悪役作家アルファベットが往く!   作:柳カエル

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善意の読者、ショーンは今日も手紙を書く!

 とある文学サロン──ではなく、とある出版社の中にある、打ち合わせ室にて。

 〈悪役作家アルファベット〉と〈編集者クルミ〉が革張りのソファに座り、テーブルを挟んで向かい合っていた。

 深刻な面持ちで、編集者のクルミが話を切り出す。

 

「アルファベット先生……。また来ました……。例の手紙が……!」

「ええ……!? また来たんですの……!? なんとか……手紙が来るのを止められないかしら……」

 

 アルファベットがボソッとつぶやいた言葉に、編集者クルミが過剰に反応する。

 

「ダメですよ! 一応、ファンなんですから……!」

「ファン……? これがわたくしのファン……? わたくしへの手紙にたった一行しか書かない筆不精がわたくしのファン……!?」

「いや、新作が出る度に毎回送ってくるのですから、正確には筆マメと言えるのではないでしょうか……?」

「うわぁーん! わたくしの間違いを指摘しないで! ショーンと同じことを言わないで!!」

「ああっ!! すみません! アルファベット先生の心の傷口に塩を塗ってしまい、申し訳ございませんでしたっ!」

 

 説明しよう。

 アルファベットの心に深い傷を負わせた〈ショーン〉とはいったい、誰なのか……!?

 

『主人公の性別は男のほうが感情移入しやすいです』

『エルフの設定が原典と違います』

『悪役の思考が突飛すぎて感情移入できないです』

『主人公に感情移入できないです』

『主人公がチートすぎて感情移入できないです』

『主人公の設定が特殊すぎて感情移入できないです』

『海を見たことがないので海が想像できないです』

『女性キャラの一人称が「俺」なのは変です』

『主人公を性転換させた意味がわからないです』

 エトセトラ、エトセトラ……。

 作家からすれば「それがどうした!? もう一回最初から書き直せってことか!? おおぉん゛゛!?」とブチギレたくなるような短い感想を送ってくるのが〈ショーン〉であった。

 無論、〈ショーン〉の手紙には一言も『内容を変えろ』とは書かれていない。ただ思ったことを手紙に書いているだけなのだろう。

 しかし、作家からすると、わざわざ手紙で作品の内容を指摘してくる時点で『気に食わないから変えろ』と言われているように感じてしまう。

 悪気なく、作家の自由な想像力を縛り、「ショーンに指摘されないように完璧に書かなければ」と作家にプレッシャーを与え、萎縮させる厄介な読者、それが〈ショーン〉という読者であった。

 

「わたくしが……何日もかけて書いた小説を……! このショーンは……たった一行で『ハイ論破(笑)』。ムカつきますわーーーーっ!! 小説家を引退してやろうかしら!」

「うわあっ!? アルファベット先生がご乱心ですぅ! あっ! 紅茶! 新しい紅茶を持ってきますから! 落ち着いてくださいね! ねっ?」

「……はい。……たとえ、一行の手紙だとしても……『応援してます』とか『面白いです』とか書いてあったら、わたくしだって嬉しいのに……」

 

 編集者のクルミに気を遣われ、情けなくなったアルファベットはなんとか気持ちを落ち着かせるが、クルミの余計な一言がアルファベットの怒りに火をつけた。

 

「……で、でも、ショーンさんに悪気はないと思いますよ?」

「そんなのわかっていますわ。でも……。でも……! それが──余計にタチが悪いんじゃなくってぇ!? ムッキーーーーーーー!! 注意もできない、この歯痒さ! 誰かわかってくださいましっ!!」

「アルファベットせんせーいっ!? 私が悪かったですっ! ごめんなさーいっ!!」

「くっ! 悪いのはクルミさんではありませんわ! 無神経なショーンの野郎ですの!!」

「野郎呼びはちょっと……。お口が悪いですよぉ……?」

「うわーーーーーーーん!! しでぎしないでぇぇぇぇぇ……!!」

「ごめんなさあああああぁぁぁぁいっ!!」

「わだぐじはぁ゛……! 完璧な作品なんて目指してないのでずぅ゛……! 読者を楽しませだいっ゛……! ただそれだけでぇ゛……! 書いででぇ゛……! う゛う゛っ゛──」

