男に戻るためにTS姿でダンジョン配信するのは本末転倒か否か!?   作:赤石アクタ

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第二話 そもそもダンジョンとは!?『加護』って何!?『魔法』が使えるって本当!?調べてみました!!

──ダンジョンに入った人間には『加護』というものが付与される。

 

『もの』と言っても実体がある訳ではなく、簡単に言えばいわゆる『バフ』に該当するだろう。

 

 ダンジョン内ではこの『加護』によって、著しく身体能力が向上するのだ。それこそゲームキャラクターのように動くことも可能な程の身体強化である。

 

 それだけではなく『加護』を『消費』する事で様々な恩恵を得ることもできる。しかし『消費』することで『加護』は減少し、使った分だけ身体能力が低下してしまう、と言った具合だ。

 

 つまり⋯⋯

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──つまりダンジョン攻略っていうのは、『加護』のリソース管理が最も重要なんだ」

 

「へぇ?『加護』なんて聞いた事も無かったわ。特に何も感じないけど」

 

 

 先日とは別のダンジョンを歩きながら、隣のヒナへダンジョンについての解説をしてみるが、ヒナは本当にダンジョンについての知識が無いらしかった。

 

 人気と言えども、やはり未だサブカルコンテンツの域を出ないダンジョン配信。だが『加護』といった言葉はその奇怪さゆえ、一時期ニュースなどでも話題になっていたはずなのだが⋯⋯

 

 ヒナは『加護』とやらを確かめるように、両手をぐっぱっと握ったり開いたりしている。そんな様子がどこか可愛らしかった。

 

 

「そう、そこが重要なんだ。『加護』は基本感じ取れないんだよ」

 

「⋯⋯?どういうこと?」

 

 

 ヒナは怪訝そうに首を傾げる。

 

 

「──『加護』は存在するし使用もできるが、『量』を確かめる手段が存在しないんだ。どれだけ使ったかも、あとどれだけ残ってるのかも分からない」

 

 

 俺の言葉に、ヒナは数秒沈黙した。

 

 

「⋯⋯『加護』を消費するというのは、身体能力の低下を招く⋯⋯そう言ってたわね?」

 

「そうだ。つまり、調子に乗って『加護』を使いまくってると⋯⋯」

 

「「⋯⋯⋯⋯」」

 

 

 俺もヒナも、その先を言葉にすることはしなかった。

 

 大前提として、ダンジョン内のモンスターを生身の人間が討伐するなんて不可能だ。訓練も受けていない一般人がまともにダンジョンを攻略できるのは、この『加護』のお陰だった。

 

 

「お陰で謎が解けたわ。ダンジョン配信者って皆ありえない動きしてるから、全部ヤラセだと思ってたの」

 

「お前ほんとダンジョン興味無いのな⋯⋯」

 

 

 ヒナは確かに優秀なのだが、興味のないものにはとことん触れないタイプの人間なのだった。

 

 

「ねぇ、『加護』の『消費』って具体的には?」

 

 

 しかし、俺の説明で少し興味を持ってくれたのか、いくらか声を弾ませて質問をしてくれる。可愛い。

 

 

「使い道はいくつかある。例えば⋯⋯」

 

 

 俺は少し考えてから手を前に掲げ、そこに剣を『生成』した。

 

 

「⋯⋯剣を、作ったの?」

 

「武器の生成。最も一般的な『加護』の使い方だ。俺は基本これしか使わない。というか⋯⋯まぁいいや」

 

「そういえば、昨日の配信でもいつの間にか剣を用意してたわね⋯⋯」

 

 

 ヒナは少しほっとしたように表情を綻ばせた。

 

 

「幼馴染が銃刀法を犯してなくて良かったわ⋯⋯」

 

「⋯⋯あぁ、うん」

 

 

『ダンジョン内も日本では』と思いもしたが、まぁ実際、半ば治外法権ではあるため何も言えなかった。

 

 

「剣以外も出せるの?」

 

「基本なんでも。銃とかも出せるよ」

 

 

 しかし確か、銃を出すのは『加護』の消費が激しいとかネットで見たような気もする⋯⋯全然ソースとか無いけど。

 

 こういった迷信が生まれやすいのも、『加護』の量を把握できないという性質ゆえだった。

 

⋯⋯まぁそもそも、銃弾よりも剣か棍棒で思いっきりぶん殴った方がダメージが入る。『加護』のある戦闘とはそういうものなのだ。

 

