白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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第47話 血路

 

 

ユキノ率いるFOXチームは、敵捜索部隊をやり過ごすため、林縁の茂みに分散して潜伏していた。

 

白い霧の中、濡れた下草が頬を撫でる。

湿った土が膝と肘に染み込み、迷彩ポンチョに縫い付けられた枯れ葉が、呼吸のたびにかすかに震えた。

 

だが、誰一人として身じろぎしない。

 

気配を殺す。

脅威が通り過ぎるまで、ただ地面の一部になる。

 

小さな虫が袖口を這い、小型の蛇が太腿の上を滑っても、彼女たちは瞬きひとつさえ抑え込んでいた。

 

獣耳が、霧の奥の音を拾う。

 

小枝の折れる音。

濡れた土を踏み締める靴底の音。

金属部品が布地に触れる、かすかな擦過音。

 

異常を察知したGAの捜索部隊だった。

 

「……もうすぐ観測ポイントですわ」

 

霧の向こうから、押し殺した声が流れてくる。

 

三人。

 

いや、四人。

 

ユキノは両耳の角度だけで、相手の数と距離を測った。

 

一人は木の根元へ。

一人は、落下した観測手の位置へ。

残り二人は左右を警戒しながら、ゆっくりと前へ出ている。

 

「……っ。これは、正実のやり方ではありません。SRTの浸透を受けた可能性があります。油断なさらないで」

 

「りょ、了解しました……」

 

林の中は、息が詰まるほど静かだった。

 

だが霧の向こう、平原からは、大地を揺さぶる爆発の衝撃と、重機関銃が空気を引き裂く轟音が絶え間なく響いている。

 

GAの捜索部隊も、その喧騒に神経を削られているのだろう。

足取りには、わずかな焦りが混じっていた。

 

ユキノは、呼吸を止める。

 

撃てば、終わる。

 

この距離なら、四人全員を同時に倒すことも不可能ではない。

クルミのSMG(短機関銃)

自分のAR(突撃銃)

ニコのSG(散弾銃)

オトギのPDW(個人防衛火器)

 

一瞬で片付く。

 

だが、観測班以外の排除はFOXの目的ではない。

 

レナの命令は、観測班を排除した後、交戦を避けて潜伏すること。

ここで一発でも撃てば、林間に潜むGA全体が血眼になって捜索に出る。

 

そうなれば、後の対戦車砲概定に支障をきたす。

 

ならば、ここで無闇に騒ぎを起こすべきではない。

 

霧の向こうから、GAの捜索部隊が近付いてくる。

 

「見てくださいまし。罠が作動していませんわ」

 

「でも、痕跡が無いなんて……」

 

「この下手人、ただ者ではありませんね」

 

声は近い。

 

クルミが伏せている位置から、わずか半歩。

迷彩ポンチョの端を、GA生徒のブーツが掠めた。

 

それでも、クルミは睫毛一本動かさない。

 

顔のすぐ横を、GA生徒の踵が通り過ぎる。

泥がわずかに跳ね、冷たい粒が頬に付着した。

 

直後――。

 

ドンッ――!!

ドンッ――!!

ドンッ――!!

 

6ポンド砲とは異なる、やや重い砲声が平原から響いた。

次いで、林縁側に白い煙が瞬く間に広がっていく。

 

GA生徒たちは、一斉に振り返った。

 

「マズいですわね……このままでは、塹壕に近付かれてしまう」

 

部下の一人が、隊長格の生徒に身を寄せる。

 

「どうなさいますか……?」

 

「隊長……この混乱に乗じて、剣先さんが襲いかかってくるかもしれません」

 

「捜索は中断し、防衛線に加わるべきです」

 

隊長格の生徒は、白煙が広がる林縁と、未だ発見できない“透明な侵入者”、そして姿の見えない最大の脅威との間で、短く葛藤した。

 

「……ええ。観測班がやられた以上、防衛線の維持が最優先ですわ。これ以上の捜索は危険と判断します。1st Front(第一防衛線)へ後退!」

 

「「「イエスマム!」」」

 

濡れた土を蹴る足音が、霧の奥へ遠ざかっていく。

 

足音が完全に消え、重機関銃の掃射音だけが林間に残るまで、FOXの四人は微動だにしなかった。

 

やがて、ユキノがゆっくりと顔を上げる。

 

「クリア」

 

低い声に、三つの影がわずかに動いた。

 

クルミが伏せたまま周囲へ視線を走らせる。

ニコは散弾銃の銃口を林の奥へ向けたまま、ゆっくりと息を吐いた。

 

オトギはポンチョを震わせて身体を浮かせ、茂みから顔を覗かせる。

 

「ふぅ……やっと行ったね」

 

「ツルギのおかげだな。姿が見えないだけで、奴らの判断を鈍らせている」

 

ユキノは平原の方角へ視線を向けた。

 

