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目の前に立つシズの隣に、
万物を焼き尽くす炎の支配者、上位精霊である。
《ユニークスキル『変質者』を発動します》
世界の声が響くと同時に、シズの身体とイフリートが融合する。
「リグルド! 皆を避難させろ! この付近には近づけるな!」
「し、しかし、それではリムル様が……!」
「命令だ! 避難が終わったらランガを呼んで来い!」
「ははっ! 承知しました!」
イフリート相手にホブゴブリン程度では太刀打ちできない、かといって無駄死にはさせるつもりはないため避難させる。
俺だけで戦うことになるが、幸い俺には高い耐性があるから簡単にやられることはない。
だが、もしカバル達がシズと組んでいるなら増援を断つ必要があるため可能性は低いが念のためにランガを呼び寄せた。
「おい、イフリート!念のため聞くが目的はなんだ!」
「……」
返答はなく、代わりに俺と同じぐらいの大きさの火球をどんどん放ってくる。
威力や射出速度の割には数が少ないので回避に成功したが、カバル達はそうはいかなかったようでいくつか直撃してしまった。
「お、おい! 大丈夫か!」
土煙が晴れる。
そこには腰を抜かしてへたりこんでいるが無傷のカバル達がいた。
どうやらタケルの結界に守られていたようだった。
あの攻撃をまともに受ければ、重症は避けられない。つまり、カバル達とシズが共謀している線は消えた。
なら、遠慮はいらない。
だがシズさんの状態が心配だ。
融合したままのあの状態で、どれだけの負担がかかっているのか分からない。時間をかけるほど危険だ。
(長引かせるな。早く終わらせろ……!)
「ランガ!」
「お呼びですか、我が主よ!」
「カバル達を連れて離れろ!イフリートは俺がなんとかする!」
ランガが一瞬だけこちらを見るが、すぐに頷いた。
「仰せのままに!ご武運を!」
ランガがカバル達を連れて離れた直後、半球状の結界が展開される。
イフリートを閉じ込め、周囲への被害も抑えるためのものだろう。
だがそれはイフリートを閉じ込めると同時にタケルに共闘する意思がないことも意味していた。
「完全にあいつの掌の上だな…だけど、これで遠慮なく戦えるな」
イフリートは結界を破ろうとする。
そこへ水の塊を叩きつける…が、イフリートに当たることなく蒸発してしまった。
《告。精霊種は肉体を持たないため、物理攻撃は通用しません》
……いや、そもそも届いてすらいないんだが。
水が使えないとなると厄介…いや、それは昔の俺の話だ。
「【
先ほどより小さく密度を高めた水弾を撃ち出す。
それに対してイフリートは避けようともしない。
それは当たり前の話だ、本来なら届く前に蒸発するはずの攻撃である。
だが、水弾はそのまま突き抜け、頭部に直撃した。
衝撃で巨体が地面へと叩き落とされる。
物理攻撃が効かない相手にどうやってダメージを与えたのか。
答えは魔法闘気…闘気を魔力に変換し、攻撃に付与する技である。
物理が効かないなら魔力で殴ればいい。ただそれだけの話だ。
普段であれば練習の成果を喜んでいたのだが、先に浮かんだのは別の感情だった。
(効いてる……でも、これ……シズさんにも負担が……?)
一瞬、撃つ手が鈍る。
イフリートはその隙を逃さず分身を生み出す。
次の瞬間無数の火球が俺を襲い始めた。
さらに足元には魔法陣…炎柱が噴き上がる。
「ちっ……迷ってる場合かよ!
まずは分身からだ!」
叫ぶように自分に言い聞かせる。
躊躇を振り払うように、水刃を放つ。
魔力を纏わせた水の刃が分身を切り裂く。
一体、また一体と消滅していく。
「残るは本体だけだ」
「……」
反応はない。
お互いに少しの間睨み合いが続いた後に俺の足元に巨大な魔法陣が展開された。
「【
それはイフリート自身の身体を炎に変換し魔法陣の範囲内を超高熱で焼き殺す炎系の最上位範囲技である。
ここまで追い詰めれば炎系の必殺技を出してくると思ったがここまでの大技を出してくるとは。
「だが、残念だったな耐性スキルで炎系の攻撃は俺には効かない」
俺は一歩踏み込み、粘糸と鋼糸を融合させた【粘鋼糸】を放つ。
耐性を持つその糸は燃えず、イフリートの動きを封じた。
(一瞬で決めろ。これ以上負担をかけるな)
「イフリートを喰え!【捕食者】!」
イフリートを引き剥がした瞬間。
勝利の実感よりも先に、視線はシズへ向いていた。
だが、そこにいたのは…
「シズさん…」
老人の姿へと変わり果てた、シズさんだった。