白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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またまたオリキャラが出ます。
物語の都合上仕方ないとはいえ、ちょっと管理が大変ですね。



第19話 闇夜

 

 

ネットカフェで浅い眠りを取ったレナは――夢を見ることもなく、重たい瞼を押し上げるように目を覚ました。

 

夜が深まり、人通りが消えた頃。

レナは近くのコンビニで晩飯を買い漁る。シャッターの閉まった店が立ち並ぶ通りを、街灯が点々と照らしている。その道を進み、合流地点へと向かった。

 

(この『おにぎり』という食べ物、パンより良いかもしれん。楽に食えるし、腹も満たすし、味もいい)

 

歩きながら頬張り、レナはこの画期的な食べ物に舌鼓を打つ。

 

肩にライフル、右手におにぎり、左手に紙袋とビニール袋。

生活と戦闘が混ざり合った、ちぐはぐな重装備だ。

 

――

 

深夜の静まり返った夜道を歩き、目的地である「カイザー・コンビニエンス・ストア」に到着した。

 

看板には、王冠をかぶった“タコ”のキャラクターと、「26」の文字が掲げられている。

 

(皇帝なのに……なぜタコなんだ。そして26とは何だ? 普通は24だろう)

 

「……どうでもいいか」

 

そう呟き、残っていたおにぎりを平らげて、外のゴミ箱に捨てる。

 

(0050……集合の0100まで、あと10分。そろそろ来るか)

 

レナはコンビニの駐車場にあるポールにもたれ、闇の中に灯るビル群の明かりを眺めながら、WOLFチームの面々を待った。

 

――

 

(0055……おかしい。もう5分前だ。誰も来ない。何か……あったのか?)

 

一向に現れない部下たちに、胸の奥がじわりと冷え始める。焦燥感が静かに膨らんでいった。

 

(……こちらから連絡し――ん?)

 

電話をかけようとした瞬間、スマホの着信音が鳴る。

モモトークのグループチャットを開いた。

 

――

『こちらリノです。隊長の現在地はどこですか? 我々はすでに到着していますが、トラブルが発生しました。』

 

『可愛い服を着た、隊長にそっくりな女の子がずっと居座っています。とっても怪しいです。合流地点の変更を具申します。』

――

 

その間の抜けた文面を見た瞬間、レナの思考が停止した。

さっきまで心配していた自分が、道化に思えてならない。

 

スマホをタップし、短く打ち込む。

 

『それは私だ バカ者が さっさと来い』

 

そう罵倒しつつも、内心では部下たちの成長に感心していた。

 

(ずっと見られていたのか……まったく気付かなかった。ここまで気配を消せるとは……俺が教育しておいて何だが、恐ろしいな)

 

すると三方向から、それぞれ闇を割るように人影が近づいてきた。

 

「も、申し訳ありません、隊長……まさか、そんな可愛らしい服を着ているなんて、思いませんでした……」

 

リノが一目散に駆け寄り、どこかおどおどした様子で頭を下げる。

 

「お前……普段、私のことを何だと思っている」

 

「……うっ! そ、それは――」

 

「隊長かわいい〜❦ 今度一緒にトリニティの有名なお菓子屋さんに行こうよ〜❦」

 

メイが目を輝かせ、リノを押しのけて割り込む。

 

「ちょっ、メイ! 何す――ぐぇ!」

 

押されたリノは、走ってきたスイに跳ね飛ばされた。

 

「隊長……そんな服が、趣味だったんだ。僕も、もっと可愛いのを着てくればよかった?」

 

何かを盛大に誤解されていると察したレナは、即座に否定する。

 

「……いや、違う。この服は私の趣味じゃ――」

 

言いかけて、止まった。

コンビニの明かりに照らされ、彼女たちの私服がはっきりと目に入ったからだ。

 

リノは濃紺のパーカーに黒のスリムパンツ。

無難な装いだが、立ち姿はどこか“整列”しているようで、合理的な「ミレニアム」らしい。

 

メイは淡い色のブラウスにふわりと広がるスカート。背中の白い羽根とも調和していて、夜の街へ遊びに来た少女のようだ。

その無邪気さは彼女の性格とよく合っている。やはり「トリニティ」出身なだけあって、ファッションにも抜かりがない。

 