木々の隙間から、マカロン隊が撃ち込んだ白燐弾の煙が見える。

分厚い白の壁となって、林縁と平原の境界を覆い隠していた。

 

一息ついた、その瞬間。

 

オトギのヘッドセットに、鋭いノイズが走った。

 

『――FOX4、FOX4! 敵対戦車砲を複数確認! 姿は見えず! 至急、観測情報を求む!』

 

「……ッ!」

 

切迫したレナの怒声が、耳を劈く。

 

オトギはすぐに姿勢を下げ、無線機の送信スイッチを押した。

 

「FOX4、了解。これより“ポップアップ”する……なんとか耐えて」

 

オトギは茂みに身を潜めたまま、胸元のポーチからコントローラーを引き抜いた。

 

バックパックから小型ドローンを取り出し、四枚のローターを展開させる。

電源を入れる。

 

直後、静音ローターが低く唸った。

 

「スリー、ツー、ワン――」

 

手のひらサイズの小型ドローンが、霧と枯れ葉を巻き上げながら、垂直に急上昇する。

 

オトギは手元のモニターを注視し、コントローラーのレバーを弾いた。

低いモーター音とともに、ドローンが樹冠の隙間へ吸い込まれていく。

 

映像が林の樹冠を抜けた。

視界が一気に開き、白煙に覆われた平原がモニターいっぱいに広がる。

 

そこには、林縁から放たれる砲煙と弾雨の中を、必死に駆け抜ける突撃部隊の姿があった。

 

「……急がないと」

 

安全に見られるのは、長くて十秒。

 

それ以上は、電子戦への警戒を強めているGAに発見され、撃墜される恐れがある。

 

カメラを林縁へ向ける。

 

煙が立ち込め、林縁と平原の境界を曖昧に塗り潰していた。

 

オトギはモニターを睨む。

 

一秒。

 

二秒。

 

三秒。

 

「見つけた……」

 

左林縁。

 

一瞬だけ、橙色の閃光が膨らんだ。

続けて、灰色の煙が噴き荒れる。

 

オトギは親指で画面を弾き、座標補正用のマーキングを記録した。

 

「一つ」

 

同じ左林縁。

少し奥まった位置で、偽装網がぶわりと揺れた。

 

その直後、煙の裂け目から土埃が吹き上がる。

 

「二つ」

 

レバーを軽く倒し、ドローンのカメラを右へ振る。

 

白煙の壁の向こう側。

林を切り開いた、要塞へ続く唯一の一本道。

 

その右肩にあたる林の奥に、黒い線が見えた。

 

砲身か。

倒木か。

ただの影か。

 

断定はできない。

 

だが、その影の根元で、小さな火花が瞬いた。

 

「右……に、一つ? ちょっと遠いな……」

 

さらに右。

 

一番端の林縁から、鋭い発砲炎が走った。

 

オトギは唇を噛む。

 

「……さらに右の右に一つ」

 

数は、四。

 

少なくとも四つの火点が、シャーマンの進路を左右から挟み込んでいる。

 

モニターの右上で、赤い警告表示が点滅した。

 

SIGNAL EXPOSURE:RISING(信号被探知率:上昇中)

 

「……ッ! タイムアップだ。もう下げる!」

 

その瞬間、林縁の奥で誰かが叫んだ。

 

「ドローンです!」

 

続けて、機関銃の乾いた連射が霧を裂く。

 

タタタタタタッ――!!

 

モニターの映像が激しく揺れた。

 

「うぉお……!? ちょっ、ちょっと待って!」

 

弾丸がドローンのすぐ横を掠め、映像の端に白いノイズが走る。

 

焦ったオトギは、レバーを一気に倒した。

 

小型ドローンは急速に高度を落とし、枝葉の隙間へ逃げ込むように急降下する。

樹冠すれすれを掻い潜り、濡れた葉の雫を弾きながら、霧の中へ沈んでいった。

 

ドローンをキャッチしたオトギは、すぐさま送信スイッチを入れる。

 

「WOLF1、こちらFOX4。観測終了。これより火点候補を送る」

 

オトギは機体を足元に隠し、モニターに記録されたデータを読み上げた。

 

「敵対戦車砲、計四門。

 

一番、進行方向基準で左林縁。白煙左端を基準点に、やや左、奥。確度高。

二番、同じく左。一番から左に10m、倒木の奥。確度中。

三番、林道右肩。黒い影あり。確度低。

四番、右林縁端。林縁切れ目から右40m。確度中。

 

左二門の距離が近い。先に潰して」

 

『左だな……了解した。よくやった』

 

「大雑把でごめんね!」

 

『いや、十分だ。アウト』

 

オトギは安堵の息を吐きながら、ドローンの電源を完全に落とした。

 

これで、FOXに与えられた当初の仕事は終わった。

 

あとは、本隊が血路を開くのを待つだけだ。

 

 

 

――

 

――突撃部隊/平原

 

『大雑把でごめんね!』

 

「いや、十分だ。アウト」

 

レナは無線機から手を離し、双眼鏡を構えるチエに叫んだ。

 

「チエ! FOXから火点候補だ! 左翼を優先目標!

