とある個性の禁書目録 作:とある作者の狂人編集
収穫はあった。私は狂っている。それが自覚できただけでも素晴らしい。自覚なしの狂気は制御できない。理性的になれない。つまり、自覚できたことが最高の収穫だ。
その上、10万3000冊の汚染から守るための宗教防壁も強化した。まぁ、教義はあまり変わっていないが。
変更されたのは、今まで
今までの宗教防壁はボロボロだった。ただ徒に暴力を振るうのが、〈強キャラムーブ〉だと思っていた。そう信じ込んでいた。しかし、強さとは何か。弱さとは何か。それがわかった。だから、宗教防壁を作り直せた。
当然、一度壊れたので、10万3000冊の汚染は食らったが、ダメージは少ない。SAN値は下がった。自覚していてもまだ完全にどこに狂気が潜んでいるかはわからない。狂気だと思っていても狂気を止められないかもしれない。
それでも、私は宗教観を守るためにも、行動せねばならない。行動して〈私は私の宗教観を信じている〉と示さなければならない。
さてと、帰りますか、とヴィラン連合のバーに向かう。神野の駅で降りると違和感に気がついた。煙が上がっていた。
なんだろ? と思って、飛翔のルーン文字を使って、高く飛んだ。ルーン文字は万能。わかんだね、これが。まぁ、聖人の魔力があってこそだが。
聖人の魔力・
だから、飛翔のルーンが使える。
神野の上空から見えるのは、ヴィラン連合が捕まっている光景だった。
少し悩む。そろそろこの中途半端な立ち位置をどうするか決めるべきだ。ヴィラン連合の協力者なのか、それともヴィラン連合の仲間なのか。そろっと、目隠しと神隠しのルーン文字で姿を消し、飛翔で近くまで行く。
すると、みんな水を吐き出して消えた。転移の個性だ。脳無が出てきた。ヒーロー達が戦う。オールマイトが飛んでいく。ふむ
私はオールマイトを追った。
〜〜〜〜〜
報道ヘリから映し出される戦場を街頭テレビで見ている観衆。AFOとオールマイトの激戦。オールマイトは押されている。応援する人々。声を聞いたオールマイト。援軍に来るヒーロー。もしかしたらこの世界は少年漫画? そう思うくらい、胸熱展開。
ついに、AFOの顔面を捉えた。AFOは地面にめり込み気絶。オールマイトは使える片方の腕を力一杯掲げる。正義の、ヒーローの、勝利だった。
なんと感動的なのだろうか。なんとキリのよい終わり方だ。なんと綺麗で美しい情景なのだろうか。
私は拍手した。大きくなるべく響くように拍手した。魔術を使って、その場を見ている人に聞こえるような拍手。私は、目隠しのルーン文字カードを解除した。
突然現れる私に驚くと同時に警戒するヒーロー達。観衆に動揺が走る声。報道陣が熱烈に状況を伝えている。
これほど最適な魔術的状況はない。
「まずは、おめでとうなんだよ、オールマイト。あなたは勝利したんだよ。これほど胸が熱くなったのは今まで、なかったかも」
誰も何も言わない。距離がそこそこ離れているのもある。注意と警戒、そして周囲への気配りもしている。
少しずつ遠回りで近づいている者もいる。聖人の力で強化された感覚が生命反応を捉えている。しかし、私が何をするのか何を目的にしているのか、それを見極めようとしている。
「正義の象徴、民衆の希望、勝利の英雄。これほど素晴らしい存在はないかも!」
「……何を、しにきた」
ボロボロの、骸骨みたいな、みすぼらしいヒーロー、オールマイト。
その虚勢は、しかし覚悟であった。それに震える。
私は両手を組んだ。敬虔なキリスト教が祈るように。なるべく慈愛の微笑みを浮かべて。
「勝利したあなたに、ご褒美をあげるんだよ」
そして、目を瞑った。聖歌を詠唱した。
聖歌。歌と魔術は深い関係にある。歌自体呪文と同じ効果が期待できる。いや、呪文以上に魔術的な効果を得られやすい。
