白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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またまた新キャラが出ます。


第21話 剥奪

 

 

――ブリーフィング後

 

長年放置された廃工場の内部には、満足に生活できるスペースがなかった。

隊員たちはその惨状に啞然とした。百戦錬磨のSRTと言えども、中身はうら若き乙女である。

 

緊急事態でもないのに、壊滅的に不衛生な工場で一日を過ごすなど、決して許容できる事態ではない。

 

大急ぎで必要最低限の設備とテントを設営し、なんとか一夜を過ごせる形に整えた。

 

後日、組み立て式ハウスや指揮官用設備などが搬入される予定だ。

 

 

 

――

 

――WOLFチーム用テント内

 

「結局、働きっぱなしだった……」

 

スイは項垂れるようにハンモックへダイブし、そのまま脱力した。

 

「寝ないでください。夕飯、食べますよ!」

 

「えー……リノってさ、小言が多いお母さんみたいだよね」

 

「一言多いです!」

 

そんな言い合いを他所に、レナはイヤリングとリボンを外し、袋に投げ入れようとした――その瞬間。

 

メイに手を掴まれた。

 

「丁寧にしないと、なくしちゃうよ❦」

 

「……ああ、すまない」

 

メイは自分のバックパックから、綺羅びやかな装飾を施されたケースを取り出した。

 

「これ、あげる❦」

 

「……いいのか? 高そうな見た目だが」

 

「隊長の初オシャレ祝い。私にはもう、要らない物だからね❦」

 

レナは一点物に見えるケースを慎重に受け取り、リボンとイヤリングを仕舞った。

 

その仕草を見つめていたメイは、満足そうに頷く。

 

「朝になったら、セットしてあげる〜❦」

 

「……いや、別にいいんだが」

 

 

 

――

 

雷帝襲撃まで、残り十二日――

 

――廃工場・第3倉庫内

 

使われなくなって久しい倉庫に、SRTの最精鋭たちが集まっていた。彼女たちの前には長机が据えられ、人数分の装備が整然と並べられている。

 

「よし、みんな。ここなら大丈夫でしょう。この装備は“外では絶対に見せられない”から、この場で“会長お手製装備”に着替えるわよ!」

 

ミオの号令とともに、全員が一斉に着替えの準備に取りかかった。

 

(まずい状況だ。まさか、この場で着替えるとは……。いい年した“大人”が、年頃の少女の下着姿など見られるか。俺だけ、別の場所で――)

 

自分の装備を抱え、こっそり離れようとしたところで腕を掴まれた。相当な力だ。この遠慮のなさは――

 

「レナ、どこに行くつもりだ?……ここから先は一蓮托生。まさか、怖気づいて――」

 

「いや、違う」

 

「なら、なぜ外に出ようとする? 持ち出し厳禁。ミオ先輩が言っただろう?」

 

ユキノだった。

 

「あら〜、レナちゃん、恥ずかしいの? じゃあ……お姉さんが手伝ってあげるよ〜」

 

ミオが、妙に気持ちの悪い動きで近づいてくる。これではセクハラ親父だ。せっかくの美人が台無しである。

 

「み……ミオ、そういう趣味か?」

 

「ち――違うわよ! 冗談、冗談! 本気にしないで!? レナちゃんが可愛いだけだから!!」

 

「隊長、後輩にセクハラ。変態」

 

VIPER2――マヤ。ミオの右腕でマークスマン。感情をほとんど表に出さない、“氷の参謀”の異名を持つ、口数の少ない毒舌家だ。

 

「うっ……! マヤちゃん、ひど!」

 

「姉さんや、ちょっち……ヴァルキューレ行くか」

 

VIPER3――ナツメ。SMGを好み、CQBを得意とする剛健家。裏切りや卑怯な手段を嫌う、非常に“まっすぐな正義”の持ち主だ。

 

「なんで!? 私は正義の人間よ!?」

 

「姉御……鏡、見せようか?」

 