マカロン1は第一目標。マカロン2は第二目標を撃て!

 

第一目標! 左林縁、白煙左端を基準点に、やや左、奥!

 

第二目標! 第一目標から左に10m、倒木の奥!」

 

「了解!」

 

チエは即座に伝える情報を整理した。

 

必要なものだけを削り出し、送信機を握り込む。

 

『Macaron 2! HE(榴弾)Anti-Tank(対戦車砲)Left tree line(左林縁)Reference fallen tree(倒木基準)Range 800(距離 八百)One round(一発のみ)Fire(撃て)!』

 

即座にマカロン2から応答が返る。

 

Wilco(実行する)!』

 

それを聞くなり、チエは無線をインターコムへ切り替えた。

 

Gunner(砲手)HE(榴弾)Anti-Tank(対戦車砲)

Traverse left(左旋回)

Reference smoke left edge(白煙左端基準)Range 800(距離 八百)!」

 

命令を受けた砲手が、砲塔を旋回させると同時に、車体機銃手へ指示を飛ばす。

 

Bow gun(車体機銃)Tree line(林縁)Suppress(制圧射撃)!」

 

Roger(了解)!』

 

車体機銃手はペリスコープを覗き込み、.30口径機関銃のトリガーを引いた。

 

ズダダダダッ――!

 

五発おきに混じる曳光弾の軌跡を頼りに、弾道を修正する。

弾幕が林縁へばら撒かれ、土と枝葉を跳ね上げた。

 

装填手は激しく揺れる車内で、湿式弾薬庫から榴弾を素早く引き抜く。

そのまま、一気に砲尾へ押し込んだ。

 

ガシャン――!

 

半自動尾栓が金属音を立てて閉鎖する。

装填手は即座に後退し、安全装置のスイッチを叩いた。

 

HE(榴弾), Up(装填)――!!』

 

装填手の叫びと同時、照準器の中に白煙の縁が捉えられた。

 

On(照準よし)!』

 

チエは双眼鏡を覗いたまま叫ぶ。

 

Fire(撃て)!」

 

On the way(発射)――!』

 

砲手が、足下の発射ボタンを踏み付けた。

 

ドォンン――!!

 

車内を満たす衝撃と発射音。

 

強烈な反動で砲尾が勢いよく後退し、真鍮の薬莢が煙を吐きながら飛び出した。

 

チエは双眼鏡を構えたまま、砲弾が裂いた空気の揺らぎを追う。

 

だが、6ポンド砲には当たらなかった。

 

榴弾は目標を飛び越え、木の幹をへし折りながら林の奥へ消えていく。

 

チエは林の奥で遅れて膨らんだ土煙を確認し、即座に砲手へ報告した。

 

Over(遠弾)!」

 

続けてマカロン2も発射。

 

ドォン――!!

 

砲弾は倒木の手前に着弾。

 

Short(近弾)!』

 

二両とも外した。

 

チエは歯を噛み、照準の修正を頭の中で弾き出す。

 

その間にも、空と林から砲撃が飛来し、マカロン隊の周囲を容赦なく打ちつけていた。

 

ドォォン――!!

 

迫撃砲弾が地面を抉る。

 

「来るぞ!」

 

レナが叫んだ直後。

 

ヒュオン――!!

 

ガァァァン――!!

 

イージーエイトの車体正面に徹甲弾が直撃した。

 

「ぐぅッ……!」

 

チエは衝撃で脚を踏み外し、キューポラの縁に胸を打ちつけた。

 

『ああッ!』

 

『ッ……!!』

 

『っ!』

 

金属を殴りつける衝撃が、チエと車内の乗員へ襲いかかる。

 

「無事か!?」

 

「クッ……損害なし!」

 

レナの呼びかけに、チエは歯を食いしばって応えた。

震える手を伸ばし、キューポラの縁を掴んで這い上がる。

 

砲弾は、イージーエイトの正面装甲を斜めに叩き、弾かれていた。

 

だが、衝撃までは消せない。

耳の奥で、鐘を殴ったような音が鳴り続ける。

喉の奥に、鉄の味が滲んだ。

 

チエは双眼鏡を構え直し、林縁を睨み付けた。

 

「シャーマンは、伊達じゃない!」

 

ヒュオン――!

