白狼救済録 作:らんらん出荷マン
またまた新キャラが出ます。
――ブリーフィング後
長年放置された廃工場の内部には、満足に生活できるスペースがなかった。
隊員たちはその惨状に啞然とした。百戦錬磨のSRTと言えども、中身はうら若き乙女である。
緊急事態でもないのに、壊滅的に不衛生な工場で一日を過ごすなど、決して許容できる事態ではない。
大急ぎで必要最低限の設備とテントを設営し、なんとか一夜を過ごせる形に整えた。
後日、組み立て式ハウスや指揮官用設備などが搬入される予定だ。
――
――WOLFチーム用テント内
「結局、働きっぱなしだった……」
スイは項垂れるようにハンモックへダイブし、そのまま脱力した。
「寝ないでください。夕飯、食べますよ!」
「えー……リノってさ、小言が多いお母さんみたいだよね」
「一言多いです!」
そんな言い合いを他所に、レナはイヤリングとリボンを外し、袋に投げ入れようとした――その瞬間。
メイに手を掴まれた。
「丁寧にしないと、なくしちゃうよ❦」
「……ああ、すまない」
メイは自分のバックパックから、綺羅びやかな装飾を施されたケースを取り出した。
「これ、あげる❦」
「……いいのか? 高そうな見た目だが」
「隊長の初オシャレ祝い。私にはもう、要らない物だからね❦」
レナは一点物に見えるケースを慎重に受け取り、リボンとイヤリングを仕舞った。
その仕草を見つめていたメイは、満足そうに頷く。
「朝になったら、セットしてあげる〜❦」
「……いや、別にいいんだが」
――
雷帝襲撃まで、残り十二日――
――廃工場・第3倉庫内
使われなくなって久しい倉庫に、SRTの最精鋭たちが集まっていた。彼女たちの前には長机が据えられ、人数分の装備が整然と並べられている。
「よし、みんな。ここなら大丈夫でしょう。この装備は“外では絶対に見せられない”から、この場で“会長お手製装備”に着替えるわよ!」
ミオの号令とともに、全員が一斉に着替えの準備に取りかかった。
(まずい状況だ。まさか、この場で着替えるとは……。いい年した“大人”が、年頃の少女の下着姿など見られるか。俺だけ、別の場所で――)
自分の装備を抱え、こっそり離れようとしたところで腕を掴まれた。相当な力だ。この遠慮のなさは――
「レナ、どこに行くつもりだ?……ここから先は一蓮托生。まさか、怖気づいて――」
「いや、違う」
「なら、なぜ外に出ようとする? 持ち出し厳禁。ミオ先輩が言っただろう?」
ユキノだった。
「あら〜、レナちゃん、恥ずかしいの? じゃあ……お姉さんが手伝ってあげるよ〜」
ミオが、妙に気持ちの悪い動きで近づいてくる。これではセクハラ親父だ。せっかくの美人が台無しである。
「み……ミオ、そういう趣味か?」
「ち――違うわよ! 冗談、冗談! 本気にしないで!? レナちゃんが可愛いだけだから!!」
「隊長、後輩にセクハラ。変態」
VIPER2――マヤ。ミオの右腕でマークスマン。感情をほとんど表に出さない、“氷の参謀”の異名を持つ、口数の少ない毒舌家だ。
「うっ……! マヤちゃん、ひど!」
「姉さんや、ちょっち……ヴァルキューレ行くか」
VIPER3――ナツメ。SMGを好み、CQBを得意とする剛健家。裏切りや卑怯な手段を嫌う、非常に“まっすぐな正義”の持ち主だ。
「なんで!? 私は正義の人間よ!?」
「姉御……鏡、見せようか?」
VIPER4――アヤハ。SRTでも珍しい、リボルバー型六連発式グレネードランチャーを扱う一方、ハンドガンの使い手でもある。爆発物で物を壊すのを好み、本人いわく「吹き飛ぶ様が楽しい」とのことだ。
「わァ……ぁ…………」
ミオは涙目で頭を抱え、そのまましゃがみ込んでしまった。威厳もクソもない。
「隊長、泣いちゃった」
マヤが近づき、ミオの頭をぽんぽんと叩く。
(……こうなっては、仕方がないか。許せ……みんな)
「……分かった。ここで着替える。離してくれ……ユキノ」
装備を長机に戻し、レナは静かに目を閉じた。
(そうだ。見なければいい)
ボタンやファスナーの外れる音。服を畳む、わずかな動作の気配。香水の仄かな香り。装具を身につけるたびに響く、金属とケブラーが擦れる音。――それらすべてを、鋭い感覚が拾ってしまう。
レナも続く。リボンを解き、イヤリングを外してケースに収める。背後に手を回し、尻尾を通す部分のボタンを外す。ワンピースを掴み、たくし上げる。