VIPER4――アヤハ。SRTでも珍しい、リボルバー型六連発式グレネードランチャーを扱う一方、ハンドガンの使い手でもある。爆発物で物を壊すのを好み、本人いわく「吹き飛ぶ様が楽しい」とのことだ。

 

「わァ……ぁ…………」

 

ミオは涙目で頭を抱え、そのまましゃがみ込んでしまった。威厳もクソもない。

 

「隊長、泣いちゃった」

 

マヤが近づき、ミオの頭をぽんぽんと叩く。

 

(……こうなっては、仕方がないか。許せ……みんな)

 

「……分かった。ここで着替える。離してくれ……ユキノ」

 

装備を長机に戻し、レナは静かに目を閉じた。

 

(そうだ。見なければいい)

 

ボタンやファスナーの外れる音。服を畳む、わずかな動作の気配。香水の仄かな香り。装具を身につけるたびに響く、金属とケブラーが擦れる音。――それらすべてを、鋭い感覚が拾ってしまう。

 

レナも続く。リボンを解き、イヤリングを外してケースに収める。背後に手を回し、尻尾を通す部分のボタンを外す。ワンピースを掴み、たくし上げる。

 

「隊長〜❦ なんで目を瞑ってるの〜?」

 

レナの不審な行動に気づいたメイが尋ねた。

 

「訓練の一環だ……暗闇でも装備を装着できるようにな。現地の回収地点に、明かりがあるとは限らん」

 

「なるほど、合理的です。さすが隊長ですね……」

 

隣で着替えていたリノが、素直に納得している。

 

――いや、これは嘘だ。

 

見たら――何かを失う気がしたからだ。

判断力か、覚悟か、あるいは自分自身か。

 

見てしまえば、「守るべきもの」として認識する。そうなれば、きっと切れなくなる。

 

いつか「それ」を捨てる時、情に迷えば、身を滅ぼす。

 

前世で、嫌というほど思い知ったことだった。

 

 

 

――

 

そんなレナを、ユキノは遠目からじっと見つめていた。

 

「どうしたの。レナを見つめて、恋でもしちゃった?」

 

ちょうどACUに手を伸ばしたオトギが茶化す。

 

「いや……何でもない」

 

「……レナって細いよね。あの体のどこに、あんなバカげたパワーがあるんだか……」

 

(……身のこなしが、初めてではない。この装備もそう……君は何者だ)

 

「――それにしても、この服は分厚いな。耐火性もありそうだ」

 

「うーん、ちょっと着心地、悪くない?」

 

「まあまあ、クルミちゃん。会長が作ってくれたんだから、文句言わないの」

 

「逆に、なんでニコは平気なのよ……」

 

 

 

――

 

ワンピースを脱ぎ、装備の横へ放り投げる。手を伸ばしてACUを掴み取った。この重さと手触り――あの頃の記憶が、鮮明に蘇る。

 

(俺たち傭兵が着ていたBDUとは違うが……また軍服を身に纏うとはな)

 

まずコンバットパンツを履き、ボタンを留めてベルトでしっかり固定する。

次にコンバットシャツを着込み、ファスナーを襟元まで引き上げた。

 

続いてプレートキャリアを手に取り、ベルクロを剥がす。静かな空間に、ベリベリという音が響いた。頭から被るようにして装着し、体に巻き付ける。最後に前面を閉じ、確実に固定した。

 

拳で正面を軽く叩き、緩みがないか確認する。

 

「おー、すごい。慣れた手つきだね。隊長、初めてのはずだよね?」

 

疑問混じりの、スイの感心した声。

 

「昔、似たようなのを着たことがある」

 

「……へー、そうなんだ」

 

(そろそろ、いいか)

 

目をゆっくり開け、視界が戻る。

 

そこには、非情なまでに見慣れた光景が広がっていた。

 

全員が戦闘服を着ている。

新品のACUから漂う、薬品のような匂い。

硬く無機質な装い。

温かさの欠片もない。

 

どこにも“生徒”はいなかった。

 

消費されるだけの数値(Digital)

 

これでは――少年兵だ。

 

