とある個性の禁書目録   作:とある作者の狂人編集

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主役は遅れてやってくる

 私はルンルン気分で上空でスキップでもしながら鼻歌を歌っていた。

 

 目的も果たしたし、エリも奪い返したし、全てが上手く行っている。怖いくらいに。

 まぁ、勝手に行動したのは反省するが、ヴィラン連合にも利益になる行為だ。小言を言われるだろうが、弔なら赦してくれる。何より

 

 腕に抱えたエリ。魔術を外に出さないようにするネックレス。お姫様抱っこをされ、個性暴走で疲れた脳味噌はさらにエリを苦しませるように熱く燃えたぎっている。そして、私の自由を宿している可能性の卵、エリ。

 

「私のお姫様♪」

 

 私は有頂天に立った。誰も私を止められない。飛翔のルーンで空を飛ぶ。ふわふわと移動する。飛翔のルーンだけでは移動速度は遅い。とりあえず、弔達と合流しよう。

 

 と、考えて、どこに行くべきか、聞いていなかったことを思い出した。ヴィラン連合のみんなはどこに集まるんだ?

 

「あれ? 詰んだ?」

 

 と、ポケットが震えた。慌てて、片腕でエリを抱きながら、ポケットをまさぐる。取り出したのは、スマートフォン。震えている。画面には『ひみこ』と書かれていた。

 しかし、どうすればいいのかわからない。そのまま横のボタンを押す。画面が暗くなった。震えるのも止まった。

 

「うーん……なんだったんだろ? ……それより! みんなの場所なんだよ!」

 

 とりあえず、今はエリの体調を心配しなければならない。

 病院は論外。ヴィラン連合の場所がわからないので、助けを呼ぶ訳にもいかない。当然、私が治すしかない。

 

 私は魔女の秘薬も作れるほど、薬の製造や調合ができる。さらに、熱冷ましの注射もエリにした所だ。しばらくは大丈夫だろう。病院に行かなくても問題ないだろう。

 しかし、落ち着ける場所が欲しい。どこか落ち着ける場所はないか考える。

 

「そうだ。とりあえず、マグねぇの家に帰っておこうかな」

 

 

 

 エリを寝かせた。掛け布団を肩までかけて、頭に冷却シートを貼る。

 

「まぁ、しばらくは様子見かな?」

 

 魘されているエリ。私は同じようにベッドに横になり、母親が熱を出した子供にするように、お腹をポン、ポン、と優しく叩く。子守唄を歌う。聖歌だ。回復の聖歌。ゆっくりとエリの苦痛は引き、顔が穏やかなものになっていく。まずは大丈夫だろう。

 

 エリが目を覚ました。

 

「ぅ、……ぅん?」

「あ、目が覚めた?」

 

 ビクリと肩を震わせ、絶望顔で私の顔を見るエリ。私はゆったりと言う。

 

「夢は、楽しかったかな?」

「っ!? ……っ」

 

 意味を理解すると、エリは涙を流した。そして、頷いた。私は満足した。

 

「さて、これからどうしよっかな。みんなと合流したいけど、この場所は八斎會に知られているから、ヒーローが来るだろうし、長居はできない。連絡が取れればいいけど、スマートフォンの使い方わからんし、とりあえずは人様からお金を奪って、ホテルでも借りよっかな?」

 

 エリは終始無言。表情が抜けきっている。悲劇のヒロインムーブ。まぁ、仕方ない。ヒーローに助けられたのに、ヴィランに連れて行かれたのだ。不自由を感じていることだろう。

 でも、ヴィランはヴィランで自由だ。その自由さを感じて欲しい。エリには虚構の自由より、真の自由を味わって欲しい。

 

 玄関が開いた。ルーンを取り出した。私は扉に目を向けた。

 

「はぁ……やっぱりここにいたわね」

「マグねぇ! 来てくれると思ったんだよ!」

「電話しても出ないから捕まったかと思ったわよ」

「捕まっても脱獄できる自信はあるんだよ?」

「はいはい。弔が待ってるわよ」

「うん。とむらは何か言ってた?」

「ええ、勝手なことをした罰を受けてもらうって言ってたわよ」

「ふーん」

 

 そして、私はベッドからエリを両腕で抱えた。エリからはもう何も抵抗がなかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 出久はアパートの一室に着いた。扉を蹴破って入る。しかし、もぬけの殻。失望と喪失。しかし、イレイザーヘッドがベッドのスーツに触れる。