 ちなみに、『加護』はダンジョンの外に出ると消滅する。これは、生成した武器を含めた『加護による影響全て』が消えるという意味である。

 

 それがより、ダンジョンの内外を隔てているようで不気味に思えてしまう。そのくせ、配信の電波は何故か外にも届くのだから不思議なものだった。

 

 

「本当に便利ね⋯⋯どういう仕組みなのかしら⋯⋯」

 

「⋯⋯あと⋯⋯」

 

「⋯⋯?」

 

「──『魔法』が使える」

 

「⋯⋯⋯⋯え?」

 

 

 俺の突拍子も無い言葉に、やはりヒナは怪訝な顔を向けてきた。

 

 

「⋯⋯確かに、『魔法』を使う配信者の切り抜きは見たわ。でも⋯⋯流石にアレは⋯⋯」

 

「本当のことだ。『加護』を消費すれば現実離れした現象を起こすことも可能なんだ」

 

「⋯⋯か、カモメも⋯⋯使えるの?」

 

 

 ヒナが喉を鳴らし、恐れと興味が入り交じったような瞳で俺を見つめる。

 

 

「⋯⋯俺は⋯⋯」

 

「⋯⋯ごくり⋯⋯」

 

 

 俺は意味深に手を前にかざしながら、間をたっぷりと取り⋯⋯

 

 

「──俺は使えない⋯⋯ッ!!!」

 

「は?」

 

 

 そのまま前へと崩れ落ちた。

 

 ヒナが可愛らしく口をぽかんと開ける。

 

 

「⋯⋯え?使えないの?」

 

「うぅっ⋯⋯魔法はマジで『センス』らしい⋯⋯!『加護』をイメージして微かにでも感じるところから始めましょうってぇ⋯⋯!!」

 

「うわなんかめっちゃ調べてそう」

 

 

 今の見た目こそ少女だが、元々俺は男子高校生。憧れるなと言うのが無理な話である。

 

 しかし、俺にはその『センス』というのものがマジで皆無だった。

 

 

「詠唱まで考えてたのに⋯⋯!!」

 

「カモメ⋯⋯」

 

 

 ヒナが気の毒そうに背中を摩ってくれる。

 

 

「⋯⋯でも、いいんだ⋯⋯魔法は加護の消耗も激しいらしいし⋯⋯結局、武器を出すだけの俺のやり方が一番効率的なんだ⋯⋯はは、ははは⋯⋯」

 

「カモメ⋯⋯!!」

 

 

 悲痛そうな声と共に、ヒナが優しく抱きしめてくれる。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

⋯⋯ヒナが優しいのは元々だが、しかしこんな風に抱きしめられるのは初めてだった。

 

 これは、俺の身体が女になったからなんだろうか。

 

 彼女の温かさを感じていると、『こうしてヒナと触れ合えるのなら、この身体も悪くないな』なんて思えてしまうのだった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「こ、こほんっ⋯⋯!とにかく!ダンジョンで大事なのはいかに『加護』を減らさないかということだ!当然ヒナは使用禁止だからな!!」

 

「分かってるわ。そもそも無理言って連れてきてもらったんだもの。自分の安全を最優先に行動する」

 

「まぁ、俺から離れなければ問題ない。この辺はまだ浅いしな」

 

 

 深くに進む程、構造は複雑になり、モンスターは強くなる。そして長期間の探索ともなれば『加護』の減少は避けられない。

 

⋯⋯『上手くできすぎている』と感じるのは考えすぎだろうか。

 

 

「⋯⋯ふふ」

 

「⋯⋯?ヒナ?」

 

 

 ヒナの方に目を向けると、にやにやとした彼女が目に入る。

 

 

「頼もしいのね?」

 

「⋯⋯からかうなよ」

 

「見た目はこんなに可愛いのに」

 

「──っ!?お、おいヒナ!?」

 

 

 唐突に、ヒナに頭を撫でられる。

 

 そのまま手櫛で髪を梳かれ、軽く抱き留めるように引き寄せられる。

 

 や、やっぱり⋯⋯

 

 

「ひ、ひな⋯⋯っ」

 

 

 やっぱり今のヒナは距離感がおかしい⋯⋯!!

 

 さっきは『悪くない』とか思ってたけどやっぱ無理だ!このままだと俺の心臓が持たない!!

