リリカルなのは 鉄魂!   作:ヴィルヘルム星の大魔王

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第1訓 天然パーマに悪い奴はいない

 海鳴市。名前の通り、海に隣接した町だ。山や丘など緑に囲まれており、少し遠くに行けば温泉宿がある。大都会とも片田舎とも言いづらい町だが、道行く人の活気で満ち溢れている。河童に幽霊、忍者に吸血鬼、暗殺剣を扱う一族がいるなど、荒唐無稽な都市伝説が盛りだくさんの退屈しない町だ。

 

 

 

 オレの名は、杉田鉄時(すぎたかねとき)。何処にでもいる黒髪天然パーマの小学生だ。特に好きな漫画雑誌はジャンプ。好きな食べ物は、パフェと苺オレ。自慢じゃないが、この小説の主人公ってやつだ。

 正直、勉強なんざかったるい。でも、学校に行かなきゃ人生詰むって、同居人に毎日説教されるから大人しく登校している。

 「くぁぁ、眠ぃ。夜中に魔貫光殺砲の練習し過ぎたか?騒ぎすぎて、拳骨喰らって、気付いたら朝だったし」

 眠い目を擦り、道行くサラリーマンや中学生共の喧騒を横目に、バス停まで歩く。

 バス停近くまで着くと、一人の女子小学生が手を振ってきた。朝から元気だな。

 「鉄時くん!おはよう」

 

 目の前にいる少女は、高町なのは。海鳴市にある喫茶店翠屋の看板娘。茶髪ツインテールが特徴のガキンチョ。又の名を、ドジっ娘なのちゃん。怒らせると怖い。なのはとは、公園のブランコ乗り場で会ってからの縁だ。次回予告では語尾つける癖して、喋り方は普通なんだよな。なのはに挨拶された為、気だるげに挨拶を返す。

 

 「なのは、おはようさん。ふわぁ」

 「眠そうだね。また夜更かししたの?」

 「夜更かしじゃねえよ。魔貫光殺砲の練習してたんだよ」

 「やっぱり、夜更かしじゃん」

 「いいか?なのは、男子っつうのはな、魔貫光殺砲やかめはめ波を習得する為に、夜な夜な練習すんだよ」

 「訳が分からないよ」

 

 なのはとくだらない話をしながら、バス停に到着したスクールバスに乗り込む。運転手に学校指定の定期券を見せ、後部座席の方まで歩く。そこには、知り合いの二人組が座っていた。なのはは、一足先にそいつらがいる席へと向かう。そして、金髪の少女と紫髪の少女に挨拶を交わした。

 

 「アリサちゃん!すずかちゃん!おはよう!」

 「おはよう、なのはちゃん」

 「おはよう、なのはは朝から元気ね。ついでに鉄時も」

 「オレはついでかよ。アリサ・ホムンクルス」

 「誰がホムンクルスよ!バニングスよ!バニングス!」

 冗談が通じないヤツめ。意外と頭でっかちなんだよな。

 (コイツは、アリサ・バニングス。いつもツンツンしている金髪ツインテールのお嬢様。この前、ToLOVEるダークネスを見せたら、顔を真っ赤にしてコブラツイスト仕掛けてきやがった。たくっ、ToLOVEる位で喚くなんざ、まだまだお子ちゃまだな)

 

 うがー!と怒ってくるアリサをいなし、なのはの隣に座る。顔を横にずらせば、髪から瞳まで紫の少女と目が合う。

 「もう、アリサちゃんったら。おはよう、鉄時君」

 「おはよう、すずか」

 

 (月村すずか、紫色の長髪が特徴的な清楚系女子。コイツの家も金持ち。すずかの姉ちゃんが、なのはの兄ちゃんと付き合っている。週に何回合体してんだか知らねえし興味ねえ)

 

 二人に挨拶したオレは、鞄から今週号のジャンプを取り出す。おっ、こち亀の特別編やってんじゃん!おいおい、まじかよ。今週のToLOVEるダークネス、ティアーユ先生と御門涼子のセクシー回じゃんかよ。神回じゃねえか!うはぁ、色っぽい。いつかオレもデカデカデカプリオちゃんと仲良くなりたいぜ。

 

 「鉄時君、またジャンプ読んでるよ」

 「バス酔いしちゃうよ?」

 「二人とも、ジャンプバカはほっときなさい」

 

