親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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 高評価をしてくださった方ありがとうございました。おかげさまでバーを赤くさせることができました。これからも皆さんが楽しめる小説を書けるようにしていきますのでよろしくお願いします。

 今回の話で第一章は終わって次の話から第二章に入ります。
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託された願い

 リグルドに命令して仮設テントに敷いた布団にシズさんをそっと寝かせる。

 

「スライムさん……ごめんね、迷惑かけちゃって」

「大丈夫か!?今、水を…」

 

 呼びかけようとした瞬間、シズはかすかに首を振った。

 

「いいの……それより……あなたの名前は?」

「名前?俺はリムル=テンペストだが……」

「そうじゃなくて……本当の名前」

 

 その一言で、ようやく理解する。

 

「……三上悟だ」

 

 もう二度と名乗ることはないと思っていた名前を口にした。

 

「やっぱり……日本人だったんだね」

 

 シズはどこか懐かしむように目を細める。

 

「私がこの世界に来る前…最後に見たのは……全部が炎に包まれた景色だったの。音も、熱も……全部がただ怖くて、逃げることしかできなかった」

 

 恐らく空襲のことだろう。

 

「今では“東京大空襲”って呼ばれてるみたい…。生徒たちが授業で習うって言ってた…」

「……ああ、俺も習った。でも終戦後は皆んなが頑張って復興したから今は綺麗な街になってる」

 

 大賢者に頼み、記憶の一部を映し出す。

整った街並みを見て、シズは安心したのか静かに涙を流した。

 

「……よかった」

 

 その一言に、すべてが詰まっていた。

 

「ねぇ……2つだけ頼みがあるの」

「……俺にできる範囲であればいいぞ」

 

 シズさんを助けられなかった上に頼みごとまで無碍にしてしまったらタケルに合わせる顔がないからな。

 

「スライムさん…あなたのユニークスキルで、イフリートを食べたように…私を食べて欲しい…」

 

 タケルの大切な人を食べたくない、と拒絶する言葉が出かけたがすんでのところで食い止めた。

 

「私ね…この世界が嫌いだった。私を苦しめたこの世界が、……でも憎しみを持つことができなかった。だって生徒たちと過ごした時間が楽しかったから」

 

 弱々しく、それでも確かに声が紡がれていく。

 

「……私が死んだことで世界に還元されるのは嫌なの。だから私を食べて…」

「……」

 

 俺はシズさんの願いをすぐに受け入れることはできなかった。

それはシズさんを食べることに対しての罪悪感からではない、シズさんの願いや想いを引き継ぐ資格が俺にはあるとは思えないからだ。

 

「それに……そうすれば、タケルを見守れる気がするの」

 

 全く自分がもうすぐ死にそうだというのに、他人のことばかり気にして。まぁだからこそタケルが懐いたんだろうが。

 

「それでなんだけど、二つ目のお願いというのが…あの子を、支えてあげて欲しい」

「……ああ」

 

 話の流れから何となく分かってはいたのだが、シズさんの代わりを俺がつとめることができるのだろうか。

 

「あの子は……優しくて、強い……でも、このままだと壊れてしまう」

 

 声が、かすれていく。

 

「誰にも頼れずに……一人で抱え込んでしまう……」

 

 その言葉には、確信があった。

 

「私は……もう……支えられない……だから……」

 

 シズの手が、わずかに伸びる。

 

「あなたに……託したい……」

 

 迷いはなかった。

リムルは、その手をしっかりと握る。

 

「タケルのことは俺に任せてくれ、だから…もう…安心してゆっくり休んでくれ」

「……ありがとう……ございます……」

 

 その声を最後に、シズの体から力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 気づけば、静かな空間に立っていた。

 

「……ここは」

「不思議な場所ね」

 

 振り返ると、穏やかな表情のシズが立っていた。

先ほどまでの苦しそうな表情は無くなっていた。

 

「これが……俺の中か」

「きっとそうね。とても静かで……安心する」

 

 シズはやわらかく微笑む。

 

「ねぇ、スライムさん…いえ、リムルさん」

「……どうした」

「最後に、少しだけ話してもいい?」

「ああ」

「私ね……怖かったの、何も残らずに消えることが。

だけどあなたに会えてたことで変わった」

「……」

「あなたなら、繋いでくれる気がするの。私の想いも……あの子のことも」

 

「正直自信なんてないんだけどな、

誰かを背負うなんて、柄じゃないし」

「ふふ……でも、手を伸ばせる人でしょう?」

 

 余りにも荷が重たいので思わず本音がこぼれるたがシズさんは微笑ましそうに笑みを浮かべた。

正直言ってしまうと自覚は多少なりとあるので余り否定はできない。

 

「……あの子、危なっかしいでしょ?」

「ああ、かなりな」

「優しすぎるの。自分を削ってでも、誰かを守ろうとする」

 

 静かな声が、強く響く。

 

「だから……誰かが止めてあげないといけない」

「……任せろ」

 

 今度は、迷わず自然と言えた。

 

「約束する。あいつを一人にはしない」

 

 その言葉に、シズは安心したように目を細める。

 

「ありがとう」

 

 その姿が、少しずつ薄れていく。

 

「……もう時間みたいね」

「……ああ」

「あなたの中にいれば……少しだけ、見ていられるかもしれないね」

「タケルのことか」

「それと……あなたのことも」

 

 シズさんはほんの少しだけ、いたずらっぽく笑った。

そして、屈んで俺に向けて手を伸ばす。

俺もそれに応じて触手を伸ばして握手した。

 

「リムルさん」

「なんだ」

「ありがとう。……私を、終わらせてくれて」

「……こちらこそだ」

 

 シズは静かに頷き…

光となって、溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……シズさんは、俺が食べた」

 

 精神世界から現実に戻った俺はテントに入ってきたタケルに事実だけを告げた。

 

「そうか」

 

 てっきり怒ったり悲しんだりするのかと思ったが、返ってきたのはあまりにも淡白な返事だった。

 

「いいのか!? あんたにとって…」

「いいんだ」

 

 余りにも無機質な反応だったのでシズさんの思いを伝えようとしたが遮られる。

 

「シズ先生が言いそうなことくらい、分かる」

 

 表情は変わらない。

怒りも、悲しみも、見えない。

 

「それに……お前が自分の意思でやるとは思えない。なら、シズさんの願いなんだろ」

 

 それは余りにも静かすぎる受け入れ方だった。

 

「だったら、否定する理由はない」

 

 …まるで、最初から諦めていたかのように。

逆に俺はそんな態度をするタケルに耐えられなくなってしまった。

 

「いいか、タケル!よく聞け!」

「……何?」

「俺は…シズさんの代わりにお前を支える!」

 

 勢いのまま、言葉が飛び出した。

 

「……は?」

「完全に代わりになれるとは思ってない!でも、俺なりのやり方でお前を助ける!」

 

 タケルは少しの間、呆気に取られたように見つめていたがやがて、小さくため息をついた。

 

「……自分が監視対象って、忘れてない?」

「関係あるか!助けたいから助ける、それだけだ!」

「……好きにして」

 

 それは投げやりなようでいて、どこか力の抜けた声だった。

 

「よし!じゃあ改めてよろしくな!」

 

 その言葉に、タケルはほんのわずかだけ視線を逸らした。

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