 

また一発。

 

今度はマカロン3を掠め、泥の平原へ突き刺さった。

 

Bow gun(車体機銃)、ベルト交換中!』

 

『ボス! 次はどこを撃てばいい!?』

 

『うあっ! ぺ、ペリスコープ破損! 予備と交換する!』

 

マカロン1搭乗員の声が、インターコムを通して悲鳴のように重なった。

 

林縁から伸びる無数の曳光弾。

迫撃砲弾が巻き上げる土柱。

その隙間を、対戦車砲弾が針のように刺してくる。

 

ブルルッ――。

 

そんな阿鼻叫喚の中、レナのポケットに押し込まれたエドゥトの板が、短く震えた。

 

「ッ!」

 

レナは舌打ちを堪え、エドゥトの板を引き抜いた。

 

泥と硝煙に汚れた指紋を認証し、画面が点灯する。

 

「何の用だ、アノラ!」

 

『提案――』

 

エドゥトの板の画面に、連邦生徒会長を幼く縮めた姿の無表情な少女が浮かび上がる。

 

レナは片手で重機関銃の把柄を握ったまま、端末を砲塔の縁に押し付けるように固定した。

 

『本個体の演算能力を使用した、射撃補正の用意が完了』

 

「ふざけるな! お前には見えているのか!?」

 

『否定。リミテッドモードでは、敵砲座の直接視認は不可能』

 

A.N.O.R.A.は即答した。

 

『ただし、思考に必要な推定材料は揃っています』

 

画面上に、簡易化された平原の線図が浮かび上がる。

 

クルセイダー残骸の位置。

FOX4が送った火点候補。

マカロン1とマカロン2の初弾弾着。

白煙の流れ。

 

それらが、青と赤の細い線で結ばれていく。

 

[入力諸元]

 

[FOX4観測:火点候補四]

[自隊初弾:マカロン1、過大]

[マカロン2、短]

[残骸貫通痕:左右林縁からの交差火線]

[移動速度:8km/h]

 

[各値から補正値を算出]

 

[第一目標:初弾過大]

[推奨修正:DROP 5-0(距離マイナス50)RIGHT 1-0(右10)

 

[第二目標:初弾短]

[推奨修正:ADD 4-0(距離プラス40)LEFT 0-5(左5)

 

[射撃補正:算出完了]

[直撃予測:55%]

[制圧予測:80%]

 

一瞬でログが更新され、修正情報が表示された。

 

「直撃の必要は無い。よくやった、ガラクタ」

 

画面上に表示された文字列を、レナの目が拾う。

 

「チエ! 指示通りに撃て!」

 

レナは砲塔を叩き、怒鳴った。

 

「マカロン1、第一目標! Drop 5-0(距離マイナス50)Right 1-0(右10)

マカロン2、第二目標! Add 40(距離プラス40)Left 5(左5)

HE(榴弾)、即射!」

 

「了解!」

 

チエは即座に無線を握り直す。

 

『Macaron 2! Re Engage(再交戦)HE(榴弾)Same target(同一目標)Add 4-0(距離プラス40)Left 0-5(左5)Fire(撃て)!』

 

Wilco(実行する)!』

 

それだけ告げると、チエは間髪入れずにインターコムへ切り替えた。

 

Re Engage(再交戦)Gunner(砲手)HE(榴弾)Same target(同一目標)Drop 5-0(距離マイナス50)Right 1-0(右10)!」

 

Adjusting(照準修正中)!』

 

砲手が照準ハンドルを回す。

揺れる照準器の中で、白煙の縁と林の暗がりが上下左右に揺れた。

 

装填手は再び榴弾を持ち上げ、砲尾に叩き込む。

 

Up(装填)!』

 

On(照準よし)!』

 

砲手と装填手の声が、同時に返る。

 

Fire(撃て)!」

 

On the way(発射)!』

 

ドォン――!!

 

イージーエイトの76mm砲が吼えた。

 

同時に、左翼側を進むマカロン2の75mm砲も発砲する。

 

ドン――!!

 

二発の榴弾が、漂う硝煙を引き裂いて林縁へ飛び込んだ。

 

一発目は、白煙の奥で黒い幹に触れた。

 

その瞬間、林縁の暗がりが内側から膨らむ。

 

ズンッ――!!

 

爆圧に煽られ、枝葉、木片、土塊がまとめて空中へ跳ね上がった。

砲座を隠していた土嚢が崩れ、奥に据えられていた6ポンド砲の輪郭が一瞬だけ露わになる。

 

砲そのものへの直撃ではない。

 

だが、76mm砲の火力は十分だった。

 

爆風に煽られた砲員が塹壕の中へ吹き飛ばされ、装填途中だった砲弾が泥の中へ跳ねる。

照準器の前面に破片が突き刺さり、砲身の横に張られていた偽装網が引き千切れた。

 

『第一目標、沈黙!』

 

チエの声が跳ねたのと同時に、マカロン2の砲弾が倒木の奥へ落ちた。

 

バァンッ――!!

