クローン姉妹の生きどころ 作:涙で濡れた枕
どうでもええわ!って人はプロローグにどうぞ。
クローン達について
アハト
本作の主人公。8番目のクローン。黒髪黒目を持つ。効率化された鍛錬により腹筋が割れているくらいには筋力があるが、体は華奢で胸は控えめ。身長は158cm。左目を失明しており、黒い眼帯をつけているが、微妙に傷跡が眼帯からはみ出ている。
前世の記憶を持っており、自身のアイデンティティというものを保持している。
そのため、実験施設での生活に不満を抱いており、施設を抜けだして普通の生活を営むことを目標に掲げている。
姉妹に絆されてしまわないよう距離を取るようにしていた。が、姉妹のことを見捨てきれなかった。
キューレ
茶髪で快活な笑顔がよく似合う普通の女の子。何の変哲もない普通の村で村娘をしていたが、ある日才能に溢れることに気付いた施設の人間たちが彼女を攫い、クローンの素体として活用されてきた。
本人としては村に帰りたいと考えているが、それはそれとして妹達のことが心配で放って置けない。
所持スキル:『未来視の魔眼』『癒しの聖星』『流知の魔眼』『魔香』『風流の心得』『??の聖星』『??の聖星』『??の心得』『??の聖星』
アインス
クローン姉妹の1番上。アハト同様剣技が得意。が、姉妹をまとめるのは苦手。灰色の髪と灰色の目を持ち、右目には数秒先の未来を読むことができる『未来視の魔眼』を持っている。
姉妹達のことは大切に考えており、妹達のためなら自身の命を捨てることすら躊躇わない妹想いの姉。
ツヴァイ
2番目のクローン。金髪ツインテールの明るいムードメーカー。2丁拳銃をメイン武器としており、基本的には後方からの援護射撃により戦う。
姉妹皆仲良くしたいと思っている。以前は仲が良かったアハトが、最近は全然話してくれないことに不満を抱いている。
ドライ
3番目のクローン。目元にクマがあるのが特徴的で、燻んだ灰色の髪を持つ。基本的に戦闘を行うのが苦手だが、魔法理論の構築や魔法の解析などが得意。なお、魔法を扱うことはできない。
姉妹仲は良ければまあいいんじゃないかくらいの認識。アハトのことはどうでもいいと思っている。
フィーア
4番目のクローン。魔法とは異なる『癒しの聖星』の力を持つ。
白い肌に合わせるかのように白い髪を持ち、姉妹の中で誰よりも細い体をしている。
皆のことは大好きだが、アハトは少し苦手。
フュンフ
5番目のクローン。派手なものが好き。
業火の中にいると錯覚を覚えるほどの真っ赤な癖っ毛を持ち、アハト同様左目は紅の眼帯を装着している。銃火器に魔力を込めて放つ戦闘スタイルで、銃火器などの媒介なしに魔法を行使すると暴走して失敗してしまう。
魔力の流れを追うことができる『流知の魔眼』を持っている。
姉妹の中で1番アハトと仲が良かった。
アハトが左目を失う原因になってしまったため、アハトに負い目を感じている。
ゼックス
6番目のクローン。腰まで伸びる緑色の長髪を持ち、大剣を装備している。風の流れを読むことができる『風流の心得』の持ち主で、風を扱う魔法を得意とする。187cmと姉妹の中で1番身長が高く、胸も大きい。
あまり物事を深く考え込まない性格なので、アハトの行動をそこまで問題視していない。
ズィーベン
7番目のクローン。姉妹のまとめ役で、青色の髪をポニーテールにした、真面目な少女。魔力を体に吸い寄せる『魔香』の持ち主だが、本人は魔力の流れが全く見えないため、魔力の流れを少しでも感じれるように補助眼鏡を身につけている。
協調性のないアハトに手を焼いているが、嫌っているわけではない。
ノイン
9番目のクローン。限りなく白に近い空色の髪を持つ。常に眠たそうにしている。魔法を扱うのが得意。
ゼックス同様、アハトの行動を問題視していない。
オレは1人訓練を続ける。
離れた場所では、8人の姉妹が仲睦まじく剣を交えたり、魔法の詠唱を行いあったりしているところだ。
だが、オレは1人だ。
あの集団に馴れ合うつもりもない。変にオレの内面を知られるのは、面倒だ。
だからオレは1人でいる。
オレが、この施設から抜け出すためにも。
「ねえ」
疲れたような少女の声が、オレの耳に届く。
この声の主は、オレの姉……。あるいは、オレの
ああ、そう。オレも結局、あいつらと同じクローン人間なんだ。母なんて存在しない。父親もいない。
あるのは遺伝情報だけ。
ただそれだけの、虚しい存在。