スイは黒のロングコートを羽織り、夜の闇に溶け込むように立っていた。

私服でありながら、その佇まいだけは任務中と何ひとつ変わらない。「レッドウィンター」は理知的なのだろうか。

 

――レナは、スイの服装が一番しっくり来た。

 

「……まあいい。早く行くぞ。これからまた移動する」

 

そっぽを向き、フリフリのワンピースの裾を揺らしながら歩き出す。

 

その後ろ姿を見た三人は、同時に思った――

 

(((……可愛い))❦)

 

――

 

カイザーコンビニから10分ほど歩き、とある路地に到着した。

そこに光はなく、ここから先は「闇」の世界だと暗に告げているようだった。

 

「この先に、手配したバンがある。それに乗り込み、集合地点に向かう」

 

「集合……ですか? 私たちの他にも、誰かが?」

 

リノが問いかける。

 

「この作戦にはFOXと……」

 

レナは一瞬、言い淀んだ。

 

「VIPERが……参加する」

 

「おお、VIPERか。頼もしいね」

 

スイが反応する。

 

彼女たちはスカウトで集められた三年生で構成され、俺たちより先に“修羅場”をくぐってきた最精鋭だ。

総合的に見れば、FOXやWOLFより実績がある。

 

“毒蛇”の名の通り、ターゲットを追い詰める戦いを得意とする。

この作戦には、うってつけの部隊だった。

 

――

 

細く、暗く、静かな道を一列になって進む。

やがて路地を抜けた先に、白いバンが止まっていた。

 

後部ドアに近づき、五回ノックして“パスワード”を告げる。

 

「城壁を越えうるば、我は楽園に在ると証されんや?」

 

中から声が返る。

 

「否。越境のみでは証左にあらず。汝の行いこそ、その証なり」

 

扉が勢いよく開き、中から人が現れた。

 

背が低く、眠たげな目、多毛の白髪、コウモリのような羽根と捻れた角。

レナの目には薄っすらと複雑なヘイローが見える。そのリングは、見たこともないタイプ。

 

――ゲヘナ生だ。

 

(なんだコイツは……連邦生徒会の人間じゃない!?)

 

「……クソッ、ハメられた!? 動くなッ!」

 

その言葉を合図に、WOLFチームは即座に武器を構えて散開し、少女を取り囲む。

冷たい銃口が一斉に向けられ、引き金にかかった指がわずかに締まった。

 

少女だろうと、容赦はしない。

 

小柄な白髪の少女は慌てて両手を上げる。

 

「ちょ――ちょっと待って! 私は敵じゃない!」

 

「ではなぜ――ここに、ゲヘナ生のお前がいる! 誰の命令だ!?」

 

「れ……連邦生徒会長よ!」

 

(どういうことだ。協力者か!? ――奴は何も言ってなかったぞ!)

 

「……と、とりあえず名乗らせてちょうだい。私は『空崎ヒナ』。一年生で“ゲヘナ情報部”に所属しているわ」

 

「……なんで。ゲヘナのアンポンタンがいるの……隊長。怪しいよ、ボコボコにして情報を吐かせよう」

 

メイが過剰に敵視する。

トリニティの悪い癖が、滲み出ていた。

 

「落ち着け、メイ!……嫌いなのは分かる。だが今は忘れろ」

 

メイは不服そうにショットガンを下ろす。

 

「……イエス……マム」

 

ヒナが、恐る恐る尋ねた。

 

「もう……喋ってもいい?」

 

「……ああ、済まない。羽根を見れば分かると思うが、こいつはトリニティ出身だ」

 

「……ええ。分かっているわ。気にしてない。……申し訳ないけど、詳細は外では話せない。中で話しましょう」

 

そう言って、ヒナは重い足取りでバンへ戻る。

 

(……肝の据わった奴だ。しかし……なぜあんなに眠そうなんだ。情報部は……激務なのか?)