ヘルメットに収まるよう、髪を結い、まとめ上げる。

 

そして最後に、どこまでも冷たい無骨なヘルメットを手に取った。側面上部には「A-W1」と白いデカールが貼られている。これを被れば、「顔」という最後に残った“人間性”も剥奪される。

 

兵器の完成だ。

 

ヘルメットをひっくり返して覗き込む。HUDも何も起動していない。中は“真っ黒”だった。

 

被ろうと顔に近づけた瞬間、指が止まる。

 

(ヘイローを隠す、未知の装備。俺のも……消えるのか)

 

『へー……凄いね、他人のヘイローが見えるんだ』

 

指が震え、喉が張り付く。

 

『繋がれてこそ、沈まぬ在り方を得る』

 

(これを被れば、俺は何者でもなくなる)

 

ヘルメットを深くかぶり、側面のスイッチを押す。顎の部分が固定され、脱げなくなった。

 

画面に光が灯る。

 

「生徒会長をデフォルメしたキャラクター」が、“会長印”と書かれたロゴと共に現れ、ウィンクをした。HUDの端に、システムロードのログが流れる。

 

ローディングが終わり、オペレーティングシステムが起動する。

 

すると、ある文が表示された。

 

『Renegade System: STANDBY』

 

「レネゲイド……反逆者とは、悪趣味なネーミング……ッ!?……うぅッ」

 

――

 

『……ユ……は、どう……な……』

 

『お前…だ……けは……殺…す!』

 

『そ……まで……腐った…か!!』

 

――

 

その文字が浮かんだ瞬間、視界がノイズに染まり、何かの叫びと正体の知れない悪寒が身体を貫いた。

 

家の奥まで土足で踏み込まれたような、神経を逆撫でされたような――自分が守ってきた“何か”に、無断で触れられたかのような、拒絶に近い不快感だった。

頭上にあった温もりが消え、冷たい鉄の檻に閉じ込められたような感覚が湧き起こる。

 

(これは……ただのシステムじゃない! 俺の“在り方”そのものに、干渉しているのか!? クソッ! 何を寄越しやがった!?)

 

このヘルメットは、危険だ。

レナは焦燥感に駆られる。

 

(――他の連中は?!)

 

周囲に視線を向ける。

 

「うわ……何これ。気持ち悪」

 

「た、隊長。なんでしょうかコレ。何かに干渉されているような……」

 

「う〜……脱ぎたい」

 

WOLFは全員、不調を訴えている。他のチームは?

 

「くっ……これは」

 

「……うーん。訓練前は、食べ過ぎない方が良いかも」

 

「頭が割れる!」

 

「胡桃だけに?(笑) ははっ! 上手いね!」

 

「うるさいっ! あんたも早く被りなさい!!」

 

FOXも同様――

 

VIPERは――

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

人形みたいに無反応だ。

 

一体……どうしたのか。

 

 

 

――

 

しばらくして、違和感は徐々に薄れていった。

 

(クソッ……何なんだ一体。慣れた?――いや、違う。“慣れさせられた”だけか?)

 

悪態をついた直後、システム通知が走る。

 

Renegade network: Synchronized.

FCS: Online.

IFF: Enabled.

Identity tags: Now visible.

 

次の瞬間――自身の感覚が“何か”に接続され、一つになった。

 

HUDに映った隊員の輪郭が青色に強調表示され、識別IDが頭上に現れる。

 

B-F1

 

“ユキノ”という名前ではない。番号とコードで構成された、冷たい“識別子”だった。

 

隣にいる“リノ”に、視線を向ける。

 

A-W2

 

長机の12.7mmARを見ると、安全装置、チャンバー、マガジン情報が即座に表示された。

 

「なんだ、これは……」

 

通信回線が開き、ミオの声が脳内に直接響く。無線とは違い、距離も壁もノイズも関係ない。

 

――直接だ。恐ろしいほど、伝わる。

 

「…………………感覚は、馴染んだ?」

 

平然としている。それが、異様に不気味だった。

 

(……なぜだ。あいつらだけ、何も感じていない?)

