白狼救済録   作:らんらん出荷マン

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第6話 懺悔―2

 

 

 

 

2044年 11月

 

 

先行していた偵察部隊が、ドローンに襲われ壊滅した。

人員の損耗に補充が追い付かない。

本来は襲撃任務に就くはずだった俺たちの分隊に、生存者の有無の確認と、残存装備の回収命令が下った。

 

 

 

 

 

◆

 

ハンヴィー(高機動多用途車)に乗り込んで出撃してから数時間後、目的地付近に到着した。

 

 

「マーカス、停めろ」

 

ブレーキが軋み、鋼鉄の塊が鈍重な音を立てて停止する。

 

「よし。全員降車!……ここからは徒歩だ」

 

 

ユウイチ率いる分隊は霧の立ち込める森の中にハンヴィーを残し、周囲を警戒しながら展開した。

 

だが――小鳥の囀りさえ聞こえない。

まるで森そのものが、こちらを拒絶しているかのように、不気味な静寂が支配していた。

 

 

「静かすぎる……不気味だぜ、おいニコライ!ガムはあるか?」

 

 

何かを感じ取ったゴードンは紛らわすように声をかける。

ニコライはポケットからガムを取り出し放って寄越した。

 

「ほらよ、配給も少ないんだ。大事に食え」

 

 

ユウイチはそんな2人を横目にマーカスに確認する。

 

 

「自律式ドローンの反応はあるか?」

 

「いえ、確認できません。取り敢えずは、安全かと」

 

ガムを噛む2人に呼び掛ける。

 

「おい!前進だ、10メートル間隔の縦隊で目的地まで行く。空と地雷に注意しろ」

 

「「了解」」

 

 

 

 

◆

 

数十分後、方角を頼りに進んだ先、林を抜けた向こうから――火薬と、何かが焦げた臭気が漂い出す。

 

「……集合しろ」

 

近くの茂みに身を潜め、周囲を確認する。

視線の開けた先で、黒煙が立ち上がっていた。

 

「クソ!間抜け共め、何であんな所でやられてんだ!このまま行ったら的になっちまう」

 

横でゴードンが悪態をつく。

 

「黙れ、ゴードン。……周囲を警戒。姿勢を低くして現場に近付く」

 

ニコライが銃のセーフティを外し、準備する。

 

「ニコライ、先行しろ。マーカスは後方を警戒。よし……行けるな?ムーブ!」

 

覚悟を決め、林から飛び出す。

 

周りの音が無い。

あるのは――泥の中を進む4人分の足音だけ。

 

徐々に見えてくる黒焦げの偵察車、装備は全て破壊されてるように見えた。

 

「よし、使える物がないか調べる。ニコライ、警戒を頼む」

 

「イエッサー」

 

(何もない、全部黒焦げだ……生存者なし……ん?)

 

現場から少し離れた草むらに、何かが動いてるのが見えた。

マーカスにハンドサインを出して、即座に銃を構える。

足音を殺して近付くと、そこにはアヴァロン所属のパッチを付けた1人の少女がいた。

 

「……おい」

 

「ひぃい!殺さないで……!え、味方……?」

 

すっかり怯えきった様子で、顔は涙でベタベタだ。

 

「第4中隊アルファチーム、LD―508 ユウイチだ。お前は?」

 

「だ、第7偵察隊……EC―1001、ヘイリーで……す」

 

彼女はずっとここにいたのか?

数カ所、止血した跡がある。全身に血が滲んでいて痛々しく、顔は傷だらけ。

彼女のBDUは煤と泥で汚れている。

爆発に吹き飛ばされたのだろう、生きているのが奇跡だな。

 

「隊長、報告にあった部隊と一致しますね、間違いないです。彼女を回収して早く帰りましょう」

 

マーカスも何かを感じている。確かに長居は無用だ。

 

「よし手を出せ……お前を担いで、とっとと撤収する」

 

「よ、よろしくお願いします。はぁ……助かった……」

 

ヘイリーを担ぎ上げ、ニコライとゴードンの元へ戻る。

 

「お!戻ったか。……へぇ、生存者か。よく見つけた……しかも結構可愛いな、どうだい?今夜お茶でも?」

 

「黙れ。ニコライ、冗談はよせ」

 

いつもこんなノリだが本気じゃない、場を和ませるために言ったのだろう。

 

だが――いきなり口説くのはセンスが無い。

 

 

「あ……あはは、遠慮しておきます……」

 