 

 ヒナを押しのけようともしてみるが、今の体格差ではやはり勝ち目がない。

 

 

「や、やめ⋯⋯んっ⋯⋯♡」

 

 

⋯⋯いや、今の身体であっても、『加護』のある状態に慣れている俺ならば、彼女を押しのけることなど簡単だろう。

 

 そう、しないのは⋯⋯

 

 

「お、おいひなっ⋯⋯」

 

 

 なんとか理性を保ちながら、ヒナに抗議の視線を向けてみる。

 

 しかし、彼女はあまりそれを気にした様子は無く、こちらをじっと見つめ返す。

 

 

「嫌だった?」

 

「っ⋯⋯それ、は──」

 

「──私は嬉しいわ」

 

 

 こちらが言葉を重ねるより早く、彼女の言葉が流れ込む。

 

 

「カモメと、こうして気軽に触れ合えるのが⋯⋯すごく嬉しい⋯⋯」

 

「──」

 

 

 俺は柔らかな彼女の笑顔に見惚れ、それ以上の言葉を紡げなかった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「こ、この辺からはマジでモンスター出るからな!?さっきみたいなのは無しだぞ!?絶対だぞ!?」

 

「えぇ、我慢するわ」

 

「我慢⋯⋯」

 

 

 未だ顔の赤い俺に、ヒナはにこやかに微笑む。

 

 ダンジョンについての説明や唐突なスキンシップなど、様々な出来事があったがしかし、ここからが今日の目的である。

 

 今回ダンジョンに来た目的は、『この身体でモンスターと戦う』ことだった。

 

──先日の思い出したくもない『初配信』。

 

 あの時俺は、『今の身体では元のように剣を扱えない』という事実を認識した。

 

 つまり、『今の身体でもある程度戦えるように訓練を積む』というのが現在抱える急務なのである。

 

 かけられた呪いを解呪するため、配信でお金を集めるという案こそあれど、俺としてはやはり呪いをかけてきたモンスターを討伐するプランも諦めたくは無いのだった。

 

 

「あ、ところでこの前の配信ってどうだったんだ?」

 

 

 せっかく思い出したので、ヒナに聞いてみる。配信の管理はまるっきり彼女に任せていたのだ。

 

 まぁ正直、あんなのが伸びただなんて思いたくないが──

 

 

「──普通にバズってるわ」

 

「バズってんなよぉ!!」

 

 

 バズっているらしかった。

 

 

「既にだいぶ伸びてるから、収益化も遠くないわよ」

 

「⋯⋯いっそ爆死してれば、討伐一本でいけたのに⋯⋯」

 

 

 俺の後ろ向きな期待は、残念ながら裏切られてしまった。

 

 

「エロ売りだから、規制とかは気をつけないとね⋯⋯」

 

「エロって言うなよ⋯⋯あとそれよりグロに気をつけないとダメだろ」

 

「でもエロ系って、再生数回っても意外とチャンネル登録者は伸びないのよね」

 

「エロって言うのやめてくれ、頼むから」

 

「切り抜きは特に再生数の伸びがすごいわ」

 

「だからエロって⋯⋯え?切り抜き?」

 

 

 配信に疎い俺でも知っている言葉につい反応してしまう。

 

 

「はぁ!?切り抜き!?素人の初配信だぞ?誰が切り抜いたりしてくれるんだよ!?」

 

「ふふーん」

 

「あ⋯⋯」

 

 

 俺の痴態が切り抜かれてまとめられているという事実に半ばパニックになって問い詰めるが、そんな俺にヒナは得意げな表情で指ハートを作って見せる。

 

 

「──お前かよぉ⋯⋯!」

 

「今どきダンジョン配信なんて、リアタイ除けばクリップくらいしか伸びないわよ。人気⋯⋯つまりは金銭的利益を考えると、こういうのは必須なの」

 

 

⋯⋯俺の幼馴染は金に魂を売ってしまったのだろうか⋯⋯しかも俺の魂を。

 

 だって、あの配信で切り抜かれるのなんて絶対⋯⋯

 

 

「なぁ⋯⋯切り抜き、ってさぁ⋯⋯」

 

「⋯⋯?大丈夫、ちゃんと『見どころ』をまとめておいたわ」

 

「──」

 

 

『見どころ』が何を指すかは一目瞭然だった。

 

 さっきのように崩れ落ちたい気分だったが、モンスターが出現しうる今、当然そんな余裕は無いのだった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──ふんっ」

 

 

 剣を振り、モンスターの肉を引き裂く。

 

 モンスターの心臓である『魔石』を抉りだしそのまま地面に叩きつけると、モンスターは糸が切れたように動きを止めた。

 

 

