白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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皆様はウォーフェア 戦地最前線をご視聴になりましたか?
正直……かなりの衝撃を受けました。
覚悟が必要な映画ですね。


第24話 雷鳴

 

 

 

『Rolling Thunder.』

 

『Rolling Thunder.』

 

『Rolling Thunder.』

 

 

 

――

 

――展示会場2階・南側バルコニー/FOXチーム

 

「合図の符牒が三回……無事に制圧したようだな……。

ブラボー4(オトギ)、作戦開始だ。ここからターゲットを狙撃しろ」

 

「……承知」

 

オトギは張り出したバルコニーの手すりの後ろに伏せ、

ステージ中央――雷帝が立つ登壇場を、真下に捉えている。

壇上からの視線を遮るために、段ボールを目の前に置いた。

即席だが、何もしないよりはマシである。

 

距離およそ110メートル。

障害物なし。

唯一の遮蔽は、ステージ照明の陰影だけ。

 

オトギの12.7mmARは――

 

無段階調節式ライフルスコープ。

右側面に45度の角度で付けられたオフセットサイト。

軽量化した簡易バイポッド。

反動制御を備えた特注サプレッサーを装備。

 

近〜中距離対応のカスタム品。“AR”というより、実質DMRだ。

 

弾種は生徒会長から支給された隠密性に優れる亜音速弾――これしかない。

 

このライフルは、彼女のお手製なのだから。

 

 

 

2(ニコ)3(クルミ)。下へ戻るぞ。合図を待つ」

 

「「了解」」

 

 

 

――

 

――展示会場1階・東側ブース/WOLF1レナ

 

作戦開始前。

 

トイレから出て会場の端へ向かうと、物陰からスイが手招きしているのが見えた。

 

「隊長……目が赤いけど、大丈夫?……お尻とか……触られてたけど」

 

恐る恐る、スイが尋ねてくる。

 

(……見られていたか。子供には刺激が強すぎたな)

 

「……ああ、問題ない。”胸とケツ”を揉まれただけだ。…………奴と“ヤった”わけでもない……」

 

吐き捨てるような言葉。

 

スイは息を呑み、言葉を失った。

赤くなるより先に、困惑と恐怖が顔に浮かぶ。

 

「……隊長、その言い方……そういう所だよ、女の子なんだから……直しなよ」

 

「……すまない、気を付ける」

 

「それで……えっと……もし……することになったら、隊長はどうするの?

……好き放題されるんだよ、嫌じゃないの?」

 

スイの声は、途中から震えていた。

 

レナは答えるまで、ほんの僅かだけ間を置いた。

その沈黙の中で、過去の光景が脳裏をよぎる。

 

瓦礫、血、焼けた匂い、泣き叫ぶ声。

 

選べなかった日々。

 

使い捨てられて、消えていく仲間。

 

拒否権の存在しない現実。

 

切り捨て続け、自身も死ぬまで戦う地獄。

 

「――必要なら。

 

それで……赦されるなら…………私は受け入れる。

別に……何かを失うわけでもない」

 

意思とは関係なく、レナの口は勝手に淡々と動いた。

 

それを聞いたスイは、すぐに言葉を返せなかった。

何かを言えば壊れてしまいそうで、ただ息を詰める。

なぜこの隊長は、そこまで身を削れるのか――理解できなかった。

 

「そ……そんなこと、言わないで……隊長。な、なんで……そこまでするの……?」

 

「……誓ったからだ。これは……残された人間の、義務だ」

 

スイはその言葉の意味を測りかね、ただ唇を噛み締めた。

 

「ま、まさか……入学式の宣誓……? それに……残されたって、何?」

 

(過去の清算……ただの罪滅ぼしだ。

だが、これを語るつもりはない。墓場まで持っていく……)

 

「気にするな。言葉の綾だ……」

 

そう言って、レナは視線を伏せた。

 

「隊長……」

 

「……着替えるぞ。そろそろ合図が――」

 

その瞬間、スマホが震えた。

 

「…………作戦開始だ。急げ」

 

「う、うん……」

 

他の二人と合流し、リノから装備を受け取る。

 

慣れない扇情的なドレスを脱ぎ捨て、慣れ親しんだ戦場の装いへと切り替える。

 

着替えを終え、ヘルメットを手に取る。

 

(成功させれば……チャラだ。この”不快感”も、すべて……)

 

「……やるぞ」

 

それを合図に頷き合い、全員がヘルメットを被る。

 

すぐさまOSが立ち上がり、システムが読み込まれる。

 

しばらくすると、例の会長が現れた。

今回は顔を赤らめて、恥ずかしそうに苦笑いしている。

 

(さすがのコイツも……”大人の世界”は早かったか)

 

『Renegade System: STANDBY』

 

Renegade Network: Synchronized.