さらに、聖人の魔力を込めると、効果は絶大。魔力なしの聖歌でも一定の効果があるのに、聖人が歌ったら、まさしく、奇跡を起こす、と同等の効果が得られる。言い過ぎた。奇跡は起こせない。
歌っているのは、癒しの聖歌。それは怪我や病気、疲労だけでなく、
しかし、当然、私は神様ではない。いや、魂は【神の子】を限りなく再現している。それでも、神に極めて近いだけ。さらにそれを出力する術はまがい物の魔術道具だけ。当然、聖歌の効果は時間制限がある。死者は蘇らない。また、意識を失っていれば効果はない。耳が聞こえない人には効かないということだ。
ヒーロー達が自分の回復に戸惑っているようだ。特に、燃え尽きたはずのオールマイトが骸骨から筋骨隆々のマッチョになった。
歌い終わった。全員が最盛期の能力を有している。これで、準備は整った。
「……インデックス。君がやったのか?」
「回復したことかな? そうなんだよ」
「どういうことだ! 敵に塩を送るのか!?」
エンデヴァーが怒鳴る。私は微笑む。
「送った訳じゃないんだよ。これは私の目的を達成する上で重要なことなんだよ」
「目的……インデックス、君の目的とはなんだ?」
答えは簡単です。
「最強のヴィランになること、なんだよ」
私は小さい十字架とカードを取り出した。後ろから気配。
「先制必縛ウルシ鎖牢!」
樹木が枝幹わかれ高速で迫る。私はルーンを向けた。
炎と剣のルーン。樹木が裂ける。火炎が走る。シンリンカムイが転がる。立ち上がった。咄嗟に致命傷を避けたようだ。流石プロヒーロー。後退していく。
横から業火の渦が迫る。エンデヴァー。熱風。しかし、聖人の力で吹き飛ばされることもなく、詠唱。炎に呑み込まれる。
「数価。四〇・九・三〇・七。合わせて八十六。メム=テト=ラメド=ザイン。照応。水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ」
炎の中心に水の蛇が走る。炎が途切れ、エンデヴァーは躱す。蛇は追跡。エンデヴァーが集約した炎で正面打ち。一直線に蛇に向かう。蛇はくねくねと炎を避ける。水の蛇の牙がエンデヴァーに迫る。
が
黄色いコスチュームのおじいさん、グラントリノが私の顔面を蹴る。歩く教会と聖人の力でノーダメージ。しかし、視界が遮られた。その隙に、手に持ったルーンカードを切られた。水の蛇は溶けた。
「忍法、千枚通し」
エッジショットが頭を狙ってきた。ウィンプルを押さえる。針が衣服に弾かれた。舌打ちをされた。どうもウィンプルを脱いだら歩く教会の効果がなくなることは共有されているらしい。
グラントリノが私の腕を取って背負投。地面から足が離れ、地面へと叩きつけられそうになる。その後、おそらく組み敷くのだろう。しかし、グラントリノの背中に小さな十字架を叩きつける。
「十字架はその重きをもって驕りを正す」
数千倍の重力加速度が十字架にかかる。グラントリノは地面に陥没した。血を吐き、骨が折れる音。グラントリノの手が私の腕から離れる。私は宙を舞う。
そして
オールマイトが目の前にいた。
「デトロイトスマッシュ!」
ルーンは……間に合わない。身体を捻って空を見る。星が見える。地面に殴り叩きつけられる。仰向け。陥没。ウィンプルを取られる。歩く教会の効果が消える。横目で見ると、半分焦げたシンリンカムイによってウィンプルが持ち去られる。すぐには手の届かない場所へ。
「終わりだ! インデックス!」
もう一発来た。歩く教会の効果はない。今までなら防御できない。しかし、今は聖人の力がある。
「なっ!?」
両腕で十字架を作る。絶対的な守護の十字架。地面が弾ける。私は口角をつり上げる。袖から小さな十字架を取り出す。
