白狼救済録 作:らんらん出荷マン
早朝
「願書をSRTに出すには学生証が必要だから、レナちゃんをアビドス生にするために、連邦生徒会まで行ってくるね!」
「ホシノちゃんと留守番よろしく!」
ユメは手続きに必要な書類をまとめ、それを鞄にしまうと、手を振りながら上機嫌な様子で出て行った。
◆
昼過ぎ
ホシノは保健室の机を占領し、しかめっ面でショットガンを整備している。
(今日の相手は、このちびっ子か……)
「何ですか?失礼なことでも考えましたか?」
どうやら早速地雷を踏んだらしい――世界記録かもしれない。
「……いや、別に……ところで、ホシ――」
「今は整備中です。話しかけないでください」
その派手な白色をしたショットガンについて聞こうとしたが取り付く島もなく、会話が途切れてしまった。
仕方なく、会話をやめて椅子に腰を下ろし、整備が終わるのを待つことにした。
ゆらゆらと揺れている大きなアホ毛を眺めていると、数分も経たないうちにホシノがギロリとこちらを睨んだ。
「……あの、視線が鬱陶しいんですけど」
「……見ていない」
ホシノは立ち上がり、人差し指を向けながら言い放つ。
「……嘘ですね。背中がムズムズします!」
(……何だこいつは。いちいち突っかかってきて、話すなと言うかと思えば、今度は見るなだと?)
レナはため息をつき、窓の外に視線を逸らした。
遠くを見れば、街の外で砂嵐が元気に吹き荒れている。
ユメの話によればアビドスはまた少し、砂に呑まれてしまったらしい。
(……こんな死にかけた土地で、どうするんだ)
ふと考える。
もしSRTに行ったとして――それで何が変わる?
自分自身に問いかけた。
レナは彼女達の負担を少しでも減らすため、給料は全額アビドスに寄付するつもりでいる。
だが――
仮定の話として――もし奇跡的に借金が消えたとしても、この状況を招いた原因は残ったままだ。
これでは何の解決にならない――ただの延命措置だ。
「レナさん」
不意に背後から声がした。振り返ると、ホシノがショットガンを膝の上に置いたまま、じっとこちらを見ていた。
鋭い目の奥に、わずかな興味が宿っている。
「……何だ」
「あなたは、本当にSRTを受ける気なんですか?」
「ユメから聞いたのか」
「はい。それはもう、自分のことのように話していました……」
ホシノはゆっくり立ち上がると、レナの方へ歩み寄ってきた。
「別に止めるつもりはありません。私達に不利益が無いのなら、あなたが何をしようと自由です」
「なら、なぜ聞く」
「アビドスを助けたいとユメ先輩に言ったらしいですね?それがちょっと気になっただけです」
ホシノは窓の外へ視線を向けた。
「教えて下さい、レナさん。あなたはどうして――アビドスにそこまで肩入れするんですか?」
窓に手を置いたホシノは、アビドスではない、どこか遠くを見つめているようだった。
「正直言って私は、なぜここに居るのか分かりません。最初はアビドス高校に入る気なんて、全くありませんでした」
陽の光が差し込み、彼女の横顔を照らす。
いつもの刺々しさとは違う、影が一瞬見えた。
――この女もまた、背負っている。
何と言うべきかを迷っていると、その時だった。
――バァンッッ!!