 

今度は、倒木を貫いた。

 

陰に掘り込まれていた浅い砲座へ一直線に飛び込み、土嚢がばらばらに弾ける。

6ポンド砲の防盾が砕け散り、複数の白い制服の影が、爆風に押し出されるように塹壕の底へ沈んだ。

 

『やった! 直撃だ!』

 

左翼の砲は制圧した。

 

残るは、右翼の二門のみ。

 

周囲が高揚に包まれる中、レナだけは言いようのない不安を覚えていた。

 

(……シヅキ。お前なら、どう出る)

 

 

 

――

 

――旧聖バルバラ要塞/最上階

 

「シヅキ様! 6ポンド砲二門が、無力化されました!」

 

前線部隊の報告を聞いたオペレーターが、声を荒らげて振り返った。

 

「……情報はもっと正確に」

 

シヅキは紅茶を飲みながら、静かに問う。

 

「も……申し訳ありません。

報告によれば、Hasta-1(対戦車砲班)は至近弾により損傷、Hasta-2は直撃弾で大破。両者、戦闘継続不可能とのことです」

 

その報告に、シヅキを除いた全員が息を呑んだ。

 

司令室の空気が、ゆっくりと冷えていく。

 

シヅキは整った睫毛を伏せ、マグカップをソーサーへ戻した。

 

「想定より早い……相手側には、何か隠し玉がありそうですね」

 

傍に控えていたAegisの一人が、シヅキに耳打ちする。

 

「シヅキ様……どうなさいますか? どうやら、マカロン隊は思ったより優秀なようで」

 

「ふむ……そうですね」

 

シヅキは顎に手を添え、戦術地図の平原部分を見下ろした。

 

「Hasta-3、Hasta-4は射撃継続。Cortina(機関銃班)は目標を戦車から歩兵へ変更。Pluvia(迫撃砲班)は塹壕手前のBラインへ効力射。

 

“Longinus”は、偽装解除の用意。

“Lampyris”は命令があるまで待機」

 

「効力射……ですか? 予定区画への破砕射撃は……」

 

「残りのHastaが制圧された瞬間、彼女らは控えていた歩兵を突撃させるでしょう。

もしかしたら、その中に剣先さんが混じっているやもしれません」

 

シヅキは再びマグカップを持ち上げ、澄んだ緋色の紅茶を口に含む。

 

その瞬間、司令室の窓の外で、二度、鈍い爆発光が瞬いた。

 

「ほ……報告! Hasta-3、通信途絶。Hasta-4、射撃不能、砲員退避!」

 

「は、破壊された? 二門とも……?」

 

「はい、同時にです!」

 

「……早すぎる」

 

絶句する部下の横で、シヅキはマグカップを口から離した。

 

「まさか……そういうことですか」

 

一拍。

 

「“貴女”はいつも、私の邪魔をしてきますね」

 

シヅキは一歩踏み出し、声を張り上げた。

 

「Longinus、偽装解除! Lampyris、戦闘用意!」

 

そのまま窓際へ歩み寄り、両手を後ろに組む。

 

窓に映る平原の、さらに遠方。

霞の向こう側に薄っすらと聳え、天まで届く光芒を頂上から放つ、純白の尖塔を睨み付けた。

 

「そこから見下ろす景色は……さぞ、お美しいことでしょう」

 

 

 

――

 

――平原/突撃部隊

 

『第四目標、沈黙!』

 

『ハッハッハァ!』

 

『いいぞ! よくやった!』

 

マカロン隊の無線に、車長たちの歓喜の声が響いた。

 

最大の脅威であった6ポンド砲の沈黙。

その事実は、正実の歩兵たちにも瞬く間に伝播した。

 

『対戦車砲を無力化!』

 

『良いペースね! みんな! このまま一気に抜けるわよ!』

 

レンの声が、白煙と硝煙の中に弾んだ。

 

左右から刺すように飛んでいた徹甲弾がぱたりと止み、シャーマンの車体を叩く金属音が消える。

 

A.N.O.R.A.の支援で、6ポンド砲は黙った。

 

だが、依然として空から降る砲弾と、塹壕から放たれる機銃弾は苛烈だった。

 

「ッ!――総員! シャーマンの影から出るな!」

 

レナが叫んだ瞬間。

 

ズダダダダ――!!

 

ズダダダダ――!!

 

むしろ、対戦車砲が沈黙したことで、GAの火線はさらに激しくなった。

 

水冷式重機関銃の射撃音が、低く、途切れなく続く。

 

ズダダダダダダダダダダッ――!!

 

塹壕から伸びる曳光弾が、シャーマンの装甲ではなく、その背後に張り付く正実生徒たちへ向かい始めた。

 

「きゃあぁ!!」

 

「うぁー!!」

 

「うぐっ……!」

 

曳光弾が泥を跳ね飛ばし、戦車の陰からわずかにはみ出た正実生徒の肩や太腿を容赦なく打ち据えていく。

 

「WOLF1! 敵の狙いが歩兵に変わった!」

 

チエの叫びと同時だった。

 

ヒュルルルルルッ――!!