FCS: Online.

IFF: Enabled.

Identity Tags: Now Visible.

 

何かが接続される。

つながった瞬間、会場の喧騒が遮断された。

先ほどまで荒れていた感情は、存在しなかったかのように消え、

代わりに、身体の感覚だけが研ぎ澄まされていく。

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 

 

――

 

レナたちは移動し、観客席の外縁――

東側展示ブースとステージを結ぶ通路に展開した。

左手に観客席、右手に展示機材の壁。

正面には、これから雷帝がプレゼンを始める登壇場。

 

姿勢を低くして潜伏する。

 

「こちらアルファリード。各隊、状況報告」

 

レナが口を開くと、通信が頭の中に流れ込む。

 

「ブラボー1だ。ブラボー4を二階に残し、他は女子トイレ内で待機中」

 

「こちらケベック。システム侵入成功。情報部がログを書き換えている最中よ」

 

「アルファリード了解。アウト。

……雷帝が登壇するまで待機だ」

 

「「「了解……」」」

 

 

 

――

 

装備を身にまとった全員が待機していると、会場にアナウンスが響き渡った。

 

『皆様、お待たせいたしました。ただ今より、各社の最新技術説明会を開催いたします』

 

会場内にいる招待客全員が登壇場に集まり、無数に並べられた椅子に座る。

 

登壇場の幕が上がり全体が露わになる――その奥に、異様な大きさの物体。

 

布がかけられており、姿は不明。

 

「アルファリードから各隊。壇上の奥に布がかけられた巨大な物体を確認した。恐らく……あれが荷電粒子砲だ。ケベック、そちらから確認できるか?」

 

「こちらケベック1。監視カメラから見ているわ」

 

「了解だ、ケベック1。

ブラボー1。こちらの映像を送信する。確認しろ」

 

「……ッ!、これがそうか…………確認した。目測で牽引砲くらい……。

エネルギー兵器にしては、やけに小型……」

 

会場の照明が落とされ、ステージ全体を包む薄暗がりの中、ホログラムが展開され、企業ロゴと製品名が次々に浮かび上がった。

 

『――第一セッション。

工業・兵器・インフラ各分野における最新技術発表を開始いたします』

 

場内に控えめな拍手が起こる。

 

「ブラボー、こちらアルファリード。会場内の照明が落ちた。暗闇に紛れて指定のポイントに移動しろ」

 

「ブラボー1了解。移動を開始する」

 

ユキノたちの姿を遠方に確認したレナはミオに通信を送る。

 

「ケベック1、こちらアルファリード。システムの状況は?」

 

「現在、情報部が対空システムの停止と隠蔽工作を行っている」

 

「アルファリード、了解。監視カメラに何か異常は?」

 

「静かなものよ。控室にいる親衛隊は、呑気にトランプに興じてる」

 

「……引き続き、監視を頼む。アルファリード、アウト」

 

(……さあ、狩りの始まりだ)

 

 

 

――

 

軍需企業、工業系メーカー、インフラ系コングロマリット。

名だたる企業の代表者が登壇し、次々と新技術を披露していった。

 

次世代マテリアルアーマー。

二足歩行の大型戦車。

即応展開型の移動基地。

 

どれも、未来を担う技術ばかりだ。

 

観客席からは拍手が送られる。

 

だが、レナの視線は、ただ一箇所――

壇上奥、巨大な布に覆われた“それ”から、離れなかった。

 

(……まだだ。主役は、最後に出てくる)

 

通信が走る。

 

「こちらブラボー1、チェックポイントに到着。待機する」

 

「アルファリード、了解。――ケベック1、システム掌握は?」

 

「もう少し待って。会場の照明制御と非常隔壁の操作権限を確保する」

 

企業の発表が続く中、会場の空気は次第に熱を帯びていく。

だが、その熱狂の奥に、どこか張り詰めた緊張が混ざり始めていた。

 

――最後に何が出てくるのか。

 

全員が、それを本能的に察している。

 

