白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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第6話 懺悔―1

その夜、レナはまた、前世の夢を見た。

 

――2037年。

 

いつしか世界は、戦争をビジネスに変え、人を戦いに費やす商品として扱うようになった。

 

アヴァロン・カンパニー。

ユウイチを引き取った企業である。

 

 

 

 

 

◆

 

戦争孤児であったユウイチは時折、泥を啜ることもあるほど、日々を生きることで精一杯だった。

 

毎日、毎日、近くの川には死体が浮かび、飢えたハエが群がって鬱陶しい羽音を奏でる。

風上に立つと、激しい腐臭が鼻をつついた。

 

常人であれば吐き気を催す筈だが、誰も吐いたりなどしない。

 

――これは日常。

死体の臭いを嗅いでも、心は平坦だ。

 

管理者がいない道路には、糞尿とゴミが散乱し、野良犬が残飯を貪っている。

他には、凶暴化した犬と、薬に逃げた負け犬など、とてもバラエティーに富んだ生態系だ。飽きは来ない。

 

――だが、暴れる犬にだけは注意しろ。噛まれたら終わりだ。

 

 

――ドガァアン!!!

 

 

外から聞こえる大きな音が街全体に響き渡り、皆が一斉に見上げた。

高くそびえる壁に視線を移すと、壁の向こうから黒煙が立ち込め、空を黒く染め上げている。

 

街の外では、地獄が広がっているのだろうか――。

 

この世界に、優しさなんてものは無い。

 

 

 

 

 

◆

 

ある日、ユウイチが住んでいたスラムに、突如として現れた裕福そうな男たち。

皆が言うには、アレがこの街を守っているPMCとのことだ。

 

シワ一つないスーツを着こなした役員は、周りを一瞥し、ユウイチを見つけると前に来てしゃがむ。

目線を合わせ、甘い言葉を囁いた。

 

「君を保護したい」

 

価値の無いゴミ溜めに、天井人がやって来る。

 

――怪しいのは分かりきっていた。

 

だが、気付けば隣人が死んでいる。

いつ自分にお鉢が回ってくるか、分からない。

 

そんな日々を過ごしていた彼には、奴らの誘いを断ることができなかった。

 

だが、世の中は――そんな都合がいいものではない。

 

契約を交わさせられた。

 

――アヴァロン所有の戦闘員になって、死ぬまで戦い続ける。

 

 

そんな内容だった。

 

 

 

そうだ、俺は――商品にされたのだ。

 

 

 

 

 

◆

 

そのままトラックに詰められて、とある施設に連行された――。

 

なんだここ……俺と同じ子供しかいない。

銃を持った大人が、検問のように佇んでいる。

 

腕を掴まれ、列に並ばされる。

 

この先はどうなっているのか?

つま先に力を入れる。

 

――背伸びをして、僅かに見えるようになった。

 

その先では、変な機械を持った大人が、子供たちの左腕に押し当てているのが見える。

 

ゆっくり進む列。

前に進むたびに、不安が胸を満たす。

 

俺は――選択を間違えたのかもしれない。

 

ついにユウイチの番が来た。

大人はそのまま、ライン作業のような淡々とした手付きで、肩に機械を押し当てる。

 

チクッと僅かに感じる痛み。

恐る恐る見てみると、そこには「LD-508」という番号が刻印されていた。

 

そして首に、何かを埋め込まれた。

後から分かったが、これは――決して逃げられない首輪だった。

 

 

もう後には戻れない。

 

 

 

――これから出荷が始まる。

 

 

 

 

 

◆

 

俺が商売道具になってから、既に7年が経過しようとしていた。

 

最近の戦況は、あまり良くない。

 

敵国政府に雇われた、ハイテク兵器を扱う新興企業が躍進している。

 

俺が所属する老舗のアヴァロンは、後手に回る状況になりつつあった。

 

「……あぁ、また壊滅したのか?」

 

「はい。敵側はドローン戦術を多用し、後方の輸送部隊に深刻な損害が出ています」

 

「物資の配給もままならず、弾薬が欠乏している部隊も出始めているとか」

 

ユウイチ達の隊舎に、沈黙が流れる。

 

「おい、どうすんだ? 隊長、何か考えはあるのか?」

 

