悪役作家アルファベットが往く!   作:柳カエル

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おーっほっほっほ!! 悪役作家の名を轟かせてやりますわーっ! それで、天才作家の新作はまだですの?

 ここは、とある〈文学サロン〉。

 読書家の淑女たちが集う、憩いの場所。

 ウワサでは──その淑女たちの中に現役の小説家が紛れているとか、いないとか。

 とにもかくにも、この文学サロンの一角で、ある小説家の話が持ち上がっていた。

 

 わたくしは……その話に聞き耳をたてるモブ令嬢Aですの。わたくしのことは、あまり気にしないでくださいまし。

 ただし、これだけは覚えておいてくださる?

 

 このわたくしが──かの有名な〈悪役作家アルファベット〉だということを!!

 おーっほっほっほ!!

 

 さてさて……あの人たちは何を話しているのかしら〜?

 ほかの人たちは淑女らしく、優雅に紅茶を嗜んで、しずかに本を読んでいるというのに……あそこのテーブルだけなにやら、騒がしいですわ〜。

 

「──まったく、度し難い! アルファベットとやら、いったい何冊、今年中に本を出せば気が済みますの!? この前も新しい本を出版したばかりじゃなくって!?

 くっ……! わたくしだって……本気を出せば……!」

「まあまあ、落ち着いてくださいな、ヴィクトリア様……。ヴィクトリア様の実力はわたくしたちが存じ上げておりますから……」

「ええ。アルファベットなんて、ヴィクトリア様にかかれば、赤子の手をひねるようなものですわ」

 

 どう見ても取り巻きの二人が必死に、ヴィクトリア様と呼ばれる令嬢をなだめる。が、しかし。

 

「落ち着いていられませんわ! だって……わたくし……わたくしは……今年になって一冊も……ううっ……!! で、でも……しかたがないのですわ! だって、わたくしは天才ですもの! しょせん、アルファベットは、粗雑な作品を乱造するだけの凡人。天才とはまさに……わたくしのことを言うのですわ! 永遠とも呼べるほどの時間をかけて傑作を生み出す──それが天才の宿命であり、御業ですの!」

「……まあ、それはそれは……おほほ……」

「そ、そうですわね。ヴィクトリア様は、天才でいらっしゃいますから、作品を生み出すのに時間がかかるのは、いたしかたがないことですわよね……」

 

 取り巻きBのヨイショに食い気味に反応するヴィクトリア嬢。

 

「ええ! わたくしは天才ですから! 天才はなにかと、時間がかかるものなのよ! 凡人のアルファベットとは違ってね!」

 

 ──さて。わたくしの正体を覚えていますかしら?

 忘れたからって、画面を上にスクロールする必要はありませんわ。

 わたくし、親切ですので。改めてもう一度、名乗りましょう。

 

 さあ、思い出しなさい。そして、覚えなさい。

 

 このわたくしは──かの有名な〈悪役作家アルファベット〉だということを!!

 おーっほっほっほ!!

 

 現在は正体を隠して、読書家の淑女の一人に擬態中でございますのよ!

 なんのためかって?

 それはもちろん、わたくしの評判を探るためですわ!

 おーっほっほっほ!!

 

 まあ、わざわざ言うまでもないですけれど、どうやら、わたくしは嫌われている様子!

 けっこう、ひどい言われようですけれど、とりあえずは良いでしょう。

 

 だって、好敵手とはそういうものですからね!

 殴り合ったあとに肩を組んで『お前、やるな』『お前もな』と互いを褒め讃え合えるようなライバル関係がわたくしの理想ですわ!

 ……とはいえ。雲行きが怪しい、というのが現実でして。

 

 このヴィクトリア嬢。ああやって啖呵を切るのは今日が初めてじゃあございません。

 なんと、一年前からずーっと、同じことを言ってらっしゃるの。

 わたくし、ずーっと待っているのよ。

 だって、天才、天才、天才とおっしゃるから、さぞかし素晴らしい作品が出来上がるに違いないと楽しみにしていましたの。

 天才に負けるなら、わたくし、悔しくありませんわ。

 

 でも! いつになったら、ヴィクトリア嬢の新作が世に出るんですの!?

 あ、ちなみに、ヴィクトリア嬢のペンネームもとい作家名は〈ヴィクトリア〉ですわ。わかりやすくて、いいペンネームですわね。

 

 話を戻すと──ヴィクトリア嬢の新作がなかなか出ないものだから、わたくし……待ちきれなくって!

 つい!

 自分の新作をポンポンと出してしまったんですの!

 もちろん、そうしたのにはちゃんと理由がありましてよ!

 

 続々と本を出版することによって『天才の新作はまだですの?』という、わたくしからのメッセージをヴィクトリア嬢にお届けしているのですわ!

 わたくしのメッセージがちゃんとヴィクトリア嬢に伝わっているのだといいのだけれど!

 

 まさか、それが……プレッシャーになっていて、逆効果になっているとか……ありませんわよね?

 

 いいえ! そんなはずがないわ!

 だって、彼女は天才だもの!

 天才がプレッシャーに負けるはずがありませんわ!