 

上空から再び、身の竦むような風切り音が降ってくる。

 

「ヤバい!! こっちに来るッ――!!」

 

「ふ、伏せ――!!」

 

ドォォォォンッ!!

 

マカロン4の背後。

正実生徒と第1小隊のTORTOISEチームが身を寄せていた場所、そのすぐ後ろに着弾した。

 

ほぼ全員が吹き飛んだ。

 

「うわぁぁぁぁッ!!」

 

「キャァァァァッ!!」

 

120mm迫撃砲の爆圧によって、身体は枯れ葉のように宙を舞い、泥水の中へ叩きつけられる。

 

『WOLF1!! TORTOISEとジャスティス3がやられた!!』

 

無線から、レンの叫び声が走った。

 

「た、隊長! みんな吹き飛んじゃった!!」

 

今まで黙っていたメイが、悲痛な声を上げる。

 

「ああっ……! 助けないと!」

 

近くにいた正実の生徒が、たまらず倒れた仲間に駆け寄ろうとした。

 

スイもまた、ヘルメットのバイザーを持ち上げ、LMGのスリングベルトを肩にかける。

 

「おい! 戻れ!! 持ち場を離れるな!!」

 

レナの怒号が、重機関銃の発砲音をねじ伏せて響き渡った。

 

「で、でも……隊長!!」

 

スイが悲鳴のように食い下がる。

 

「黙れWOLF3! まっすぐ走れ! 命令だ!!

負傷者は置いていけ! 後続に任せる!

 

今は前へ出ることだけを考えろ!」

 

レナは血を吐くような冷徹さで言い放ち、重機関銃のトリガーを引き絞った。

 

林縁の塹壕へ向けて50口径の弾幕を張り、敵の機銃座を牽制する。

 

「た、隊長! 私たちは……どうすれば!?」

 

SRTの一個分隊が、たった一発の砲弾で丸ごと戦闘不能に陥った。

 

その事実が、リノの表情から冷静さを奪っていた。

 

「黙って走れ!!」

 

レナはリノを見ずに怒鳴り、前方の塹壕から間断なく伸びる赤い曳光弾の束だけを睨みつけた。

 

(戦車を……丸裸にする気だな)

 

レナは重機関銃のトリガーを引きながら、無線で榴弾を撃つよう命じているチエに向かって叫んだ。

 

「チエ! 次弾、WP(白燐弾)! 叩き込め!」

 

その命令に、チエは息を呑み、キューポラから振り返った。

 

WP(白燐弾)を……塹壕に!? 何を言ってるんですか! 相手は生徒ですよ!?

正義に反する行為です!

 

そんなものを塹壕の中で破裂させたら、最悪の場合、窒息します!」

 

チエの叫びは、怒りに近かった。

 

それは、敵を撃つことへの躊躇ではない。

 

正義実現委員会の戦車兵として、越えてはならない線を踏み抜かされることへの、明確な拒絶だった。

 

「塹壕の中じゃない!」

 

レナが即座に言い返す。

声は冷たかった。

 

だが、怒鳴り散らすだけの声ではなかった。

 

「火点だ! 火点に撃て! 塹壕に直撃させるわけじゃない!」

 

「危険すぎます!」

 

チエが噛みつくように叫ぶ。

 

キューポラから見える彼女の顔は、激しい怒りに歪んでいた。

 

WP(白燐弾)はただの煙幕じゃありません! 焼夷弾でもあります!

白煙で視界を奪うだけじゃ済まない! 広がり方次第では、塹壕の中へ流れ込みます!」

 

「そんなことは分かっている!」

 

レナの怒号が、重機関銃の掃射音に混じって平原に響いた。

 

「榴弾では、塹壕を制圧するまで時間が掛かり過ぎる!

奴らも、それが分かっているんだ!」

 

レナは前方で激しく明滅を続ける機関銃の火点へ、50口径の弾幕を浴びせながら叫んだ。

 

「言い争っている時間は無い!

敵は砲撃ラインを大きく下げて、効力射に切り替えた!

 

歩兵を早急に塹壕へ入れなければ全滅だ!」

 

「……ッ!!」

 

チエは震える拳を握り締めた。

指先が白くなる。

 

レナの言葉が正しいことは、戦車長として痛いほど理解していた。

 

このまま歩兵を平原に立たせ続ければ、いずれ迫撃砲弾が直撃し、戦闘不能者が増える。

それは明らかだった。

 

正義を守るために、同胞を見殺しにはできない。

 

「……」

 

トリニティの生徒に、白燐を放つ。

 

その業を背負うのは、他でもない自分たちだった。

 

「ごめんなさい……」

 

チエの絞り出すような声が、部隊無線に響いた。

 

『……Macaron 2 through 4(マカロン2から4)WP(白燐弾)12 o’clock(十二時方向)Machine-gun(機関銃座)Range 500(距離 五百)One round(一発のみ)――!』

 

WP(白燐弾)……!? 小隊長、本気か!?』

 

『相手は同じトリニティですよ!』

 

僚車から悲痛な声が飛ぶ。

 

『いいからやれ! やらなきゃ、こっちがやられる!』

 

各車の装填手たちが、震える手で白燐弾を引き抜く。

 

ガシャン、と半自動尾栓が重く閉鎖する音が響いた。

その音は、車長たちの耳にはギロチンが落ちる音のように聞こえた。

 

『――Fire(撃て)!!』

 

チエが叫んだ瞬間。

 

三両のシャーマンが、立て続けに75mm砲弾を放った。

 

ドンッ――!