やがて、司会役のゲヘナ生徒が一歩前に出た。

 

『――以上をもちまして、各企業による技術説明を終了いたします』

 

場内が一瞬、静まり返る。

 

『そして最後に――本日の特別登壇者をご紹介いたします』

 

照明が完全に落とされた。

 

闇。

 

息を呑む音だけが、波のように広がる。

 

次の瞬間。

 

――ゴォ……ン。

 

重低音とともに、会場全体を包み込む振動。

 

壇上奥の巨大な布が、ゆっくりと巻き上げられていく。

 

露わになったのは、格納式の砲身だった。

 

全長およそ5メートル。

折り畳まれた砲身から覗く導電コイルは螺旋状に巻き付けられており、砲尾部には巨大なケーブルと小型ジェネレーターが連結されている。

 

(……これが、荷電粒子投射砲)

 

HUDに解析データが走る。

 

High-energy charged particle projection cannon.

Effective range: Unknown.

Estimated output: Strategic class.

 

(射程不明、出力戦略級……あの大きさでか、冗談ではない……)

 

その砲の前に、一つの人影が浮かび上がる。

 

赤と黒を基調とした、ゲヘナ生徒会の正装。

無駄のない直線的なシルエット。

堂々とした立ち姿。

 

――雷帝。

 

彼女は、砲の前に立ち、ゆっくりと観衆を見渡した。

 

その視線は、威圧でも、挑発でもない。

ただ――測定。

 

値踏みするような、冷静な観察。

 

『諸君。ご来場、感謝する』

 

マイク越しに響く声は、低く、澄み、よく通る。

 

『本日お見せするのは、単なる新兵器ではない』

 

雷帝は片手を上げ、砲身を示した。

 

『これは、“戦の形”そのものを変えるものだ』

 

会場がざわめく。

 

『従来の砲は、質量を加速し、物理的破壊を与えるものだが――これは全く違う』

 

ホログラムが起動し、砲の内部構造と粒子流の概念図が投影される。

 

『高密度に帯電させた粒子束を、極限速度域で射出。

圧倒的熱量で対象物を消滅させる』

 

『これからは防御という概念そのものが、無意味になる』

 

雷帝は一拍置き、会場を見回す。

 

『そして今回の技術革新は、砲ではない……この小型ジェネレーターだ。

従来、この砲を稼働させるには巨大施設が幾つも必要だったが……。

この装置により、完全なスタンドアロン化が可能となった。

どこにでも運べ、どこにでも撃てる。最強の矛が、ついに完成した』

 

その言葉に、場内の空気が一段階、冷えた。

未来が来るのではない。破滅が“持ち運べる”ようになったのだと、直感が叫んでいる。

 

レナの背筋を、冷たい汗が伝う。

 

雷帝は、淡々と語り続ける。

 

『この兵器は、抑止力だ。

無闇に撃つ代物ではない』

 

(これが抑止とは……まさに、人の業だ)

 

『存在するだけで、争いは止まる!』

 

雷帝は握り拳を作り、顔の前に掲げた。

 

『これが学園に行き渡れば、キヴォトスに安寧が訪れるであろう!』

 

通信が走る。

 

「こちらブラボー4。いつでも撃てる。」

 

「アルファリード了解。ナイトビジョンを起動して指示を待て」

 

「アルファリード、こちらケベック1。システム掌握。実行可能。繰り返す、システム掌握完了」

 

「了解だ、ケベック。待機しろ」

 

(“安寧”の名の下で、何を焼くつもりだ……)

 

 

 

――

 

――展示会場二階・南側バルコニー/FOX4 オトギ

 

オトギは二階の物陰から銃身を覗かせ、スコープに雷帝を捕らえ続けていた。

ダイヤルを捻り、倍率を上げる。

どこからどう見ても顔立ちの良い、ただの人間。だがアレは言葉一つで破滅を齎す。

そういう人間は、どんな兵器よりも危険だ。

 

 

「方位20、距離110、補正0.3……その綺麗な顔、吹っ飛ばしてあげるよ」

 

雷帝は、視線をゆっくりと客席に滑らせる。

 

『それでは……諸君にも。その威力を知ってもらおう』

 

親衛隊が広がり、招待客に”ガスマスク”と”電子機器防護”用の金属ケースを配った。

 

ゲヘナ生の司会が説明をする。

 

