白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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第4話 卑怯者

 

団員たちの視線が一斉に集まる。張り詰める空気、レナは赤く輝く瞳を周囲に向け、鋭く睨みつける。

 

――いつでも撃てる状態のRPGを担いだ二人も、手を止めてこちらを見ている。

 

ホシノは、レナがリーダーを捕まえるのを遠目に目撃していた。

 

(あの技!?やっぱり、ただの記憶喪失なんかじゃない……)

 

「レナさん!」

 

安全だと判断したホシノは、弾痕でボロボロのバリケードから立ち上がる。無論、本人は無傷だ。

 

 

しばしの静寂の後――

何が起きたか分からず、思考停止していた団員たちが再起動する。

 

「り、リーダー!!」

「は!?いつの間に!?」

「お、おい!卑怯だぞ!?」

「っていうか、お前は誰だよ!!」

 

唯一の支えだったリーダーが人質にされ、ヘルメット団の士気は総崩れだった。

 

団員たちの反応を見て、レナの胸の奥が軋む。

 

だが、人質を取るような作戦なんて散々やってきた。

 

今さら何を――

 

「……今すぐ銃を捨てろッ!!」

 

レナはリーダーの頭に再度銃口を押し付ける。

 

「さもなくばコイツを撃つ!!」

 

リーダーは恐怖で顔が歪むのを必死に堪え、震える声で団員たちに叫んだ――

 

「あ、あたしに構うなぁ!!コイツごと撃っちまえぇ!!」

 

「クソッ!!何も喋るな!!」

 

まさか、自身を捨て駒にするとは――

レナは驚愕し、目を大きく見開いた。

 

 

……このままでは、優位が崩れてしまう。

 

団員たちがやけになって撃ち合いになれば、これまでの苦労が全部パーだ。

そうなれば双方に被害が拡大する最悪の展開になるのは明らかだ。

 

――レナの額に冷たい汗がにじむ。

 

(……ここで俺たちが傷を負ったら、負担は全てユメに回る。)

 

それだけは、避けなければ。

 

誰も動けない。状況は、いつ爆発してもおかしくなかった。

極度の緊張状態。空気は冷え込み、舞い上がる砂がレナの焦燥感を表しているようだ。

 

レナの靴が砂をじりじりと踏みしめる。

無意識にハイパワーを握る手に力が入る。

 

ふと団員たちの手元を見れば、震える指が引き金との間で迷っているように揺れていた。

 

レナは最悪のケースを想定して身構える。

後ろで金属が擦れる音がした。その音に反応して振り返る。

 

今まさにRPGを持った二人が動こうとしている。

 

――やはりこうなるか。

 

だが――この張り詰めた状況を、一人の叫びが切り開いた。

 

「う、撃てませぇぇぇん!!!」

「そうだ!リーダーが倒れたらボスに殺されちまう!!」

「アンタ、クルマのローン残ってるだろ!?誰が払うんだよ!!」

「治療費を払う金も無いのに何言ってんだよ!!」

 

それはレナが想定していた最悪の展開とも違って――

 

「分かった、降伏するからリーダーを離してくれ……!」

 

即座に全員が武器を手放し、両手を上げて跪いた。

 

「オメェら……ッ!!……すまねぇ……!」

 

何が――どうなっている!?

 

別に死ぬわけでもないだろう!

 

「レナさん。危うい所もありましたが、作戦は成功です。さっきの格闘は目を見張るものがありました。私はあなたを見直し――」

 

「ホシノ……」

 

全員が武器を捨てたところで、こちらまで走って来たホシノに指示を出す。

 

「は、はい……?」

 

「奴らの武器を回収しろ。私は……それが終わるまで余計なことをしないよう見張る」

 

――これで、本当によかったのだろうか。

 

(……いや、正解なんて無い)

 

――人質。

その意味の重さを、今になって思い知らされた。

 

 

――彼女は何者なのだろうか。

 

的確に銃だけを狙う並外れた射撃技術、そして圧倒的な格闘戦能力。

砂漠に倒れていたのと関係あるのか?

 

(あのボロボロの戦闘服だってキヴォトスには無い型式。彼女は一体どこから……もしかして外から?)

 

謎が多いが、もし外から来たのなら初対面で記憶喪失と言ったのも納得できる。

あの状況で正直に話し、理解してもらえると考える奴はただのお花畑だろう。

現に自分がそうだった――彼女を疑い、挙げ句殺気まで向けてしまった。

 

それでも、見返りを求めずアビドスを助けると言い切った。

ただ拾われただけなのに、どうしてそこまで献身的に振る舞えるのか?

 

……彼女には裏がある。

 

だが――それを答えてくれることは無いのだろう。

 

 

ホシノはレナに指示された通りに武器を一か所に集め、降伏したヘルメット団を奴らの愛車の前に整列させた。

 

どうするのだろうか。矯正局に突き出すのか?

 

レナは並んだヘルメット団を端から端まで一瞥し――

 

「武器は全て没収する」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ……!それは困る!」

「そうだ!キヴォトスで銃が無いなんて裸で街を歩くようなもんだ!」

 

「……黙れ!!」

 

「ッ!?」

 

レナの声は、必要以上に荒々しく響いた。

 

ホシノはレナの後ろでショットガンを構えているため顔は確認できない。

 

怒っているのだろうか?冷静な彼女らしくもない。

 

「さっさとそのクルマに乗って失せろ。何もしてやらないだけ感謝するんだな」

 

口調が荒い。様子がおかしい。

 

「あぁ……行くぞ!オメェら!!ボスに報告をしなきゃならん!!」

「えー……儲けもなしで行くんですかい?殺されませんか?」

「いいから行くぞ!乗れ!」

 

そうリーダーが叫ぶと団員たちはいそいそとクルマに乗り込み、エンジンを掛けた。

 

最後に、リーダーが乗り込む前にドアに手を置いて振り返る。

 

「すまねぇな、見逃してもらって」

 

そう言い残し、彼女たちは砂煙を上げて引き上げていった。

 

「ホシノ、鹵獲した武器の整備をするぞ」

 

 

ホシノが台車に武器を乗せ、校舎に運んでいる。

 

レナは「この砂を落としてくる」と一言だけ告げ、その場をホシノに任せた。

 

更衣室に行き、砂まみれのパジャマを脱ぐ。

 

鏡の前に立つ。そこには――以前の自分とはまるで違う、下着姿の少女が映っていた。

 

眺めていると、自分の身体なのに……言いようのない罪悪感が胸を締め付けた。

 

鏡から離れる。下着を脱いで、さっさとシャワー室に入った。

 

洗っても洗っても鼻の奥にこびりついた血の匂いは消えない。

身体から滴り落ちた水滴は、赤く染まっているように見えた。

 

レナはシャワーを浴びながら独りごちる。

 

 

 

……俺は、何がしたいんだ。

 

 

 

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