 

「こ、これは何ですか? ミオ先輩は……平気なのですか?」

 

ミオが返事をする。

 

「ええ……なんともない。システムと直接繋がった反動よ。心配はいらない。

では……これより訓練を開始する」

 

『Probability divergence: ENABLED』

 

(確率……分岐?)

 

俺の中に入り込んだ“何か”が語りかけてくる。

 

破滅。収束。恐怖。

 

一体、何が言いたい。

 

『Anchor status: UNBOUND』

 

『Chain requirement: PENDING』

 

 

 

――

 

――廃工場・第2倉庫内

 

12.7mmARを装備したレナたちは、即席のシューティングレンジに移動した。そこは、かつての生産ラインの残骸を流用したものだった。

歪んだ鋼鉄の柱、無造作に積まれたコンテナ、剥き出しのコンクリート床。

 

整備などされていない。

 

簡易的に組まれたバリケード、鋼鉄製のマンターゲット。あり合わせの材料で作られている。

 

「……では、射撃訓練を開始する。FOX、慣れない武器よ。無理はしないで」

 

――ズダダダッン!!!!

 

レナの目の前には、フルオートで射撃するオトギがいた。

 

目が眩むほどのマズルフラッシュ。凄まじい爆音が響き渡り、床が震えていると錯覚するほどだ。

 

「くぅうッ!! スナイパーと薬莢が違うとはいえ、反動が強烈すぎる!!」

 

「使いこなせ、FOX4。これしかない」

 

隣のブースに立っているユキノが叱責する。だが、彼女も制御するのに精一杯のようだ。

 

「もー!! 大きくて使いづらい!!」

 

「クルミちゃん。文句は言わないの」

 

FOXが一通り撃ち終わり、ブースから離れる。

 

次はWOLFだ。

 

レナは無言で前に出る。

 

巨大なマガジンを差し込み、異様に硬いチャージングハンドルを引く。

 

――ガシャン。

 

続いて安全装置を外す。セレクターをセミに切り替え、80m先のマンターゲットに向かって腰だめで構えると、FCSが起動した。

 

Safety: OFF.

Fire mode: Semi-auto.

Ammo: 12.7×55mm Heavy subsonic lead. Remaining: 1+19.

 

Target locked: Stationary.

Distance: 80m.

 

HUDが即座に反応し、ターゲットが赤く縁取られる。

 

銃口をターゲットに向けて、アイアンサイトを覗き込む。

 

Target lock confirmed.

Line of fire clear.

Weapon Standby.

 

引き金を引く。

 

 

――ズダッン!!!!

 

 

肩を蹴り飛ばすような反動。衝撃がパッドを貫き、骨が軋む。ターゲットの鉄板に、引きちぎられたような弾痕を残す。

 

BDA: Vital hit.

Enemy Status: KIA.

Remaining: 1+18.

 

(クソ、何がKIAだ……当たり前のように、“殺害確認”をするな。ポンコツが)

 

次は横に移動するターゲットに照準を合わせる。セレクターをフルオートへ切り替える。

 

Fire mode: Full-auto.

Target locked: Moving.

Distance: 70m.

 

即座に弾道計算が始まり、ターゲットの移動方向にリードアングルが表示される。

 

Target lock confirmed.

Lead applied.

Line of fire clear.

Weapon Standby.

 

――ズダダダダダダダダダッン!!!!

 

姿勢と筋肉で抑えつけ、無理矢理制御する。

 

弾丸の嵐が鋼鉄の板を滅多刺しにする。着弾の衝撃と激しい火花が、破壊力の凄さを物語っていた。

 

BDA: Vital hit.

Enemy Status: KIA.

Accuracy: 100%.

Remaining: 1+9.

 

12.7mmARを下げる。マガジンを外してチャージングハンドルを引き、飛び出した弾をキャッチする。

 

(……思考に一切のモヤがない。まるで透き通ったようだ。これも……システムの影響か? 人の領域に……踏み込んでくるとは。遠慮を知らんのか?)