 

「まだ温かいな。ここに誰かいた。そう遠くに行っていない」

「!?」

 

 イレイザーヘッドは急いで外に出た。出久もついていく。イレイザーヘッドは地図を広げながら、進む。

 

「どこに行ったんでしょうか?」

「とりあえず、警察の情報から推測して、次はここに移動している可能性が高い」

「わかりました! 先生、失礼します!」

 

 アパートの建物から出た出久はイレイザーヘッドを抱えて、個性を使い、駆ける。なるべく早く、泣いている女の子を不安から救うために。

 イレイザーヘッドのポケットに入っているスマホが震えた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「とむら! みんな! 待たせたんだよ!」

 

 私は扉を勢いよく開けた。マグネはやれやれと頭を押さえて一緒に入る。扉を閉める。荼毘が炎を出した手を向けようとしていて押さえた。おそらくヒーローとか警察とか思ったのだろう。

 ヒミコが駆け寄ってくる。あいかわらず可愛い。スピナーはいつもカッコつけて窓辺で外を睨んでいる。コンプレスは手の中でビー玉みたいなのを転がし、トゥワイスはなぜかヒミコに求婚と離婚を同時にしていた。

 

 そして、中心に、弔がいた。

 

「で? 何か言い訳でもあるんだろうな?」

「エリを連れてきたんだよ!」

「……オーバーホールが研究していたガキか」

 

 エリがビクリと肩を震わせた。ヒミコがエリの顔を伺う。お姫様抱っこされて逃げ場のないエリは、目を瞑るしかできない。ヒミコは、可愛い可愛い、と言った。

 

「血塗れなら、もっとかわいいのです」

「まぁ、また今度ね」

 

 そう私が言うと、スピナーが切れた。

 

「おい! インデックス! その子を連れ去ることが、本当にステインの意志を実現させるのか!?」

「そうですね。そこの所は私も気になっておりました」

 

 コンプレスが同意するように頷く。まぁコンプレスにとっては、ステインの意志はそこまで重要じゃないだろうが、それでも疑問はあるそうだ。

 私は咳払いをした。

 

「この子はね。最高の研究対象なんだよ」

「なんのだ。ガキのお守りは今後の活動に支障がでるだろ」

 

 荼毘が冷静に突っ込む。私は人差し指を立てて、ノンノン、とする。

 

「この子の個性はね……【巻き戻し】。つまり、全てのものを巻き戻す力があるんだよ」

「全て? 具体的にはなんだ?」

「それはね、その名の通り、〝全て〟なんだよ。物体の修理、生物の回復、化学反応の巻き戻し、そして、概念。全てが対象なんだよ」

「ほぉ……それは、凄いな」

「ついでに、ちさきが開発した銃弾。あれは個性因子のみにしか働かない。あれより最高のものをこの子の研究が進めば、多種大量に製造できる。私の魔術とこの子の個性。そのマリアージュで世界を変えられるほど重要な人物なんだよ」

「それとステインの意志はどう関係するんだ!?」

 

 スピナーが煩い。私はエリを椅子に座らせた。エリは人形のように身動きしなかった。

 

「当然だよ。ステインの考えは、汲んでいるんだよ。それを説明するんだよ」

 

 私は考えをまとめた。

 ステインは所謂「ヒーロー殺し」と世間から言われていた。自分を殺して良いのは、オールマイトだけ、という発言と、ヒーローとは無償で奉仕する者、という思想があり、それ以外のヒーローはヒーローの名を語る社会のガン。ステインはそれら社会の病原菌を抹殺するべきだと主張する。これがスピナーの言う意志だ。

 ステインの考えは私の理解できる範囲だが、否定はしないが賛同もしないという程度の温度感。だから、エリの有用性がステインの意志に背こうが沿おうが関係ない。

 しかし、ここで仲間内で不和を作りたくはない。だから、適当な理由をでっち上げて、誤魔化すだけ。

 

「ステインの思想は、ヒーローが経済に組み込まれている現状を憂いているんだよ」

「つまり、ヒーローを経済に組み込まないようなシステムになれば良い」

「現在、ヒーローは、民主主義かつ自由主義の各国で導入されている職業なんだよ」

「つまり、民主主義ではない、または自由主義ではない、地域では、ヒーローは経済からの束縛を受けない」

「ステインの思想にあるヒーローをヒーローたらしめるシステムは、専制主義、または全体主義。国がヒーローを囲って、国の奉仕者になることなんだよ」

「さて、ここまでの話でわからないとこは質問してほしいかも」

 

