

 

――おかわりが来たようだ。

 

ハンドガンを握る手に力が入る。

 

意を決して顔を出した瞬間――

眩い閃光が、オートマトンを貫いた。

 

「なんだ、後ろから!?」

 

霧の向こうからヘッドライトを輝かせ、

4つの金属の塊が猛スピードで接近してくる。

 

霧から飛び出したそれは、第1小隊のハンヴィーだった。

 

ハンヴィーはレナの周囲に広がり、防御陣形を展開した。

 

オートマトンを次々と撃ち倒し、

降りてきた数人がレナに駆け寄る。

 

「隊長!! 間に合ってよかったです……!」

「おぉ……制服はボロ雑巾みたいだけど、随分倒したね……さすが隊長」

「隊長〜! 死んでない! よかった!」

 

駆け寄ってきたのは、WOLFチームだった。

 

「……みんな」

 

――無線機が鳴る。

 

《こちらGOAT1……思う存分暴れたようね? 無事でよかったわ、WOLF1》

 

まさか助けに戻るとは思っていなかったレナは、

震える手で無線機のスイッチを押す。

 

「……どうして、戻ってきたんです?」

 

《言ったはずよ。誰一人、残さないって――

さぁ、帰るわよ。日が沈んでしまう》

 

WOLFチーム全員がハンヴィーに乗り込むと、車列は帰路についた。

 

この遠足は間違いなく試練だったが、第1小隊の結束を強める切っ掛けにもなった。





14話はこれで終わりになります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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