 

再び隊列を組み、静かに現場から離れる。

 

 

この任務は楽勝に思えたが――そう簡単にはいかなかった。

 

 

 

◆

 

ヘイリーを担いでいる分、泥が足を絡め取り、他の奴よりペースが落ちる。

 

《どうしたユーイチ?もう疲れたのか、情けないぞ?俺が担ぐのを変わろうか?》

 

無線機からニコライの軽口が聞こえる。

 

こいつ、善意のつもりか?下心が丸出しだ。

 

 

「黙って歩け、ニコライ」

 

「わ、私……重くないですよね?」

 

「………」

 

「何か言ってくださいよ――」

 

「お前、年はいくつだ?」

 

「えっ……!?は、はい。16です」

 

「……若いな。ヘイリー、お前も孤児か?」

 

「はい……孤児院にいました。ここで働かされるようになったのは最近です」

 

「そうか」

 

「いい加減、疲れました……シャワーを浴びて、ちゃんとしたベッドで寝たいです」

 

「……そうだな。ヘイリー、好きな物はあるか?」

 

「もの?ですか?そうですね……ぬいぐるみが好きです……」

 

「そうか、帰ったら何か買ってやる――」

 

「そんな!悪いです!」

 

《ヘイリーちゃん。隊長が何か奢るってのは珍しいんだぜ?有り難く受け取っておけや》

 

「黙れ。ゴードン………他の奴らは残念だったな」

 

「……はい、優しい人たちばかりでした」

 

 

――

 

ついにアヴァロンは――女も徴用するようになった。

 

クソッ……吐き気がする。

 

 

 

 

 

◆

 

ヘイリーを回収してから十数分後――

 

 

 

一つ気掛かりがある。焼けた死体とバラバラの装備。

ここまで徹底的に破壊しておいて、どうして彼女だけが生きているのか。

 

奴らが見逃すとは思えない――ドローンは残忍で冷徹だ。

遠方に見える目的地の森は暗く、ざわざわと揺れている。何か、言い知れぬ悪寒が背筋を伝う。

 

 

 

「警戒を強化、急ぐぞ!」

 

 

 

 

 

◆

 

しばし歩き、林を抜けて森に近付く。

 

杞憂だったか?そう思った時。

 

先ほど通ってきた林の木が揺れる。その隙間を何かが通りすぎた。

 

冷たい汗が額に垂れる。恐る恐る耳を傾けると――微かに自然界には無いような羽音がする。

 

 

何か来る――

 

 

次の瞬間、赤い光がユウイチ達を捉え――

 

 

悪魔のサイレンが鳴り響く。

 

 

――ヴゥゥゥン!!!!

 

 

「――ドローン!!!!」

 

 

ニコライが叫ぶが、その顔は凍り付いていた。

 

 

数機が四方から迫ってくる。

 

 

――クソッ!!ヘイリーは餌だったか!!

 

 

《そんな!?センサーに反応は無かった!!》

 

ユウイチの後方にいるマーカスが狼狽している。

 

反応無し?潜伏していたのか、無人機の癖に小賢しいことをする。

 

無機質な赤いセンサーだけが生き物の眼のように光り、襲いかかってきた。

 

《周りに5機いやがる!》

 

ゴードンが即座に対空射撃を開始する。

 

《2機!4時方向!近付けるな、自爆されるぞ!!》

 

ニコライが照準を合わせ。

 

《隊長!!囲まれています!!》

 

マーカスはパニックだ。

 

「ぁ……そんなぁ……」

 

背中越しで聞こえる、ヘイリーの絶望に染まった声。

彼女を担いだままの俺は、これ以上速く動けない。

 

まだ森まで遠い。

 

どうする、この場で迎撃するか?

 

 

――いや、すでに辺り一帯のドローンが集結しているはずだ。留まれば、押し潰される。

 

 

このままでは全滅だ――決断をしなければならない。

 

 

 

良心と理性が、身を切り刻むような葛藤でユウイチを蝕む。

 

 

 

俺は……万能ではない、仲間を守る義務がある。

 

 

3人か、1人か。顔が強張る。

 

 

そして――

 

 

苦渋の決断を下す。

 

 

彼女を放り投げた。

 

 

 

 

 

 

「………ぇ?」

 

 

 

 

 

 

ヘイリーは置いて行く。

 

また、番号を覚えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Affiliation:7th Scouting Party

Name:EC-1001 Hailey Morgan

Status:K.I.A.I

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