激しい衝撃音が保健室の外から響いた。
二人は同時に身構え、息を潜め、静かに窓から離れた。
「ッ……!? 今の音は」
(この腹の底に響くような音は……ライフルか)
「……銃声、恐らく7.62mmだ」
ホシノは即座にショットガンを抱え、いつもの鋭い目に変わった。
「ちょっと外を見てきます。レナさんはここに――」
「……いや、私も行く」
「は?……だめですって。あなたはまだ安静に――」
「任せろ。荒事は好きだ」
少し悩む素振りを見せたが、ホシノは短く息を吐き、愛用のショットガン〈Eye of Horus〉のチャンバーにシェルを込めた。
「はぁ……わかりました。これ、渡しておきます。私のサイドアームです、使い方は分かりますね?」
「……ハイパワーか、いい趣味だ」
「予備のマガジンは2本。チェストリグは無いので、そのパジャマのポケットにでも突っ込んでください」
「あぁ」
ホシノからハンドガンを受け取り、握った瞬間、ノイズがレナの視界を染める。
――
『誰も守れやしない……』
「ッ……!」
自然と手に力が入った。
それを見て、ホシノが目を細めた。
「どうしたんですか?……手が震えてますよ?やっぱり安静に――」
目の前が真っ白になり、鼓動が速まって己を見失いかけるが、持ち前の胆力で無理矢理抑える。
「……気にするな、ただの武者震いだ」
自身の恥を隠すように、ホシノの言葉を遮る。
「そうですか。んじゃ、行きますか――」
レナは無言で頷いた。
そして二人は同時に飛び出した――
◆
校庭に設置されたバリケードに身を潜めた。
(……くっ、背が縮んだから見えづらいな)
バリケードの隙間から覗き込むと、その先には風が砂を舞い上げ、荒れ狂っている校庭に陣取ったヘルメット姿の少女達がいた。
「コンタクト。12時方向、距離50m、数は10名。全員ヘルメット着用、防弾ベストは無し。
武装はUZIが7、AKが3。陣形は前衛UZI、後衛AKの5m間隔、2列横隊で展開――」
「……ふん、射線を散らす陣形だ。多少の心得はあるらしい」
「奴らの後ろにクルマが見えます。アレは多分、ブイブイヘルメット団です」
「……ぶい……なんだ、その名前は?」
レナは困惑に眉を寄せた。
「V8エンジンを崇めている、ある意味お目出度い連中です。クルマを改造しすぎて万年金欠と聞いていますが――」
「持っている”おもちゃ”の性能は良いので道路で絡まれると厄介極まりないです」
嫌な思い出でもあるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「クルマにしか興味がない連中ですが、油断しないで下さい、一切躊躇なく撃ってきますよ」
◆
後列に居るリーダー格と思わしき少女が大声で叫んだ――
「居るのはわかってんだ!!暁のホルス!!こっちは10人だぞ、大人しく降伏して金目の物を寄越しやがれ!!」
「そうだー!そうだー!」
「クルマに金突っ込み過ぎて何も食べて無いんだー!」
「いいかぁ!!五つ数える!!それまでに出てこなかったら校舎にRPGをぶち込んでやる!!」
なんと奴らはロケットランチャーまで保有している。
レナとホシノは目を見合わせた。
「訂正、少なくとも奴らは重火器を持っている可能性が高い」
「ハッタリかもしれませんが、注意するに越したことはないでしょう」
「……それで、ホシノ。」
「何ですか?」
「……奴は”暁のホルス”と叫んでいた。それは、お前のことーー」
何か癪に障ったのか、ホシノは眉をつり上げ、最後まで言わせなかった。
「気にしないでください、外野が勝手に言い出したことです」
―――
「それで、ホシノ。作戦はあるか?」
ホシノは目を丸くし、一瞬止まった。
「――特にありませんが?あんな連中、私の実力なら問題ありません。突撃して薙ぎ倒すだけです」
『面倒くせぇ!!丸ごと吹き飛ばしてやる!!』
(……ゴードンみたいなこと言う、こいつも脳筋か?)
「5!」
ヘルメット団がカウントダウンを始めた。もう時間は残されていない。
「……まあ待て、ホシノ。」
「いくらお前でもライフル弾は避けられまい、違うか?」
レナの真紅の瞳から、ホシノは視線をそらした。
「……そうですけど」
「なら怪我をしないに越したことはない、私にいい考えがある」
「4!」
「何ですか?もし下らない話なら――」
ホシノはレナを睨み、握り拳を作る。
「いいから聞け、ホシノ。私とお前の武器は近接向けだ、だが奴らの後衛はより初速が速いAKを持ってる。この時点で状況は明確だ」
「3!」
「お前は左から回り込み、回避を最優先。散弾で牽制し注意を引くんだ」
「あなたは?」
「ハンドガン一丁で正面からライフルと戦うのはバカのすることだ。私は交戦を避け、指揮官がいる後方に忍び寄る。」
「2!」
レナは再度、覗き込んでヘルメット団を確認した。
「幸い、私の存在は知られていない。頭を低くすれば接近は容易だ」
「つまり――私に囮をしろと?」
「……そうだ」
「1!」
「私は折を見て指揮官を人質にし、降伏を迫る」
息を整えたホシノは、ショットガンの状態を確認し姿勢を低くした。
「すぅ……はぁ……わかりましたよ。やればいいんですよね?まぁ――確かに、弾の節約にはなるでしょう、でも人質を取っても撃ってくる可能性は?」
「……仲が良さそうだからな、奴らには撃てん」
――そうだ
金で動く傭兵とは違う。
「0!」
――目を合わせる。
レナはホシノと頷き合い、武器を構えた。
(……久しぶりの戦闘――さぁ、腕慣らしだ)
「……エンゲージ!!」
レナが短く叫ぶと、ホシノは弾丸のように駆け出した。
これより――キヴォトス式の歓迎会が始まる。