 頑張って! ヴィクトリア嬢!

 負けるな! ヴィクトリア嬢!

 新作! はやく! ヴィクトリア嬢!!

 

 頑張ってくださいましー! ヴィクトリア嬢ー!

 わたくしはずっと、応援しておりますわ!

 でも、どこまで筆が進んでいるのか、せめて進捗をおたずねしたいのだけれど……。作家同士で交流がない以上、聞けませんわね。はぁ、残念。

 

 ……もうすこし粘って、彼女たちの話を聞いてみましょう。

 もしかしたら、進捗の話が出るかもしれませんからね!

 さあ、行け! 取り巻きA! 取り巻きB! わたくしの代わりに色々と聞き出してくださいまし!

 

「えっと……ヴィクトリア様?」

「なにかしら?」

「一応、アルファベットさんの作品は読まれたのですよね……?」

「あら! それなら──」

 

 取り巻きAのなにげない質問に、取り巻きBは表情を曇らせる。──まるで、ヴィクトリア嬢がこう答えることを知っていたかのように。

 

「──読んでいないわ! なぜ、この天才のわたくしが凡人の作品を読まなければならないの? 凡人の作品なんて、読む価値ありませんわ! わたくしは、読む側の人間じゃなくて、読まれる側の人間なんですの! 他人が書いた作品をわざわざ読んで勉強するだなんて……そんなのは凡人がやることですわ! わたくしは天才ですから、そんな努力をする必要なんて、なくってよ!

 あなたもそう思うでしょ──」

 

 ヴィクトリア嬢の話の途中で、取り巻きAがガタッと唐突に席を立った。

 

「申し訳ございません、ヴィクトリア様。体調が優れないので失礼させていただきますわ。ごめんあそばせ」

「えっ? ええ……お大事に……。お気をつけあそばせ……」

 

 取り巻きAの行動に対して動揺するヴィクトリア嬢。一方、苦笑いの取り巻きB。

 なぜ、取り巻きAはいきなり、立ち去ったのか。

 なぜ、取り巻きBは複雑な表情をしていたのか。

 

 わたくしはそのワケをすぐに知ることとなった。

 

 テーブルを離れた取り巻きAは、サロンを出るべく、サロンの入り口を目指して淑やかに足を進める。

 わたくしはヴィクトリア嬢たちの話がよく聞こえるよう、ヴィクトリア嬢たちの近くのテーブルで本を読んでいるフリをしていた。

 だから、取り巻きAがわたくしの近くを通りかかるのは必然であった。

 取り巻きAがわたくしの前を通り過ぎる──そのとき。

 彼女は信じられない言葉をボソッとつぶやいた。

 

「……私、アルファベットさんの作品が好きなのに……。ひどいわ、ヴィクトリア様……」

 

 へっ?

 わたくしのファンだったんですの?

 えーと、ようするに……彼女は、ヴィクトリア嬢の取り巻きでありながら……わたくし、〈悪役作家アルファベット〉のファンで……。

 

 そ、そ、それは──かなり、肩身が狭いんじゃなくって!? 茨の道ですわよ!?

 そもそも、ヴィクトリア嬢の取り巻きである方がなぜ、わたくしのファンに!?

 ヴィクトリア嬢の取り巻きなら、当然、ヴィクトリア嬢もとい〈ヴィクトリア〉のファンであってしかるべきでは!?

 

 この事実をヴィクトリア嬢に知られたら、わたくし……ますます、恨まれますわ!

 お友達を奪った憎いやつ、と思われますわ!

 はわわわわわ!!

 取り巻きAがいなくなって、ヴィクトリア嬢はいま、どんなご様子ですの!? ご機嫌いかが!?

 

 パッ、とヴィクトリア嬢たちのほうを向くと、

 

「……ね、ねぇ。あなたもそう思うでしょ?」

 

 懲りずに同じ質問を取り巻きBにしていた。しかし──

 

「お言葉ですが、ヴィクトリア様……。さきほどの言葉は、すこし言い過ぎかと……。ヴィクトリア様がお話しになられている間……サロンの皆様の目が険しかったですわ……」

「そ、そんな……! わたくしはなにも、間違ったことは言ってないわ! ……ふん! アルファベットなんて、天才のわたくしと比べたら、たいした作家じゃないのに……」

「ヴィクトリア様! お控えくださいと申しておりますでしょう……!」

「なによ! わたくしは天才なのよ! それなのに……! わたくしの作品よりも、アルファベットの作品が評価されるなんて……! そんなの、間違ってるわ! みなさん、見る目がないのね!!」

「ヴィクトリア様!! おやめください!!」

「命令しないで! わたくしは……ッ……!?」

 

 周囲の冷たい視線がヴィクトリア嬢に突き刺さっていた。もはや、冷気が漂っており、冬はまだ先だというのに、うっすら寒気がする。

 ようやく、周りの目線に気づき、我に返ったヴィクトリア嬢に取り巻きBが声をかける。

 

「ヴィクトリア様。いま、皆様に頭を下げれば……おそらく、許していただけるかと……」

 