「隊長〜❦ なんで目を瞑ってるの〜?」
レナの不審な行動に気づいたメイが尋ねた。
「訓練の一環だ……暗闇でも装備を装着できるようにな。現地の回収地点に、明かりがあるとは限らん」
「なるほど、合理的です。さすが隊長ですね……」
隣で着替えていたリノが、素直に納得している。
――いや、これは嘘だ。
見たら――何かを失う気がしたからだ。
判断力か、覚悟か、あるいは自分自身か。
見てしまえば、「守るべきもの」として認識する。そうなれば、きっと切れなくなる。
いつか「それ」を捨てる時、情に迷えば、身を滅ぼす。
前世で、嫌というほど思い知ったことだった。
――
そんなレナを、ユキノは遠目からじっと見つめていた。
「どうしたの。レナを見つめて、恋でもしちゃった?」
ちょうどACUに手を伸ばしたオトギが茶化す。
「いや……何でもない」
「……レナって細いよね。あの体のどこに、あんなバカげたパワーがあるんだか……」
(……身のこなしが、初めてではない。この装備もそう……君は何者だ)
「――それにしても、この服は分厚いな。耐火性もありそうだ」
「うーん、ちょっと着心地、悪くない?」
「まあまあ、クルミちゃん。会長が作ってくれたんだから、文句言わないの」
「逆に、なんでニコは平気なのよ……」
――
ワンピースを脱ぎ、装備の横へ放り投げる。手を伸ばしてACUを掴み取った。この重さと手触り――あの頃の記憶が、鮮明に蘇る。
(俺たち傭兵が着ていたBDUとは違うが……また軍服を身に纏うとはな)
まずコンバットパンツを履き、ボタンを留めてベルトでしっかり固定する。
次にコンバットシャツを着込み、ファスナーを襟元まで引き上げた。
続いてプレートキャリアを手に取り、ベルクロを剥がす。静かな空間に、ベリベリという音が響いた。頭から被るようにして装着し、体に巻き付ける。最後に前面を閉じ、確実に固定した。
拳で正面を軽く叩き、緩みがないか確認する。
「おー、すごい。慣れた手つきだね。隊長、初めてのはずだよね?」
疑問混じりの、スイの感心した声。
「昔、似たようなのを着たことがある」
「……へー、そうなんだ」
(そろそろ、いいか)
目をゆっくり開け、視界が戻る。
そこには、非情なまでに見慣れた光景が広がっていた。
全員が戦闘服を着ている。
新品のACUから漂う、薬品のような匂い。
硬く無機質な装い。
温かさの欠片もない。
どこにも“生徒”はいなかった。
消費されるだけの
これでは――少年兵だ。
ヘルメットに収まるよう、髪を結い、まとめ上げる。
そして最後に、どこまでも冷たい無骨なヘルメットを手に取った。側面上部には「A-W1」と白いデカールが貼られている。これを被れば、「顔」という最後に残った“人間性”も剥奪される。
兵器の完成だ。
ヘルメットをひっくり返して覗き込む。HUDも何も起動していない。中は“真っ黒”だった。
被ろうと顔に近づけた瞬間、指が止まる。
(ヘイローを隠す、未知の装備。俺のも……消えるのか)
『へー……凄いね、他人のヘイローが見えるんだ』
指が震え、喉が張り付く。
『繋がれてこそ、沈まぬ在り方を得る』
(これを被れば、俺は何者でもなくなる)
ヘルメットを深くかぶり、側面のスイッチを押す。顎の部分が固定され、脱げなくなった。
画面に光が灯る。
「生徒会長をデフォルメしたキャラクター」が、“会長印”と書かれたロゴと共に現れ、ウィンクをした。HUDの端に、システムロードのログが流れる。
ローディングが終わり、オペレーティングシステムが起動する。
すると、ある文が表示された。
『Renegade System: STANDBY』
「レネゲイド……反逆者とは、悪趣味なネーミング……ッ!?……うぅッ」
――
『……ユ……は、どう……な……』
『お前…だ……けは……殺…す!』
『そ……まで……腐った…か!!』
――
その文字が浮かんだ瞬間、視界がノイズに染まり、何かの叫びと正体の知れない悪寒が身体を貫いた。
家の奥まで土足で踏み込まれたような、神経を逆撫でされたような――自分が守ってきた“何か”に、無断で触れられたかのような、拒絶に近い不快感だった。
頭上にあった温もりが消え、冷たい鉄の檻に閉じ込められたような感覚が湧き起こる。
(これは……ただのシステムじゃない! 俺の“在り方”そのものに、干渉しているのか!? クソッ! 何を寄越しやがった!?)