「十字架は悪性の拒絶を示す」
「ならば、その悪性は我が十字架が拒絶する」
小さな十字架が一気に膨張した。その巨大化は音速。オールマイトが弾けた。くるりと着地する。私は陥没した穴と十字架の間にとどまってルーンを取り出す。
目隠しと神隠しのルーン。姿と気配を消す。穴から出る。
オールマイトが十字架下に私がいると思ったのか、十字架を殴る。十字架が破砕し穴が広がる。地面が罅割れる。私はオールマイトの背後にまわった。
「
さぁ最後の詠唱、という所でルーン文字カードが切られた。目隠しと神隠しのカードも切られた。エッジショットだ。声を出しただけで場所が特定された。鋭い勘だ。そして、紙紐のようになったその身体で私を拘束。ぐるぐる巻き。両手両足が縛られ、口も塞がれた。
だが、装備品は装着している。特に、聖人の力をコントロールする装備は。
魔力を強く周囲へ放出する。紐が離れる。拘束が外れる。エッジショットが浮く。私は続きを唱えた。
「
周りが炎で包まれた。業火の巨人。エッジショットは燃えた。何とか致命傷は避けたようだ。オールマイトが遠くでエッジショットを抱えている。
エンデヴァーの炎が迫る。しかし、イノケンティウスで防御。
「チッ! 炎を使ったり水を操ったり! 貴様は何なんだ!?」
エンデヴァーの叫びに、少し考える。
これは個性ではない。魔術だ。ゆえに魔術師と答えるのが正しいだろう。
しかし、脳無という例がある。多くの人は私が人工的に複数個性を付与されて作られた人間だと予想するかもしれない。それはなんか嫌だ。なぜならそれはAFOによって作られたと言っているものだからだ。私はやつの配下ではない。
たとえ「魔術師」だと述べても、素直に受け入れるかどうかはわからない。逆に『魔術師』というのを実験の〈成功体〉と読み替えられるかもしれない。
「うーん。そうだなぁ。……あなたは私をどう思う?」
質問した。こういった時は相手の考えを聞くのが一番。間髪入れずに返答が来た。
「犯罪者だ」
「なら、それでいいんじゃないかな」
オールマイトが炎の巨人を突っ切る。マッハで飛んでくる。衝撃波で巨人の胸に穴が空いた。当然、巨人は平然。
そのまま炎で焼死体を作ろうと思ったが、異次元の風圧で相殺。私の前に来た。
「インデックス!」
「オールマイト!」
拳と拳をぶつける。地面が破裂する。オールマイトが驚愕する。驚くのも無理はない。身体の扱い方は二流。鍛えていない細腕。歩く教会はない。それなのに、この威力。
聖人の力は世界一! ご都合主義万歳!
オールマイトが連続で拳を振るう。私は全てに反応できている。受け止めては殴り、殴っては受け止める。
そう言えば、オールマイトは10代の少女を「〇〇少女」と呼んでいた。テレビ調べ。なぜ、私だけ最初から「インデックス」と呼び捨てなのだろうか。
「オールマイト! 幼気な少女に全力とは情けないんだよ!」
「君を、本当の少女だと、思ったことはない!」
そう言えば最初から警戒していたな。一応、11歳と言ってから、投降を呼びかけてくれたし、やり直せるとも言ってくれた。しかし、それでも直感があったのだろう。
ただの予想だ。私は笑った。拳の応酬は止まらない。
「正解、なんだよ! 私は転生者! 前世がある! そして、聖書ではそれを【子なる神】と呼ぶ!」
「なるほど! つまり、自分は【神】だと!?」
私は一発強いのを放って、一旦距離を取る。意外と消耗が激しい。魔力で体力を補っているのだが、これはおかしい。
目はオールマイトを捉えつつ、手で身体を確認する。聖人の力を制御する装備品が摩耗している。ネックレスは千切れている。イヤリングももうない。この短時間で。