 

「うぇえ!? 全弾命中!? アシストあっても、これはおかしいでしょ!」

 

よほど信じられなかったのか、後ろで待機しているクルミが仰天している。

 

(……“当たった”んじゃない。“当たる”未来だけを、選ばされた?)

 

圧倒的な成績に、ユキノは息を呑んだ。

 

「……ッ! ……これが、頂点」

 

ミオの声が頭に響く。

 

「A-W1以外は失格。今日は一日、射撃訓練を課す」

 

その悲報を聞いて、全員が思った――

 

(((一日?……鬼だ)))

 

その後、VIPERチームも射撃訓練に参加した。レナほどの腕前ではないものの、彼女たちも本来は初使用のはずである12.7mmARを扱い、十分に優秀な成績を収めていた。

 

(先輩の意地?……いや、あれは知っている動きだ)

 

 

 

――

 

五時間後――

 

「う〜、隊長。手が痛いよ〜」

 

「腕が……上がらない」

 

「隊長! バレルが、アチアチです!」

 

あれからミオ教官の指導の下、ひたすら撃ち続けた。床は薬莢の山で、足の踏み場もない。

 

「黙れ。銃の安全確認! 終わり次第、薬莢の掃除だ!」

 

「「「……了解」」」

 

「レナ……」

 

背後から誰かが呼びかけてきた。

 

「なんだ?……ユキノ」

 

「大丈夫か?……なんというか……その、今の貴官は、まるで機械のようだ」

 

(人のことを機械扱いとは、失礼な女だ)

 

「正確無比な射撃。ブレない体幹。操作も無駄がなく、速い」

 

「……何が言いたい」

 

「このヘルメットを被ってから……何かが、おかしい。削られているような――」

 

(さすがユキノだ。気づいている……だが、今は気にさせるわけにはいかない)

 

「FOX1……私たちは“兵士”だ。余計なことは考えるな。お前はただ、与えられた任務を全うしろ……」

 

「……ッ!……任務を、最優先。FOX1了解……」

 

 

 

……俺は、何を言っている?

 

 

 

――

 

「あ、おかえりユキノ。レナから強くなれるヒント、貰えた?」

 

薬莢を塵取りで回収していたオトギが振り返る。

 

「いや……何も。今のレナは、何かが、おかしい」

 

「……何か?」

 

「『余計なことは考えるな、ただ任務を全うしろ』と言われ、追い払われたよ。……レナは確かに容赦がないが、あんな物言いは、普段なら絶対にしない」

 

「……あー、確かに変だね。“女の子の日”なのかな?」

 

「茶化さない。不謹慎だ」

 

「う……ごめん」

 

――

 

散らかった薬莢を全て片付けた隊員たちは、ミオの前に整列している。

 

「今日の訓練は以上とする。明日以降は連携を深めるため、“ダミーシステム”を使用したCQB訓練を重点的に行う」

 

「ダミーシステム?」

 

整列した一人が疑問を抱く。

 

「ARのレールにIRユニットを装着し、システムと連動させた物よ。擬似的に銃撃戦ができる」

 

「へー、サバゲーみたいね」

 

「よし、では解散。明日に備えてしっかり休め」

 

システムからログが流れる。

 

Mission accomplished.

 

Well done!

 

その文と共に、先ほどの“デフォルメ会長”がHUDの端に現れてサムズアップを掲げた。

 

(コイツ……ふざけているのか?)

 

ミオを含めたVIPERチームは、気付いたら姿を消していた。まるで、最初からそこにいなかったかのようだ。識別IDも表示されていない。探知範囲内にいないのは事実だ。

 

(消えたのは隠密技能。だが、識別IDまで消えるのは……システム側の処理か?)