 一方そのころ、ショーンの野郎はというと。

 

 

【ショーンの野郎side】

 僕にはわからない。

 『面白い』とか『楽しい』とか、そういう感情が。

 みんなが『面白い!』と言っている本を読んでも、僕は『面白い』と思わない。なにも感じない。

 ただ読み終わったあとに、『これが面白い本なのか』と思うだけだ。

 

 みんなは、本のあらすじを読むだけで『面白そうだ。読んでみよう』と思うらしい。

 でも僕は、本のあらすじを読んだところでなにもわからない。読みたいという気持ちがさっぱり、湧いてこない。

 だから僕は、そのときによく売れていて、高く評価されている本をいつも買う。

 数字はウソをつかないし、シンプルでわかりやすいから。

 

 本を読んでも面白いと思わない僕がなぜ、面白い本を読むことにこだわるのか。

 それは──《みんなと同じ》になりたいから、だ。

 《みんなと同じ》本を読み続けていれば、いつかきっと、僕も《みんなと同じ》になれる。

 そう信じているけれど、本当に《みんなと同じ》になれるかわからない。

 僕は《みんなと同じ》ことをしているつもりだけれど、周りからは《みんなと違う》ことをしているといつも指摘されてしまう。

 間違いを指摘されるとちょっと、落ち込むけど大丈夫。

 だって、僕のためを思って指摘してくれているんだから。

 声に出して直接言ったことはないけど、心の中では「教えてくれてありがとう」っていつも思ってるんだ。

 

 たとえ、亀の歩みだったとしても、いつか《みんなと同じ》になれるなら、僕は頑張れる。

 

 ところで、僕は最近、〈アルファベット〉という作家が気になって気になってしかたがない。

 うまく説明できないけれど、なぜかその作家に親近感を感じるのだ。

 まるで──もう一人の僕、みたいな。

 とはいえ、僕の感性に相変わらず変化はなく、気になる作家〈アルファベット〉の作品を読んでもまったく、面白いとは思わない。

 でも、ひとつだけ僕にもわかることがあった。

 この作家〈アルファベット〉はすごい変わり者だってことだ。

 内容も文章も普通なのに、目のつけどころが変わっている。

 小説のどこにも『この作家は変わり者です』とは書いていないのに、なんとなく「この小説を書いた作家は変人に違いない」と確信を持ってしまう。

 

 そうだ。僕は嬉しかったんだ。

 僕と同じ変わり者を見つけたことが。

 〈アルファベット〉が本当に変わり者ならきっと、僕と同じような苦労をしているに違いない。

 だから、変わり者の僕が教えてあげなくちゃ。

 きっと同類からアドバイスされるほうが安心できるだろう。

 それになんとなく……わかるんだ。

 〈アルファベット〉は僕と同じ、完璧主義者だって。

 完璧主義者のあなたのために、僕がアドバイスしてあげるね。

 ふふっ。誰かの役に立てるのってちょっとだけ嬉しいな。

 小説を読んでも楽しい気持ちは湧いてこないけど、誰かにアドバイスしてるときはすこし楽しいんだ。

 だから、もっともっと、〈アルファベット〉の作品を読んで、おかしいところをたくさん見つけてあげるね。

 いままで色んな人に『あなたのここがおかしい』ってたくさん指摘されてきたおかげで、僕も自分のおかしい部分や他の人のおかしい部分に目ざとく気づけるようになったから、間違い探しが得意なんだ。

 一緒に完璧な作品を作っていこうね、アルファベット先生。

 

 ショーンはアルファベットの性別は知っているが、顔は知らない。

 けれど、ショーンの頭には容易にも情景が思い浮かぶのだ。

 