このヘルメットは、危険だ。
レナは焦燥感に駆られる。
(――他の連中は?!)
周囲に視線を向ける。
「うわ……何これ。気持ち悪」
「た、隊長。なんでしょうかコレ。何かに干渉されているような……」
「う〜……脱ぎたい」
WOLFは全員、不調を訴えている。他のチームは?
「くっ……これは」
「……うーん。訓練前は、食べ過ぎない方が良いかも」
「頭が割れる!」
「胡桃だけに?(笑) ははっ! 上手いね!」
「うるさいっ! あんたも早く被りなさい!!」
FOXも同様――
VIPERは――
「……」
「……」
「……」
「……」
人形みたいに無反応だ。
一体……どうしたのか。
――
しばらくして、違和感は徐々に薄れていった。
(クソッ……何なんだ一体。慣れた?――いや、違う。“慣れさせられた”だけか?)
悪態をついた直後、システム通知が走る。
Renegade network: Synchronized.
FCS: Online.
IFF: Enabled.
Identity tags: Now visible.
次の瞬間――自身の感覚が“何か”に接続され、一つになった。
HUDに映った隊員の輪郭が青色に強調表示され、識別IDが頭上に現れる。
B-F1
“ユキノ”という名前ではない。番号とコードで構成された、冷たい“識別子”だった。
隣にいる“リノ”に、視線を向ける。
A-W2
長机の12.7mmARを見ると、安全装置、チャンバー、マガジン情報が即座に表示された。
「なんだ、これは……」
通信回線が開き、ミオの声が脳内に直接響く。無線とは違い、距離も壁もノイズも関係ない。
――直接だ。恐ろしいほど、伝わる。
「…………………感覚は、馴染んだ?」
平然としている。それが、異様に不気味だった。
(……なぜだ。あいつらだけ、何も感じていない?)
「こ、これは何ですか? ミオ先輩は……平気なのですか?」
ミオが返事をする。
「ええ……なんともない。システムと直接繋がった反動よ。心配はいらない。
では……これより訓練を開始する」
『Probability divergence: ENABLED』
(確率……分岐?)
俺の中に入り込んだ“何か”が語りかけてくる。
破滅。収束。恐怖。
一体、何が言いたい。
『Anchor status: UNBOUND』
『Chain requirement: PENDING』
――
――廃工場・第2倉庫内
12.7mmARを装備したレナたちは、即席のシューティングレンジに移動した。そこは、かつての生産ラインの残骸を流用したものだった。
歪んだ鋼鉄の柱、無造作に積まれたコンテナ、剥き出しのコンクリート床。
整備などされていない。
簡易的に組まれたバリケード、鋼鉄製のマンターゲット。あり合わせの材料で作られている。
「……では、射撃訓練を開始する。FOX、慣れない武器よ。無理はしないで」
――ズダダダッン!!!!
レナの目の前には、フルオートで射撃するオトギがいた。
目が眩むほどのマズルフラッシュ。凄まじい爆音が響き渡り、床が震えていると錯覚するほどだ。
「くぅうッ!! スナイパーと薬莢が違うとはいえ、反動が強烈すぎる!!」
「使いこなせ、FOX4。これしかない」
隣のブースに立っているユキノが叱責する。だが、彼女も制御するのに精一杯のようだ。
「もー!! 大きくて使いづらい!!」
「クルミちゃん。文句は言わないの」
FOXが一通り撃ち終わり、ブースから離れる。
次はWOLFだ。
レナは無言で前に出る。
巨大なマガジンを差し込み、異様に硬いチャージングハンドルを引く。
――ガシャン。
続いて安全装置を外す。セレクターをセミに切り替え、80m先のマンターゲットに向かって腰だめで構えると、FCSが起動した。
Safety: OFF.
Fire mode: Semi-auto.
Ammo: 12.7×55mm Heavy subsonic lead. Remaining: 1+19.
Target locked: Stationary.
Distance: 80m.