『なお、高出力照射により空気中の窒素と酸素が電離し、

高濃度のオゾンおよび刺激性酸化物が発生します。安全のため、配布されたマスクを着用してください。

照射時、誘導コイルが局所的な電磁嵐を生みます。そのケースには電子機器を保護する機能が備わっておりますので、ご自身の携帯端末などは、そちらに収めてください』

 

(EMPね……一応対策済みだけど)

 

そう思った直後、嫌な予感が背中を撫でた。説明が丁寧すぎる。

 

雷帝は荷電粒子砲に歩み寄ると、機動シーケンスを開始した。

 

砲身が展開し、全長が10mまで拡張される。

 

ジェネレーターが機動すると砲身内部の導電コイルが青白く発光し、空気が帯電し始める。

 

荷電粒子砲とは反対側の床がゆっくりと開き、

地下格納庫から巨大な装甲ブロックが昇降機でせり上がる。

 

『厚さ2.5m。キヴォトス基準で最高クラスの防御力を誇る素材で構成された複合装甲だ。通常兵器では破壊するのに数時間かかるだろう。

会場の都合上……”最低出力”だが、至近距離の発砲になる、許し給えよ?』

 

 

オトギのHUDに警告文が表示される。

 

⚠WARNING

 

Ion concentration rising.

Electrostatic field detected.

Local EM disturbance.

 

(もしかして……これってヤバい感じ?)

 

砲台が回頭し、目標に照準を合わせる。

 

『――Feuer frei』

 

雷帝が号令を出した、その刹那――

 

目が眩むほど激しい閃光が瞬時に会場内を照らす。

 

――無音。

 

一拍遅れて、建材の奥から“雷鳴のような衝撃音”が腹に落ちてきた。

 

装甲ブロックの中心が白く発光し、蒸発した。

爆発ではなく、「存在が消える」。

外周は無傷のまま、中心だけが直径80センチの完全な空洞となる。

余波で紫電が飛び回り、オゾンの独特な生臭さが漂う。

 

その直後――全員のHUDの画像が乱れ、視界が白くなる。線が走り、数字が乱れ、警告文が一斉に立ち上がる。

 

「うわっ……ナイトビジョンが切れた……ってスコープも!?――何が起きて!?」

 

即座にレナからのノイズ混じりの通信が入る。

 

『ア……ファリード…から…各員!!強力なE…MP……だ!!回線を……切り替……ろ!短距……離…指向…性IRで中継す……視界…を通せ!』

 

「ええ!?シールドが壊れたっていうの!?」

 

⚠ EMP STORM

 

Signal loss.

Signal loss.

Signal loss.

 

IFF: Error.

FCS: Error.

Sensor fusion: Error.

EMP Shield: Break.

Manual override recommended.

 

砲撃の余波による、局所的なEMP――

 

観客の端末は保護されるが、会場の設備も飽和。

それに連鎖し、VIPERチームとも途絶。

 

すべては、この時のために――

 

ユキノからの通信が入る。

 

『ブ……ラボー4!アシ……ス…トは役……立たない!勘……で撃て!』

 

「りょ、了解!システムカット、マニュアルに切り替える!」

 

オトギは即座に支援機能を切り捨てる。頼るべきは、目と、呼吸と、手の感覚だけ。ただの望遠鏡と化したスコープの中に雷帝を捉え続ける。

 

突然のシステムダウンに慌てるレナたちとは対照的に、会場内は沈黙に包まれた。

理解したものは押し黙る、理解せずとも異常な現象に喉は凍り付き、声は出ない。

 

「どうだ、一瞬で装甲に穴が空いた。最低出力でも、これだ……とても便利だろう。

だが、便利さは逆に脆さも生み出す。

兵器とは、使い所を見極め。効果的に使わねばならない」

 

技術者は唖然とし、生徒は怯え、PMC関係者は恐怖した。

 

『諸君……兵器とは、”最も価値がある”者を排除してこそ成り立つものだ。

……構造物の破壊だけでは意味がない』

 

雷帝は砲から離れ、壇上中央に戻る。

 

そして――視線を上げた。

 

「――ッ!?」

 

スコープ越しに、雷帝と視線が交錯した。

なぜ分かったのか、こちらは暗闇で障害物に身を隠している。

最初から知っていた?