 なのはとアリサは、呆れた目でオレを見る。すずかだけが、バス酔いの心配をしてくれた。やっぱ、すずかは優しいぜ。そう思いながら、すずかを見つめていたら、なのはに脇腹を抓られた。いてぇよ。

 バスを降りて、昇降口を目指す。着いた先は、私立聖祥大附属小学校。所謂、お坊ちゃん・お嬢さま小学校だ。アリサやすずかといった極端な家柄の人間は少ないが、生徒の殆どが上流家庭か金のある中流家庭の子供だ。

 「ねぇ、ちょっと聞いてんの?」

 (はぁ、今日も屋上で飯かよ。だりぃな)

 「鉄時!鉄時!」

 

 退屈な授業が終わり、昼休みの時間となった。昼休みは、屋上で飯を食う事がお決まりらしい。あぁ?らしいのは、なのは・アリサ・すずかの三人が決めた事だ。オレは、別に教室でもいいのに、アリサが無理やり引き摺り出すからな。アリサを怒らすと面倒くさいからな。大人しくアリサ・バーニングファイヤーの言葉に従っているんだ。

 「鉄時!聞きなさいよコラ!」

 「いてっ!?何しやがんだアリサ!」

 考え事しながら飯食ってたら頭を叩かれた。こいつのチョップは、地味に痛いんだよな。恨みがましく睨み付けると、下手人のアリサは、頬を膨らませながら、此方を睨んでいた。

 「私達が話しかけているのに、ぼーっとしているアンタが悪いのよ。それに、今日も先生に怒られていたじゃない。いい加減、授業中にジャンプ読むのは止めなさいよ」

 「バカヤロー、ジャンプは男のバイブルだ。即ち、男子小学生の教科書でもあんだよ。覚えておけ、アクエリアス・バニングス」

 「アリサってんでしょうが!今度は、名前の方を間違えたわね!もう頭にきた!このバカ時!」

 アリサがオレに掴みかかる。オレの背後に回り、逆エビ固めを仕掛けてきた。背中からエビ反りになり、背骨を中心に身体中が悲鳴を上げる。床を叩き、降参の意を示す。

 「イデデデデ!折れる!背骨が折れる!降参!降参!」

 降参を汲み取ったアリサは、逆エビ固めを解除し、地面に突っ伏したオレをドヤ顔で見てくる。

 「私の恐ろしさ、身に染みたでしょ!技を喰らいたくなければ、金輪際、名前を間違えないことね」

 「たくっ、分かったよ。アリサ・バニーガール」

 「あ、アンタ、言ったそばから」

 アリサの額に青筋が浮かび、拳を強く握りしめている。命の危機を察知したオレは、すずかの後ろに隠れる。盾にされたすずかは、現在の状況に苦笑いする。アリサは、すずかを盾にされたことで、下手に動けない。なのはは、三人のやり取りを静かに見守っていた。