だからクローンは、クローン同士でつるんで何とか家族を作ろうとする。
……反吐が出る。オレはごめんだ。
オレはあんな奴らとは違う。
オレには前世の記憶があるんだ。たかがクローンと同じにされてたまるか。
「何だよ」
オレはとりあえず
「どうして、皆と仲良くしないの? 他の皆は、一緒に訓練をしてる。なのに貴女は……」
「関係ないだろ。あんたには」
「姉さん」
「……姉さんには、関係ない」
ああ、本当に。
姉面しているこいつも、オレは気に食わない。
オレのことなんて、どうでも良いくせに。
ただほんの少しの良心と、オレが他の姉妹とつるまないことで不都合があるから、こうして会話を交えているだけなんだろう。
「……アハト…」
クローンといっても、遺伝情報は完璧とはいえないし、環境やら何やらで結局同一個体を作る事は不可能らしい。
だから、オレと姉、そして他のクローン姉妹は、別に全く瓜二つというわけではない。
例えば、姉は明るい茶髪を持ち、温和な顔立ちをしているが、オレは吊り目で、表情すら暗く見せるような黒い髪を持ち、人当たりが悪い。といった具合に。
同一個体じゃないからこそ、余計に姉妹という感じがして腹が立つ。
「ズィーベンが困ってたよ。アハトに協調性がなくて困ってるって。皆アハトのこと心配してる。なのに…」
「9人をまとめようと思ったらそりゃ大変だろうよ。それに、協調性がないのはオレだけじゃない。ノインだって、たまに輪から外れてるんだ。とやかく言われる筋合いはない」
オレはヒラヒラと手を振ってその場を後にする。これ以上話すのは時間の無駄だからだ。
理解してしまったんだ。オレは。
この実験施設がやろうとしていることを。
そして、ここにいたら辿るであろう末路を。
だからこそ、オレは鍛錬を積まなければならない。
だからこそ、オレは姉妹を拒否し続けなければならない。
じゃないと、いざという時、1人でここから逃げることができないのだから。
長い廊下を歩き続ける。無駄話をしたせいで、訓練の時間が減ってしまった。
これでは、鍛えられるものも鍛えられない。
オレは、こんなところから、早く脱出して……。
「………フュンフ、か」
オレの目の前には、業火の中にいると錯覚を覚えるほどの真っ赤な癖っ毛を持ち、オレと
「よう、アハト。大事な話があるんだ。今空いてるか?」
「鍛錬で忙しい。用なら後に…」
「この施設から脱出する際の話なんだが……」
「……なに?」
「興味ないか?」
あり得ない。だってそうだろ?
彼女達には、この実験施設から出る理由がない。
生まれた時からこの実験施設にいたはずだ。ここでの生活が当たり前だったはずだ。
オレみたいに、前世の記憶があるわけじゃない。この実験施設よりも幸福な場所があるなんて、知るわけがない。なのに……。
「キューレ姉が考えててくれてたんだ。私らのこと。この実験施設にいつまでもいちゃ、いつか私らは破滅するってことも教えられた。最初は意味わかんなかったんだけどな。でも、あまりにもキューレ姉が必死に話すもんだからさ」
フュンフの話によると、アインスとズィーベンを主体に、実験施設脱出作戦なるものが考案されていたらしい。どうにも、キューレがフュンフ達に実験施設の真相を話した時期と、オレが実験施設の真相を知った時期とは被っていたらしい。
元々、オレがフュンフ達と言葉を交わさなくなったのは、実験施設の真相を知ったからだ。
最初は孤児院に似た何かだと認識していたからな。
でも、そうか。
フュンフ達も、同じ思いだったんだ。
オレ1人で、抱え込む必要なんかなかったんだ。
そうだ。それなら……。
脱出作戦当日。
キューレ含めた10人全員で施設を脱出するのは、リスクがありすぎるとのことで、オレ達はそれぞれ5人ずつに別れて脱出することにした。
まず、キューレをリーダーとするキューレ隊には、オリジナルであるキューレ、2番目のクローンであるツヴァイ、4番目のクローンであるフィーア、6番目のクローンであるゼックス、そして、7番目のクローンであるズィーベンの5人で。
そして、1番目のクローンであるアインスをリーダーとするアインス隊は、アインス、8番目のクローンのオレ、5番目のクローンのフュンフ、3番目のクローンのドライ、そして9番目のクローンのノインの5人で。
それぞれ脱出するという形になった。