 

『そうだろう……?……連邦生徒会長……』

 

同時に照明が落ち、レナから通信が入った。

 

「撃……てッ!!ブ…ラボー…4!!」

 

オトギの指は即座に反応し、引き金を引いた。

 

音もなく飛び出した弾丸は、一直線に雷帝の眉間に飛んで行き――

 

――バチンッ!!

 

防がれた。

 

確かに手応えはあった。だが弾丸が偏向された、

”衝撃”で弾道が逸れたのだ。

 

まるで見えない手に叩き落とされたように。

 

「なんで!?」

 

弾かれた先で、青白い火花が散り、膜が波打つ。空気が震えた。

暗闇の中、確かに――

 

壁が現れた。

 

 

 

――

 

――展示会場1階・東側ブース/WOLF1レナ

 

 

「撃てッ!!ブラボー4!!」

 

放たれた弾丸は無慈悲にも弾かれてしまった。

 

その弾いた張本人の周りには、”青白く光る膜”が形成されていた。

六角形状のタイルが重なり合ったような見た目、薄く透けて見えるのに弾を通さない。

 

未知の防具だった。

そして――それを“実戦で堂々と披露できる”ほど、完成している。

 

その光景にリノが驚きの声を上げる。

 

「え、エネルギーシールド!?

ミレニアムで開発中の物がなぜ……先に完成させたってことですか!?」

 

招待客の一人が、悲鳴を上げる。

 

「じゅ、銃撃だ!!」

「逃げろぉ!!」

「銃撃!?――で、出口はどこ!!?」

 

会場内は、またたく間に混乱に包まれる。

椅子が倒れ、誰かが踏まれ、恐怖は寄り集まり、肥大化して荒れ狂う濁流になる。

 

『……その距離から眉間に一発とは、さすがSRTと言ったところか。

――だが無意味だ……貴様ら犬共には届かんよ』

 

雷帝は言い放ち、嘲笑う。

 

床下から即座に重装備の親衛隊が展開した。

 

ステージ前面に盾装備2名。

左右に重機関銃装備4名。

背後から回り込むように会場警備の軽装衛兵10名。

完全に囲まれた状況。

 

壇上の鉄の鎧に身を包んだ兵器の頭上にはヘイローが浮かんでいる。

だが――とても中に生徒がいるとは思えなかった。

 

(重機関銃を装備した機甲重装兵……

やはり居たか。下に隠していたとはな……)

 

兵器対兵器。

 

思想対思想。

 

言葉では同じだが、決して交わらない両者が睨み合う。

 

――もう銃撃戦は避けられない。

 

HUDの端に、泣きべそをかいた例の会長が現れた。

顔が青く染まり、足は震えている。

まるで小動物だ。

 

奴の手には、看板が握られていた。

 

「システムエラー!修復中!」

 

(……自己修復機能があるのか。見直したぞ、ポンコツ)

 

笑う余裕はないが、こういう時にしか出ない“軽口”が、心を折らないための楔になる。

 

親衛隊の後ろにいる雷帝は背を向け、歩き出した。

相手はもう、チェックメイトのつもりらしい。

こちらが暴れるほど、データが取れる。そういう顔だ。

 

「せいぜい楽しめ!……私はデータ収集に努めさせてもらう!」

 

「クソッ、逃げられる!!

エンゲージッ――!!

ブラボーは左に行け!アルファは右から攻める!!

重機関銃に注意しろ!!生半可な遮蔽物はバターも同然だ!!」

 

『ブラボー1了解――!!

――ブラボー4!降りてこい!奴を捕まえるぞ!』

 

「アルファ!我に続けッ――!

民間人の退避は終わっていない、当てるなよ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

レナの叫びと同時に、重装甲の親衛隊が無言で前進する。

黒鉄の外骨格に刻まれた紋章――

 

それは、雷帝直属の重装機甲化部隊《Sturm krone》の証。

 

その名が意味するのは、ただ一つ。

 

――“嵐の王冠”。

 

彼女の意思そのもの。

 

嵐とは、止められるものではない。

 

 

 

――

 

――展示会場三階・コントロールルーム内/VIPER1ミオ

 

「……情報部との通信が切れた。

想定外の複合パルス……砲撃の余波で、そこまでのが発生するなんて。

でもこの建物の電子機器は、まだ生きている。

対策済みってこと…………はぁ、私たちのリサーチ不足ね……」

 

建物中枢は厳重なファラデー施工で生きているが、EMP発生地点である会場の無線・カメラは飽和して壊れたようだ。

 

精神が抑制されているため怒りは湧かない。その代わりに、作戦の先行きの暗さに思考が巡る。

 

(システムダウンで通信は遮断。同期が崩れて届かない……監視カメラも会場内のは砂嵐……この為だけに、敢えてそのままにしたのね。……完全に孤立したわ)

 

見えないというのは、戦いにおいて致命的だ。特に、”味方の状況”が見えないというのは。

 

思考の海に浸っていると、画面を見つめているマヤの声に呼び戻された。

 

「隊長、囲まれた。ここを奪う気」

 

「……ッ!

