お前は?トリコ?
「ええっと……卵とコーヒー豆……それからー……うん、これで一応全部かな」
フォンテーヌの街に涼やかな声が響く。
「はぁ……結構な量になっちゃったなぁ。
…………荷物持ち、頼めばよかったかも」
それはただの独り言。
「2人で言い合いながら買い物するのも定番だもんね……
はぁ……どうして意地張っちゃうんだろ」
少女──水神という重い肩書きを背負っていたフリーナという少女のなんて事ない独り言でありちょっとした後悔の発露だった。
「でもキミが悪いんだよ全く……そもそも……」
家を出る前、昨夜喧嘩した居候があまりにも普段通りなのがムカついて黙って出てきてしまった事への後悔。
「『フリーナって料理できたの? 全部やってもらってると思ってた』なんて! 何様のつもりだよ! ボクが一人暮らし出来ないと思ってるのも失礼だし! ボクは女だぞ! 料理くらいでき……」
「わぁっ! な、なんだいキミ!? いつの間に出てきたんだい!? ビックリするじゃないか!?」
そんな後悔に飲まれてブツブツ気炎を上げる彼女に住民の1人が声をかけた。
「ん? あぁ……まぁそうだけど。……うん、時間はあるね、どうかしたのかい?」
瞬間、顔を出すのは水神フリーナの顔。
フォンテーヌ全土の人々に愛される水神の仮面。今まで何千何万回と被ってきたそれをフリーナは嵌める。
「あ、いや……そこまで畏まらなくてもいいよ……ボクはもう水神じゃないわけだし」
「うん、うん……あぁ……ええっと、申し訳ないけどそういうのは今は断ってるんだ。ごめんね」
しかしその仮面も、もはや必要ない仮面だ。
ここ、フォンテーヌには既に水神などおらず、今ここには水神を演じていたフリーナという少女がいるだけなのだから。
「これ? ちょっと料理を作ろうと思ってね」
「全く、アイツときたらボクの事を馬鹿にして……料理くらい楽勝だよ……全く、まったく……」
その証拠にぶうぶうと文句を吐き出す彼女の顔はどこか嬉しそうなニヤけ面で、水神などと言う大層な物より幾分か親しみ易そうな顔をしている。
「うん? 嬉しそう? どこがだい!? ボクは怒ってるんだよ!」
「顔がニヤついていたぁ? ニヤつくってなんだい! もっとエレガントに表現してくれないかな!?」
「大体ニヤつくわけないだろ! アイツの事を考えてるだけでニヤついていたらボクは一日中ニヤついてる事になるじゃないか!」
まぁその結果揶揄われて早口で憤慨しているのだからフリーナにとっては痛し痒しと言ったところだが……
「はぁぁぁ!?!? 何でボクが素直じゃない何て扱いを受けなくちゃいけないんだい!?
も、もう良い! ボクはいくよ!」
そう言って歩き出す彼女の足取りは水神フリーナであった頃よりも軽く、500年の重みは感じられない。
しかしそれは当然だろう。
「まったく! まったく……」
彼女の、人間フリーナとしての人生は始まったばかりなのだから。
「う、うわ!!!」
「いててて、ああごめん、助かった……て、何だキミか……謝って損したよ」
「ほら、ちゃんと持って!」
「何でって……はぁ……見てわかんないかなぁ?」
「当たり前でしょ! これはキミのために用意したものなんだから……何かって……ふふ」
「ついてからのお楽しみだよ!」
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短いけど俺のフリーナちゃん好きの気持ちを…受け止めて