「なんだ、全然戦えてるじゃない」

 

「あぁ、意外といけるな」

 

 

 多少ふらつきはするが、剣の重さと身体のリーチにさえ慣れてしまえば、以前のように戦うことも難しくなさそうだった⋯⋯前から思っていたが、やはり俺には戦いのセンスがあるのかもしれない。

 

 

「この調子なら⋯⋯ん?」

 

 

 安堵のため息を零していると、離れた場所でモンスターと戦っている三人組の男冒険者が目に入った。

 

 相手しているモンスターは、ムカデのように細長い体躯から伸縮する爪が何本も伸びており、そこそこ大きさもある。

 

 動きは鈍いように見えるが、しかし戦いに慣れていないのか三人組は苦戦している様子だった。

 

 

「──ひぃっ」

 

「あっ──」

 

 

 そのうちの一人が恐怖から尻もちをついて隙をさらした瞬間、モンスターの爪が的確に伸びる。

 

 

「──ふッ」

 

 

⋯⋯しかし爪よりも速く、俺の剣がモンスターの首を斬り落とした。

 

 

「よし⋯⋯っ」

 

 

 即座に『魔石』を抉り出しながらも、俺は確かな手応えを感じてしまう。

 

『そこそこの距離を一瞬で詰め、高く跳んで上から首を斬り落とす』⋯⋯今の一連の動きは、元の身体と比較しても遜色のない程に洗練されていた。

 

 下から上に斬り上げる動きは筋力的に速度が落ちるが、上から下に剣を振り下ろすだけならばそこまで差は出ない⋯⋯!

 

 

──動けるぞ⋯⋯!俺は今の身体でも充分戦える⋯⋯!!

 

 

「怪我はありませんか?」

 

 

 高揚する気分のまま、笑顔で三人組に声をかける。

 

 タメ口と違って、敬語は話し方が男女であまり変わらないので楽だった。

 

 

「⋯⋯あっ⋯⋯は、はい!ありがとうございました!」

 

 

 俺の声ではっとしたように顔を上げた三人組は、こちらにお礼を言ってからとぼとぼとダンジョンの出口へ向かっていく⋯⋯まぁ、あんな体験をしてなお進むというのは難しいだろう。

 

 

「⋯⋯」

 

 

⋯⋯しかし、この身体はコミュニケーションにおいて本当に強いな。

 

 元の身体でも、今のように他の冒険者を助けたことはあるのだが、助けたとしても大抵は『モンスターの返り血を浴びた大男』という余計なトラウマを植え付けてしまうのだった。

 

 なんとなく申し訳なかったその現象も、この身体では起きようが無いのである。

 

──大きな剣を振るっていようと、返り血でびしゃびしゃになっていようと、美少女は美少女なのだった。

 

 

「す、すっげー可愛い子だったな⋯⋯!」

 

「あ、あぁ⋯⋯し、しかもさ⋯⋯?」

 

「う、うん⋯⋯『見えた』⋯⋯よな」

 

 

──そう、今の俺は可愛いし、見え⋯⋯見え?

 

 

「⋯⋯ぁ」

 

 

 下を向いて、最悪の事実を⋯⋯今の自らの服装を確認する。

 

⋯⋯今回は配信中を想定した検証だったため、衣装も昨日に引き続き⋯⋯ヒラヒラとしたスカートだった。

 

⋯⋯そう、スカート。そして俺はさっき高く跳び上がって⋯⋯見え⋯⋯

 

 

「〜〜〜っ!?!?」

 

 

 俺は顔を真っ赤にして意味も無くスカートをぎゅっと握りしめた。今そんなことをしてもしょうがないのに⋯⋯

 

 

「さっ、最悪っ⋯⋯マジ最悪⋯⋯っ」

 

 

⋯⋯なんか、昨日もこんなことをしていなかったか⋯⋯?

 

 

「⋯⋯カモメ」

 

「はっ⋯⋯!ひ、ヒナ⋯⋯」

 

 

 名前を呼ぶ声にびくりと身体を震わせ振り返ると、微妙な表情をしたヒナがそこに立っていた。

 

 彼女は少し考えたあと、微妙な表情はそのままにサムズアップをこちらに向けてきた。

 

 

「⋯⋯その⋯⋯今の動作、すごい女の子っぽかったわよ」

 

「っ!?うるさっ⋯⋯うる、せぇ⋯⋯っ」

 

 

 俺は顔を真っ赤にしたままその場に踞り、『もう二度とスカートは履かない』と誓うのだった。

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