 

その過酷さを想像し、レナはわずかに敬意を抱いた。

 

全員が席に着くと、リノが口を開いた。

 

「……隊長。先ほど『ハメられた』と言いましたが、どういう意味ですか? ……ただの任務じゃないんですよね?」

 

(……そう思うのも無理はないか)

 

レナは覚悟を決める。

 

「……そうだ。今回の任務は……人狩りだ。

ゲヘナ生徒会長――『雷帝』を、拉致する」

 

「人狩り」――その言葉が車内の空気を凍りつかせた。

 

「「ら、雷帝!?」」

 

「連邦生徒会はある構想を考えている。実行するにあたって……雷帝は障壁になる。

私たちの任務は、その雷帝を連邦生徒会長にプレゼントすることだ」

 

「連邦……生徒会長……?なにそれ、犯罪者になれって?」

 

スイが震えた声で項垂れる。

正義の象徴であるはずだった自分たちが、大罪人になるのだ。

 

「……失敗したら、どうなるんですか!?」

 

リノが柄もなく声を荒げる。

 

「ゲヘナをケチョンケチョンにできるなら……何でも良いよ」

 

メイはゲヘナのことになると、歯止めが効かない。雷帝相手でも、怯える素振りはなかった。

 

「……」

 

声が出ない。真実か、嘘か。

レナの手は震え、心拍数が跳ね上がる。

 

悩んだ末、一つ閃いた。

 

――そうだ。ゲヘナを利用するんだ。

 

「大丈夫だ。ゲヘナの情報部が安全を保証してくれる。そうだろ?……空崎ヒナ」

 

(……すまない。だが、今は嘘をつく。奴はゲヘナ側の協力者なんだ、詳細は伝えられている筈だ)

 

ヒナは大きく目を見開き、瞳孔が震える。

レナは睨みつける。

 

(……合わせろ)

 

ヒナは言い返そうとしたが、一瞬だけ唇を噛み、やがて諦めたように目を伏せた。

淀みながらも言葉を紡ぎ、場に合わせる。

 

「……ええ。あなたたちの身分と詳細は、情報操作で揉み消すわ……雷帝は、私たちの学園にとっても“危険”だから……情報部は連邦生徒会と手を組んだ。だから……私がいる」

 

集まる視線に耐えられず、レナはシャチのキーホルダーを握り締める。手の中で食い込み、鋭い痛みが走った。

 

結局、最後まで勇気が出なかった。

 

――あまりにも苦しい、綻びだらけの嘘だ。

世論を欺けるには弱いし、情報部がそこまで動けるわけがない。

 

彼女たちも察したのか、何も質問はしなかった。

 

その沈黙が――ひどく、胸に刺さる。

 

手に過剰な力が入り、小刻みに揺れる。

 

「隊長……」

 

レナの拳を見つめる、リノの瞳が揺れていた。

 

実際は、誰も信じていない。ただ、“信じたことにするしかない”。

それが命令というものだ。

 

『隊長……この死体袋で、幾つ目ですか?……さすがに運ぶの疲れましたよ』

 

……これで、もう後戻りはできない。

 

場の空気を変えるため、レナは話題を変えた。

 

「……そ、そうだ。お前たちは、寝たのか?」

 

「いえ、書類整理を押し付けられてたので……ずっと群長室で缶詰めになっていました」

 

(……生徒会長から雷帝の件を告げられて、ストレスが爆発したか?……お労しや、群長)

 

「そうか……なら今、寝ておけ。目的地まで時間がかかる。これから忙しくなるぞ」

 

ヒナが情報部のドライバーに発車の指示を出し、バンは暗闇に消えていった。

 

 

 

――

 

――ゲヘナ自治区の外れ。

 

目的地の寂れた“廃工場”を目指し、ゲヘナ特有の絶えない争いでボロボロになった高速道路を進む。

深夜だというのに街の方から絶え間ない爆発と、燃え上がった炎の光が、空を赤く染めているのが遠方に見える。

 

それとは反対に、車内は静寂に包まれている。

 

WOLFのメンバーは深い眠りに就いていた。

相当、こき使われたようだ。

 

余談だが、レナはデスクワークが死ぬほど苦手である。

その場に自分がいなかったことに悪気を感じつつも、内心では感謝していた。

 

赤い空を眺めていると、助手席に座ったヒナが声をかけてきた。

 

「あなたたちを……身内の汚い争いに巻き込んだこと、申し訳なく思っているわ」

 

「……」

 