 だが、取り巻きBのせっかくの助言をヴィクトリア嬢は一蹴した。

 

「……嫌よ。わたくし、謝りたくないわ。だって……頭を下げたらどうせ、みなさん寄ってたかって、わたくしを虐めるのでしょう? わたくしは……ひとつも間違ったことなんて、言ってない……!! それなのに、わたくしの非を認めてたまるものですか……!!」

「…………ヴィクトリア様。わかりました。あとはヴィクトリア様のお好きになさってください。私はここで失礼いたしますわ。……ごめんあそばせ」

 

 取り巻きBの言葉にヴィクトリア嬢は目を見開くが、すぐに悪態をつき始めた。

 

「……ふん。この、裏切り者……! どうして、だれもわたくしの味方をしてくれないの……!? わたくしの味方はどこにもいないというの……!?」

 

 ヴィクトリア嬢の嘆きに対して、みながみな、同じことを思ったであろう。

 

 ヴィクトリア嬢を何度も諌めてくれた取り巻きBこそが、最後の味方だったのだと。

 ヴィクトリア嬢が自ら、唯一の味方を切り捨てたのだと。

 すべて、なにもかも、ヴィクトリア嬢の自業自得であると。

 

 だが。捨てる神あれば拾う神あり、という言葉があるように──

 はしたなくも、淑女としての嗜みを忘れ、タッタッタッと足音を響かせて〈ヴィクトリア〉に駆け寄る者がいた。

 

「〈ヴィクトリア〉様! お初にお目にかかります。私、〈ヴィクトリア〉様のファンでして……! 私はいつまでも、〈ヴィクトリア〉様のことを応援いたします……!」

「まあ! そうなんですの! 嬉しいですわ! 最近は……あなたのような方が少なくて、わたくしの才能は枯れてしまったのかと不安になっていたのだけれど……。どうやら、杞憂のようですわね! やっぱり、わたくしは天才ですわ!」

 

 ──天才。

 たしかに彼女の言う通り、彼女は天才なのかもしれない。

 横暴な振る舞いで人が離れていってしまっても、また新たに人が寄ってくるのだから。

 

 ところで、悪役作家アルファベットの心情はというと。

 

 う、うらやましいですわ〜! 嫉妬、嫉妬、嫉妬!!

 なんでわたくしには、ヴィクトリア嬢のご友人のような友達がいないんですの〜!?

 悪いことをしたときに諌めてくれるお友達! ほしいですわ〜!

 取り巻きA! 取り巻きB! お前がほしい!

 でも、彼女たちを物扱いするのは失礼ですから、ほしがるのはここらへんでやめておきましょう。

 

 というか、本当にうらやましいですわ〜!

 わたくしに寄ってくるのは、わたくしの才能を利用しようとする人間ばかり!

 ヴィクトリア嬢には散々な言われようでしたけれど、本当に才能がない人間にはだれも寄りつきませんし、だれも注目しませんからね。

 そこそこ、それなりの才能がわたくしにはあるのでしょう。たぶん。

 

 でも、本当は、才能なんてなくてもべつにいいんですの。

 ヴィクトリア嬢のご友人のようなお友達がわたくしにもいれば、才能なんて……いいえ、なんでもありませんわ。

 いまのは忘れてくださいまし。気を取り直して……。

 ──たとえ、わたくしの作品がどんなに、けちょんけちょんに言われようと気にしませんわ。

 だって……悪名は無名に勝る、と言いますでしょう?

 

 ですから、わたくしはこれからも……天才作家ではなく、悪役作家を目指しますわ!

 

 これからも〈悪役作家アルファベット〉の名を轟かせてやりますわよ!

 覚悟なさい! ヴィクトリア!

 おーっほっほっほ!

 

 ……それで、天才作家の新作はまだですの?

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プロフィール①〈悪役作家アルファベット〉&〈ヴィクトリア〉

 

 

〈悪役作家アルファベット〉

 

『おーっほっほっほ!! わたくしこそが──悪役作家アルファベットですわ!!』

 

 好きなタイプ:天才

(理由:自分に嫉妬しないから)

 嫌いなタイプ:凡人

(理由:天才を利用するから)

 好きなもの:天才の作品

 嫌いなもの:独りよがりな作品

 嬉しいこと:分かり合えること

 苦手なこと:嫉妬されること

 嫌いなこと:分かり合えないこと

 怖いもの:数の暴力

 小説のジャンル:若年層向けのミステリー・ホラー・サスペンス小説

 趣味:人間観察、読書、オペラ鑑賞、たまにオナニー

 

 

〈ヴィクトリア〉

 

『わたくしは天才ですのよ!』

 

 好きなタイプ:凡人

(理由:自分より下だから)

 嫌いなタイプ:天才

(理由:自分より上だから)

 好きなもの:自分の才能

 嫌いなもの:この世のすべて

 嬉しいこと:褒めてもらえること

 苦手なこと:我慢すること

 嫌いなこと:比較されること

 怖いもの:自分の親

 小説のジャンル:女性向けのエロ小説・ボーイズラブ

 趣味:オナニー

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