そしてオレ達の隊は後半。前半組が脱出したのを確認出来次第、施設内で追ってくる職員を蹴散らし、後を追う。こうなった理由としては、オレ達の中でも一際体の弱いフィーアのことを考えてだった。
フィーアはオレ達の中じゃ体も細く、身長も小さくて頼りない。
見た目通りに体力もないし、追手がくれば真っ先に脱落するのはフィーアだろう。
だからこそ、フィーアを前半組に置き、できる限り追手に追われるリスクを軽減した状態にしておいたのだ。
「フュンフ、弾数は足りそうか?」
「ああ。拳銃の方はツヴァイからちょっと貰ったからな。時間稼ぎくらいなら余裕だ」
フュンフは銃火器に魔力を込めて扱う戦闘スタイルだ。球数の確認は常にしておかなければならない。
が、フュンフの様子を見るに、どうやら弾切れの心配はなさそうだ。
「久しぶりだな、アハトと背中を合わせるのも。お前、いつからか素っ気なくなっちまったからな」
「当時のオレは1人でここから出ようとしてたからな‥‥。正直、フュンフ達のことも見捨てるつもりだった。けど……。オレはやっぱり、皆でここを出たい。皆で一緒に、普通の生活をしてみたい」
「はっ、なら、さっさとこんな奴ら蹴散らして、私らもキューレ姉に続かないとな!」
オレとフュンフは2人で職員どもを蹴散らす。
ドライは戦闘が不向きだし、アインスは今ズィーベンが逃げ遅れたらしく、そっちのフォローに回ってもらってる。
ズィーベンがどれくらい逃げ遅れたのかはわからないが、アインスが付いているなら、後もう少し耐えれば、オレ達も脱出していいだろう。だから、後もう少しだ。後もう少しで…。
「がはっ」
突如として、オレが背中を預けていたはずのフュンフが倒れ込む。
職員の中に、手練れはいなかった。それにフュンフは銃器を扱う関係上、敵を寄せ付けない戦闘スタイルだったはず。にもかかわらず、フュンフはやられた。
……誰に?
オレは急いで背後を振り返る。
嫌な予感はした。けど、それはオレにとって、信じたくない光景だった。
「はい。お疲れー。あ、その武器はもう魔法使えないよ。私が加工しておいたから」
「ドライ……?」
「アハト、動かないでね。できれば私も、アハトを殺したくはないから」
「ノイン…?」
オレ達の姉妹であるはずの、2人。
3番目のドライと、9番目のノイン。
その2人が、オレ達を裏切って、オレとフュンフを、騙し討ちしてきたのだ。
「な……んで……」
「私達は脱出しようなんて微塵も考えてなかったって、そういう感じ」
「別に皆が脱出しても構わないんだけどね。でもそれだと、施設に残るつもりの私たちの立場が危ういからさ。だから、アハトとフュンフには手土産になってもらおうかなって」
オレは、皆で一緒に脱出して、前世みたいに、普通の暮らしができたらって、そう思ってた。
けど、ドライとノインは。
2人は、そんな風には思っていなかったんだな。
「ドライ、ノイン。頼みがある」
「何? 悪いけど、見逃すのは無理だからね。それとも、フュンフだけでも見逃してほしいとか言っちゃう?」
そこまでは要求しない。多分、2人はオレもフュンフも逃すつもりはないんだろう。なら……。
「フュンフに、銃でオレの腹を撃ってもらいたい」
「……っば、お前何言って!?」
「フュンフがオレを撃ったって事実があったら、フュンフは裏切り者を始末しようとしたって施設の奴らに言える。そしたら、フュンフだけでも」
「何言ってるんだ!? そんなことする必要ないだろ! アハトだけが背負う必要ない! 私も、私だって裏切り者として!」
ああ、そうだ。
どれだけ嫌っても。どれだけ遠ざけようとも。
結局オレは、
「……分かった。確かに、2人とも裏切り者だと判定されてしまうより、1人だけが裏切り者として、罪を背負う方が、合理的だね」
ドライは淡々とそう言って、フュンフの銃を握る。
「今この場で目撃している職員の顔は覚えている。そいつらはこちらで始末しておくよ。だから、フュンフの代わりに、フュンフの銃で私が撃つ。フュンフの銃で撃たれたっていう事実があれば、それで十分でしょ? じゃあ、撃つよ」
「ドライ! 駄目だ! 私は……!」
銃声が響く。
オレの腹に、とてつもない速度で異物が入り込んでいく。
耳鳴りがし、衝撃を受け。
とうとうオレは耐えられなくなって、気絶した。
そうだ。結局オレは、逃げられなかった。
そして、この日、オレが脱出をはかろうとしたことにより。
実験施設での生活は、どんどんと過酷なものへと、変化していくことになる。
プロローグなんでちょい駆け足気味。