「でも、雷帝は危険すぎる。この前だって反抗的な部活が、丸々潰されて全員退学になったわ……私たちで排除したくてもできない……

風紀委員会はわざと弱い生徒で固められているし、その末端の情報部は人数が少ない。……親衛隊には、とても敵う戦力じゃない」

 

「……お前たちは、あの悪魔に何を差し出した?」

 

レナの問いにヒナは理解が追いつかず、言葉が詰まる。

 

「……え? 悪魔?」

 

「連邦生徒会長だ。奴が何の見返りもなしにリスクを背負うとは思えない。確かにエデン条約という理想論を掲げているが、他にもやり方はあったはずだ」

 

「悪魔……言い得て妙ね……」

 

ヒナは苦く笑い、続ける。

 

「今の生徒会を解体して、新たな組織――『万魔殿』(パンデモニウム・ソサエティー)を作るように言われたらしいわ。連邦生徒会長と話した部長が、そう言っていた」

 

(……傀儡政権か? 少なくとも、ゲヘナ内部の主導権を削ぐつもりだな)

 

「……もちろん、全員が従ってるわけじゃない。反発している部もあるし、裏で動いてる連中もいる。

それでも……今は、彼女の方が一枚上手だった、というだけ」

 

「お前たちも大変だな……」

 

「……ええ、お互いにね。……名前は、大上レナさんだった?」

 

「……レナでいい」

 

「レナ……失敗した時、捨て駒にされるのを彼女たちは知ってるの?」

 

「いや、知らされていない。空崎は――」

 

「……ヒナって呼んで」

 

「ああ、すまない。ヒナ……この作戦、どう思う」

 

「そうね、とても……悲しいことだと思うわ。分かっていても、止められない。ジェットコースターみたいなもの……」

 

「……そうか」

 

 

 

――

 

七時間前……

 

連邦生徒会――生徒会長室。

 

「二人とも。今日は来ていただき、ありがとうございます」

 

そう言う連邦生徒会長の前には、二人の少女――FOX1とVIPER1が整列していた。

 

「会長! 今日も可愛いわね!」

 

「ふふっ、ありがとう。“ミオ”さん」

 

VIPER1――京咲ミオ。

毒蛇の名とは似ても似つかず、誰に対しても明るく振る舞う三年生。みんなの姉のような存在だ。

 

「そ、それで。生徒会長、私たちに何の任務が発令されるのでしょうか?」

 

FOX1――七度ユキノ。

冷静沈着で、正義を信じ、結果を出すことに一切の妥協を許さない。一年生ながら実績を積み重ね、SRTの“希望”とまで評される存在。

 

生徒会長は二人を見比べるように視線を巡らせ、柔らかく微笑んだ。

 

「今回の任務は、WOLF、VIPER、FOX、それとゲヘナ情報部からなる”タスクフォース”を編成した特別任務となります」

 

ミオが顎先に指を添えて、問いかける。

 

「あら、レナちゃんたちも参加するの? しかもゲヘナの情報部……」

 

「……彼女も投入しなければならないほどの強敵ですか?」

 

ユキノも提示された戦力に、警戒心を滲ませた。

 

「はい。今回の任務は『特別捜査案件』です」

 

「「特別捜査案件?」」

 

二人が同時に聞き返す。

 

「ゲヘナ自治区での……違法兵器の流通、資金洗浄、情報操作、と複数の疑いが確認されています。

それに大きく関与している可能性が高い、要注意人物が一名……」

 

「それが今回のターゲット?」

 

ミオは首を傾げる。

 

「そ、その人物とは? 今のゲヘナは混沌(Chaos)です。それが少しでも無くなるなら……喜んで参加します」

 

ゲヘナの惨状に憂いているユキノは、やる気に満ちていた。

 

「ターゲットは……ゲヘナ生徒会長。通称『雷帝』です」

 

「「……ッ!?」」

 

二人の背筋が凍り付き、言葉を失う。

さすがに予想外だった。

 

そんな二人を横目に、生徒会長はデスクの下から二つの資料を取り出した。

 

ユキノが恐る恐る口を開く。

 

「雷帝……あの独裁者ですか?」

 

「ええ。ゲヘナの混沌を象徴する存在です」

 