 「悪かったよ。で、話ってなんだ?」

 オレからの質問に、アリサは呆れたような顔を見せる。そして、椅子に座り直し、話を進めた。

 「今日の授業で言われた事よ。自分の将来について話し合いましょう」

 将来か。小学生なんだから、ざっくりとしたもんでいいだろ。

 「あたしは、パパとママの会社経営の跡を継がなきゃってくらいよ」

 「わたしは、機械系が好きだから工学系で専門職を目指したいなって思っているの」

 やっぱ、こいつらは本当に小学生か?進路に対する考えが高校生並みだぞ。

 「あんたは、将来何になりたいのよ」

 「あ~?んなもん、まだ決まってねえよ。小学三年生が将来の進路を考えるなんて、早すぎんだろ。小学生なんざ、パイロットとか電車の運転士の夢で十分だよ」

 「あんた、将来ヒモになりそうね」

 「誰がヒモ男だ!このツンデレロリッ娘!」

 「なによ!天パ!」

 「あはは…鉄時君らしいね」

 オレとアリサが言い合っている最中、なのはだけは俯いていた。

 「そっか、二人ともそこまで考えていたんだ。すごいね」

 「なのはは、喫茶『翠屋』の二代目店主じゃないの?物凄い人気店だし」

 「『翠屋』のシュークリームとコーヒーすごく美味しくてわたし好きだよ!」

 アリサとすずかに励まされるなのは。だが、それでも彼女の顔は晴れない。

 「うん…それも将来のビジョンの一つではあるんだけど。やりたいことは何かあるような気もするんだけど…まだ、それがなんなのか…はっきりしていないんだ」

 なのはの言葉に、オレは掛ける言葉が見当たらない。

「…私、特技も取り柄も特にないし、あうっ!?」

 なのはの頬に、輪切りのレモンが叩きつけられる。アリサの仕業だ。アリサは、うじうじしている人間を見るのが嫌いなタイプだ。

 「このばかちん!自分からそうゆうこと言うんじゃないの!」

 「そうだよ。なのはちゃんにしかできないこと、きっとあるよ」

 「アリサちゃん、すずかちゃん」

 「人生百年時代なんだ。今すぐに決める必要なんざねえんだよ。小学生なら小学生らしく学校で遊ぶ事だけを考えるんだな」

 「…鉄時君」

 慰められたなのはは、アリサとすずかからの心優しい言葉に感極まっている。その直後、アリサはなのはの頬を引っ張り、地面に押し倒す。

 「だいたいあんた!理数系の成績が、このあたしより良いじゃないの!それで取り柄がないとはどの口がいうわけ?あー!?」

 「だ、だって!なのは文系苦手だし、体育も苦手だしー!」

 文系とか理数系とか、普通は小学生が口にする言葉じゃないと常々思うんだがな。

 「ふ、ふたりとも駄目だよ~!」

 「落ち着けーアリサ。周りが見てんぞ」

 本当に退屈しない学校生活だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー。よし、誰もいないな」

 

 放課後、 帰宅したオレは、ランドセルを放り投げ、財布を取り出して、玄関へと向かう。

 「お帰りなさい、鉄時」

 背後から聞こえる声に、肩がビクッと跳ね上がる。ギギギと油切れたブリキのように、顔を振り向く。そこには、亜麻色の長髪に、着流し姿の男がいた。いないと思いきや、背後にいやがった。

 「げっ、松影先生」

 吉田松影(よしだしょうえい)。オレの育ての親、文字通り、オレは松影先生の養子だ。両親の顔や名前すら覚えていないオレを拾い上げ、育ててくれている。この家は、先生が開塾している松下村塾の居住地だ。いつも笑っているが、今回の笑顔は違う。いつも叱られるときに感じる圧のある笑顔だ。背中から冷や汗がだらだらと流れてきやがる。オレが硬直していると、懐から一枚の紙切れを出してきた。その紙には、10点と大きく書かれていた。

 「テストの点数、また10点のようですね。おや?どうして、目を逸らすのですか?」

 松影先生は、柔和な笑みを浮かべながら、一歩ずつオレの方へと足を進める。地獄へのカウントダウンが始まり、先生の背後には、死神が嘲笑っている。

 「テストの点数が低いだけで怒りません。学校から電話がありましてね。授業中の居眠りに加え、ジャンプを隠れ読みしていたみたいですね。担任の先生から、電話越しに注意されてしまいましたよ」

 先生の目が、一瞬だけ開眼したように見えた。足ががくがくと小鹿のように震える。

 「鉄時、学校は学ぶ場です。ジャンプは休み時間に読みなさい」

 「いや、教育者としてソレはいいのかよ。ジャンプ持って行っていることに注意しろよ」

 「鉄時の持ち歩き癖は、今に始まった事ではありませんからね。治しようがありません」

 先生は、やれやれといった感じで、首を横に振っている。今が、チャンスだ!

 「じゃ、じゃあ、オレは出かけてくるんで「ですが」へっ?」

 気付けば、先生はオレの眼前に移動していた。先生は、剃使いか!?足音すら消えていたぞ!?先生の腕を見れば、握り拳が天高く掲げられていた。あ、終わった。

 「口で言っても言う事を聞きませんからね。では、お説教を一言だけ。ハンパ者がサボりを覚えるなんて、百年早い」

 「ぶべら!?」

 頭部に鋭い痛みが走り、下半身が床にめり込んだ。余りの痛みに、涙目になる。先生の拳骨はガチで痛い。頭が割れそうなぐらい痛い。いつも気絶してしまうが、今回は優しめだ。先生は、手をプラプラと揺らしながら、オレの目線に合わせて屈んだ。

 「反省しましたか?鉄時」

 「は、反省…しま…した」

 「よし、引っ張るので、早めに宿題を終わらせなさい。遊びに行くのでしょう?」

 「なんで、先生が知ってんだよ」

 「先生だからですよ」

 「いや、答えになってねえよ!」

 