 私が訊くと全員黙っていた。弔が「続けろ」と楽しそうに言う。私は頷いた。

 

「専制主義あるいは全体主義の政権を誕生させるには、邪魔なものが多い」

「それは、現在の経済的なヒーローなんだよ」

「彼ら彼女らは、甘い汁を啜り続けるために現在のシステムを守ろうとするんだよ」

「そんな経済的ヒーローを無力化する必要があるんだよ。それを可能にするのが、エリの個性」

「なんで、そこでこのガキが出てくるんだ? 巻き戻しって言ってただろ?」

 

 スピナーが苛立ったように訊く。私はスピナーを落ち着かせるように、続ける。

 

「個性【巻き戻し】は、生物の時間を巻き戻すだけでなく、生物的な個体を維持しつつ、怪我や病気、何より遺伝子を巻き戻せるんだよ」

「遺伝子を巻き戻すというのは、進化の系統図を逆になぞるということ。人間だと猿の仲間が祖先にいるから、その個体を猿にすることができるんだよ」

「これを個性因子に使えばどうなるか?」

 

 個性因子は遺伝子に組み込まれていることが研究で明らかになっている。常識として世間に認識されつつある事実。まぁ、科学は間違うこともあるので、本当かどうかわからない。

 しかし、ここではどうでもいいことだ。今はスピナーを説得する()()()()()()()()()が必要なだけだ。トカゲの頭じゃ難しいことはわからんだろう。いや、イモリだった。

 

「個性因子にエリの個性【巻き戻し】を使えば、個性因子は個性が発現する前に戻る。いや、そもそも個性因子というのができる前の状態にできる。種として個性因子を持たない個体にさせることができる。個性因子がなくなれば、たとえ何があっても個性が発現しなくなる」

「個体としての人間は、個性だけを失って、そのままの姿で存在できる。ハッピーエンドなんだよ」

「経済的ヒーローは、現在のシステムによって豊かさを維持しているから個性の消失は危機的状況。現在のシステムを壊そうとする輩を許さないんだよ。実力行使でそれを止めようとする」

「そこで、力が必要となる。経済的ヒーローを駆逐するための力。そして何より、経済的ヒーローを無力化する力」

 

「それが、ちさきが研究した【個性を消す薬】なんだよ」

 

 私はヒミコから渡されたジュースを飲む。両手でグラスを持ち、ごっきゅごっきゅと飲む。コンプレスが挙手した。

 

「しかし、それなら、私達が奪った薬があります。何もその子を攫う必要はないのでは?」

 

 鋭い所を突く。私としては、エリの個性を解析して、特定の記憶を覚える前の状態にしたいだけ。特定の記憶とは10万3000冊のことだ。

 私はコンプレスの質問に応える。

 

「個性因子が現れる前に戻せる、ということは、()()()()()()()()ことも理論上は可能なんだよ」

「その薬が発明されたら、薬研究のいたちごっこ。さらに、その薬研究にエリが巻き込まれるのは避けられない。巻き込まれる研究は、ちさきが行った実験と同じかも」

 

 エリが僅かに反応した。が、特に反論もせずただ人形のように座っている。

 

「そんな実験から、エリを巻き込まないように、〝()()()()()〟、というのが私の狙いなんだよ」

 

 静かになった。誰もが私かエリを見ている。その感情はなんだろうか。憤怒か、悲哀か、歓喜か、呆れか。メンバーによっては、嫌悪感を示すだろう。あるいは、称賛の声もあり得る。もしくは、興味なし。

 弔が訊いた。

 

「で? 本音は?」

「私的利用のために攫ったんだよ」

 

 スピナーが感動した顔から一気に憮然とした表情になった。

 

「待てよ! さっきのは嘘なのか!」

「嘘じゃないんだよ。事実、エリはどこに行っても、狙われるかも。それは遅かれ早かれ、表か裏か。時間と場所が違ってくるだけ」

「そうだね。一番安全なオールマイトが衰えた今、エリを守れるヒーローは、どこにもいないし、────」

 

「何より、ヒーローがエリの個性を欲しがるかも」

 

 めちゃくちゃ貶した。陰口はいけないと知っていても、スピナーを説得するには、現在のヒーローを否定するしかない。

 マグネが呆れたようにサングラスをかけなおした。

 

「まったく、口が達者というか」

「まったくです。詐欺師よりたちが悪い」

「それほどでもないかも」

「「ほめてない(わ)」」

 

 弔が笑い出した。突然過ぎてびっくりする。もしかして頭おかしくなった? 頭おかしいのは、私で充分間に合っているのに、弔までおかしくなると、誰がこの組織をまとめ上げるというのだろうか?