イノケンティウスはエンデヴァーを引き離すのに使っている。私とオールマイトの戦場では、風圧でルーンカードは瓦礫とともに飛んでいったから、オールマイト戦では召喚できない。円形に広がった炎。まるでリングだ。広い炎のリングだ。
「勘違いしないで欲しいかも。私は【子なる神】のまがいもの。【父なる神】とも【聖霊】とも違う。だから、私を分類したいのなら、さっきのエンデヴァーの回答が正しいかも」
「……君は……どうして、犯罪者になった」
どうして。たまたまだ。10万3000冊の汚染から逃れるため、適当な宗教防壁(宗教観)を作り出し、その中に「ヴィランのような自由さを求める姿勢」と「強キャラムーブをするべき」というのが、たまたま入っただけ。
しかし、もし、この宗教観が必然だったら。神の予知だったら。その可能性を辿ると、見えるのは。
「やはり、憧れていた、からなんだよ」
「……」
そう。前世は、病弱で不自由だった。両親は不倫でギスギスしていた。世間体で離婚はしなかった。
育児放棄をされて、万引きをした。何回目かの窃盗で捕まって抵抗したら人を殺してしまった。逃げた。行き着く先は暴力団で、下働きから恐怖に支配された。仕事として殺人もした。薬も売った。武器も密輸した。刑務所に行った。不自由。不自由。
弱いから、不自由。不自由だから、弱い。社会から拘束されない強さを欲した。恐怖に打ち勝つ勇気が欲しかった。不幸に立ち向かう根拠が欲しかった。
今の私は、最強ではない。勝つ者が強く、強い者が勝つ。勝利は強者の証。今は最強でなくとも、これから最強になれば良い。
そのためには、
「オールマイト! あなたの命が欲しいんだよ!」
詠唱しながら十字架を取り出す。オールマイトが駆け出す。しかし、詠唱の方が早い。
「シモンは『神の子』の十字架を背おっガァッ!?」
オールマイトが石を投げた。目にも留まらぬ速さの投石。聖人の力を持つ私でも目で追うのがやっとだった。それが歯に当たった。前歯が折れた。
(聖人だぞ!? 弱まった上、不意打ちとはいえ、前歯を折れるのか!?)
「デトロイトスマッシュ!」
吹き飛ぶ。しかし、すでに背後にオールマイトがいた。
「君の敗因は、私に全盛期の力を与えたことだ!」
デトロイトスマッシュ。上空に打ち上げられる。オールマイトが上にいた。叩き落され、地面が陥没。衝撃で身体が跳ね上がる。それを追い打ちで、叩き落された。
胃から迫り上がってくる。目をカッぴらいて、口から出た液体を見る。血だ。血を吐いた。痛みはない。おそらくアドレナリンが出ている。
オールマイトが手を離す。私は立ち上がろうとする。が、立てない。目視で身体を見る。所々血が出ている。魔力を練る。が、どうも聖人の力を制御する装備が全て壊れたようだ。下手すると、身体が爆発する。
魔力を抑える。聖人の力を止める。力が抜ける。痛みが襲ってくる。痛みで激しく明滅する視界。これは、意識が途切れそうになる。オールマイト。力の制御を誤ったな。私、このままだと死ぬぞ。
オールマイトも慌てだした。おそらく、急に私の力が弱くなって、加減が分からなくなったのだろう。仕方ないと言えば仕方ない。けれど、このままではオールマイトは殺人者になってしまう。
それでは、私の魔術が完成しない。【ロンギヌスの槍】【ゴルゴダの十字架】【ヨセフの聖杯】。これらは、オールマイトの聖人性を利用しようと思ったのだ。【神の子】の善性。そして、多くの国民からの支持。少なくとも、殺人は世間では忌まわしいもの。国民からの支持がなくなるおそれ。
だが、私の意思とは別に、私は深い井戸へと落ちる感覚に見舞われた。それを、私が死だと認識した時、口から言葉が溢れた。
「警告第2章第6節。出血による生命力の流出が一定量を超えたため、強制的に
……
…………
………………え?