 松影先生の意味不明な答えに、思わずツッコミを入れる。そのまま、引っ張られたオレは、床に座り込んだ。そして、自室に向かい、ランドセルに入っている宿題に手を付ける。聖祥大附属小学校の宿題は、平気で中学生レベルの問題を出してくるからな。分かんねえところがあれば、先生に教えてもらっている。そのお陰で、いくらか成績はマシだ。だが、あの三人には敵わねえ。あいつらの学力はバケモンだからな。本当に同じ小学生かよ。三十分後、全ての宿題の答えを埋め終えた。

 

 「宿題終わったー」

 「お疲れ様です。ほら、行ってきなさい」

 「うーす、行ってきまーす」

 「門限までには帰るのですよ」

 財布を鞄に入れて、目的地まで走る。オレのお目当ては、なのはの両親が経営する翠屋だ。なのはの家とは、別の場所にあり、商店街の近くに店を構えている。ここの喫茶店のスイーツは、雑誌に載るレベルで有名なのだ。なのはの母親は、スイーツの全国大会で優勝する程のプロ級パティシエだ。なのはの菓子作りの腕前は、まぁ、成長途中だな。以前、食べさせてもらったが、食えるっちゃ食える。だが、店で出せるとしたら微妙な味だ。

 「いらっしゃ―おや、鉄時君じゃないか。なのはとの約束かい?」

 

 オレを出迎えたのは、高町士郎さん。翠屋の店主で、なのはの父親だ。一見、温和そうな男の人に見えるが、常人には馴染みの無い修羅場を生き抜いた風格を感じる。

 もしかしたら、都市伝説の暗殺剣一族は高町家に関係したりするかもな。

 「うっす、士郎さん。今日も甘味食いに来たぜ」

 「本当にウチのスイーツが好きなようだね。桃子が喜ぶよ」

 「当たり前っすよ。糖分はオレにとって水分に等しいんですから」

 「あはは、将来は糖尿病になりそうな発言だね。おっと、立ち話で済まない。この歳になると、ついお喋りが長くなってしまうよ。なのはたちは、奥の席にいるよ」

 「うぃっす」

 士郎さんの案内で、なのは達がいる席に向かう。席近くに着くと、三人の瞳がオレを捉えていた。

 「遅かったじゃない」

 「鉄さんは、宿題やってたんだよ。すいませーん、イチゴパフェと宇治鉄時丼」

 「ふふ、鉄時君は甘いものが本当に好きだよね」

 「なのはも甘いモノ好きだけど、鉄時君ほど酔狂じゃないよ」

 好き放題言っている二人。今のオレは、放課後の楽しみを心待ちにしており、気分は絶好調なのだ。ウェイトレスが、オレの注文した品を配膳してくる。

 「な、なによ!?このネコの餌は」

 

 アリサの発言に、オレは仕方ないとため息を吐き、宇治鉄時丼を説明する。白米の上に粒餡が乗っかった宇治鉄時丼は、オレ専用の翠屋メニューだ。桃子さんに頼んで、作ってもらっている。何故だか、高町家以外の店員は口を押さえながら、運んできやがる。

 「いいか、この宇治鉄時丼は、ほかほかの白米と甘い餡子を融合させた甘党の極致ともいえるスーパーフードだ」

 「どこがスーパーフードよ!?思いっきり、ゲテモノじゃない!」

 「アリサちゃん、猫を飼っている私でもコレは猫の餌以下だよ」

 「いつ見ても、目が慣れないよ」

 アリサは、宇治鉄時丼をゲテモノと罵り、すずかは、猫の餌以下と決めつけた。ぼそりと呟くなのはに、宇治鉄時丼を喰わせる。なのはは、頭に疑問符を浮かべながら、咀嚼し嚥下する。

 「むううう!?」

 宇治鉄時丼を口にしたなのはは、顔を真っ青にして、机にあった水をがぶ飲みする。普通に美味いのになぁ。時間が勿体ない為、三十秒で宇治鉄時丼を完食する。そして、イチゴパフェをぺろりと平らげる。三人の方を見れば、化物を見るような目で見ていた。

 「お前らも喰いたかったのか?いいぜ、オレの奢りだ」

 『いらない!』

 

 珍しく奢ろうとしたのに、断固拒否された。失礼な小娘どもめ。

 

 

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