HUDが即座に反応し、ターゲットが赤く縁取られる。
銃口をターゲットに向けて、アイアンサイトを覗き込む。
Target lock confirmed.
Line of fire clear.
Weapon Standby.
引き金を引く。
――ズダッン!!!!
肩を蹴り飛ばすような反動。衝撃がパッドを貫き、骨が軋む。ターゲットの鉄板に、引きちぎられたような弾痕を残す。
BDA: Vital hit.
Enemy Status: KIA.
Remaining: 1+18.
(クソ、何がKIAだ……当たり前のように、“殺害確認”をするな。ポンコツが)
次は横に移動するターゲットに照準を合わせる。セレクターをフルオートへ切り替える。
Fire mode: Full-auto.
Target locked: Moving.
Distance: 70m.
即座に弾道計算が始まり、ターゲットの移動方向にリードアングルが表示される。
Target lock confirmed.
Lead applied.
Line of fire clear.
Weapon Standby.
――ズダダダダダダダダダッン!!!!
姿勢と筋肉で抑えつけ、無理矢理制御する。
弾丸の嵐が鋼鉄の板を滅多刺しにする。着弾の衝撃と激しい火花が、破壊力の凄さを物語っていた。
BDA: Vital hit.
Enemy Status: KIA.
Accuracy: 100%.
Remaining: 1+9.
12.7mmARを下げる。マガジンを外してチャージングハンドルを引き、飛び出した弾をキャッチする。
(……思考に一切のモヤがない。まるで透き通ったようだ。これも……システムの影響か? 人の領域に……踏み込んでくるとは。遠慮を知らんのか?)
「うぇえ!? 全弾命中!? アシストあっても、これはおかしいでしょ!」
よほど信じられなかったのか、後ろで待機しているクルミが仰天している。
(……“当たった”んじゃない。“当たる”未来だけを、選ばされた?)
圧倒的な成績に、ユキノは息を呑んだ。
「……ッ! ……これが、頂点」
ミオの声が頭に響く。
「A-W1以外は失格。今日は一日、射撃訓練を課す」
その悲報を聞いて、全員が思った――
(((一日?……鬼だ)))
その後、VIPERチームも射撃訓練に参加した。レナほどの腕前ではないものの、彼女たちも本来は初使用のはずである12.7mmARを扱い、十分に優秀な成績を収めていた。
(先輩の意地?……いや、あれは知っている動きだ)
――
五時間後――
「う〜、隊長。手が痛いよ〜」
「腕が……上がらない」
「隊長! バレルが、アチアチです!」
あれからミオ教官の指導の下、ひたすら撃ち続けた。床は薬莢の山で、足の踏み場もない。
「黙れ。銃の安全確認! 終わり次第、薬莢の掃除だ!」
「「「……了解」」」
「レナ……」
背後から誰かが呼びかけてきた。
「なんだ?……ユキノ」
「大丈夫か?……なんというか……その、今の貴官は、まるで機械のようだ」
(人のことを機械扱いとは、失礼な女だ)
「正確無比な射撃。ブレない体幹。操作も無駄がなく、速い」
「……何が言いたい」
「このヘルメットを被ってから……何かが、おかしい。削られているような――」
(さすがユキノだ。気づいている……だが、今は気にさせるわけにはいかない)
「FOX1……私たちは“兵士”だ。余計なことは考えるな。お前はただ、与えられた任務を全うしろ……」
「……ッ!……任務を、最優先。FOX1了解……」
……俺は、何を言っている?
――
「あ、おかえりユキノ。レナから強くなれるヒント、貰えた?」
薬莢を塵取りで回収していたオトギが振り返る。
「いや……何も。今のレナは、何かが、おかしい」
「……何か?」
「『余計なことは考えるな、ただ任務を全うしろ』と言われ、追い払われたよ。……レナは確かに容赦がないが、あんな物言いは、普段なら絶対にしない」
「……あー、確かに変だね。“女の子の日”なのかな?」
「茶化さない。不謹慎だ」
「う……ごめん」
――
散らかった薬莢を全て片付けた隊員たちは、ミオの前に整列している。
「今日の訓練は以上とする。明日以降は連携を深めるため、“ダミーシステム”を使用したCQB訓練を重点的に行う」
「ダミーシステム?」
整列した一人が疑問を抱く。
「ARのレールにIRユニットを装着し、システムと連動させた物よ。擬似的に銃撃戦ができる」
「へー、サバゲーみたいね」
「よし、では解散。明日に備えてしっかり休め」
システムからログが流れる。
Mission accomplished.