生徒会長は歩み寄り、二人に資料を手渡した。

 

ページを捲った瞬間、二人の表情が変わる。

ユキノは固まり、ミオは口笛を吹いた。

 

「ヒュー……戦争でも起こす気?」

 

そこには、複数の資金ルート、数え切れないほどの兵器型番、そして“未確認の新型砲”の情報が並んでいる。

 

「何か……証拠があるのですか?」

 

ユキノの問いはまっすぐだった。

正義を信じる彼女にとって、“疑い”だけでは動けない。

 

「あります。ただし……現時点では、決定的な“公開可能な証拠”が不足しています」

 

「では、今回の任務は……」

 

「あなたたちには、特別捜査権限で雷帝を確保していただきます。その後は連邦生徒会の下で事情聴取。証拠の精査を行います」

 

「確保……逮捕とは違うの?」

 

ミオが目を細める。

 

「ええ。正式な逮捕ではありません。

あくまで――保護拘束です」

 

生徒会長は柔らかい態度を崩さない。

 

「表から手続きを踏めば、証拠は隠され、部下は口を閉ざし、何も残らないでしょう。

……だから、確実に押さえる必要があります」

 

「……なるほど」

 

ユキノは腕を組み、納得したように頷いた。

 

「つまり、サプライズで首根っこを掴んで、膿を吐かせるってことね?」

 

「ふふっ、その認識で大丈夫です。あなたたちVIPERが得意なことですよ?」

 

“毒蛇”と呼ばれたミオは顔を顰める。

 

「毒蛇ねぇ。ほんとは……もっと可愛いのが、よかったんだけど」

 

生徒会長はユキノを見つめ、歩み寄った。

 

「そしてユキノさん。今回の任務が成功したら、正式にディールー昇格を承認するつもりです。頑張ってくださいね?」

 

「ディールー昇格……生徒会長。

“証拠保全”と“保護拘束”。それが今回の作戦の目的であるなら――」

 

ユキノは顔を上げ、生徒会長を見つめ返す。

 

「私たちは、正義の範囲で動ける……そう考えてよろしいのですね?」

 

その問いは鋭かった。

だが生徒会長は一切目を逸らさず、はっきりと言う。

 

「勿論です。あなたたちの行動は、“正義”と“平和”の下にあります」

 

ユキノの心に、静かな灯火が灯る。

 

「これは私情でも、権力争いでもありません。

キヴォトス全体の治安と、体制を守るための“特別捜査”です」

 

生徒会長は、柔らかく手を組んだ。

 

「なお……この件は極秘です。

作戦の性質上、詳細を知るほど、あなたたちが狙われる危険も高まる。どこに目があるか分かりませんからね。必要な情報のみを、段階的に共有します」

 

「……なるほど。口外禁止ね」

 

ミオが軽く肩をすくめる。

 

「はい。……あなたたちを守るためでもあります」

 

そう言うと生徒会長は手を叩き、微笑んだ。

 

「さあ、作戦の内容は追って知らせます。この紙に必要な情報があります。失くさないでくださいね?」

 

ミオが、ふと疑問を零す。

室内の空気が、ほんの一瞬だけ張り詰めた。

 

「……ねえ、会長。これ、失敗したら……どうなるの?」

 

だが、生徒会長は変わらぬ笑みで答えた。

 

「失敗は、想定していません。

ですが――万が一の場合でも、あなたたちが不当に責任を負うことはありません」

 

きっぱりと、淀みなく言い放つ。

 

「記録上は、あくまで“特別捜査の一環”。

私は、あなたたちを守ります。――それは約束します」

 

ミオはその言葉を一度、胸の中で転がす。

 

「会長、そういう言い方、ずるいわね……」

 

「ふふっ、そうでしょうか?」

 

ユキノも、静かに頷いた。

 

「……私たちは任務を遂行します。正義の名の下に」

 

「ありがとうございます。二人とも」

 

生徒会長は、深く一礼した。

 

「この作戦が成功すれば、ゲヘナの混沌は確実に収束へ向かいます。

……そして、キヴォトスは少しだけ“良い世界”になります」

 

――その瞳の奥に。

“失敗した時の物語”が、すでに用意されていることを、彼女たちは知らない。

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