男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?   作:赤石アクタ

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第十一話 ダンジョンコア『産声を振り撒くもの』

──ダンジョンコア。

 

 目の前のソレは対峙する俺たちを明確に敵だと認識している様子だった。

 

 ヤツの唇から滴り落ちる涎が形成した『人型』達も、それは同様である。

 

 

「まずは雑魚を殲滅しましょう!」

 

 

 配信と同じように、アレスさんが前へ出て剣を構える。彼はそのまま淀みない動作で敵を──

 

 

「──タだ、しイょ」

 

「──え?」

 

 

──肉が引き裂かれる音。

 

 問題なくモンスターを斬り裂いたアレスさんだが、しかしその太刀筋は斬る寸前に少し鈍ったように見えた。

 

 彼の動揺の原因は明らかである。アレスさん以外も皆同じ衝撃を受けている様子だった。

 

 

──今、斬る寸前⋯⋯人型が言葉を発した⋯⋯?

 

 

「⋯⋯ボスが言葉を発するのは、そこまで珍しくない」

 

「え?そう、なんですか⋯⋯?」

 

 

 ねこまたさんが表情を歪めながらも説明をしてくれる。

 

 しかし、言葉を発するのに驚いた訳ではないのなら⋯⋯

 

 

「──まチがってナ、イよ」

 

「ッ!?う、ぁ⋯⋯やっ、やめろッ!!」

 

「──せいギの、ミかた、ダぁ」

 

「ッ⋯⋯やめ、てくれ⋯⋯っ」

 

 

 人型を前にしたアレスさんは酷く動揺している様子だった。

 

 顔は青ざめ、額には汗が滲み、明らかに攻撃の精度が鈍っている。

 

 その様子を見て、俺達は嫌でもヤツの『攻撃方法』を理解してしまった。

 

 

「ッ⋯⋯私達も応戦するぞ!」

 

 

 動きの鈍ったアレスさんをすり抜け、こちらにまで人型が迫ってくる。

 

 そして最悪なことに、ヤツらは俺達の想像通りの攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「──いキ、テてくレて⋯⋯アり、がとォ」

 

「ッ⋯⋯くそ、クソッ⋯⋯マジで最悪⋯⋯ッ」

 

 

 産声の隙間から滑り込むように耳元へ入ってくる言葉。

 

 ねこまたさんは苛ついた様子で耳を塞ぎ。

 

 

「──モっ、と⋯⋯どりョく、しナ、いトぉ」

 

「⋯⋯あー、やっぱ精神攻撃(こういう感じ)かぁ⋯⋯」

 

 

 ヒマワリさんは顔を引き攣らせ。

 

 

「──あヤつリ、にんギょオさ、ン?」

 

「ッ⋯⋯」

 

 

 オリヴィアさんは感情を見せないように迎撃を続ける⋯⋯しかしアレスさんと同様、明らかに本調子ではなかった。

 

 

「⋯⋯」

 

 

──これは不味い。

 

 俺は直観的にそう思った。

 

 今のところはそれぞれ応戦できてこそいるが、しかしこのままでは意味が無い。

 

 

「⋯⋯アイツだ」

 

 

 奥で鎮座しているあのデカブツを殺せなきゃ、恐らくジリ貧でこちらが敗北する。

 

 その証拠に、今もあの巨体は唇から垂れる涎で人型を作り続けていた。

 

 人型は推定無限湧きに加え、生成スピードもかなりのもの。ヤツは唾液の分泌が多いタイプらしいうわ自分で言っててキモくなってきた。

 

 

「ふぅー⋯⋯」

 

 

 とにかく、ここで取るべき手段は速戦即決。

 

 できる限り早くヤツを殺してこの地獄みたいな攻撃を止めさせないといけない。

 

 どうやってるのかは知らないが、ヤツはそれぞれの『思い出したくない記憶』をフラッシュバックさせ、そして人型にそれを抉るようなセリフを言わせてこちらの精神力を削っている。

 

 その人型もそこそこ強く頑丈なのが地味に厄介だ。やはり短期決戦で決めるのが最適解⋯⋯!