ドンッ――!

ドンッ――!

 

空気を切り裂いた砲弾が、塹壕の土嚢の手前――機関銃火点の真正面へ着弾した。

 

ブシュァァァァッ――!!!

 

激しい炸裂音。

 

超高温で燃焼する白い火片が、土嚢と銃座に飛び散り、機関銃班はそこに留まれなくなった。

 

「きゃああああっ!?」

 

「ゴホッ、ゴホッ! い、息が……!!」

 

「ああッ!! ああッ!! 腕に!! 熱いっ! 誰か消して!!」

 

煙の向こうから、GA生徒たちの絶叫が響き渡る。

 

頑丈な生徒であっても、装備に食い込むように燃える白い火片を無視して、機関銃を撃ち続けることはできない。

 

GAの防衛線は、たちまち混乱状態に陥った。

 

統率を失い、重機関銃の赤い曳光弾が、嘘のように止む。

 

燃え盛る白燐の向こうで、むせ返り、装備を放り出して塹壕から這い出し、後方へ撤退していくGA生徒たちの姿が見えた。

 

「ッ……」

 

「チエ。……よくやった」

 

口を固く結んだチエに、レナは短く告げた。

 

そして右腕を高く掲げて後ろへ振り返り、大声を上げる。

 

「今だ!! 塹壕まで詰めろ! 走れ!!」

 

シャーマンは歩兵が追えるぎりぎりの速度まで増速し、正実生徒とSRT隊員たちは泥の平原を駆け抜ける。

 

砲弾孔を越え、白煙を抜け、距離が詰まっていく。

レナはマカロン1のエンジンデッキ上で膝を沈め、対空用重機関銃を撃ちながら前方を睨んでいた。

 

300m――。

 

まだ遠い。

 

200m――。

 

息が焼け、肺が悲鳴を上げる。

 

100m――。

 

血で開いた道を突き進む。

 

「突撃ッ!!」

 

レナは号令を上げると同時、重機関銃から手を離し、エンジンデッキから飛び降りた。

 

正実生徒の一人が、泥に塗れた手で首から下げた真鍮製のホイッスルを掴み、吹き鳴らす。

 

ピイィィィィィィッ――!!!

 

鋭く、甲高い笛の音が、戦場を切り裂いた。

 

Chaaaaarge(突撃)!!!」

 

笛の音と同時に、正実の生徒たちと、SRTの隊員たちが一斉に戦車の陰から飛び出し、最後の距離を詰めにかかった。

 

泥を蹴り、ライフルを撃ち、全員で平原を突き進む。

 

レナは躊躇うことなく先頭を走り続け、片手を振り上げた。

 

「我に続けッ――!!」

 

後ろに続くWOLFの三人と、指揮下に入った正実生徒を先導する。

 

歩兵がシャーマンを追い越したのを確認したチエは、胸元の送信機を握った。

 

『歩兵を援護して!――All Tanks(全車)Bow and coax(車体機銃および同軸機銃)Trench line(塹壕線)Fire when ready(各車、準備でき次第撃て)!』

 

レナのブーツが、砲弾で抉られた平原を踏み抜く。

 

背後では、シャーマンの車体機銃と同軸機銃が味方歩兵の進路を避けながら、塹壕の上端を舐めるように掃射していた。

 

ダダダダダダッ――!!

 

同軸機銃が土嚢を叩き崩し、砲塔を左右へ振りながら、後退するGA生徒たちの足元へ牽制射を浴びせる。

 

『撃ちまくれ!!』

 

チエの声が、小隊無線に飛ぶ。

 

戦車の機銃が作る鋼鉄の雨の下を、正実生徒とSRT隊員たちは駆け抜けた。

 

「あと少しだ! 止まるな!!

あそこまで行けば、奴らも味方を巻き込むのを恐れて砲弾を落とせないはずだ!!」

 

レナは声を張り上げ、駆け抜ける。

 

ヒュルルル――。

 

ドォォン――!!