全てお見通しってことね……でも、ここを奪われるわけにはいかない」

 

「姉御、ランチャーの用意はできてる」

 

40mm擲弾の装填が終わったアヤハが意気込んでいる。

いつもより声のトーンが高い。

ピンチな時ほど何とやら、というやつだろう。

 

「ひと暴れと、行きますかぁ」

 

ナツメも12.7mmARのチャンバーをチェックして戦闘準備を整える。ボルトの甲高い金属音が短く鳴る。

今はそれが、とても心強かった。

 

「そうね……やってやろうじゃない。退路は守り抜くわよ」

 

「「「了解!」」」

 

その返事に頷いたミオは即座に指示を出す。

 

「マヤは情報部に代わって、システムの回復を、アヤハは後方から援護――行くわよ、ナツメ」

 

 

三人は即座に迎撃へ向かった。

 

コントロールルームにはマヤ一人だけが、ぽつんと残された。

 

「作戦修整、困難……プランB。スタンバイ」

 

彼女はそう呟くとバックパックから円筒状の何かを取り出し、組み立て始めた。

 

マヤの手つきに迷いはない。

金属部品が噛み合い、カチリ、と静かに音がした。

 

「モジュールセット……活性化。最後は、これが頼み」

 

 

 

――

 

――展示会場一階・東側、側方/WOLF1レナ

 

電子機器の補助が一切無い、”原始的”で”正攻法”の戦い。

前世の”限られた装備”で戦い続けたレナにとっては焦りより、懐かしさを感じていた。

 

だが状況は最悪、あの吐き気を思い出す暇すらない。

 

 

(後方に衛兵10人……情報に無い大盾持ちの前衛が2、重機関銃装備の後衛が4。

随分と古いモデルだ……口径は13mmか?

 

そして……あの盾……相当厚いな。亜音速弾では足りないかもしれん……。

高速徹甲弾も用意すべきだったな、会長……)

 

「アルファ2、出番だ。盾の隙間を狙え」

 

「了解」

 

「3、4は弾幕を張って後衛を狙え。盾に守らせて動きを阻害するんだ。私は後ろの衛兵どもを始末する」

 

「コピー」

「イエスマム」

 

三人に指示を出すとFOXに視線を向け、指向性通信を試みる。

レネゲイドのデータリンクは落ちた。生きているのはヘルメット側面に取り付けられた、「別系統回路」のIRユニットだけだ。

 

だがIRは直線的な指向しかできない。視線の通る位置を維持し、通信の確保に気を使う必要があった。

 

FOXたちは遮蔽物に身を隠し、応戦している。

 

「ブラボー1。アルファリードだ、通信は聞こえるか?オーバー」

 

『ブラボー1、5by5!異常なし!!

――くっ!ブラボー2!!弾幕を張れ!』

 

「左に回り込めそうか?やつらの射線を分散させる」

 

『ブラボー1了解!左に展開し、分断を試みる!――ブラボー3!前進!

2は援護!4は衛兵を抑えるんだ!』

 

ユキノの指示でクルミが飛び出す。それに合わせてニコが盾に向かって弾をばら撒き、オトギが一歩後ろから狙い撃つ。

 

(……よし、隊が分かれた……盾1、HMG2。取り巻きが6)

 

布陣を確認したレナも、戦闘に参加する。

 

 

 

――

 

――展示会場三階・コントロールルーム前、籠城/VIPERミオ

 

VIPERは、管理用通路の最奥――中枢制御室の扉前に籠城していた。

 

ここは会場全体の照明・非常隔壁・防衛システムを統括する心臓部。

奪われれば、戦場は完全に敵の掌中に落ちる。

 

即席のバリケードを築いた彼女たちは、押し寄せる親衛隊と激しい銃火を交えていた。

 

「……ッ!リロード!!――ちょっと!数が多すぎない!?」

 

「警備が薄かった理由が分かったねぇ!本命はここだ!!こっちが乗っ取ったSAM(地対空ミサイル)を復旧させるつもりだ!」

 

「姉御!ランチャーを撃つぞ!」

 

「了解ッ!援護する!」

 

ミオとナツメがバーストで撃ち返す。大口径弾が逆襲し、親衛隊は頭を下げた。その隙にアヤハが飛び出し――

 

腰だめで構えて、2発の榴弾を発射した。

大径のシリンダーがバネの力で回転し、間の抜けたような発射音を上げる。

 

――ポン!――ポン!