 

 

「⋯⋯⋯⋯ッ」

 

 

⋯⋯俺もエグめの記憶がフラッシュバックしてこそいたが、しかし俺は事前に魔法少女リリちゃんから『ここのボスは辛い』と聞かされていた。

 

 あの脅しと『ボスについての事前説明一切無し』という状況に内心ビビりまくっていたおかげで、俺は一応今も平静を保つことができている。

 

 

──俺が決めるしかない。

 

 

 俺は一度深呼吸をしてから強く剣を握り直し、そのまま人型の群れへと走り、そして跳んだ。

 

 

「──ふッ⋯⋯はッ⋯⋯」

 

 

 人型を踏みつけ足場にする形で一気に本体へと距離を詰める。

 

『加護』で強化された肉体は、人型の頭部を容易く潰しながら一歩でかなりの距離を跳躍していく。

 

 

── 一歩、二歩、三歩。

 

 

 その勢いのまま三歩目で大きく跳び上がった俺は、真っ直ぐに本体の首目掛けて剣を構えた。

 

 

──()れる⋯⋯ッ

 

 

 間合いに入る寸前。ヤツの唇が開き、そこから嗄れた声が紡がれた。

 

 

「──ヒと、ごろシ」

 

「⋯⋯お前が言うのかよ」

 

 

── 一閃。

 

 

 俺の剣は、寸分の狂いなくヤツの首を切断した。

 

 

「ッ、まだだ新入りッ!まだ魔石を──」

 

「──分かってる」

 

 

──まだ『魔石』を砕いていない。

 

 初撃で首を斬ったのはまず涎による人型の生成を止めるため。そしてヤツの防御反応から見て頭部に魔石がある確率は低い。

 

──恐らく魔石があるのは身体の中心位置⋯⋯!

 

 俺は着地と同時に身体を捻り、振り向きざまにヤツの心臓部目掛けて剣を『投擲』した。

 

 

「──()った」

 

 

 しかしその動作ゆえ、俺はヤツの最後の攻撃を避ける機会を失った。

 

 俺の剣が命中するのと、横から薙ぎ払うように迫ってきていたヤツの腕が俺を叩き潰すのは、ほぼ同時だった。

 

 

──衝撃音。

 

 

「⋯⋯や、やったか⋯⋯!?」

 

「余計なこと言うなアレス!!新入りがやられてる可能性すらあんだぞ!?」

 

 

 どうやら精神攻撃は終わったらしい。未だ憔悴した様子ではあるが、ダンジョン攻略組の面々はこちらの心配をしてくれていた。

 

 

「新入りっ!!生きてるか!?」

 

 

 焦った様子で真っ先に駆け寄ってきてくれたねこまたさんに対して俺は──

 

 

「──これで討伐完了、ですね」

 

 

──『剣』を支えにして、何とか応えることができた。

 

 

「⋯⋯お前、なんで剣を⋯⋯」

 

 

──ダンジョン内では『加護』を用いて『武器』を生成できる。

 

 攻撃を防ぐだけの用途だったため本当は盾とかの方が良かったのだろうが、咄嗟に生成できたのは馴染みのある剣だった⋯⋯あと、剣ならもし仕留め損なってても戦えるし。

 

 しかしその心配は杞憂だったようだ。俺の剣が魔石を完璧に砕き、ボスとやらは既に絶命していた。

 

 

「⋯⋯ははッ⋯⋯俺が、俺が殺した⋯⋯ッ」

 

 

 未だ心臓が早鐘を打ち、勝利の優越感と高揚感に包まれている俺は、その興奮に任せて頬についた血を素手で乱雑に拭いとった。

 

 何はともあれ、こうして俺の初ボス戦は華々しい勝利で──

 

 

「──あ、れ⋯⋯っ?」

 

「お、おい新入りっ!!」

 

 

⋯⋯元の身体なら、この程度の負傷で気絶したりなんてしないのにな⋯⋯

 

 なんて女々しい言い訳をしながら、俺の意識はぷつりと途切れるのだった。

 

 

 

──ダンジョンコア『産声を振り撒くもの』 討伐完了──

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