ゴードンがユウイチを、冷やかな目で見つめる。

意地の悪い質問だ。俺たちには何もできないのに。

 

「黙れ。俺たちは、ただの襲撃部隊だ。後方の扱いは会社が決める」

 

確かにユウイチも、最近登場したドローンが気掛かりだったが、決定権は持っていない。

ただ一部隊の隊長でしかないのだ。

 

「はぁ~……ユーイチ、お前はいつもそうだな?」

 

ニコライも、呆れたと言いたげに肩を竦める。

ムカつく野郎だが、奴とは長い付き合いだ。

 

ニコライとゴードンは、酒好き、ギャンブル好きの下らないコンビだ。

だが……他の奴が消えていくさなか、何年も俺の下にいて、生き残っているのだから、運はいいのだろう。

 

――財布の中は、いつも空だが。

 

「仕方ないですよ、隊長も自由に動けないんです」

 

このお利口さんはマーカス。

以前所属していた部隊が、ハンターキラードローンに襲撃されて全滅し、俺たちの部隊に回された。

 

どうやら、こいつも運がいいようだ。こき使ってやる。

 

 

―――――

――――

―――

――

―

 

◆

 

懐かしい、夢を見た。

 

あの頃は、地獄のような日々が続いていた。

 

人扱いされず、毎日が出撃。

誰かが消えるたび、番号を覚えた。

 

それでも――仲間と共に過ごした時間は、スラムより充実していた。

 

――朝日が差し込み目が覚める。

だが、火薬の匂いが漂っている気がして、現実か、夢の中か、分からなかった。

 

パジャマは背中の汗で濡れ、身体は震えていた。

 

着替えなくては、試験まで時間が無い――。

 

ユメは学校を休んでいる。

ホシノ曰く、体調不良とのことだ。

 

『どうすんだ、隊長?』

黙れ。

 

『仕方ないですよ』

止めろ。

 

『お前はいつもそうだな』

クソが!

 

もういない奴らの声が、頭の中に響く。

 

 

 

 

 

◆

 

俺は、ヘルメット団から奪ったAKを構える。

場所は、倉庫裏の空き地。

敷地ギリギリの距離に置かれた人型ターゲットに、狙いを付ける。

 

――横では、ホシノが低倍率の双眼鏡を構えていた。

 

「いつでもいいですよ。距離は200メートル弱。まずは立射で5発、撃ってください」

 

「了解」

 

右手で構えたまま、左手で下から回り込むようにチャージングハンドルを引き、チャンバーに装填する。

 

――これは、AK独特の操作だ。

 

息を止め、安定させる。

優しく引き金を絞り――。

 

――バァンッッ!!

 

「命中」

 

――バァンッッ!!

――バァンッッ!!

 

「命中」

 

――バァンッッ!! バァンッッ!!

 

「命中」

 

銃を下ろし、ホシノを見る。

 

ホシノは、ゆっくり双眼鏡を下ろし、困惑に染まって見開かれた目を、レナに向ける。

 

「全弾命中、ど真ん中です。この距離で、ここまで当てられる生徒はごく一部です……」

 

得体の知れないものを、見せつけられた。そんな顔をしている。

 

「……どこで、覚えたんですか?」

 

「さぁな、夢の中かもしれん」

 

「はぁ……? 夢で能力が身に付くっていうんですか?」

 

本気を出し過ぎたようだ。

 

ホシノは、訝しんだ目で俺を見つめる――疑うのも無理はないか。

 

「もう、いいです。貴方はそういう人でしたね」

 

――ノイズが走る。

 

『仕方ないですよ』

 

ホシノの顔が、以前どこかで見た顔に置き換わっている。

記憶と視界が入り乱れ、手が止まる。

 

脈が不安定になり、呼吸が荒くなる。

 

――まただ。

 

「どうしたんですか?」

 

「ッ……!」

 

こいつにまで感づかれるのは不味い。

なんとか取り繕う。

 

「いや? お前に褒められて嬉しいんだよ」

 

ホシノは、鳥肌が立ったのか、両肩を抱き、震える仕草を見せる。

 

「いきなり何ですか? その顔、気持ち悪いですよ?」

 

酷い言われようだ。

彼女の中で俺は、どういうイメージなんだ。

 

 

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