白狼救済録 作:らんらん出荷マン
プロローグ 死線―1
護衛任務中に襲撃を受けた。
爆風で肺の空気が押し出される。
耳鳴りだけが響き、鼓膜が破れたのか、周囲の音が遠ざかっていく。
――身体が動かない。
同乗していた装甲トラックにミサイルが直撃し、爆圧で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「ユーイチ!! 起きろ、包囲されているぞ!! ユーイチッ!」
誰かが叫んでいる。
意識が朦朧としていて判別ができない。
横を見ると、伏せたゴードンが稜線から身を晒さないギリギリの姿勢でこちらに手を伸ばしている。
「おい、ニコライ! マーカス! 手を貸せ、ユーイチがやられた!」
走ってきたニコライとマーカスがそばに滑り込んできた。
「よう隊長、派手に吹っ飛んだな。反応がねぇぞ、生きてるのか?」
「死んでねぇよ……恐らく脳震盪だ。耳もやられてるな」
マーカスが稜線から覗き、周囲を素早く索敵する。
視界の端で、彼の顔が硬く歪むのが見えた。
「……数が多すぎます、この人数で押し返すのは不可能です」
「おい!悠長にしている時間は無いぞ、あそこの横転したトラックまで運ぶ!ゴードン、カバーしろ! マーカス、右肩を持て!」
息を合わせ、二人は両腕を掴み、担ぎ上げた。
――
「いけるな!?」
「「おう!! 」」
「スタンバイ……!」
身を屈める彼らの表情が強張る。
飛び出せば一斉に撃たれる、それでも進むしかない。
「ムーブ!!!」
ニコライとマーカスが勢いよく飛び出す。
後方でゴードンが振り返り、フルオートで牽制射撃を開始した。
「オラァァッ!! 近寄るんじゃねぇ!!」
5.56mm弾が雨のように降り注ぎ、敵は破壊された装甲車の残骸に身を隠した。
弾丸が装甲に弾かれ、けたたましい金属音が鳴り響いた。
トラックまで僅か数メートル。平時であれば、なんてことはない。
だが今の彼らには命を天秤にかけた――まさに死の行軍だ。
走る彼らのすぐ脇で爆発が起きた。
衝撃で足が跳ね上がり、ユウイチの視界が揺れる。
意識が遠のき、二人の肩に身体が沈み込んでいくが――。
彼らは決して速度を落とさなかった。
「着いたっ……! マーカス、慎重に下ろせ」
トラックの影に体を預けられた瞬間、少しだけ息が整う。
だが耳鳴りは収まらず、身体は言うことを聞かない。
……これでは足手纏いだな。
何もできない自分に心底腹が立つ。だがそんな思いに反する身体は一向に動かない。
「本部との通信は!?」
「駄目です……ノイズだけで繋がりません!恐らくECMです!」
「クソッ……奴ら、本気か!」
ニコライが歯噛みした瞬間、敵側から金属の塊が転がってきた。
「グレネード!!」
マーカスがユウイチを庇うように覆い被る。
直後、爆風が空間を吹き飛ばす。
砂塵が舞い上がり、飛び散った破片は辺りを切り裂いた。
「……ぐぅっ!無事ですか!?」
「あぁ……クッソ!問題無い!正面突破は無理だ!」
ニコライとマーカスは互いの顔を見る。
……何をする気だ。
「仕方ない……よし、俺たちが時間を稼ぐ。お前はここで休んでいろ」
――やめろ……!勝手な真似は……!
起き上がろうとしたが、体は鉛のように重く、びくともしなかった。
「ゴードンに加勢するぞ! ……じゃあな、隊長!」
「隊長、幸運を」
「ま……待っ……!」
二人はユウイチが伸ばした手を一瞥し、背中を向けて走り去ってしまった。
「――もう、彼らは戻ってこない。」
合流した三人は、互いの死角を補うように庇い合い、敵へ撃ち返す。
その光景は、掠れる視界の中でゆっくり流れた。
◆
煙の向こうで仲間が崩れ落ちる。
地面に広がる血。
手から滑り落ちた銃が、乾いた音を立てて転がる。
銃声が止み――辺りを静寂が包む。
――
耳鳴りの中、複数の足音が微かに聞こえる。
「レフベル指揮官、こちらレフベル2-1。ターゲットを発見……負傷で動けないようだ、指示を求む。オーバー」
話し声が聞こえる。
「……レフベル2-1了解、ターゲットを射殺する。アウト ――騙して悪いが、これも仕事なんでな」
自分に向けられる銃口、引き金に指が掛けられ。
――意識は闇に沈んだ。