『まあ、ショーンさん! わたくしの至らない点を指摘してくださって、ありがとう! わたくしはあなたがいないと駄目ですわ! わたくしはあなたが必要なのですわ! これからもずっと、わたくしの至らない点を指摘してほしいですわ!』

 

 指摘してくれてありがとう、と喜ぶ──アルファベットの顔が。

 

 ショーンのたった一行の手紙を読んで、アルファベットが激怒していることなど露知らず、ショーンは今日もせっせと手紙を書くのであった。

 

 

「うわーーん!! 今日も手紙が届いた!! いっそ、ヴィクトリアにナーガルーダを、ナーガルーダにショーンを、ショーンにヴィクトリアをぶつけてやりたいですわーッ!!」

「そんな対戦実現しませんから! アルファベット先生!」

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プロフィール③〈善意の読者ショーン〉

 

 

〈善意の読者ショーン〉

 

『僕にはわからない。

 『面白い』とか『楽しい』とか、そういう感情が』

 

 好きなタイプ:最後まで話を聞いてくれる人

 嫌いなタイプ:最後まで話を聞いてくれない人

 好きなもの:わからない

 嫌いなもの:わからない

 嬉しいこと:話を聞いてくれること

 苦手なこと1:褒めること

(理由:褒められたことがないから、褒め方がわからない)

 苦手なこと2:文字を書くこと

 嫌いなこと:無視されること

 怖いもの:わからない

 好きな小説のジャンル:わからない




 閲覧ありがとうございます。
 自分は〈善意の読者ショーン〉みたいな方から感想が来ると書く気が失せます。

「そんな細かいことが気になるなら、全部自分で書けば? ってか、面白い小説を一つも書けないお前のアドバイスが役に立つと本気で思ってんのか? お前の作品には『読者を楽しませたい』って気持ちが欠けてんだよ。お前はアドバイスする側の人間じゃなくて、アドバイスが必要な側だろ。ゾンビみたいにボーッと生きてるヤツにアドバイスされるほど、こっちは落ちぶれちゃいねぇよ!
 それにそもそも、こっちは仕事じゃなくて趣味で書いてるんで。息抜きさせろや。素人になに期待してんの? プロの小説が読みたきゃ、金出して買いな。え? プロは二次創作を書かないって? だったら、自分で書けばよくね? え? 自分で書けないから言ってる? は? 知らね。お前の願望を初対面の見ず知らずの他人に押し付けるんじゃねぇよ、キッショ。等価交換って概念知らんの? 一般常識通じなさすぎ。じゃあね、バイバーイ」って気持ちになります。

とはいえ、感想欄を閉じるのはさすがに過剰防衛なんで、これからも感想欄を閉じる予定はないです。

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 もし、作中のキャラから感想・批判・意見が送られてくるとしたら──
 皆さんは誰が一番嫌ですか? もしくは、誰が一番マシですか? ぜひ、参考に教えてください!

①〈ヴィクトリア〉
・中身をまったく読まずに憶測だけで作品を評価する。
・女性向けのエロ小説、恋愛小説には評価がゲロ甘。

②〈文芸評論家ナーガルーダ〉
・作品を斜め読みして、ダメ出しする。
・大勢の読者から叩かれている作品は擁護し、逆に読者から応援されている作品は叩く。という逆張り精神の持ち主。
・優等生のような作品・作家が大嫌い。
・腐女子と見せかけて実は、かなりの男嫌い。男が酷い目に遭う作品が好きなだけ。

③〈善意の読者ショーン〉
・数字だけで読む本を決めている。作品の数値化された部分しか見ない。
・作品の面白さ、感動シーンはスルーし、設定と構成のみを重視する。

④〈悪役作家アルファベット〉
・「こ れ は さ す が に 酷 い」と思った作品は途中で読むのをやめて、見なかったことにする。
・とにかく作品・作家の良いところを探すのに集中する。悪い部分はあえて触れない。
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