Well done!
その文と共に、先ほどの“デフォルメ会長”がHUDの端に現れてサムズアップを掲げた。
(コイツ……ふざけているのか?)
ミオを含めたVIPERチームは、気付いたら姿を消していた。まるで、最初からそこにいなかったかのようだ。識別IDも表示されていない。探知範囲内にいないのは事実だ。
(消えたのは隠密技能。だが、識別IDまで消えるのは……システム側の処理か?)
スイが隣に寄って、口を開く。
「ミオ先輩、なんだか変じゃなかった?」
「さあな……あれが本性なのかもしれん。先輩方の活動記録は“第一級機密情報”だ。普段何をしているのかは、推測のしようがない」
VIPERには何か、裏がある。
俺と――同じように。
(もう外そう……訓練は終わったんだ)
そう思い、スイッチを押してヘルメットを脱いだ。
「……ッ!」
システムの制御から離れた弊害か、急に手が震え出し、心拍が乱れた。キーンと甲高い音が耳の中で反響している。
だというのに、さっきまで感じなかった温かさが戻り、安心感も同居している――不思議な感覚だ。
「……」
「隊長……まだ、その震え治らないの……?」
手の震えに気付いたメイが、不安げな顔を浮かべる。
「……大丈夫だ。収める」
「隊長ッ! 一旦座りましょう、顔が青いですッ!――スイさん! 椅子を持ってきて下さい!」
「う、ウィルコッ!」
スイがパイプ椅子を大急ぎで持ってきて、レナの傍に設置する。
リノに両肩を掴まれて、無理矢理座らされた。
「休んでください……お願いします」
仲間に心配をかけた、その不甲斐ない自分が許せない。これでは、作戦当日に影響が出る。
「……すまない。すぐ復帰する」
「そういうことを……言っているわけではありません!」
珍しくリノが怒鳴りつける。
「隊長……後は任せて。整備はやるから」
メイも珍しく協力的だ。面倒事が嫌いな彼女らしくもない。
「動いちゃダメだよ、隊長。僕は水を持ってくるよ」
部下の優しさに胸が締め付けられる。既に自分は――
裏切っているというのに。
「……すまない」
――
装備を全て脱ぎ、私服に着替え直した。
工場の外――光が外部から視認されない立地で、焚き火を囲み、味気ないレーションを全員がつついていた。
今夜のメニューは、主食のクラッカー、肉の缶詰、ベリー味のエナジーバー、ミックスナッツ、粉のオレンジジュース、歯磨き用ガム。
それだけだ。
だがレナには懐かしく、過去の仲間たちとの思い出が胸をよぎる。
硬いクラッカーを1枚取り、焚き火で加熱した肉を乗せて頬張る。
(……これに限る)
粘っこいエナジーバーを噛み千切り、安っぽい味の粉ジュースで流し込む。
向かいでは、缶詰をフォークで突きながら顔をしかめるミオがいた。
「レナちゃん……毎回、美味しそうに食べるわね。私は無理だわ……ニコちゃん。明日は何か作ってよ。私の部下を使っていいから」
訓練の時の冷たさは鳴りを潜め、いつもの雰囲気に戻っている。
(……意識の切り替えか、システムか。分からんな)
「いいですよ! 明日のお夕飯は、お任せください!」
自分の得意分野を任されて意気込むニコ。
「隊長、勝手に決めない。面倒」
マヤの顔が歪み、断固拒否の姿勢をとる。
「そうだぞ、姉御。私は料理が下手くそだ。止めた方が……」
「黙りなさい! ニコちゃん一人に任せるのはダメ! 先輩失格!」
このありふれた会話が、続くといいが。
レネゲイドの“抑圧性”は“人間性”を確実に削り取る。だが、雷帝の実力は未知数だ。手加減はできない。
たかが人格のために任務の成功率を下げ、全てを危険に晒すのは愚の骨頂だ。
故に、この規格外の装備を外すことは選択肢に入らない。
(……成功させればいい)
ずっと唱え続けた御呪いを心に秘め、クラッカーを噛じる。
――
――廃工場・オフィス内、臨時隊長室。
「いや、問題ない。
ああ……すまないが、これから長期の研修が始まる。二週間ほど連絡が取れなくなるが、許してくれ。
……なんだ、心配か? ただの勉強会だ。
それで……ユメ、朗報がある。連邦生徒会が支援してくれるかもしれないぞ」
みんな大好き、倫理ぶっ壊れシステム。