この話は過去の話でシズさんの独白となります。
因みにこの話の内容は全てオリ主のタケルに効果抜群で、確実に精神的に致命傷を与えます。
【幕間】かくして灯火は受け担がれる
思えば…
あの出会いは、私の中に小さな灯を残した。
魔王レオンに召喚されてから、どれほどの時が経ったのか。
数えることすらやめてしまった頃、私は【爆炎の支配者】として名を知られる存在になっていた。
けれどその肩書きとは裏腹に…
私の中には、どこか埋まらない空白が残り続けていた。
そんな時に出会ったのが、彼らだった。
同じ地球から来たという三人組の冒険者。
タケル、マサミチ、ミチオ。
その3人のことは噂だけは聞いていた。
国を滅ぼそうと企む3体の悪魔を討ち倒した稀代の実力者たちである。
一体どんな人たちなのだろうか…
実際に会ってみれば、どこか拍子抜けするほど普通で…
それが、少しだけ心地よかった。
「あなた達は、悪魔殺しで有名な冒険者さんたち?」
そう声をかけたのは、ただの気まぐれだったと思う。
けれど、その何気ない選択が…私の中の何かを変えていくことになる。
少しの会話の後、私は彼らの依頼に同行することにした。
口出しはしない。ただ見ているだけ。
…そのはずだった。
魔物の群れが現れた時、三人は一瞬で動いた。
タケルが強化を重ね、マサミチが動きを縛り、ミチオが確実に仕留める。
力任せではない。
誰か一人に依存するでもない。
ただ、自然に噛み合っていた。
「すごい……」
思わず、声が漏れていた。
強い、確かに強い。けれどそれ以上に
「凄いでしょ!」
得意げに笑うタケルを見て、私は思う。
ああ、この子たちは…1人じゃない強さを持っているのだと。
気づけば、手が伸びていた。
軽く撫でただけのつもりだったのに、タケルは嬉しそうに目を細める。
その無防備な反応に、思わず手を離すタイミングを失ってしまう。
……こんなふうに誰かに触れたのは、いつ以来だろう。
マサミチも、少し羨ましそうにこちらを見ていたから手を伸ばしてみたけれど、恥ずかしかったのかすぐに離れてしまった。
仕方なく空いた手で、タケルの頬を軽くつまむ。
柔らかい感触に、思わず小さく笑ってしまった。
――その時間は、穏やかだった。
それからも、何度か顔を合わせるようになった。
最初は警戒していたマサミチとミチオも、次第に打ち解けていき、
気づけばそれが当たり前のようになっていた。
だからこそ――少しだけ、怖かった。
当たり前は、いつか失われるものだと知っているから。
やがて三人は【三賢人】と呼ばれるようになった。
その名を初めて聞いた時、私は驚くほど素直に喜んでいた。
まるで自分のことのように、誇らしくて。
けれど同時に。
少しだけ、遠くなってしまった気もした。
忙しいのだろう。
そう分かっていても、会えない時間が増えるたびに、胸の奥が静かに軋む。
久しぶりに現れたタケルは、どこか大人びて見えた。
他の二人のことを尋ねると、パーティは解散したのだという。
今はそれぞれの道を歩んでいるらしい。
「もっと会いに来てほしいな」
ほんの軽い気持ちで言ったはずだった。
けれどタケルは、申し訳なさそうに視線を落とす。
…ああ、この子もまた、前に進んでいるのだ。
それが少し寂しくて、
それでも嬉しくて。
私は何も言わず、ただその頭を撫でた。
あの時と同じように。
…そして今。
私はカバルたちと共に、ジュラの大森林へと向かっている。
目的は、ジュラの大森林を抜けた先にある黄金郷エルドラド。
そしてそこを支配している…魔王レオンとの決着。
逃げ続けてきた過去と、向き合うために。
けれど、ふとした拍子に、思い出す。
無邪気に笑う顔。
撫でた時の、あの穏やかな時間。
……あれから、どれくらい経っただろうか。
忙しいのだろうと、自分に言い聞かせながら。
それでもどこかで、もう一度会えるのではないかと期待していた。
…もし、会えるのなら。
「……少しだけ、寄り道してもいいかしら」
誰に向けたわけでもない呟きは、静かに森へと溶けていく。
ジュラの大森林。あの子が、最後に向かった場所。
レオンの元へ向かう前に…もう一度だけ。
タケルに、会いに行こう。