 

だが――撃ち出されたのは40mm口径、正義の鉄拳だ。

薄汚れた傀儡共を、爆発で浄化する。

 

通路の奥に山なりで飛んでいき、複数人を吹き飛ばす。

 

「グッドショット、グッドショット!――よくやったわ!」

 

「ハッハッハァ!いつ見ても吹き飛ぶ様は飽きないな!」

 

「……うわ、どっちが悪役か分からないねぇ……ん?」

 

爆発によって立ち込めた煙の奥から、複数の足跡が聞こえてきた。

 

三人は会話を止め、バリケードに身を隠す。

 

「姉さん、お代わりが来たみたいだ」

 

弾薬には、まだ余裕がある。

 

 

 

――

 

――展示会場・壇上、舞台裏/雷帝

 

 

レナたちとシュツルムクローネが交戦を開始した裏。

雷帝は自身のタブレット型端末で、情報収集をしていた。

 

「……ふむ。一人だけ、格が違うのがいるな

既に軽装の隊員を六人も倒している」

 

「……指示までのレスポンスが、極限まで縮められている。普通の思考回路ではない……」

 

「……戦闘力は、各学園の上位勢に匹敵……

いや、あの指揮能力も踏まえれば、それ以上……」

 

「……この生徒はデータバンクに該当なし……連邦生徒会長。

こんな……”生きた兵器”と言っても差し支えない逸材。一体……どこから拾ってきたのだ……」

 

思考に耽っていると側近の副官が近づき、耳打ちをした。

 

「総統閣下……シュツルムクローネが突破されては、手遅れです……」

 

その言葉は、雷帝の美学に反するものだった。

 

「私に逃げろと言いたいのか?……却下だ。

私はいつも平常だ。どこにも行かないし、隠れもしない」

 

稀代の独裁者。その気迫に圧され、副官は一歩後退った。

 

「……申し訳ありません。出過ぎた真似を」

 

「……いや、いい。貴様は優秀だ、責めているわけではない」

 

話が終わると雷帝は視線をタブレットに戻した。

 

「……ッ!?……なんて射撃精度だ。

あれだけ動いて外さないとは……即座に判断を下し、一切の迷いがない。

ッ!?……貴様も見ろ、一瞬で距離を詰めたぞ」

 

雷帝はタブレットを目前まで近づけ、息を呑む。

 

「……新しい……惹かれるな……」

 

そこに冷徹な支配者の影はなく、新しいおもちゃを与えられた子供がいた。

 

「閣下……」

 

 

 

――

 

――展示会場・壇上前、観客席/WOLF1レナ

 

 

オトギが援護射撃で四人を撃ち抜き、レナは残りの六人を正確無比の射撃で即座に沈め、前線に復帰した。

 

大きく踏み出し、突出する。

 

後方からメイとスイの援護射撃が飛ぶ。

そこから外れるように、リノが右へ回り込む。

 

「アルファ2、合わせろ!奴の目前で左に飛ぶ!そこを狙え!」

 

『了解ッ!』

 

レナは狙い絞らせないようにジグザグに跳ね回る。

後方のHMGから防護射撃が飛ぶが、掠りもしない。

 

レナは射撃で牽制しつつ、猛スピードで距離を詰める。

12.7mmの大きな薬莢が絶え間なく排莢され、軌跡をなぞるように、その場に残される。

 

止められないと悟った盾兵は自身の大型ハンドガンをホルスターから抜き、盾の横から伸ばす。

 

ハンドガンの照準が重なった刹那――

 

デフォルメ会長が、”汗だくで息を切らしている”姿で現れた――

 

手には看板が握られている。

 

「システム修復完了!」

 

――即座にシステム通知が入る。

 

 

『Renegade System: STANDBY』

 

 

Good luck!

 

 

 

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