 

「いやぁ~、いいね。流石、先生が認めただけのことはある」

 

 私は照れて頭を掻く。弔が私を見つめて訊く。

 

「なぜお前は俺の元につく? お前なら、一人でもやっていけるだろ?」

「理由は三つあるんだよ」

「言え」

 

 私はジュースを飲みながら、まとめる。

 

「一つは、一人は淋しいから」

「二つは、ヴィランに憧れていたから」

「三つは、とむらを()()()()()()()から」

 

 弔は満足そうに笑った。今日は解散となった。エリの世話は私がすることになった。そして、スマートフォンの使い方を教わるために、しばらくヒミコの側にいることが決まった。マグネは家が監視されているため残った。

 みんながいなくなった廃墟のオフィス。三人でわいわい話す。とりあえず、マグネの家が決まるまで、ここに住もうということになった。ヒミコは特に理由はないが、一緒にいたいということで、一緒。スマートフォンの扱い方を教わる。

 

「インデックスちゃん、そうじゃないです」

「えっと、こうかな?」

「そうそう、そうやってスワイプするんです。あ、そこはボタンをタップします」

 

 エリは、椅子に座ったまま。時々、トイレには行っているので、生きてはいる。当然、トイレにもついていくので、逃亡のおそれはない。そもそも逃亡の意志が感じられない。

 

 そうやって、平和裏に過ごす。と、生命反応が複数近づいてきているのに気がついた。

 私は立ち上がって、目隠しのルーンで窓辺に行き、外を見る。暗闇に染まっている住宅街。目視では確認しづらいが、確かに警察の機動部隊やヒーローが潜んでいる。特定されたようだ。

 

「どうしたの? インデックスちゃん」

「警察とヒーローに囲まれたかも」

「「え」」

 

 マグネとヒミコが警戒態勢を始めた。エリは無反応。もう絶望に染まっている。可哀想に。私が言えた話ではないが。

 

「どうするのよ!? 早くなんとかしないと!?」

「場所特定が早すぎるかも。可能性としては、内通者、あるいは、発信機……」

 

 私は、魔法陣が描かれたシールを取り出す。そして、エリ、マグネ、ヒミコ、そして私に貼り付ける。

 

「インデックスちゃん、これ何?」

「これはね、魔力を流すと動作する魔法陣」

「効果は?」

「呪い返し」

 

 全員の魔法陣に魔力を流す。魔法陣が煌めくシール。そして、私のシールだけが燃えて消える。誰かに魔術、ここで言うと個性が跳ね返される。倍返しで。情報が私の頭の中に入ってくる。

 

「……どうやら、私はどこかのタイミングで、誰かの個性の対象になっていたみたいなんだよ。それもサーチ系の」

「って、それやばいじゃない……」

「でも、精度は悪い? 精度が高ければ、弔達がいる時に、包囲すればよかったかも」

「つまり、それまでは範囲内で探していた、ということね」

「……これは私の責任なんだよ。他のみんなも確認しないといけないかも」

「それより、今をどう乗り切るかです。今はどんな状況ですか?」

「呪い返しをしたから、術者の居場所がだいたいわかったんだよ。術者は現場から少し離れた所にいるんだよ。それくらいしかわからなかったんだよ。ごめん。その代わり術者は意識を失っているはず。向こうに気付かれたかも」

「なるほどね、とりあえず、方針を決めま」

 

 瞬間、覗いていた窓へ高速の物体が近づく。私は咄嗟にエリを抱えた。マグネとヒミコは窓辺から離れた。窓の周囲が瓦礫となって壊れた。見ると、見知った顔が鬼の形相で睨んでいた。

 

「……いずく」

「エリちゃんを! 返せ!」

 

 そこには、ヒーローがいた。

 

 

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