 

背後で迫撃砲弾が爆発する。

 

だが、歩兵の足はもう止まらない。

 

レナは塹壕の縁へ滑り込み、ライフルを構えて白煙の中をクリアリングする。

 

続けて、メイ、リノ、スイの順で塹壕へ滑り込んだ。

 

「クリア!」

 

「塹壕を確保!」

 

遅れて正実生徒とSRTが次々と塹壕へ飛び込み、息を荒げながら身を潜めた。

 

無線から、次々と突破の報告が上がる。

 

『こちらGOAT、塹壕に到達!』

 

『RAVEN、同じく到達!』

 

『こ、こちらジャスティス1! 塹壕に到達!』

 

『こちらジャスティス2! なんとか着いた!』

 

『ジャスティス4! 私たちも塹壕に入ったよ!』

 

迫撃砲の爆圧に巻き込まれたTORTOISEと、ジャスティス3以外の全員が到達したようだった。

 

塹壕の壁に背中を預けた正実生徒たちが、泥に塗れた顔を見合わせる。

荒い息を吐きながら、安堵の笑みを浮かべた。

 

「ふぅ……っ、はぁっ……砲撃が止んだ」

 

「や、やった……!」

 

「抜けた……第一防衛線を、抜けた! 私たち、やったよ!」

 

空から降る迫撃砲弾も、直撃さえしなければ、塹壕の壁が爆風と破片から守ってくれる。

 

周囲には、撤退したGA生徒たちが残していった弾薬箱と機関銃が、無造作に放棄されていた。

 

平原に残ったマカロン隊の四両は、塹壕の盛土の手前で停止している。

ハルダウン(車体隠蔽)姿勢で砲塔だけを覗かせ、林道の先を警戒していた。

 

ガソリンエンジンの低いアイドリング音だけが、霧へ消えていく。

 

だが、塹壕の向こう側は、驚くほど静かだった。

 

GAは、あれだけ統率を乱して撤退していった。

 

それなのに、物音一つ聞こえない。

 

その沈黙が、あまりにも不自然だった。

 

レナは角から顔を出し、第二線へ続く連絡路を睨んだ。

 

塹壕の反対側から、レンが近付いてくる。

 

「ただ逃げたようには、見えないわね……WOLF1、貴女はどう思う?」

 

「……誘われている」

 

「ということは……GAは、伏撃を仕掛ける気?」

 

「……恐らくは」

 

レナは角を覗きながら、低く答えた。

 

「まだ霧も残っているし、ここから先は一筋縄では行かなさそうね」

 

レンの言葉に、レナは短く頷いた。

 

GAの統率力からして、ただ恐怖に駆られて逃げ散ったとは考えにくい。

これは敗走ではない。

 

遅滞戦闘における、計画的な後退だ。

 

こちらには四両のシャーマンがある。

だが、依然として数はGAが勝る。

 

無闇に進めば、林間に張り巡らされた塹壕から挟撃されかねない。

 

レナは無線機に手を伸ばした。

 

「WOLF1より総員へ通達。周囲を警戒。シャーマンを守れ。

GAが対戦車火器を片手に、突っ込んで来るかもしれん」

 

『『『了解』』』

 

「よし、マカロン隊! 林道入口を押さえろ!」

 

命令を受けたマカロン隊が、橋頭堡を確保するため、塹壕を越えようとする。

 

『マカロン1了解。――マカロン4、先行! 残りはハルダウンを維持して援護!』

 

チエの号令で、最も右翼に位置していたマカロン4がエンジンを吹かした。

 

ブォォォォン!!

 

500馬力のエンジンが爆音を轟かせる。

鋼鉄の巨体が泥を噛み、盛土の斜面を乗り越えた。

 

危険は承知だ。

 

ここで、戦車が尻込みして平原側に留まり続ければ、塹壕へ入った歩兵は孤立する。

 

林道入口を押さえなければ、橋頭堡は橋頭堡にならない。

 

『マカロン4、林道へ進出するよ』

 

塹壕に身を隠す歩兵部隊の真上を、金属が擦れ合う音を響かせながら履帯が通り過ぎた。

 

その瞬間。

 

レナの耳が、ひどく小さな音を拾った。

 

風に吹かれた草木が揺れる、自然の音ではない。

重く、鋭く、金属的な擦過音。

 

「……なんだ」

 

背筋に、冷たいものが這い上がる。

 

レナは塹壕から霧の奥を凝視した。

 

次の瞬間。

 

霧の向こう。

林道の奥で、何かが揺れた。

 

枝葉。

濡れた土を被せた帆布。

 

それらが、音もなく滑り落ちる。

 

そこにあったのは、枝などではなかった。

 

細く、長く、異様なほど真っ直ぐな“槍”。

 

その穂先が、塹壕を乗り越えようとしていたマカロン4の正面を、正確に捉えていた。

 

「マカロン4! 狙われているぞッ!!」

 

『え――?』

 

だが、遅かった。

 

霧の奥に雷光が走った。

 

同時に――。

 

目の前で、火花が散った。

 

 

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