 

スイが隣に寄って、口を開く。

 

「ミオ先輩、なんだか変じゃなかった?」

 

「さあな……あれが本性なのかもしれん。先輩方の活動記録は“第一級機密情報”だ。普段何をしているのかは、推測のしようがない」

 

VIPERには何か、裏がある。

俺と――同じように。

 

(もう外そう……訓練は終わったんだ)

 

そう思い、スイッチを押してヘルメットを脱いだ。

 

「……ッ!」

 

システムの制御から離れた弊害か、急に手が震え出し、心拍が乱れた。キーンと甲高い音が耳の中で反響している。

だというのに、さっきまで感じなかった温かさが戻り、安心感も同居している――不思議な感覚だ。

 

「……」

 

「隊長……まだ、その震え治らないの……?」

 

手の震えに気付いたメイが、不安げな顔を浮かべる。

 

「……大丈夫だ。収める」

 

「隊長ッ! 一旦座りましょう、顔が青いですッ!――スイさん! 椅子を持ってきて下さい!」

 

「う、ウィルコッ!」

 

スイがパイプ椅子を大急ぎで持ってきて、レナの傍に設置する。

 

リノに両肩を掴まれて、無理矢理座らされた。

 

「休んでください……お願いします」

 

仲間に心配をかけた、その不甲斐ない自分が許せない。これでは、作戦当日に影響が出る。

 

「……すまない。すぐ復帰する」

 

「そういうことを……言っているわけではありません!」

 

珍しくリノが怒鳴りつける。

 

「隊長……後は任せて。整備はやるから」

 

メイも珍しく協力的だ。面倒事が嫌いな彼女らしくもない。

 

「動いちゃダメだよ、隊長。僕は水を持ってくるよ」

 

部下の優しさに胸が締め付けられる。既に自分は――

 

裏切っているというのに。

 

「……すまない」

 

――

 

装備を全て脱ぎ、私服に着替え直した。

 

工場の外――光が外部から視認されない立地で、焚き火を囲み、味気ないレーションを全員がつついていた。

 

今夜のメニューは、主食のクラッカー、肉の缶詰、ベリー味のエナジーバー、ミックスナッツ、粉のオレンジジュース、歯磨き用ガム。

 

それだけだ。

 

だがレナには懐かしく、過去の仲間たちとの思い出が胸をよぎる。

 

硬いクラッカーを1枚取り、焚き火で加熱した肉を乗せて頬張る。

 

(……これに限る)

 

粘っこいエナジーバーを噛み千切り、安っぽい味の粉ジュースで流し込む。

 

向かいでは、缶詰をフォークで突きながら顔をしかめるミオがいた。

 

「レナちゃん……毎回、美味しそうに食べるわね。私は無理だわ……ニコちゃん。明日は何か作ってよ。私の部下を使っていいから」

 

訓練の時の冷たさは鳴りを潜め、いつもの雰囲気に戻っている。

 

(……意識の切り替えか、システムか。分からんな)

 

「いいですよ! 明日のお夕飯は、お任せください!」

 

自分の得意分野を任されて意気込むニコ。

 

「隊長、勝手に決めない。面倒」

 

マヤの顔が歪み、断固拒否の姿勢をとる。

 

「そうだぞ、姉御。私は料理が下手くそだ。止めた方が……」

 

「黙りなさい! ニコちゃん一人に任せるのはダメ! 先輩失格!」

 

このありふれた会話が、続くといいが。

 

レネゲイドの“抑圧性”は“人間性”を確実に削り取る。だが、雷帝の実力は未知数だ。手加減はできない。

たかが人格のために任務の成功率を下げ、全てを危険に晒すのは愚の骨頂だ。

故に、この規格外の装備を外すことは選択肢に入らない。

 

(……成功させればいい)

 

ずっと唱え続けた御呪いを心に秘め、クラッカーを噛じる。

 

 

 

――

 

――廃工場・オフィス内、臨時隊長室。

 

「いや、問題ない。

ああ……すまないが、これから長期の研修が始まる。二週間ほど連絡が取れなくなるが、許してくれ。

……なんだ、心配か? ただの勉強会だ。

それで……ユメ、朗報がある。連邦生徒会が支援してくれるかもしれないぞ」





みんな大好き、倫理ぶっ壊れシステム。
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